艦これ×鋼鉄の咆哮~力の重さ、強さの意味~   作:東部雲

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外伝作品の編集が当初より進みません(挨拶)

作中に登場する組織に自衛隊を母体とする国防軍がありますけど、自衛隊の伝統なんてなかなか知ることのできる資料がなくて手間取りました。なので既に所持している自衛隊を題材にした創作物を参考にして、ネタを選んで描写していきたいと思います。

~前回までのあらすじ~

古ぼけたアパートで同人サークルを親友の二人と共に営む少女田中 梨絵(たなかりえ)はかつての戦友、赤城と対面した。
過去の記憶を刺激され激昂、抑えきれない感情に涙を流した彼女は親友の二人に艦娘だった頃の出来事について話し、心配した二人に自宅へと送られその日を終える。
翌朝、起きてから間もない時間帯に思いもよらぬ訪問者、赤城と同じくかつての戦友だった夕雲型の四人と再会した。


第6話 本土襲撃前夜 後編

 麦茶の入ったコップが5個置かれたトレーを片手に、空いたもう片方の手でリビングのドアを開けた。

 

 

「お茶、入れてきたよ」

 

「すみません、梨絵さん。朝早く押し掛けたのに、気を使わせてしまって」

 

 リビングに設置した食事などに使うテーブル、梨絵から見て手前の椅子に座る長い緑髪の少女──夕雲が申し訳なさそうに眉を下げながら言った。

 

 

「別に。仮にもお客さんだからね。もてなすくらいはしないと」

 

「ふぅん? 確りしてるじゃんか」

 

 素っ気なく答えると、ウェーブのかかった黒い長髪の少女──長波は感心したように言ってくる。それから無言でトレー上の麦茶を全てテーブルに置くと、夕雲達とは反対側の椅子に座った。

 

 

「……それで、話したいことって?」

 

「玄関先でも言いましたが、私達は梨絵さんを説得するのが目的で来たわけではありません。ただ、会って話がしたかった」

 

「赤城さんから聞き及んでいます。昨夜の、梨絵の様子について」

 

 夕雲から後を引き継いで、メガネを掛けた少女が切り出した。それを聞いて、梨絵はばつの悪い表情を浮かべる。

 

 あれは梨絵にとっても、感情的になりすぎたとは思っていたのだ。

 最初はまだ帰って貰おうとしただけだった。だが赤城と話すうち、過去の記憶を刺激されて思わず激昂してしまった。

 

 

「赤城さんは言っていました。梨絵は、あの頃(・・・)以上に前を向けるようになってくれましたと」

 

「……」

 

 眼鏡を掛けた少女──巻雲の言葉に対して梨絵は答えず、その隣にいる艦娘へと視線を移した。

 

 

「その娘は? アタシが現役の頃は居なかったわよね」

 

「初めまして! 夕雲型駆逐艦、風雲です」

 

 姿勢を正して敬礼までして自己紹介してきた。それを見て何故か可笑しくなった。長波など民間人として久し振りに会ったのに、あの頃と変わらず粗雑な話し方だったからだ。

 

 

「その制服見れば解るわよ。それより、久しぶり。軍艦だった頃に第十駆逐隊を組んだ以来だよね。艦娘として顕現してからはどれくらい?」

 

「10年目です! 西方を打通して欧州へ艦隊が派遣された時期に着任しました」

 

 なるほど、と梨絵は納得する。それなら自分が義父に引き取られたのと入れ替わりだろう。夕雲達は現在、横須賀第3鎮守府に所属しているのを知っていた。赤城、加賀も同じく。風雲はそのなかでは比較的浅いのだろう。それでも軍属で10年目を迎えれば、充分ベテランと言えるが。

 

 

「天龍経由で話は聞いてるわ。優しい提督に恵まれたらしいわね」

 

「! はいっ。女性の方で出身も変わったヒトですけど、良くして頂いてます」

 

「帰化したスペイン人が母親のハーフらしくて、優しい方ですよ。……ちょっとお酒を飲み過ぎで呑まれちゃうのが、タマに傷ですけど」

 

 困ったヒトですよ、と本当に困っているような表情で夕雲は言った。だがそこに迷惑しているような感じはしなかった。話題に上がった女性提督の話に巻雲、長波も口元を綻ばせた。

