『交錯する世界 番外編5 中編』において団長が玄関の入り口付近にてぶっ倒れていた原因になる物語になります。
TaihoやRyujoたちには事実を離してはいませんでしたが、実は裏でこんなことをしてました。
注意
※幻想郷と現実では時間の流れが異なる設定となってます。
※例のあの神様は元ネタが建御名方命か八坂刀売命の二つの説がありますが、この話では前者として描いております。
※番外編5中編で軽巡洋艦ei級(通称『アイ』)が言っていたセリフにつながる話もある…………かも
序幕 プロローグ
「ん…………眩し」
私はふとそよ風に揺れる木々の隙間からこぼれる木漏れ日を顔に直撃させながらゆっくりと瞼を開ける。
そのままゆっくりと上半身を起こしながら視線を左右に軽く巡らせて、後頭部を思い切りガリガリと掻いた。
「はぁ、あの八雲って妖怪め、か弱い私をこんな森のど真ん中に放り出して何させようってのかしら全く。…………はぁ」
辺り一面…………木、樹、気。
どこもかしこも…………木、樹、気。
みんな一緒に…………木、樹、気。
大自然のど真ん中に放置された挙句、全方位からの面倒くさそうな気配の数々。
それは私を取り囲む樹木のその上、厳密には枝の上から放たれている様子。
一個一個の気配の大きさとしては大したことないにしろここまで大勢でこられると………………正直困る。
それが全員が全員こちらに向けて敵意をむき出しにしているとなれば尚更。
もう一度とさっと地面に大の字になって仰向けで空を見上げながらため息の一つもつきたくなる。
私は幸運にも手の届く範囲内に手頃な木の枝を見つけて手に掴むと、再びため息をついた。
さて、なぜ私は今こんなことになっているのかと言うと。
時は数分前に遡る。
※
劇団"鎮守府"執務室兼団長自室。
「んはぁ〜」
私は次に撮影するのシーンにおける脚本の最終ページを書き終えて、持っていたペンをデスクの上に投げるようにして転がした。
「か、書き終わった…………」
窓の外からはいつの間に明けたのか朝の日差しが差し込んできており徹夜の終わりを告げていた。
大きく上に伸びをしてデスク脇の冷めたコーヒーを飲みながら今しがた書きあがった原稿を持ち上げてサッと一通り目を通す。
……やっぱり冷めたコーヒーは微妙。
苦い、酸っぱいそれから後味も悪いときたもんだ。
「(ん?誤字がある………………これでよし)」
その段階で誤字や脱字を見つけてはひとつずつ修正を加えて行く。
時には軽く加筆しては一息を繰り返していた。
「まぁ、こんなもんでしょ」
最後にもう一度上に伸びてから書き上がった数枚の原稿をまとめ、ガチャンとホチキスで止めたら簡易的な本が出来上がり。
もう一度ペラペラとめくりながらページ番号の抜けがないかのチェック。
それを終えてデスクの隣に置いてあるボックスの中へ今しがた出来たばかりの脚本を投げ入れた。
冷めすぎてもはやアイスコーヒーと化した飲み物を飲み干して本来の苦味とは一味違ったチープな苦味に軽く舌を出しつつ一息。
それからフリーとなった右手を………………思い切り真横に振った。
いや、厳密に言うならば私の真横の空間に
「へ!?ひゃっ!?」
そんな短い悲鳴と共に先程からひしひしと感じていた視線の主であろう紫色が基調のドレスに身を包んだ金髪の女性のこめかみを掴んで思い切りなんにもない空間内から引っ張り出す。
まさに『ズルッ』と言った効果音でも聞こえてきそうではあるが今はどうでもいい。
「い〜……痛い痛い痛い!」
「ビンゴ。さっきから私の事をジロジロ見てたのはあなたね。どこの誰だか知らないけど覗きなんていい趣味してるじゃない。私にも教えなさi…………いやいや、ことによっては出すとこに出すわよ?」
