艦これ×鋼鉄の咆哮~力の重さ、強さの意味~   作:東部雲

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まず最初に当初の予定より更新が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした!

最近は職場に赴く以外で限られた時間のイベント海域の攻略に手間取り、大晦日には兄が乱心してその対応に追われていました。
残念ながら番外編のクリスマスイブについては、今年の12月までお待ちください。代わりに節分かバレンタインデーの回を投稿いたしますので。以下は前回のあらすじです。

      ~前回のあらすじ~

殿で敵を引き付けていた時雨の回収に成功し、敵水上打撃部隊の前衛を足止めするため、山城と姉の扶桑は二水戦の援護に回った。


では本編です、どうぞ。


第5話 南西諸島邀撃戦②

 

 

 山城ら西村艦隊が時雨の救援に動いていた頃、同時刻の大東諸島北西の海域。

 

 その海上に、一個の艦隊が複縦陣で航行していた。

 

 

「……見付けたんやな?」

 

「うん。鈴谷の水偵四号機が捕捉したよ。ここからだと九時の方向、大東諸島から西の地点だね」

 

「ようやった。今度はうちらの出番やな」

 

 隊列中央で航行する少女は捕捉した敵艦隊がいる水平線の彼方を睨み、サンバイザーのズレを直した。

 

 急な連絡で知らされた敵襲、就役したばかりの空母娘を連れてその邀撃に向かう羽目になった彼女の声音は、普段をよく知る人物でなくとも分かってしまう程度には不機嫌そうだった。

 

 

「これからウチの艦戦隊で敵機動部隊の航空戦力を漸減するで。大鳳。キミは待機しといてな」

 

「はい……」

 

 名前を呼ばれた艦娘、装甲空母大鳳は不安げな表情で頷いた。

 

 

「そんな緊張せえへんでも大丈夫や。ウチが敵機を掻き回して、出来た隙狙ってキミが攻撃隊を送り込めばいいんや。簡単やろ?」

 

 にかっ、と屈託のない笑みを浮かべた。

 

 

「龍驤さん……。そうですね、確かにその通りです」

 

 自分のやるべきことを改めて認識させられ、同時に自分の属する艦隊の旗艦から感じた頼もしさに緊張が和らいだ。

 

 軽空母龍驤。

 

 彼女がこの艦隊の旗艦だった。

 見た目には幼い少女とも見間違えそうな体格をしているが、龍驤はかなり熟達した空母娘であり、前身となった実艦も歴戦の航空母艦だった。

 

 狩衣のような赤を基調とする和洋折衷の服装、首元には紐を通した勾玉や片手で抱える巻物が陰陽師を連想させる。

 

 

「せや。よう見とき、空母の戦い方っちゅうのをな」

 

 大鳳にそう言うと、片手に携える巻物を広げた。

 

 広げた巻物が独りでに宙に浮かぶ。龍驤は左手の人差し指で中指以外を折り、指先に『勅令』の文字を浮かび上がらせる。

 

 袖からは何枚もの『戦闘鬼』、『偵察鬼』と書かれた艦載機を納めたヒトガタの紙を取り出す。

 

 

「艦載機の皆ー、お仕事お仕事!」

 

 ヒトガタを広げた巻物タイプの飛行甲板上に浮かべ、次々走らせる。甲板上で走るヒトガタは忽ち朱色に発光して、艦載機にその姿を変えた。

 

 

「三笠も面倒押し付けてくれるわー。こちとら改二改装されたばっかだし、こんなとんでもない新鋭機をテストしろなんてなぁ」

 

 恨みがましく愚痴を言いながら、上空を見上げた。

 

 発艦した艦載機は、それまでとは一線を画した異形の機体だった。

 

 本来、機首部分にあるはずのプロペラが見当たらない。代わりに四門の機銃口と小翼があった。

 主翼もやはり大きく違っていた。翼端が後方を向いた後退翼になっており、尾翼と一体化している。

 なかでも特に異質だったのは後部にプロペラが配置されていたことだ。

 

 局地戦用艦上戦闘機『震電改』

 

 それがこの異形な艦載機の正式名称だった。

 前大戦において末期に完成した試作機がベースの機体で、艦娘用の艦上戦闘機として現代に甦った、間違いなく現行の戦闘機で最速の機体だ。

 

 奇しくもこの震電改は護衛艦諏訪の搭載する機体とはエンジンと推進機、武装以外ほぼ同じで、亜音速には到達できないが当時の開発者の夢だった400knot(時速740.8㎞)で飛行できる。

 

 

「第1優先目標は敵機動部隊の航空部隊攪乱、第2優先目標は敵機の漸減や。頼むで」

 