 

 

「……そっか。四人とも、良い提督に恵まれたんだ。それなら、安心して任せておけるかな」

 

 話を聞く限りだが、無茶苦茶な指揮をするわけでもなければ、待遇も良いのだろう。嘘を言っているようにも見えないし、梨絵はそれが分かったことで安堵した。

 

 

「……それだけでは、夕雲は納得できないんです」

 

「夕雲……?」

 

 突然、夕雲が声を挙げた。椅子から立ち上がりテーブルに勢いよく両手の平を叩き付ける。

 

 

「私はっ! 夕雲は梨絵さんに、秋雲さんに戻ってきてほしいんです……!」

 

「……」

 

 正直、意外だった。梨絵の知る限り、夕雲は包容力のある駆逐艦の少女だ。自分より下の妹達や他の艦娘、あるいは他人を優先するなど、気遣いのできる性格だ。そんな彼女が本心をぶつけてくるのは予想していなかった。

 

 

「話し合いをしに来ただけじゃなかったの? それに、なんだか意外だったよ。夕雲がそんな事を言い出すなんて。これも夕雲達の提督のお蔭かしら?」

 

「……九条提督は立派な方です。私達が佐世保を離れて横須賀に転属した頃、誰よりも先に率先して受け入れてくださいました。何より、これは九条提督の教えに従っただけです」

 

「司令官様は、自分がどうしたいか、その意思を大事にしてと仰ったんです。夕雲お姉さまは、そのお陰で救われたんです」

 

 巻雲がそう補足する。それを聞くと同時に、意地悪な質問だったかなと反省した。

 

 

「……夕雲が自分の性格を曲げてまで頼んだのに悪いけどさ、アタシは戻らないよ」

 

「どうして……ッ」

 

「アタシはさ、今の生活が楽しいんだよ。それに、今日までアタシを支えてくれた親友も居るし。わざわざ人生棒に振ってまで傍に居てくれた二人に報いないで戻れるわけないよ」

 

 これは筋が通った言い訳だ、と梨絵は自嘲した。こんなもの、ただ二人をダシにして逃げているだけだ。

 

 

「でも、あの惨劇を生き延びた艦娘の多くは、戦線に復帰したんです!」

 

「内面はどうなの?」

 

 実際、同じ生き残った艦娘でも本当の意味で前を向いた艦娘は全員というわけではなかった。

 

 同じ駆逐艦娘の暁は人間の横暴に対抗しようと、国防大学の提督養成課程を修了し、何ヵ所かの鎮守府や幌筵泊地で研修を受けた後、最前線の幌筵泊地に着任した。

 その頃には、艦隊運用で人間らしい感情を見せることが希になっていたらしい。その事は天龍から届いた手紙で知っていた。

 

 青葉は精神的な要因で未だに艤装が展開できず、現在は横須賀第2鎮守府に引き取られ、横須賀海軍基地の広報課少尉相当艦と言う扱いを受けていた。

 普段は明るく振る舞っているが、彼女もまた過去を引き摺っているのだ。勿論、自分もだが。

 

 

「それは……」

 

「あれだけ大勢の艦娘が一度に喪われたんだ、簡単に乗り越えられる方がおかしいんだよ。特に第1世代のあの思想は、アタシ達第2世代にとってキツ過ぎる」

 

 建造で顕現した艦娘の第2世代には制約が存在する。

 それは、人間に対して危害を加えることが出来ないことだ。それが例え自衛するためでも、建造で顕現した以上はその制限を受ける。

 

 ここで建造された第2世代と根本的に違ってくるのが、世界に同時多発的に出現した第1世代とドロップ現象で顕現した第2世代の艦娘達だ。

 彼女達は人間の命令が理不尽で不当なものであるなら逆らえるし、時には艤装を用いて逆に制圧できる。

 

 これは後に解明されたことだが、ドロップ現象は人間が関わったものではないため、建造のように枷を付けるような制約が伴わないらしい。その為、彼女らを危険視する者も少なくない。

 

 

「第1世代は、常磐さん達は勝手すぎるよ……。自分達は人間の横暴に対抗できるからって、自分達の後ろに庇って。後進のアタシ達を自分達より先に沈ませないためと言って、勇んで敵の大軍に挑んだ。あれは、ある種の狂気に感じたよ」

