艦これ×鋼鉄の咆哮~力の重さ、強さの意味~   作:東部雲

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ここまで長かったですが、ようやく更新再開です。お待たせしました。

今日は取り敢えずこの回ともうひとつ投稿します。それまで投稿していた話は一部を除いて一旦削除しましたのでご了承ください。


旧版
プロローグ~戦いの終わり、目覚める意識~


「超兵器機関内部で大規模な爆発を確認、超兵器機関が自壊を起こしているようです!」

 

 艦の内部に存在する薄暗いCICに若い女性士官の声が響き渡る。

 

 

「全速で離脱、爆発に巻き込まれるな!」

 

 報告を聞いた、こちらも若い青年将校が声を張り上げて叫んだ。

 

 

「衝撃波、来ます──────!!」

 

 続いてCICを、艦を強い衝撃が激しく揺らし、余韻の振動を残した後やがて収まり、CICには静寂が戻った。

 

 

「究極超兵器、爆散しました……」

 

 機器のモニターを確認した女性士官が告げる。

 

 

「忌まわしき太古の遺産が、また眠りについたか。2度と目覚めることのない、長い眠りにな……」

 

 ふぅ、と溜め息を一つついた青年将校は、緊張した体の力を抜くように自分の座るシートの背もたれに体重を預けた。

 

 

「ナギ少尉、被害状況の報告を」

 

「一番主砲は三番砲身を残して損壊。副砲やCIWSは81%を損失。

ゲイボルグミサイルハッチとエレクトロンレーザー発振器は全壊しており、我が艦の攻撃力はほぼゼロ。先程の衝撃波で機関が損傷、原子炉は無事ですが復旧は絶望的です……」

 

 ナギ少尉と呼ばれた女性は報告をする間も疲労の色が濃く、憔悴した様子だった。彼女の報告に彼────ライナルト・シュルツ大佐は険しい表情で唸った。

 

「控えめにいっても大破確実だな……戦闘には勝利したが、その為に払った犠牲は大きかった」

 

 思えば、ここまで来るのは短くも長く感じる旅路の末だった。

 

 シュルツは一年前までは近衛艦隊に所属する巡洋艦の艦長で、まさか世界各地を転戦して活躍する等思っても見なかった。

 

 一年前の国防軍による軍事クーデターが全ての始まりだった。それを逃れて日本の横須賀に寄港するも勾留されて、それから暫く経って砲声と警報が基地で響き渡った頃に、シュルツ達近衛艦隊が拘留された事に抗議しに出ていったきりだった筑波大尉と天城大佐により解放された。

 

 その後に押収したのが今シュルツ達が乗る巨艦、諏訪だった。

 

 艦種は船体は航空戦艦のそれだが、護衛艦の名が与えられた特異な艦。

 

 艦名は諏訪型重武装装甲航空護衛艦一番艦諏訪。

 

 シュルツ達近衛艦隊が勾留された横須賀で停泊しているところを奪取し、以降はシュルツ達の乗艦となった。

 

 基本的には航空戦艦であるため主砲は2基だけだが、替わりにミサイルを多数装備して当時は新型のレーダーシステムや、強力な対潜攻撃や水上艦への雷撃が限定的に可能な万能艦だ。

 

 更に搭載する艦載機はそれまでのレシプロ機より強力なもので、機種変更するまで殆ど損失しなかったほどの高性能機だった。

 

 同時に強力な演算機を装備しており、それと連動して機能する高度な減揺装置でこれだけの重武装でもトップヘビーにならないなど、当時で言えば全くの未知の存在と言えるほどに、護衛艦諏訪はそれまでの兵器の常識から外れた艦だった。

 

 人員の不足する近衛艦隊は戦力増強を急ぐ必要があり、諏訪のデータベースを調べた。

 

 その結果諏訪には同二番艦に多賀が存在し、更に随伴艦として建造予定だった改諏訪型と呼ばれる発展的の姉妹艦が設計図データとして保存されていた。

 

 ハワイで事態に備えていた近衛艦隊は実験艦の建造に着手した。それは何故か、諏訪の装備はアメリカ海軍ですら保有していないような、オーパーツと言っても良かったからだ。

 

 そのため、信頼性を得るために実験艦から建造して試験的に運用することが提案された。そしてハワイで防衛に失敗した我々が、アメリカ西海岸に移動した頃には兵装試験双胴巡洋艦三原が完成し、シュルツの乗艦諏訪の随伴艦として欧州に移動するまで共に行動した。

 

 その間軍艦の常識から大きく外れた巨大兵器『超兵器』と初めて戦闘を経験し、随伴艦三原と共にこれを撃破した。

 