「うふふ、本音が出たわn…………(ギリッ)…………痛い痛い、わ、分かったわ、降参よ!降参!」
彼女の必死に必死な懇願に加えて先程右手に力を込めた時に若干嫌な音がしたので私は溜息をつきながらその手を離した。
「あ、あなた…………今『ミシッ』って言ったのだけど?」
「気のせいじゃない?」
掴んでいた右手をヒラヒラさせるついでにカップに残った元ホットコーヒーが入っていたカップを口に近づけて………………離した。
そう言えばさっき飲み干していたんだった。
さて女性はと言うと私が空間内から無理やり引っ張り出したこともあって、自分の頭を両手で押さえながら渋い顔で正座をさせられていた。
「もう、頭が割れたりしたりどうしてくれるんですか?私はこれでも賢者なのですよ?」
そんな様子で何となく反省の色を出す素振りすら見せない彼女にワーキングチェアーの上で膝を組みながら小さく舌打ちする。
「あ!今舌打ちしましたわね!」
「してないわよ」
「いいえしてました!私の耳は地獄耳なんです」
そう言いながら何故か正座のまま胸をはる女性。
…………正直、その直後に揺れる豊かに実った2つの果実に目を奪われた瞬間今度は無意識のうちに舌打ちをした。
ちょうどそんな時だった。
「紫様!!」
人じゃないなにかの気配がこの部屋の中の一角に突如として現れたかと思うとその付近の空間が縦に割れ、その中から2人目の女性が姿を現した。
今度はそもそも「人」と表現するにはなかなか難しいものがあるかもしれない。
確かにメインとなる人型の部分の体つきは完全に女性のそれであったのだが、ミディアム気味の金髪ショートの髪からは同色の耳が生えており、極めつけはその背後にもはや狐のそれであろう尻尾が1、2、3……………………全部で9本生えている。
妖怪?
妖獣ってやつ?
そんな存在が頭をよぎる。
まさか………………とは思うが、まぁありえない話でも無いからな〜。
なんて考えながら私は突如現れた九尾の娘の行動を見守ることにした。
「紫様!いきなり隙間の中から居なくなるのでビックリしましたよ!出るなら出るで一声掛けてください」
「いや、私も出るつもりはなかったんだけど…………ね。無理矢理引っ張り出されちゃったのよ。私」
「?どういうことですか?」
「言葉通りよ。つまり………………」
「私がこの覗き魔を空間内から引きずり出したのよ。言っとくけど、乙女の部屋の覗きは犯罪よ?」
「と、いうことなのよ」
「……わけがわかりません」
「ねぇ、この狐は理解力ないの?」
「う〜ん。そんなことないんですけどね〜」
絶賛正座中の金の長髪の女性…………狐の呼称を拾うのであれば『紫様』は外見に似合わず指を口元に添える仕草をした。
思わず軽く引いてしまったことは表に出さない方がいいだろう。
話題を変えることにした。
「そう言えば、さっき賢者とか言っていたわよね?それ、どういう意味?それから、なかなか珍しいもの連れてるわね。見立てが正しければ…………妖獣【九尾】ってやつ?あってる?」
視線だけを『紫様』の方から狐の方へ向け、軽く腕を組む。
「あら♪」
「……っ」
私の一言に『紫様』がニヤリと嫌な笑みを浮かべたと思うと持っていた扇子を口元に当て、狐の方は目に見えて動揺していた。
「アタリか」
「あら、それはどうかしら」
「え、何違うの?」
「いえ、ご明察ですわ」
『紫様』が正座をしたまま扇子を広げて口元を隠すようにして笑みを零した。
「………………今の若干イラついた、通報しよう」
「あぁ!!待ってください、すみませんでした!ですから通報しようとしないでください!!