 

「それだって常磐さん達が守りたいと想ったからで」

 

「『守りたい』っていう想いは一方通行だよ。アタシ達がどう想うか、考えていた訳じゃなかった」

 

 確証がないわけではない。だが、彼女達第1世代は何か、本能的に突き動かされていたようにも感じたのだ。

 

 常磐達の意思を否定する意図があるわけでもない。本能的な部分はあったにせよ、あれが彼女達の出した結論だったのだ。今言ったことも梨絵が感じたことを表現したものだが、それでさえ復隊を拒む言い訳程度のものだった。

 

 

「梨絵の言いたいことは分かる。長波もあの渦中に居たんだからな。けどさ、どうしても戻れないのか? 夕雲達が梨絵の為に第十駆逐隊の四隻目を空けたままにしていても」

 

「? 第十駆逐隊は長波と風雲が居るんだから、人数は充分じゃないの?」

 

 梨絵は疑問を口にすると、長波は「違う」と言って首を横に振った。

 

 

「私は風雲が着任した時期に入れ替わりで舞鶴第1の二十七駆に編入した。だから、第十駆逐隊は3人で回してる状態だ。梨絵が戻ってくるのを待ってるんだよ」

 

「!」

 

 長波の言った事実を聞いて、梨絵は息を呑んだ。

 

 考えもしなかった。夕雲達が、10年間第十駆逐隊の四隻目を空白にしてまで待っていたなんて。

 

 確かに、艦だった頃の自分は第十駆逐隊の一員で、思い返してみれば艦娘として顕現してからそれを再現したことはなかった。

 

 

「なぁ、これでもダメなのか? 私は風雲と入れ替わることでお膳立てしたし、夕雲達だって誠意を以て梨絵に願い出た。それでも足りないのかよ」

 

「……アタシは」

 

 それでも断る、と言おうとした時だった。突然、携帯端末の着信音が鳴った。

 

 

「……私ですね。ちょっと待っていてください。──横須賀第3鎮守府の巻雲です。──はい。…………何ですって!?」

 

 スカートのポケットから携帯端末を取り出して何処かと通話し始めた巻雲が、仰天したような声をあげた。

 

 

「どうしたんですか、巻雲さん?」

 

「……夕雲姉様、どうやらここに居る場合ではなくなったようです」

 

 通話を終えてから緊張した表情で巻雲は返答した。

 

 

「どういうことですか」

 

「本土より南西を哨戒していた艦隊が、深海の大規模な艦隊と遭遇しました。その後の詳細は解りませんが、緊急を要するようです」

 

 その言葉で、室内に一気に緊張が広がった。風雲と長波は顔を見合わせ、風雲が切り出す。

 

 

「今すぐ戻りましょう! 私達にも、出動の指令があるかもしれない」

 

「解っています。梨絵さん、聞いての通りです。夕雲達はこれで失礼します」

 

 率先して席を立った夕雲を先頭に、巻雲、風雲、長波の順に慌ただしく退室していった。

 

 

 

         ◇◇◇

 

 夕雲達が自宅から出ていった頃から1時間後、佐世保の街中で梨絵は自転車を走らせていた。

 

 あれから軍から政府、自治体まで情報が伝わったか、佐世保市は避難を促す警報が市内のスピーカーから響き渡る。路上では警官が交通整理を、陸軍の迷彩模様の戦闘服を着た兵士がメガホンで叫んでいる。

 それらを尻目に、避難する人々の雑踏を避けながら駆け抜ける。

 

 夕雲達が出ていった直後、梨絵は親友のそれぞれの実家に連絡して安否を確認した。

 小林家に確認を取ったところ、亮はバイトも非番だったので暇をしていた。連絡した時点では避難警報が発令された後だったので、身支度しているところだった。

 

 だが、佳奈が問題だった。幸田家に確認したら、今頃は市内の海水浴場でバイトしてると言うのだ。それを聞いて居ても立ってもいられず外出着に着替えて自宅から飛び出し、ここまで自転車を転がしていた。

 

 

「……あれは!」

 

 目的地の海水浴場まであと少しと言うところで、梨絵はそれに気付いた。目の前、正面の空に黒煙が立ち上っている。それはちょうど、海水浴場のある方角だった。

 