 その後発動したゲイルヴィムル作戦の最中に、諏訪のデータベースに保存されていた改諏訪型の設計図データを元に建造された随伴艦の三隻が新たに加わり、第一遊撃戦隊を編成すると同時にこれまでの功績が考慮されてシュルツは大佐に昇格した。

 

 それからは地中海解放作戦、欧州解放作戦『メルセブルグ』を経て欧州戦線を戦い、太平洋に帰還を果たしてハワイ、日本を解放した。

 

 だが華々しい戦果だけではなかった。

 

 太平洋に帰還した後にアメリカ西海岸で超兵器空母に座乗していた天城大佐を、小笠原諸島沖では皮肉にも諏訪の姉妹艦多賀と戦い、その後海軍大学時代には教官で恩師だった筑波大尉を乗艦と共に沈めた。

 

 そして日本を解放後、祖国ウィルキアで緒戦を戦い、またも多くの同胞の血が流れた上でようやく首都シュヴァンブルグを奪還した。

 

 その矢先に最初にクーデターを起こし、侵略戦争を始めた首謀者フリードリヒ・ヴァイセンベルガーが超兵器潜水艦で逃亡した。

 

 それを追って最果ての地北極海で我々が見たものは、今までに戦い沈めてきた幾多の全ての超兵器の原型である究極超兵器『フィンブルヴィンテル』だった。

 

 フィンブルヴィンテルはヴァイセンベルガーの乗った超兵器潜水艦を文字通り消滅させたあと、大陸を目指して周囲の氷山を消滅させながら南下し始めた。

 

 究極超兵器はヴァイセンベルガーの制御を離れ、無差別に破壊を繰り返そうとしている、このままでは世界中があの超兵器潜水艦と同じ末路を辿りかねない。

 

 そんな結末を黙って待っているわけにはいかなかった。

 

 一年の間に敵味方で余りにも多くの犠牲を出した末、ようやく訪れようとする新たな時代を、世界が破滅させることで潰えさせることを。

 

 有史以来続いて来た人間の過ちの歴史も、そこで繰り広げられた苦しみや悲しみも、その中で育まれてきたささやかな幸福も、そのすべてを無に帰さない為に、過ちを償い、失ったものを取り戻す可能性を消してしまわないためにも。

 

 そしてシュルツ達第一遊撃戦隊は最後の決戦に臨んだ。

 

 だがその結果出た犠牲は、余りにも大きなものだった。

 

 

 軽諏訪型強襲駆逐艦影縫は付近の海域に展開する無人潜水艦を排除完了後、フィンブルヴィンテル攻撃に参加。防御重力場に幾らか負荷を与えるもその直後、諏訪に向かう雷球を直撃コースに割り込むことで被弾、轟沈した。

 

 兵装試験双胴巡洋艦三原は少しでもダメージを与えるため、直援の艦載機を伴って特殊弾頭『グングニル』誘導魚雷を中心に攻撃、この時の攻撃で防御重力場を臨界させたが弾薬庫に被弾して誘爆、轟沈した。

 

 改諏訪型装甲光学戦艦十勝はフィンブルヴィンテルに対し同航戦を仕掛け、中破相当の損傷を与えるも、十勝は大破相当の損傷を受け最後には敵超兵器のレールガンの砲弾が直撃して撃沈した。

 

 海域の外縁に展開していた改諏訪型装甲空母淡路と諏訪の航空隊は脱出用の重輸送ヘリを残して殆どが撃墜、大型のジェット機や攻撃ヘリで編成されているにも関わらず合計百数十名のパイロットが戦死した。

 

 そして諏訪もまた、大破相当の損傷を受けている。

 

 先程のフィンブルヴィンテルの爆発の衝撃波で機関は自力での復旧は絶望的で、生き残った淡路に曳航してもらわなければ移動もできない。

 

 

「それにこれだけの損傷、この後のウィルキアで修復するのもそうですが、残しておくのは難しいかもしれませんね」

 

 発言したのはシュルツと同じく若い青年士官で、名前はクラウス・ヴェルナー大尉。いつもなら明るい口調で周囲の空気を和ませることが多いが、今回はその口調は一段と暗く、その表情には無念の色が浮かんでいた。

 

 

「あぁ、これからのウィルキアは戦後処理に追われ、軍は再編するどころか規模を縮小するのは避けられないだろう。当然諏訪は修復されず、そのまま放置されるか、もしくは自沈処分することになるだろうな」

 

 無念なのはシュルツも同じだった。それにおそらく、世界は諏訪がウィルキアに存在し続けることを許さないだろう。

 