「……」
「櫛名田比売様、とお呼びするほうがお好みでしょうか?ふふふ」
どこ誰かすら分からない
狐の方もこっちで言葉を失っているようだけど。
「…………なんで知ってるの。その呼び方」
今のこの世界で
自分の名前にバリエーションが豊富にあること自体問題だが、そもそもそれをそんな軽々しく公表した覚えはないし、うちのメンツを信用してないわけじゃないけど身分が身分のため変な気を使われても困るからという理由で話していない。
ただ、うちの連中でも勘の鋭い奴らはもしかしたら勘づいてるかもしれないが。
「さぁ、何故でしょうか。ついでに言うと八坂神奈子…………いや、貴方様には建御名方神という方が馴染みですよね」
「建御名方神…………」
「そうです。建御名方命の…………遠い血縁者であることも調査済みです。と言うよりあなたは建御名方神の先祖に当たる。違いますか?」
「まぁ…………血的には遠くても孫は孫だからね。なに、あなたあいつと知り合いなの?なかなか連絡もくれないからちょっと心配だったのよね~。元気?」
「それはもう」
そんな(私としては)何気ない会話に側近の狐が驚嘆の声を漏らした。
「え!?そ、それが本当ならこの方があの守谷二柱のうちの一人八坂神奈子の!せ、先祖様!?いやでも、櫛名田比売と言えば…………その」
「八岐大蛇の生贄にされて喰われそうになったところを素戔嗚尊に助けられた娘だって?」
「は、はい」
今では既に伝説と成り果ててしまっていた当時の出来事を掘り返してしまったとでも気にしているのか、狐の声が若干暗くなる。
「いいのよもう。昔の話だし。それからさ、神話とかそんな大層なものとして無駄に語り継がなくてもいいじゃない。そんな人のプライベートをあれやこれやと暴露しちゃってさ。勘弁して欲しいのよ、私としては。プライバシーなんてあったもんじゃないわ。全く」
「三貴神の正妻がプライバシーの主張とは」
「いいじゃない。あなたにもあるでしょ?隠し事のひとつや2つ…………に限らずとも、さ」
「あら、お見通しとはさすがですわ」
「はぁ、私も見くびられたもんね。ただのよu…………………………これ以上は言わないでおくわ。そこの九尾が鬼みたいな顔してるから」
『ただの妖怪風情に』と言いかけてふと九尾の方を見た瞬間鬼のような形相でこちらを睨みつけていたので、ギリギリのところで飲み込んだ。
「言いたいことはわかってますよ。あなたにとっては私も1人の野妖怪と同じ、ですものね。こればかりは納得ですが」
「紫様!」
「いいのよ藍。考えてもみなさい。今目の前にいるのはあの三貴神のうちの1柱、素戔嗚尊に見初められて正妻となった神がいるのよ?それに比べたら、分かるわよね?」
「神じゃないわよ」
「し、しかし…………だ、だとしても!主人のことを悪く言われて黙っていられるほど、私は寛容ではありません!それがたとえ神であろうと関係ありません!」
「藍」
主人?
あぁ、なるほど。
そういう事ね。
この狐は…………。
「私は神様なんかじゃない。本当に神様なのはうちの
そこで1度言葉を切って視線を狐の方へ移した。
「いい従者じゃない」
「えぇ、いい従者ですわ」
「な、ななな、なんですかいきなり!」
いきなりの掌返しに赤面する狐。
意外と外見に寄らず初じゃない。
「で?本題に戻るけど。あんたは誰で、どうして覗きなんかしていたのか簡潔に答えなさい。それから、なんであんたが建御名方神を知っているのかも、ね」
そう言うと、再び目の前の妖怪がふふと怪しく笑みを浮かべ、広げたセンスで口元を隠しながらゆっくりと立ち上がった。
「えぇ、いいですとも私の名前は…………………………あうっ…………」
そこまで言うといきなり女性が無言のまま床に足を抑えながらうずくまった。
「ゆ、紫様!!」
「ど、どうしたのよ!?」
いきなりの出来事に慌てて近寄る私と狐だったが、彼女の次の一言を聞いた瞬間私は舌打ち混じりに『紫様』の両足を思い切り掴んでやった。
直後、長時間にわたる正座によって痺れきった両足を思い切り掴まれた『紫様』の全力の悲鳴が執務室にこだましたのは言うまでもなかった。
その後、涙目になりながらどうにか落ち着いた彼女(名前は八雲紫と言うらしい。ちなみに狐の方は八雲藍)から頼み事を聞き、少し目を伏せながら考えてそれから返事をしようと目を開けた時には既に…………冒頭のシーンに戻るわけだ。
つまりこの選択肢はYes or Yesだったということらしい。
はぁ。
で、さっきからずっと待ってるんだけど私の周りを取り囲んだ多数の気配はこちらに殺気を向けているだけで一向に向かってくる気配も感じられない。
まぁ、来ないならそれでいいわ。
さて、と。
まずは現在地の把握が最優先よね〜。
ここがただの森…………なのか、山中…………なのかすらこれじゃ分かりっこない。
せめてテレポートさせるなら転送先の正確な座標と周辺の地理情報くらい教えてから送りなさいよ。
これじゃ、埒が明かないじゃない。
そんな感じで立ち上がるのと同時にスカートの土をパッパと払う。
その時、ふと頭にとある案が浮かび上がった。
…………ん?