 

「──ッ! 佳奈!」

 

 力一杯ペダルを漕いで走る。やがて出入り口が見えてくると、そこは避難しようとする利用客で一杯になっていた。

 

 近くの歩道で自転車を乗り捨て、利用客の群れを掻き分けて出入り口に向かっていき、そこで避難誘導する入り口のスタッフの男性に声を掛けた。

 

 

「すみません! ここに若い女性が、佳奈がバイトしてると聞いてるんですけど知りませんか!」

 

「佳奈?! それなら知ってます。ですが、今は」

 

 言い澱んだスタッフの視線の先には海水浴場の内側だった。弾かれるようにして今いる場所から飛び出す。スタッフの制止しようとする叫びを背に受けながら走った。

 

 佳奈はすぐに見付かった。だが、直後に『ある存在』に気付いて手近な仮設小屋の陰に隠れた。所謂、海の家と称される一時休憩所だった。

 

 

(早く佳奈の所に駆け寄らないといけないのに、まさかアレがここに居るなんて……)

 

 海水浴場の波打ち際にソイツは居た。忘れもしない。15年前の第一次本土沖海戦でも、多数が大群に混じり押し寄せていたからだ。

 

 膨大な物量を誇る深海棲艦のなかでも特に多い駆逐艦級、それを両腕に腕甲のようにして装備したような姿のヒューマノイド型。

 

 イロハ級と呼ばれる深海棲艦、重巡リ級だった。

 

 

(どうする!? あれがちょうど中間にいるから、見付からずに辿り着くのは無理だ)

 

 海の家の陰に隠れる直前に見た限りでは、佳奈は波打ち際に乗り上げた漁船の物陰で女の子と息を潜めているようだった。その中間付近にリ級が闊歩していた。

 

 梨絵は思案する。今飛び出せばリ級に気付かれる可能性は高い。海水浴場は視界を遮るものは何もなく、波打ち際まで行こうとすれば自身の存在を隠蔽する事はできない。

 

 それでも方法がないわけではない。自分は艦娘だ、艤装を魂より引き出せばそれで戦える。だがそれは、梨絵がそれまでの平和な生活を捨てることにもなる。何より、あの惨劇の後は艤装を展開することが出来なかった。戦いの場から距離を置くことも、仮退役を受けた理由の一つだったのだ。

 

 

(どうすれば良いのよ……!)

 

 昨日の夕方には赤城に、つい先程までは第十駆逐隊といった何人もの艦娘達を拒絶してきた。感情のままに喚いて、見苦しい言い訳をしてまで逃げようとした。そんな自分が今さら手のひら返して、艦娘として戦う資格などあるのか。今でも艤装を展開できるかは怪しいのに。

 

 その迷いから梨絵が葛藤して動けないでいる時だった。自分が隠れている仮設小屋の向こうから大きな衝撃音が響いてくる。反射的に音のした方を見ると、リ級が乗り上げた漁船を破壊しているところだった。

 

 

「────!!」

 

 それを見てから、梨絵がそれを選択するのにもはや躊躇はなかった。体を眩い純白の光が包む。一瞬後には年頃の少女としての姿から、瀟洒な洋服を着てその上から艤装を身に纏った駆逐艦秋雲としての姿に変わる。

 

 海の家の陰から飛び出し右手の12.7cmD型連装砲を握り締め頭上に向けると、砲弾を薬室に装填せず発砲した。

 

 空砲の砲声にリ級が気付いた。漁船を破壊するのを止め、こちらに視線を向けてくる。

 

 

「──お前の相手はアタシだよ。深海棲艦にとっては目障りな存在、艦娘ならここに居る。だから、こっちに来い!!」

 

 砲口から硝煙を吐き出す主砲を下ろし、存在を自己主張するようにしてリ級を挑発した。

 

 とにかくリ級を佳奈から話す必要がある。漁船より離れた場所を適当に見付け、艤装を着けたまま走り出した。

 漁船からは呼び止めようとする叫び声が聞こえたが無視する。衝動的とは言え、艦娘として行動する選択をした。今さら佳奈を見捨ててまでやめるなど出来ない。

 

 

「沖まで誘導できれば────ッ!?」

 

 十年以上ぶりに身に纏った艤装の重みに耐えながら走っていると、浅瀬付近にいるソレに気付いた。黒い体躯、機械のようで偉業の怪物にも見える大柄な物体が二つ浮かんでいた。イロハ級の駆逐艦、駆逐ロ級だった。

 

 

「邪魔よ!」

 

 主砲を構え、砂上で砲撃する。だがここで問題が起きた。衝撃を足元の砂は受け止められず、足を滑らせて体勢が崩れる。

 

 

(しまっ──!)