 力強いエンジンの駆動音を轟かせて、震電改の編隊が上昇する。

 動力の『三菱ハ-43-42エンジン』が生み出す大出力で、可変ピッチ機構を持つ住友VDM定速式4翔プロペラが全力で回転する。

 

 あっという間に上空集合を終えた震電改の編隊は、艦上偵察機彩雲の先導で水平線の彼方を目指して飛翔していった。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 龍驤の攻撃隊発艦から数十分後。大東諸島より西の海上。

 

 

「ナンダ」

 

 本土侵攻群主力機動部隊を率いて航行していた鬼級、空母棲鬼が呻くように呟いた。

 

 

「何ガ起キテイル……!?」

 

 空母棲鬼の疑問は叫びとなって溢れる。その視線の先では、信じられない光景が広がっていた。

 

 前方上空では激しい空中戦が行われていた。空母棲鬼以下、装甲空母鬼とヲ級flagship二隻から発艦した総数400以上の新型艦戦が震電改と交戦している。

 

 だが、その戦況は異様なものだった。

 

 震電改は深海側と比べて小規模の編隊だ。それだけ見ればどちらが優勢か言うまでもなかったはずだが、その機体性能は投入して間もない深海の新型艦戦と比べても凌駕していた。

 深海棲艦戦よりも高高度に位置する震電改は一気呵成に急降下、頭上からの攻撃に対応の遅れた先頭の部隊が忽ち食われる。

 

 そこからは数の優劣を物ともしない震電改の一方的な戦闘だった。急降下した震電改は、遅れて反撃を開始した深海棲艦戦とドッグファイトに移った。だが速度性能は震電改に劣っているため追い付けず、逆に背後へ回られた機体から火の玉と化して墜ちていく。

 

 

「各艦ニ告ゲル! 敵ハコノ混乱ニ乗ジテ、第二次攻撃ヲ仕掛ケテクル可能性ガアル! 対空警戒ヲ厳トナセ!」

 

 空母棲鬼の号令を受け、深海の護衛艦群は慌ただしく陣形を変える。その動きは無駄のない迅速なもので、錬度の高さを感じさせた。

 

 その後、艦隊外周に位置するレーダーピケット艦から報告が上がってくる。

 

 

「更ナル敵ノ攻撃隊、後方カラダト!?」

 

 報告された内容は後方より接近する新たな編隊が出現したと言うものだった。空母棲鬼を中心に輪形陣を展開しているが、上空直掩に艦戦が10機前後を飛ばしているだけだ。

 

 

「艦娘ドモメェ……! アノ新鋭機ハソノ為ニ投ジテキタノカァ!」

 

 空母棲鬼は恨ましげに言うが、誤解である。

 

 龍驤は確かに震電改を空母棲鬼率いる主力機動部隊の攪乱、及び漸減の為に第一次攻撃隊として発艦させたが、今回のような大規模戦闘は予定されていなかった。

 本来は実地試験用の先行試作機がその震電改であり、最初から想定されているわけではない。

 

 

「各艦、防空戦闘ニ移レ!」

 

 空母棲鬼が再び号令を叫ぶと、艦隊を形成する多数の護衛艦群が上空に向けて弾幕を張る。

 

 その対空砲火を目掛けて、第二次攻撃隊の一団が進攻してくる。

 

 それは震電改のようなプッシャー(推進)式プロペラを持つ先尾翼の機体ではなく、従来のトラクター(牽引)式プロペラの機体だった。

 先頭を編隊の最高度で飛ぶ烈風が、その下に零戦六四型、後方を彗星と流星が続いている。

 

 

「弾幕ニ穴ヲ空ケロ! 直掩機ヲ向カワセル」

 

 指示通りに対空砲火の密度が薄くされる。それを待った直掩の艦戦が第二次攻撃隊に向かっていく。

 

 その直掩機が迎撃を開始しようとした瞬間、上空から機銃による攻撃を受けた。

 

 

「ナニィ!?」

 

 目の前で火だるまになって墜ちる直掩機。その横から急降下する影があった。震電改だ。一個小隊(三機)の異形な局地戦闘機が爆煙を引き裂き、後退翼の端から尾を牽いて飛んでいる。

 

 その後は震電改と第二次攻撃隊の烈風、深海の直掩機が空戦に入り、穴の空いた弾幕の間を第二次攻撃隊が突入していった。

 

 

 

          ◇◇◇

 

「上手く行ったみたいやな。第二次攻撃隊が敵艦隊に打撃を与えよった」

 

 頬に汗が伝い、滴らせる龍驤が唸るような低い声で言う。

 