あぁ、その手があったか。
私はその辺に落ちていた手頃な小石を1個拾うと、軽く視線を1周させてからその中でも1番気配が強い場所に向かって軽く小石を投げた。
緩やかな弧を描いた小石はそのまま1本の木の中に吸い込まれていき、コツンと軽い音を響かせた。
同時に「痛っ!?」という高い声も響いてきたので、ドンピシャ当たったのだろう。
…………私のためとはいえ、石なんかぶつけてごめんなさい。
ついでにその行為が地味に凶と出たようで、周りから放たれていた殺気がさらに強くなったのを感じた。
とりあえず謝るためにさっき石を投げた気と場所に向かって声を掛けてみる。
「あー…………ごめん。いるの気づかなくてさ。謝りたいから出てきてもらっていい?あ、石が当たった人だけでいいわ」
私のその言葉の後少しの間無言の時間が訪れ、その静寂を終わらせるように木の上から少女が1人………………頭をさすりながら降りてきた。
「(へぇ、今どき珍しい。頭巾に1枚歯の下駄、黒い翼…………と取材手帳!?)」
少女は1枚歯の下駄で器用にバランスをとりながら着地するとムスッとした表情のままがくりと肩を落とした。
「ひ、酷いじゃないですか。いきなり石なんかぶつけてくるなんて」
「仕方なかったのよ。いま絶賛迷子中でね。目的地まで道案内してもらいたかったんだけどどうやって声掛けていいかわからなかったし、会話のきっかけ作りよきっかけ作り」
「そんな無茶苦茶な」
「無茶苦茶なんかじゃないわよ。そもそも、こんな所に私一人でいること自体無茶苦茶なの。それくらい大目に見て欲しいものだわ」
「あややや、そうでしたか。それで、こうまでして私に会話のきっかけを作った理由を聞かせてもらえませんか?」
「そうだった。実は聞きたいことが1つ………………いや、1……2……3…………」
一つだけあると言いかけてふと立ち止まる。
いやいや、せっかくこの辺に住んでいそうで空でも飛びそうな輩に遭遇したんだから、聞けるところは聞いておかないと二度手間だな〜なんて考えながら質問事項を頭に思い浮かべては折りたたんだ左手の指を一本一本立てていった。
その間
「ん〜5個あるんだけどいい?」
「…………はぁ、どうぞ」
「じゃあ1つ目。ここって『幻想郷』って場所であってる?」
私の質問に若干眉を寄せた目の前の少女。
「当たり前じゃないですか。ということはもしかして、あなたは外界からいらしたんですか?」
「もし
「いかにも、ここは私たち天狗をはじめとする多くの妖怪が住んでいる妖怪の山です。なので、あなたのような人間は早々に立ち去る事をおすすめしますよ」
若干言葉にトゲを感じたがとりあえず彼女のおすすめなんて聞いていないのでスルー。
「あ、そ。で、3つ目」
「む……」
「?何よ」
「いえ、なんでも。続けてもらって結構ですよ」
「じゃあ、『東風谷 早苗』って人知ってる?私その人に用事があるんだけど」
「あぁ、早苗さんのお知り合いでしたか。早苗さんならよく知っていますよ。この山の上の守矢神社で巫女をやっている娘です」
「守矢神社ね。場所はこの山の上。分かった」
「早苗さんとは旧友みたいなものなのですか?いいですね〜そういうの」
「…………」
「あや?違いましたか…………っ!?」
なんか勘違いしているらしい少女に向かって私は軽く…………程度としてはさっきからずっと周りから放たれている殺気と同レベルの殺気を出してみせた。
「別に。ただ、ある人にその『東風谷 早苗』って人にお灸を据えて欲しいって頼まれただけよ」
「………………やはり危険人物でしたか」
なるほど。
この殺気に当てられて直ぐに臨戦態勢に移行できるあたり彼女もなかなか戦い慣れしていると思われる。
が、私はてんで
「まぁ、それは置いておいて、最後の質問」
「あやや?質問は5個ありませんでしたっけ?」
「4つ目は守矢神社の場所。さっきあなたが教えてくれたじゃない」
「あぁ、そう言えば」
「最後の質問いい?」
「……どうぞ」
殺気を引っ込めたにもかかわらず未だに警戒を解かない彼女に向かって最後の質問を投げかける。
「……あんた誰?」
刹那。
その場にいた私以外の全員が一瞬にして地面に倒れ伏すという一見緊迫した場面に聞こえなくもないが実際にはそうではないコントチックな場面がその場に出来上がった。
※