 

 その隙を深海棲艦達が見逃すはずはなかった。追ってきていた重巡リ級が、浅瀬にいる駆逐ロ級が発砲して梨絵のいる砂上から砂を巻き上げる。

 砂のカーテンから小柄な少女が衝撃で投げ出された。砂上に叩き付けられたことで肺の空気を強制的に吐き出され、全身を酷い激痛に襲われて苦悶する。それでも無理矢理体を動かしてその場から離れようとするが、倒れる梨絵の頭上を影が覆った。

 

 同じ砂上に立つリ級が目の前に立っていた。一思いに息の根を止めるつもりらしく、右腕の艤装の開口部から覗く主砲がこちらを指向していた。

 

 

(アタシ、死ぬの……?)

 

 目前まで迫った死の恐怖に体を強張らせた。十年以上も海上での戦いから遠ざかってきた自分が忘れていた感覚、冷や水を浴びせられ背中から全身が硬直していくような感覚に襲われる。

 

 

(……ごめんなさい、義父さん)

 

 最後に孝行の一つも出来ていないことを悔やんで、訪れる死を覚悟しながら瞑目した。

 

 直後、何かがリ級に衝突する音が響いた。黒いリボンで留めた栗毛に近い茶髪のポニーテールが突風で激しく揺れた。

 

 何が起きたのか分からず、瞼を片方だけ押し上げて確かめる。

 

 目の前にいたのは、先程まで脅威として存在していた上陸したリ級ではなかった。近未来的なデザイン、全体の印象からロボットかと思いそうになるがそうではなかった。胴体より上、そこに見える顔は梨絵がよく知る人物のものだったからだ。

 

 

「こちらスサノオ、C P。 要救助者を2名確認した。付近の部隊から護衛に誰か寄越してくれ。20代の女性が一名、女の子が一名だ。──こちらスサノオ、了解した。現場に留まって後詰めを待つ。オーバー」

 

 何処かと通信でやり取りして、頷くと視線を梨絵に向けた。

 

 

「義父、さん……?」

 

 乱入してきたのは梨絵の身元保証人で義父の田中恵介(たなかけいすけ)だった。現在彼は国防陸軍の西方普通科連隊に所属、第一海兵団中隊長として活動している。

 

 視線を巡らせると、仮設小屋の一つに背中を押し付けた状態のリ級がいた。状況から考えて、恵介が突き飛ばすなりして背中から激突したのだろう。

 

 

「どうしてここに、と思うだろうが話は後だ。動けるな? リ級は俺が何とかする、お前は今から沖に向かえ」

 

「え? でも……」

 

 躊躇うように浅瀬のロ級駆逐艦二隻を見る。

 先程受けた砲撃は直撃ではなかったので艤装も大して損傷していないが、十年以上も実戦を経験していない自分ではロ級二隻相手でも時間が掛かってしまう。すぐに沖に向かうのは困難だった。

 

 

「ソコに居るロ級なら心配するな。頼もしい味方が来ている」

 

 恵介が言った直後、上空からプロペラの回転する音が鳴り響く。見上げると、2機のレシプロ機が急降下するところだった。機種は外見が目視で確認できてからすぐに分かった。全体的に流線形のデザインが特徴的な高性能機、彗星一二型甲だ。

 

 機首は直下のロ級を指向していた。爆弾倉を開き、機内に格納した爆弾が投下される。練度の高さ故か、逸れることなくロ級を捉えて爆発。破片を撒き散らしながら炎上し始めた。

 

 

「梨絵さん!!」

 

 名前を叫ぶ声がした。振り向くと、一時間前まで話していた夕雲達が砂浜を走ってくるところだった。

 

 

「夕雲型のみんな、どうして……」

 