 大鳳の放った第二次攻撃隊は、当然だが錬成途上の航空隊だ。少数の敵機と近接すれば忽ち崩される恐れもある。

 その為、龍驤は持っている技術を出し惜しみなく投じることにした。

 

 紅い狩衣の少女が舞っていた。その指先には金色の輝きを放つ『勅令』の文字が浮かび、胴体からも同色の光を纏っている。

 腕を振るうことで黄金の光の軌跡が描かれ、胴体からは光の粒子を振り撒く。

 

 

「綺麗……」

 

 戦闘中にも関わらず、今日が初陣だった大鳳は先輩空母娘の舞いに視線を釘付けにしていた。

 

 龍驤のこの動きにも意味はある。通常なら発艦した攻撃隊に対し、空母娘は細かい指示は出せない。だが、龍驤の行っている動きは別だった。

 

 龍驤と震電改を主力とする第一次攻撃隊は、今まさに一心同体の状態にあった。

 腕を振り軽やかにステップすれば、それに応えるように交戦中の震電改は動く。龍驤が有する独自の技術で実現した奥の手だった。

 

 

「このまま一気に行くで! 敵機を磨り減らせるとこまでやったるわ!」

 

 指先で揺らめく勅令の蒼い輝きが、体に纏う金色の光が強まる。舞の動きもより激しさを増していく。

 

 

「龍驤さん! 水偵三号機が新たな敵艦隊を捕捉したよ! 6時の方角、数6の水雷戦隊!」

 

「安心してええよ。頼もしい援軍が来る頃や」

 

 鈴谷の焦るような叫びを聞いても動じず、龍驤はそう返した。

 

 直後、敵水雷戦隊が向かってきている筈の方角にある水平線の彼方で水柱が屹立した。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 鈴谷の水偵三号機が新手の水雷戦隊を発見した頃より少し遡り、同海域付近の海上を一個の艦娘の艦隊が航行していた。

 

 

「味方に接近する敵艦隊を捉えました」

 

「貴女達は駆逐艦達と待機して。一個水雷戦隊程度なら、私一人でやるわ」

 

「分かりました。加賀さん、巻雲さんと秋雲さんも良いですね?」

 

 先頭を往く一人の艦娘とやり取りした胴着姿の女性が、後方から随伴する三人の艦娘に確認した。

 

 

「了解です、赤城さん」「了解、です!」「……了解」

 

 随伴しているのは赤城と呼ばれた艦娘に似た胴着姿の女性、正規空母加賀。駆逐艦巻雲、秋雲だった。

 

 そのうちの一人である秋雲は緊張に顔を強張らせ12.7cm連装砲D型を持つ手は震えていた。

 

 

「大丈夫ですか、秋雲?」

 

「──問題ない。アタシは、覚悟した上で決めたんだ」

 

 心配した巻雲から声を掛けられ、主砲の取手を握る手の握力を強め、震えを押さえ付けながら答えた。

 

 不意に、秋雲の手に巻雲が自らの手を重ねる。

 

 

「巻雲……?」

 

「心配しないでいいですよ、秋雲」

 

 鈴がなるような声音で、安心させるように囁いた。

 

 

あの時と同じにはなりません(・・・・・・・・・・・・・)。繰り返さないために貴女はもう一度立ち上がった、だから大丈夫です」

 

「……そうだねぇ。確かにその通りだった。その為にアタシは、佐世保から出撃したんだ」

 

 内心の不安を振り払うように、一度は表情を緩め、再度引き締め直した。

 

 

「アタシは報いなきゃならない。今まで守ってくれていたあの人のためにも……!」

 

 こことは違う場所に思いを馳せながら意気込んだ。それまで自分が平和に過ごしてきた、佐世保での長い日常生活を思い起こした。




投稿が遅れたにしては内容は今回、薄かったかもしれません。四千文字しか打ち込まなかったですし。

あと、次回からはサブタイが変わって時間を少し遡ります。以下は次回予告です。


        ~次回予告~

ある日を境に、少女は惨劇で多くの仲間を喪った。それから長い年月を保護者の人間と共に過ごしてきた。
そんな仮初めの平和な日常は、ある女性が訪れたことを切っ掛けに終わりを告げる。


「行きましょう、秋雲さん。あの時と同じように、護衛をお願いしますね」

平和な佐世保の街から少女が抜錨する。


第7話 本土襲撃前夜

オリキャラでタイタニック(WW1)を出したいけど出したいけどどうしよう?

  • 良いんじゃない?
  • ふっざけるな!
  • 追加でブリタニック(姉妹船)もオナシャス

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