「だ、誰って…………誰かもわからずに話しかけていたんですか?」
翼の生えた少女が盛大にズッコケた拍子に着いた土を体から払い落としながら呆れたように言った。
「そういうことになるわね。だってしょうがないじゃない。あんな殺気立つ場所で自己紹介なんか出来っこないでしょ。人に名前を聞く時は自分から名乗るのが礼儀とか言ってる場合じゃなかったわよ。自分から名乗れない以上相手に名前なんて聞けないし」
「はぁ……」
「まさかとは思うけど、あんな大多数の殺気を受けながら自己紹介でもさせるつもり?だとしたら結構いい性格してるわね」
「…………」
「待って、否定しないの?勘弁してよ。いくら温厚な私でも流石にそんな中での自己紹介なんて嫌よ?」
「いえ、そういう訳ではありませんよ」
「じゃあなんなの」
「………………気づいていらしたんですか?」
「何を?」
「あなたがここに現れた時からずっと見張っていた事に、です」
そこまで言われて納得した。
なるほどなるほど。
彼女らは私を見張っていただけだったのか。
どうりで殺気を出している割にはなにもしてこないと思っていたが、そもそも私に危害を加えようとしていたわけではなかったということらしい。まぁそれも私が変な行動を起こさなければ、の話であると思うけど。
見張っていただけ…………『余所者』である私を。
うん、やっぱり納得するね。
確かにそりゃそうだ。
誰だって自分たちの住処にいきなり余所者が現れたら警戒をするのは当たり前だ。
つまり、どちらかと言えば「私の方が彼女達を警戒させるような展開を作ってしまった」ことになる。
となると私のとるべき行動はひとつしかない。
「……ごめんなさい」
「へ?あ、いえ、別に謝られるようなことは…………。むしろこちらの方こそ安易に殺気など向けてしまって。申し訳ありませんでした」
「いやいや、こっちこそ勝手に他人の家に土足で。本当にごめんなさい」
「いやいやいや、私たちこそ事情を知らずにいきなりなんて、記者として恥ずかしいです」
「いやいやいやいや、だとしても勝手に入り込んだのは私だし」
「いやいやいやいやいや、こっちこそ……」
「いやいやいやいやいやいや、私こそ……」
「……………………あの、何やっているんですか?」
よもやこのまま「いや」の二文字だけのやり取りになりつつあったそんな時、第三者の声がそれに終止符を打った。
「あや?椛。何か問題でも?」
『
そして彼女の背後に揺れるもふもふとした尻尾と頭の耳が特徴の少女だった。
ただ一つだけ言わせて欲しい。
………………普通少女は背中に大剣なんか装備しちゃいけないのよ!
なにゆえ!?
治安どうなってんの
そんな彼女が私と文のやり取りの間に割って入り、加えてこちらにジト目を向けていると言うのが今の状況。
「問題しかないですよ。というか途中から面白くなってきてましたよね?御二方」
「あ、バレてる?」
「あややや、お見通しですか」
「はぁ。いい加減にしてください。誤解が解けたならそれでいいじゃないですか」
そんなため息混じりの一言に私は
「あ、そうそう。こんなことやってる場合じゃなかった。守矢神社に行かないと。じゃあ、色々ありがとう。私急いでるんだった」
と、私はそそくさとその場を立ち去ろうとするのだが。
…………そうは問屋が卸さないとでも言わんばかりに引き止められた。
「いやいや、待ってください。そう簡単に行かせはしませんよ。早苗さんに何か危害を加えるつもりなのでしたら。お覚悟を」
「危害?危害なんか………………あ」
危害なんか加えるつもりは無いと言おうとして…………止めた。
理由は簡単。
その言葉に説得力なんか全く意味をなさないと思ったからだ。
私は説明段階で棘のある言葉なんか使わなければよかったと激しく後悔をした瞬間だった。
およそ数十分後。
「はぁっ!!」
「…………フッ!」
「なっ!!?」
キン……………………。
もふもふとした白い毛並みが美しい鍔の大剣を携えて斬りかかってきた椛を手に持った木の枝で弾き返したことで、大剣が大きく宙を舞う。
そして、唖然とした椛がペタンと尻もちを着くのと同時に大剣が少し離れた位置にガランと大きな音を立てて落下した。
先にダウンしていた文の方も膝をつきながら両肩で荒い呼吸を繰り返していた。
「…………それ、木の棒…………ですよね?」