「佐世保海軍基地に戻ったら沿岸まで水雷戦隊の侵入を許したと連絡があって、急いで追ってきたんです。先の爆撃は赤城さんが」

 

 巻雲が説明しつつ腕を掴んで、立ち上がるのを手伝ってくれた。

 

 

「陸軍の田中少佐ですね? 娘さんはこちらで預かります」

 

 夕雲がそう言い渡した。それに対して恵介は大袈裟に「ふんっ」と鼻を鳴らしながら応える。

 

 

「ああ。この場に居る民間人は任せろ。幸田の嬢ちゃんも女の子を懸命に守ってたみたいだからな、男を見せる場面だ」

 

 陸軍と海軍、互いの立場の違いを意識しての発言なのは夕雲にも、梨絵達にも察せられた。

 

 全身を覆う鋼鉄のスーツからより強く駆動音が唸りを上げる。右肩から右腕にスライドして砲身を展開させた。

 同時にリ級が仮設小屋の壁に預けた背中を離して立つ。瞳に敵意の色を宿し、腕の艤装を向けた。

 

 

「行け!」

 

 恵介が叫ぶと弾かれるように砂上の艦娘達は駆け出した。牽制のために砲身を指向させ、防盾付きの左腕を前方に掲げながら前進する。

 

 リ級が発砲した。8inch連装砲の2発の砲弾が恵介を襲うが、タイミングを合わせて左腕を振るい弾く。砲弾は恵介の左前方に向かって弾き飛ばされ、砂の地面を吹き飛ばした。

 

 

「行くぜ、妖精さん!」

 

 その声に応じるように、恵介の肩に緑の斑模様の迷彩戦闘服を着た二頭身の小人──妖精が現れた。

 

 

「俺の攻撃は──」

 

 前置きするように呟き、右足を後ろに引いて身構えた。

 

 

「深海の防御を貫くッ!!」

 

 右腕の砲身から砲弾が発射され、砲声が海水浴場に響き渡った。

 

 

 

         ◇◇◇

 

 恵介が陸での迎撃を開始した頃、佐世保沖の海上。

 

 

「……こちら横須賀第3の赤城です。佐世保第1鎮守府艦隊指令部、応答願います」

 

 右耳に弓懸(ゆがけ)を嵌めた右手を添え、佐世保海軍基地第1鎮守府と交信するのは赤城だ。傍らには無二の相棒、加賀も控えていた。

 

 

『臨時秘書艦、綾波です。状況を知らせてください』

 

「佐世保沖に侵入していた深海棲艦をほぼ一掃しました。残りは上陸したリ級が1体、陸軍の佐官と交戦中です」

 

 周囲の海面には巨体の駆逐ロ級が3体、横倒しになった状態で浮いていた。それも現在進行形で沈みつつあり、沈没は時間の問題だろう。

 

 その他にもリ級やヘ級を撃破していた。これも赤城、加賀によって攻撃を加えたのだが、自分達だけでこれを撃破したわけではなかった。

 

 

「割り込んで失礼。綾波、時雨はどうかしら? 既に収容したんでしょう」

 

 無線の通話に割り込んできたのは、長めの茶髪を左のサイドテールにした大正時代を連想させる純白の和服姿の女性だ。

 

 

『その声は薩摩師範ですね? 時雨ちゃんなら山城さんが回収して撤退を始めています。途中で扶桑さん達と合流し、最上さん、満潮ちゃんが曳航を引き継ぐ手筈になっています』

 

「──そう。それなら、連れ帰ってくれると信じましょう」

 

 大正スタイルの女性はそれを聞いて秘かに安堵する。

 

 彼女こそが赤城、加賀と共同で敵の水雷戦隊を撃破した艦娘だった。

 

 戦艦薩摩。

 海軍にその名を知らぬ者は居ないと言っても過言でない程に著名な艦娘であり、最古にして最高峰と言える存在だった。

 時雨を回収した山城は彼女が教えた弟子の一人であり、実力なら薩摩を除いて海軍最強の艦娘だ。最上達に引き継ぐまで必ず守り抜くだろう。

 

 

「赤城さん、薩摩さん。夕雲さん達が来たようです」

 

 加賀が指差した先には、つい先程まで田中 梨絵だった少女、駆逐艦秋雲を連れた夕雲型の面々が駆け寄ってきていた。

 