 諏訪は開戦当初から第一遊撃戦隊を率いてウィルキア解放までに数え切れない艦艇と、幾多の超兵器を相手に常に勝利し続けた。

 

 その戦果は一隻の軍艦として本来有り得ないものであり、同時に世界の主要国の中には、それが脅威的に映る国もあるかもしれない。そうなれば国外から有形無形の圧力がかかり、ウィルキアは国際的な立場を失いかねない。

 

 今までは無我夢中だったためあまり考えなかったが、ヴィルヘルスハーフェンでの戦闘が終了した頃にはその可能性は考えていた。

 

 

「艦長」

 

 ヴェルナーはシュルツを真っ直ぐ見据えて続けた。

 

 

「艦長がここで諏訪をどうしたいか、その決断は艦長次第です。艦長がどのような決断をしても、俺はそれに従います」

 

 ヴェルナーの言葉にCICにいる全員が注目して、その全員が既に覚悟が決まったような表情を浮かべていた。

 

 

「……総員退艦、これより諏訪を自沈する。全クルーは最低限の私物だけ持ち、淡路への移乗の準備を。ブラウン博士は自沈の為に準備をお願いします。……せめて、諏訪をこの海に沈めてやりましょう。姉妹艦が沈んでいった、この海に」

 

「……解りました」

 

 ブラウン博士───ドイツ共和国軍技術士官エルネスティーネ・ブラウン大尉は普段落ち着いた口調をしているが、今はそれとは別の落ち込んだ表情を浮かべて答えた。

 

 

「ナギ少尉、淡路に打電を。これより艦長以下乗組員全員は淡路への移乗準備に入る。貴艦は移乗の受け入れの用意を開始するようにと」

 

「了解」

 

 シュルツの指示にナギ少尉は一言だけ答えて淡路に電文を打ち始め、ブラウン大尉は自沈の為に艦にいる技術班を呼び出してCICから出た。

 

 ヴェルナー大尉もまた、自沈の為に作業する技術班以外の乗組員全員に向けて、艦内放送を流し始める。

 

 シュルツはそんな、諏訪が沈む最後の瞬間までそれぞれの役目を果たそうとしている彼らを黙って見守っていた。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 シュルツの指示の元クルーが淡路への移乗と諏訪を自沈する準備をしている頃、視点は諏訪の艦長室に移る。

 

 部屋の中には二つの人影があった。

 

 ひとつは赤い紐で結ったポニーテールの茶髪に白を基調とした近衛士官服を着た女性で、服は所々破れ出血しており足元に血で出来た血溜まりを作っていた。

 

 ひとつは明らかに人間とは異なる半液体状の身体をした、異質な存在だった。

 

 

「何者ですか、あなたは」

 

 自らの鮮血で赤く染めた士官服を身に纏った女性が目の前の存在に問いかけた。

 

 

「我ハ此ノ時代ノ人間達ガ、究極超兵器、フィンブルヴィンテルト呼ブ存在、ソノ残滓ダ、我カラ生マレシ分身ヨ」

 

 目の前の存在から返ってきたのは生気など欠片も読み取れない、無機質な音声だった。

 

 

「私が分身ですか…………」

 

 帰ってきた言葉に呟きを漏らす。

 

 あながち間違っていないかも知れなかった。今まで自分は数え切れない程の艦艇と幾多の超兵器を、たった今その全ての超兵器のマザーシップと言うべき究極超兵器を撃沈したのだ。

 

 それにシュルツ達が知っているかは分からないが、本来自分は───護衛艦諏訪はその超兵器の機関から抽出された技術から建造されている。

 

 更にこの一年間で二度に渡り改装された時にも超兵器技術で産み出された新兵器を装備した。その自分が超兵器と言われても不思議ではなかった。

 

 そう自嘲気味に考えていると、フィンブルヴィンテルと名乗った亡霊が話しかけてきた。

 

 

『我ヲ沈メタトコロデ無駄ナコトダ、何レマタ世界デ大キナ争ソイガ起キル』

 

 ピクッ、と諏訪は微かに反応するが、亡霊は半液体状の身体を波紋で揺らめかせて続けた。

 

 

『人間トハ愚カナ生物ダ、自分ノ思想ヤ欲望ト目的ノタメナラ相手ヲ滅ボシ、支配シヨウトスル』

 

 諏訪は沈黙を続ける。

 

 目の前の亡霊が言っていることはある意味では正しく、的を射ている気がしたからだ。

 

 一年前のヴァイセンベルガーによる宣戦布告から超兵器による武力を背景に侵略戦争が始まった。

 