「………………フゥ。ん?あぁ、まぁ、そうよ」
止めていた息を吐き出しながら持っていた枝を自分の肩に乗せる。
それと同時に周囲の木々からどよめきが起こった。
「言葉足らずだったことと叩きのめしてからのカミングアウトになっちゃったことは悪いと思ってるわ。さっきは早苗って人のことお灸を据えるって言ったけど、八雲紫とかいう自称賢者のババァに………………………………っと、頼まれたのよ。というか、説教というより鍛えてあげてみたいな感じ。別に本当に息の根まではとめないわよ。ちゃんと加減もしてあげる予定だし」
「手加減…………ですか」
何かタブーに触れたのだろうか、私の言葉の途中でいきなり足元の地面が割れたのでびっくりして思わず1歩飛び退いてしまったが…………気にかける様子もなく椛は私に問いかけてくる。
「そうよ?まさか、本気なんか出すわけないでしょ?……
「た、確かにそう………………………………ん?」
私の言葉に同調しかけた椛がふと言葉を切って頭の上にはてなマークを浮かべた。
「なによ」
「え、あ、いや………………私の聞き間違いかもしれませんが……今、なんて言いました?」
「え?だから、手加減してあげる予定…………」
「違います、その後………………」
そんな問いを投げかけてくる椛に対して今度はこっちが疑問符を浮かべてしまう。
「?本気を出すわけないって」
「も、もう少しあとです!」
「なんなのよ!あぁ、
「そう!それです!それなんです……………………が、意味が分からないので説明が欲しいです」
おしりに着いた土を軽くはらいながら立ち上がって真っ直ぐに私を見据えてくる。
いやまぁ、説明したいのは山々なんだけど………………。
「いやだから、さっきから言ってるじゃない、自分の子孫の巫女だって。言葉の通りよ」
「言葉の通りに受け止めたからわからなくなっているんです」
「なんで!?」
本気で突っ込みを返していると先ほど私に空中戦で撃墜された黒羽の少女が話に加わった。
「
「私は
「よろしく、文に椛…………と、その他大勢の亜人種の方々」
さっきまで戦っていた
文曰く彼女たちはこの妖怪の山を住処にする烏天狗という種族であるらしい。
椛のほうは白狼天狗とのことらしく、全体的に白が基調の衣装に鮮やかな白髪に毛並みのよい尻尾は確かに文には見られあない特徴だ。
ん?
天狗?
そういえば昔そんな輩が山にいたな。
旦那のところにちょくちょくケンカしに来るから一部の連中とは顔見知りになってたっけ。
とはいえ、今はそれはいいとしよう。
後で聞いてみるのがいいだろうな。
今は面倒な頼まれごとを片付けるのが先だ。
「……ちょっと思っていたよりも数いたのね。ともあれ、急に現れたこと本当にすみません。あとは、
そう言いながらざっと見渡した中で何となく偉そうな雰囲気を醸し出している大天狗のほうへ歩み寄り、ぺこりと頭を下げた。
「こちらこそ、過剰反応してしまったが故攻撃をけしかけてしまったことには詫びを入れよう。圧倒されるとは思っていなかったが。しかし、我等に害を及ぼす存在ではないのであれば不問とさせていただこう。山の上の巫女のような粗暴者が増えられても困る」
「ご厚意感謝申し上げます。って、巫女が粗暴者って…………」
私は自分に敵意がないことを示すために右手のこぶしを左手の手のひらで覆うようにしながらもう一度深く頭を下げた。
にしても、今謝罪を受け取ってくれた大天狗も話しながらため息をついていたし、例の巫女ってそんなにやばいのかしら。
八雲 紫もほんとに面倒ごとを押し付けてくれたものね、まったく。
そんなことを考えていると、今まで黙って聞いていた椛が再び会話に参加してきた。
「謝罪も終わりましたしこれで和解が成立しましたね、では教えていただきますか?先ほどの言葉の意味について」
「私も聞きたいです!これは大スクープです!次回の新聞のネタ……に……ヒッ!?」
そんなノリノリの文のほうへスッと視線を向ける。
それも殺気ビンビンのオーラをにじませながら。
「へぇ、あんた見かけによらず度胸はあるほうなのね~。そこはやっぱり記者の性ってことかしらぁ~?」
殺気に当てられた文は顔から血の気が引いたように真っ青になりながら持っていた手帳とペンをポケットの中にしまい込んだ。
「よろしい」
「はぁ、射命丸。貴様の
今度は大天狗のほうが謝罪の言葉をもって頭を下げてきた。