 

「赤城さん。梨絵さんをお連れしました」

 

「秋雲で良いよ」

 

 夕雲が報告した直後、訂正を入れるように本人が言った。

 

 

「……良いのですね?」

 

 心配するように赤城が確認した。それに対し少女は首を振りながら答える。

 

 

「佳奈を助けるには、あの状況ではアタシが艦娘に戻るしかなかった。戻った以上、逃げてはいられないから」

 

 本当は、艤装を展開できるか自信がなかった。自分が仮退役を申請した理由の一つとして、あの惨劇が終息した当時に艤装を展開できなかったからだ。

 その頃に担当したカウンセラーの話では、戦闘で受けた外的心傷(トラウマ)によって艤装を格納する領域にダメージがあり、展開できない可能性があると言う。

 元来、艦娘は軍艦だった記憶、乗艦していた英霊の情念の集積体が受肉した存在と言われている。それ故に人間よりも精神に依存する傾向があるのではと、一部の学者は仮説を提唱している程だ。

 

 それでも、田中 梨絵としての身分に逃げた自分は、艦娘の秋雲としての自分に戻る選択をした。

 

 

「分かりました。……加賀さん?」

 

「承知しています。十年以上ぶりに現場を経験する秋雲さんは練度に不安があります。ここから先は秋雲さんの防護に全力を尽くしましょう」

 

 赤城だけでなく加賀も分かっていた。田中 梨絵として平穏に暮らしていた秋雲を焚き付け、艦娘としての戦いの場に引き摺り戻した要因の一つは自分達にある。であるなら、少なくともこの状況下で秋雲の安全確保を最優先に行動する義務がある筈だ。

 

 夕雲達も同様だった。明朝に自宅を訪れ、話していくうちに秋雲の心を揺さぶった。その責任から逃れる気は最初からなかった。

 

 

「……ありがとう。赤城さん、加賀さん」

 

「呼び捨てで構いませんよ。昔みたいに呼んでくれれば」

 

 「それで良いわよね、加賀さん?」と言う問いに加賀はただ頷くことで答えた。

 

 

「話は纏まったわね? それじゃあ行きましょうか。侵攻中の敵水上打撃部隊と交戦してる部隊を援護しなきゃいけないし」

 

「薩摩さん。アタシはちょっと抜けさせてもらいます」

 

 長波が唐突に言い出した。それを聞いて秋雲は仰天する。

 

 

「ここで抜けるの!? まさか単艦じゃないよね」

 

「それについては大丈夫、風雲を連れていくから。秋雲を護衛するなら、潜水艦に横槍入れられないよう警戒しないといけないから、風雲と二人で網を張らないとな」

 

「……許可するわ。但し、敵潜を発見したら連絡して」

 

 薩摩の許諾を得て長波が、風雲に声を掛けて集団から離れていった。その背中を秋雲は不安げに見詰める。

 

 

「心配しなくても平気よ。あの娘達は既に十年以上も現役として活躍してる。群狼戦術が相手でもない限りは滅多なことは起きないわ」

 

 「行きましょう」と残った面々を促し、艦隊は動き始める。

 秋雲は気持ちを切り替えた。今は二人を信じるしかない。こうして艦娘としての自分を取り戻した以上、やるべき事に専念する。

 

 

「この佐世保の海で、2度も悲劇は繰り返させない」

 

 決意を言葉にし、艤装の機関を強く唸らせて少女は駆けていった。




実は今回、一万文字近い文字数だったりします。思ったより長くなってしまったorz

次回からはようやく本格的な戦闘に入ります。ドラマ書いてるよりそっちを描写する方が得意なんですよね(実は怪獣同士のバトルも得意だけど)

~次回予告~

目の前に迫った脅威を前に何も出来ず、親友に決断を強いたことを後悔した佳奈。それを境にして彼女は自らも非日常へと踏み込んでいく。

一方で本土より南西では、佐世保の最強戦力もまた親友を守れなかったことで苦しみながら拳を振るい戦っていた。

第7話 十傑第1位

オリキャラでタイタニック(WW1)を出したいけど出したいけどどうしよう?

  • 良いんじゃない?
  • ふっざけるな!
  • 追加でブリタニック(姉妹船)もオナシャス
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