 ヴァイセンベルガーは戦争の動機について絶対的な唯一者によって統治される世界を構築すると言っていたが、ヴェルナー大尉の裏切りが発覚した際にシュルツが根っこで考えていることは皆同じだと言うように、人間は自分の目的のためなら手段を選ばないのかも知れなかった。

 

 だが諏訪は「でも、」と呟き、話した。

 

 

「それでも私は人間を、艦長達を信じます。

人は弱い、強い力を手にすればそれに溺れない保証はありません。ですが、人は弱いからこそ互いに寄り添い助け合うことができる強さを持っている。私は人間の持つその強さを信じます。

人は一人で持ちうる力は小さい、でも力を合わせることで困難に立ち向かうことができるはずだから」

 

 瞳に確かな決意の色を滲ませて諏訪は断言する。それが一年と言う短くも他の艦よりも明らかに濃い艦歴の中で、自分や自分の艦長と見つけた答えだったから。

 

 その諏訪の返事に不快の色を含んだ口調で亡霊が問いかけてきた。

 

 

『例エ何度デモ過チヲ繰リ返ストシテモカ? 過チカラ何モ学バズ、争ソイヲ繰リ返ストシテモカ?』

 

「確かに人は過ちを繰り返すかもしれません、過ちから、何かに気づくことができないかもしれません。

だけど一人ではなく側に誰かがいれば、あるいは大勢ならお互いに過ちに気付きただすことだってできるはずです。

だからこそ私は、人間の持つその可能性を信じます」

 

 目の前の亡霊に対して決意表明する。直後、亡霊の輪郭が揺らぎ始めた。

 

 

『ドウヤラ我ノ此ノ体ヲ保ツノモ限界ノヨウダ。

ダガ我ハ、超兵器ハ闘イヲ、戦争ヲ求メテ再ビ現レル』

 

 そして足元から身体の輪郭が消え始め、最後に言葉を発した。

 

 

『サラバダ、我カラ生マレシ分身。次ハ此処トハ違ウ戦場デ逢ウコトニナルダロウ。

此処トハ違ウ、別ノ世界デナ……』

 

 不吉な予言めいた言葉を最後に完全に消滅し、諏訪以下いなくなった艦長室は再び静寂に包まれた。

 

 

「できれば二度と会いたくないですね」

 

 諏訪はそう吐き捨てるように言うと、室内を出入りするドアに足を向けた。

 

 

「さて、行きますか」

 

 艦長室のドアから出て、ブリッジを目指して艦内の通路を歩き始めた。

 

 今からすべきことを、済ませるために。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 視点は諏訪のメインブリッジに移る。

 

 そこでは、今まで通常航海で慣れ親しんだ諏訪の航海艦橋を、シュルツが名残を惜しむように眺めていた。

 

 コンコン、と金属を叩く音が静寂を打ち破るように艦橋に響き渡った。

 

 

「ヴェルナーか」

 

 そこには海軍大学時代に後輩で、一年前の横須賀を脱出した直後から今まで副官を勤めてきた青年士官がブリッジの隔壁扉に立っていた。

 

 

「クルーは全員ヘリへの収容を完了しています。後は、俺と先輩だけです」

 

「そうか」

 

 ヴェルナーの報告に短く答え、視線をブリッジの艦長席に移す。

 

 今まであの座席に座って横須賀を脱出して、その後は数え切れない敵艦と、超兵器を相手に第一遊撃戦隊を率いて戦った。敵も味方も、多くの血が流れた。先の戦闘で勝利と引き換えに払った犠牲も、決して安いものではなかった。

 

 ふぅ、と息をひとつ吐いて口を開いた。

 

 

「そろそろ飛行甲板に向かうか」

 

「そうですね、艦長が諏訪と運命を共にするつもりじゃないかって、みんな心配していましたよ」

 

 冗談を言うような口調でヴェルナーが話した。

 

 こんなときだからこそ、なるべく明るく振る舞っているのだろう。あれだけの犠牲を出して、諏訪も自力航行できない以上自沈することになったのだから。

 

 だからシュルツもまた、表情を少し緩めてそれに答えた。

 

 

「なら、速く安心させてやらないとな」

 

 そう締め括り、最後に一度名残を惜しむように眺めてからブリッジの出入口から飛行甲板に向かおうとしたときだった。

 

 ガタッ、とヴェルナーが出てきた反対の隔壁扉にウィルキアの近衛士官服を着た女性が背を預けており、服の所々が破れ血塗れだった。

 

 

「き、君! 大丈夫か!?」

 

 シュルツは慌てて駆け寄ると、女性は大丈夫と言うように首を横に振る。そして、シュルツと視線を合わせて話した。

 

 