「いや、まぁ、大丈夫ですよ。これでお互い様ってことにしません?」
「かたじけない」
そう大天狗は一言いうとゆっくりと頭を上げた。
「それでは、教えてください」
相変わらずものすごい勢いで詰め寄りながら話を聞こうとしてくる椛。
正直私としてはあまり自分のことを話すのは気が引けるのだが、この状況ができてしまったのは元をたどれば自分の失言が事の発端だったことを考えると……話す義務が出てきてしまうのではないかともおもう。
私は渋々といったふうに後頭部をがりがりと掻いてから大きくため息をつき、しゃべる覚悟を決めた。
「さっきの
そういって、ふと自分の雰囲気を真面目モードに切り替えて、片手を腰に当てながら顔をクイッと上げる。
ふぅと一息ついて軽く肩から力を抜くと、その視線を集まった天狗の皆さんのほうへ向けつつ自己紹介を行った。
「改めて自己紹介を。私の名前は
最近はめっきり敬語を使っていなかったので喋るのだけでも一苦労する。
申し訳ないが口調は戻させてもらった。
「
これにて一応自己紹介をご清聴ありがとうの意を込めて軽く頭を下げてから視線を上げると、なぜか周囲に集まっていた天狗の人たちがまるでやばいものでも見たかのように顔を真っ青にしながらこちらを見ていた。
「?あ、あの、私何かおかしなことを…………わっ!?」
「「「「先ほどまでの無礼、大変申し訳ありませんでした櫛名田比売様!!!!!」」」」
「は、はひぃ!?」
私の質問が終わるよりも早く硬直が解けた天狗たち全員が各々私に向かって謝罪の言葉を叫びながら一斉に片膝をついてかしずき始めた。
あぁ、もう絶対にこうなるってわかってたから素性を明かしたくなかったのに……。
これはもう過去の経験談だし。
旦那に嫁いでから幾度となくこんな光景を見てきた。
正直血は悪くないけど家はやばい家系生まれの私からしたら居心地が悪いのなんの……。
「ちょっと、そんな跪くなんて勘弁してよ。私苦手なんだから、こういうの。普通にしてよさっきみたいにさ。ほ、ほら大天狗の兄さんも!」
「そ、そうはいきません。貴方様の素性を知ってしまったからには………………」
「あ、あややや………………ご、御無礼お詫び申し上げます!」
「私も不躾に詰め寄ってしまって……反省してます!」
「んにゃ〜………………」
…………マジか。
ほんとに勘弁して欲しい。
この集団の中で1番偉いであろう大天狗の兄さんに加えて、先程まで普通に会話していた文と椛までガッツリ跪いているのだ。
はぁ、これ何回も見てると私まで気が滅入ってくるんだよな……。
そのせいで最近では旦那からも
思えば確かに喋り方も旦那と出会った時よりも変わった感じはしていた。
思わず大きく息をついて空を見上げる。
「はぁ、あの、これは言っておくけどね、私の事を神様だなんだと思ってるんだったらお門違いだから。だから私なんかにそんな敬意を払う必要なんか無いわ」
「そんな滅相もない」
「私がいいって言ってるんだから良いのよ。それにさ、本当に神様なのは私の旦那。私なんかなんの権限も力も持ってない元々血統だけは素敵な一般人なの。お爺様の血が良いだけ。だから、あまりお堅くされると背中がムズムズして落ち着かないって言うか…………」
私以外全員頭を下げて微動だにしていない中一人だけ立っているこの状況で、落ち着かない。
頭が痛くなるのを感じながら頭をガリガリと掻きむしり、大きくため息をついた。
これはもう………………ちょっとパワープレイするしかないのかもしれない。
そう思って私はさっきの戦闘のために持っていた木の棒をくるんと逆手に持ち替えた。
そして…………
「せい!!」
棒を突き刺した場所から周囲へ向けて衝撃波が広がり風圧となって吹き抜けていく。
その風を受けた天狗の面々が各々顔を腕でかばいながら瞠目した。
同時に全員の顔が上がったのを確認。
「……ようやく顔を上げたわね」
「いや、これはその……」
「なに?」
まだなにか言いたげな大天狗の言葉をさえぎりつつ突き刺した棒の上に手をかざして満面の笑みを向けた。
「…………なんでも、ありません」
「よろしい。というかここまでしないとわかってもらえないわけ?この……幻想郷?だとさ。ほんと勘弁してよね。だいたい私がいいって言ってるんだから気にしなくていいのよ。そんなかしこまんなくてもさ。普通で頼むわよ普通で。正直会う人会う人こんなことやってたら切りがないったら……」
