デュノア社の秘蔵っ子! 作:emp.
目の前のシャワールームから聞こえてくるシャワー音。ボディソープの詰め替えパックを持つ手に汗がにじむ。
俺の左胸の中で、激しく暴れまわる心臓。どう、どう。たしかに今からやることは女子の全裸を見る行為だが、恐れることなかれ。今日のこのイベントまでにフラグは立ててきたし、向こうからの好感度は高いはず。警察に突き出されることはない。
それに、今からのイベントはシャルロットルート攻略には必須イベ。怖気付いてやめてしまうことは許されないのである。
今、シャワールームの前に立っている俺は俗に言う転生者である。いわゆる原作知識を含め、前世の記憶は残っている。だからここまで来るのに苦労することはほとんどなかったし、数多くの原作登場人物と信頼関係を築いてきた。主人公の織斑一夏や、IS——インフィニット・ストラトス——の開発者である篠ノ之束。おかげで女性にしか扱えないパワードスーツであるISを俺も一夏みたいに男なのに動かせる。
が、未だに彼女はいない。去年あたり、彼女いない歴が前世あわせて40年を越してしまった。だが別に気にしてなどいない。なぜならば、狙っている子がいるからだ。それも前世から。
それが今、このシャワールームの中にいるシャルロット・デュノアである。彼女と俺は今、同じ寮部屋で生活している。
なぜに異性同士が、と思うかもしれない。実はシャルロット・デュノア、女子でありながら男装をしてシャルル・デュノアという男子として入学しているのだ。もともと中性的な顔立ちの彼女は男装も似合う。美少年というやつだ。
シャル(シャルロットの原作での愛称)の父親はデュノア社というIS企業の社長なのだが、どうも最近業績不振らしい。それでシャルをここIS学園に送り込み、男性操縦者のデータを盗ませようという算段だったはず。非道な親だとか、IS学園の管理体制はどうなっているだとか、前世においていろいろな批判があった気がするが今となってはどうでもいい。肝心なのはシャルと今、同じ部屋にいるということ。
シャルはうまく騙せていると思っているらしいが、残念ながら俺は転生者。原作登場人物の目をごまかせても、俺の目は見逃さない。
今から起きるイベントは原作において一夏も起こしたイベント。こっちは向こうが男だと思っているから、躊躇なく切れているボディソープの詰め替えパックをシャワールームまで持ち込むのだ。そしてラッキースケベと真実の両方を手にするわけである。
ああ、この日をどれだけ楽しみにしていたことか。原作ヒロインの中でシャルが一番好きだったから、篠ノ之箒や凰鈴音、セシリア・オルコットなどは好感度を上げすぎないよう注意したものだ。
俺は転生者、この世界には本来存在しないもの。ゆえに、俺の存在がどこかに歪みを生じている可能性がある。だからこそ、今まではあまり目立たないようにしてきた。いや、もちろん男性操縦者なんて目立たないわけはないのだが、要は必要以上に活躍したりしなかったということである。セシリアとの決闘では無様にならない程度に負けたし、一夏には向こうがヘマするから勝手に勝ったし、クラス代表は一夏に譲ったし、無人機が襲来してきた時は一応の専用機持ちということで生徒の避難・誘導に励んだ。むやみやたらに前世知識で優秀な成績をとったりせず、ISを動かせること以外はごく普通の男子として振舞ってきたのだ。全てはシャルと付き合って甘い生活を送るために。
そしてゴールは近い。あとはこのシャワールームのドアを開けて、シャルの真実を知った風を装い、原作一夏みたいに退学・投獄を恐れるシャルを励まし、時期になるまで彼女と二人だけの秘密を共有するだけである。しかも裸を見れるというラッキースケベ付き。なんて出血大サービスなのだろう。これは俺も鼻血の出血大サービスでお返しするしかないな。
……ふぅ。少しは落ち着いた。いくら原作があるといえど、やはり緊張はする。これで物語が一気に加速するのだ。
軽く咳払いをし、喉の調子を整える。そしてドアをノック。
「シャルル? ボディソープ、切れてるだろ? 替えを持ってきたぞ」
返事を待たず、ドアを開ける。むわっ、と湯気が洗面所に溢れ出す。
「あっ、ありがとう! さすがカノ、気がきくね!」
「どういたしまし……えっ?」
シャルの返答。よくよく考えて見ると、不自然じゃないか? だって男子にシャワーシーンを覗かれたんだぞ? 悲鳴あげるとか、恥ずかしがるとか、そういう態度は……?
湯気が晴れ、シャワールームの中がはっきりとしてくる。中には金髪の、中性的な可愛らしい顔の人物。その人は笑顔で俺からボディソープを受け取る。隠そうともしない薄く平たい胸は、細身の男子のそれである。そして視線を下にずらすと……な、なぜだ。
視界がぐらつく。白い天井だ。頭が真っ白になり、同時に背中と床が激突する。
「なんでついてるの——」
「ちょ、カノ!? た、倒れて……カノぉ!?」
プツリと何かが途切れた。
勢い。