「艦長に、挨拶に来ました。これが最後になるでしょうから」

 

「挨拶? 君は一体……」

 

「先輩、妙ですよ」

 

「妙とは何だ」

 

「先の戦闘で生き残ったクルーは全員ヘリへの搭乗を完了して、俺と艦長以外にいないはずです。

それに、彼女この艦に乗っていたでしょうか?」

 

 言われてみれば、とシュルツは気付いた。

 

 今まで世界を転戦した中で彼女のような人間は見覚えがなく、不審に思うところではあった。

 

 

「今まで艦長達の前に姿を見せなかった分、不審に思っても無理はありません。

私もついさっきこの姿を得たばかりでしたから」

 

 シュルツ達の様子に女性は気を悪くした素振りを見せず、淡い微笑みを浮かべて、語った。

 

 

「私は、いわばこの艦に宿る意思のような存在。

どういう理屈かは私にも分かりませんが、先程この身体を得て、こうして艦長達に最後の別れの挨拶をしに来たんです」

 

 そして海軍式の敬礼をして、女性は続けた。

 

 

「一年と言う短い間でしたが、艦長の艦として戦えて光栄でした。

私はもうここから動けませんが、艦長達ならこれからのウィルキアを立派に守っていけると思信じています。

……この海に沈んだ皆と私の分まで、これからのウィルキアをお願いします」

 

「君は、一緒に来ないのか?」

 

「私はこの艦に宿る意思そのもの、自沈すればこの艦と共に海に消えるでしょう。

それに、妹達も待っていますから」

 

 その言葉を聞いて、シュルツは理解した。

 

 妹達、おそらくそれは、同じ諏訪型の二番艦多賀。そして改諏訪型として建造された第一遊撃戦隊の所属艦だろう。

 

 第一遊撃戦隊が編成される以前に建造された兵装試験双胴巡洋艦三原やゲイルヴィムル作戦の途上で建造された駆逐艦影縫、戦艦十勝は今まで共に闘い続けて、この海に沈んだ。

 

 その途上で多くの敵艦を、自身の姉妹艦である多賀を沈めた彼女がどんな感情を抱いているのかは想像もできなかった。

 

 そんな彼女にシュルツは懐からあるものを取り出し、それを手渡した。

 

 

「艦長、これは……?」

 

 それは小振りな石に穴を開け細い鎖を通した首飾りだった。石には何かしらルーン文字と思われる溝が彫ってあるが、彼女にそれは読み取れなかった。

 

「元は戦場で生き残る確率を少しでも上げる願掛けとして身に付けていたんだが」

 

 シュルツはそこでひとつ区切り、微笑みを浮かべて続けた。

 

 

「仮初めとは言え、これから平和になる世の中では俺には必要ないだろう。

だからこれは、今まで俺達と一緒に戦ってくれたことに対する感謝と、この海に沈んだ後も幸福であることを願う、せめてもの手向けだ」

 

 静かに、だが確かな想いを込めてシュルツは敬礼し、そして、

 

 

「今まで共に戦えてこちらも光栄だった。君が私の艦でなかったらここまでこれなかったかもしれない。

一年と言う短い間ご苦労だった、"諏訪"。後はもう、ゆっくり休んでほしい」

 

 シュルツの言葉に女性───諏訪は顔を俯かせて、肩を震わせた。そしてすぐに視線をシュルツに合わせた、その瞳には水滴を浮かべていた。

 

 

「はい、艦長。今までありがとうございました……!」

 

 諏訪は涙声を震わせてながら感謝の意を示し、敬礼で返した。

 

 

 

 シュルツ達は自力航行能力を失い、継戦能力を喪失した護衛艦諏訪を破棄、自沈処分にした。

 

 その後彼らは生き残った空母淡路に乗ってドック艦スキズブラズニルと共にウィルキアに帰還したあと、多数の犠牲者を出した北極海での決戦は後に『マキナ・インコグニタ』と呼ばれた。

 

 そして、世界を巻き込んだ今回の大戦、後に超兵器戦争と呼ばれる戦いの最中、祖国解放の為に各地を転戦し、北極海に沈んだ艦達をウィルキア、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア等で長く語り継がれることになる。

 

 

 

 ウィルキア王国海軍近衛第一艦隊所属、

 

 

 

 第一遊撃戦隊、またの名をシュルツ艦隊と呼ばれる当時の大戦で間違いなく世界最強と言われた、艦隊が存在したことを。

 

 

 

 

オリキャラでタイタニック(WW1)を出したいけど出したいけどどうしよう?

  • 良いんじゃない?
  • ふっざけるな!
  • 追加でブリタニック(姉妹船)もオナシャス
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