ため息交じりに言い放ち、突き刺していた棒をひょいと引き抜くと真ん中でパキっときれいに折って後ろのほうへぽいと投げ捨てた。
これ自体はごくごく普通の木の枝ゆえに折ったときは何の抵抗もなくあっさりと折れたのだが、その様子を見た文と椛の二人だけは若干渋い顔を向けている。
「?なに?私の顔に何かついてる?」
「いえ、何も…………(も、椛!?あれ、さっき椛の大剣と斬りあってたもので間違いないですよね!?)」
「いえ、何も…………(そ、そのはずです~…………そもそもの話私の剣と木の枝で斬りあってたことのほうに疑問があるのですけど!)」
焦ったようにバタバタと両手を振りながら小声で数度やり取りを交わす二人を見てもう一度息をつく。
とはいえ、いろいろと話は脱線したものの取り合えず一通りの話は終わったのでそろそろ本題へと進む必要があるな。
「さて、これで私のこともわかったことだし、問題は払拭されたかしら?」
「はいそれはもう……」
「普通でいいって」
「…………」
「ほら」
「…………わ、わかりました。従います。では、改めて、私がこの妖怪の山に住む天狗をまとめ上げる大天狗。困ったことがあればいつでも来てくれて構いません」
「うん、ありがとう。それじゃ私はそろそろ行くわ。いろいろ迷惑かけちゃってごめんなさい」
「お構いなく」
「あ、待ってくださいあの……」
「
何かの提案をしたそうに挙手した文だったが何か戸惑っているようだったので呼び方だけ伝える。
「助かります。守矢神社に行くって言っても櫛名さんは場所はわかってるのですか?」
「場所?場所は」
場所?
あ、そういえば場所まではさっぱりだった。
大まかな場所だけ聞いてあとは自力で向かえばいいとは思っていたがよくよく考えたらここは山だ、どう考えても迷う未来しか思い浮かんでこない。
あの八雲っていう妖怪に転送先の座標とともに聞いておきたかった事柄であるな。
「ご存じありませんか?」
「それはまぁ、有無言わさずにつれてこられちゃったから……」
「あやや……それはご愁傷様」
「でしたら私たちが案内しますよ。先ほど事情も聞かずに切りかかってしまったので、そのお詫びもかねて」
「名案ですよ椛!というわけですが、どうでしょうか櫛名さん」
道案内、ということか。
確かに今の私で件の神社までたどり着ける可能性と道案内を頼んだ時のたどり着きやすさを比較すれば後者のほうが圧倒的なわけだが。
「いやでもそこまで厄介になるのはちょっと気が引けるというか……」
「そんなこと言わないでくださいよ~櫛名さん~。ほらほら案内いたしますって」
「えぇ……まぁ、、悪い話じゃないし確かにうれしい申し出……」
「でしょう!?じゃあ私と椛に任せておいてください!」
「はい、櫛名さんを無事に守矢神社までお送りします!」
「あぁ!もうわかった、よろしくね!」
先ほどとは打って変わって人懐っこくなった文と椛の押しに負ける形で道案内をしてもらうことになった私。
自分の素性を明かした手前ほんとに居心地悪い。
あまり安易に他人にばらすことだけはしないでくれればとがめることはしないが、それでも今後のいろいろを考えると頭が痛くなってくる。
ま、それは私の個人的なことなので二人が気にすることではない。
さて、こうなってしまえば素直に感謝をするほかないな。
とはいえ、方角とかはやっぱりわかるものなのだろうか。
そこはあれか、この山の住人ってことは庭みたいなもの、みたいな。
「はぁ、それで?ここからどっちの方向に進むの?あとは時間的にはどのくらいでつきそう?」
そう何気なく私は聞いたつもりだったが…………二人はなぜかきょとんとした表情を向けてきた。
「え?待って、なに?」
「どっちに進むって、決まってるじゃないですか櫛名さん」
「決まってるって、どういうことよ、文」
そう聞くと文からは予想の斜め上の回答が返ってきたのだった。
「そんなの、空を飛んでいけばすぐですって♪」
「ゑ?」
…………顔から血の気が引くってこんな感じなのかと初めて実感した瞬間だった。
長すぎるので前後編になりました
後編ではいよいよ。
建御名方命、ミジャクジ様、現人神とのアポなし突撃ご対面となります。
いつになることやら…………