実は今から三年前、私が中学三年の出来事のこと、中学最後ということもあり皆それぞれ自分が行きたい進路について悩んでいる時期のことだった。私は当然地元ではなく市内の高校を受けたかったから市内のそれほど平均値が高くもなければ低くもない普通の学校を選んだ。だけどそこは調理科があったので料理が好きだった私にとってはうってつけのところだった。中学の成績もそこそこ悪くはなかったし、今からまた一生懸命勉強すれば受かる自信もあったので、放課後図書室に残って勉強したり、夜遅くまで勉強したりした。だけどその目標はあいつのせいで全部台無しになってしまうのである。
それはもう春も終わりかけの五月頃だった。朝礼が終わり、全員が席に着くと同時に先生からクラス全員分にある紙を配った。それは進路についての紙だった。それぞれ一から三までの番号があり、自分がどこへ行きたいかを記す紙だった。だけどそれには保護者のサインも必要だったので、保護者にもみせないといけないものだった。このときはまだ親もわかってくれると信じていたが、それが大きな間違いだった。家に帰り、早速今日配られた進路の紙に自分の行きたい一番の高校生をボールペンで丁寧に記し、自分の名前もそれに続いて記した。あとは保護者の名前をもらうだけだったので、紙をもって母親に手渡した。進路の紙を手渡された母は私の紙をじっくりとみつめ、それから言葉をにごしたように私の顔をみつめ思いもよらない言葉を投げつけた。
「ねぇ、地元の高校じゃダメ?」
と言った。私は一瞬何を言われたのか信じられなかった。きっと
「もし受けたいならちゃんと勉強もしないとダメだよ」とか「別にいいんじゃないの」という答えを期待していたのでそういう風に言われるとは思わなかったから。私は頭を整理し、
「どうして?」
と尋ね、少し息を吸い込み、
「私、どうしても市内のここの学校に行きたいの。ここが県内で唯一の調理科があるところだし、もし調理の勉強をするならうってつけのところだから。だからお願い、行かせてよ。」
と自分の想いを話した。自分で自分のことを話すのは苦手だったが、精一杯伝えたつもりだった。だが母は顔をしかめながら、
「お願いよ。地元にしてちょうだい。先生からお電話であなたの進路についての話も聞かせてもらったけど、あなたは地元の方が似合っているって。それに来年は楓が大学受験をする番だからお金もかかってるのよ。だから、ね?わかってちょうだい。」
と言った。私はその言葉を聞いて呆然としてしまった。なんでそんなこというの?私のことわかってくれないわけ?それに私よりお姉ちゃんのほうを優先するわけ?言いたいことは山ほどあった。ちなみに楓というなは私の二番目の姉だ。私より一つ年上で勉強はそこそこだったがとても明るい性格でいつも友達に囲まれていた。だけどその一方で友達の色々な面もみていてそれを私に悪口としてであったが、私は他人の悪口はあまり好かないのでそういう話をされることは正直いえばすごく迷惑だった。多分姉はたくさんの友達がいても、自分の本当のことを話すことができない臆病な性格なんじゃないかと思った。そんな姉にいらつきながらも、私は姉の話に耳を傾けることをやめれなかった。
だけど進路になるともっと話は別だ。そもそもそんな理由で高校をあきらめろといわれるのは納得がいかない。普段はあまり反発しない私ではあったが、このときはさすがに母に対しなぜ自分そこへ行きたいかや、そこに行くまでの費やす勉強時間などを説明しながら話した話した。けれど結局は分かってもらえず、私は地元の高校に行き、姉の行く高校を優先させることになった。行くのをあきらめたのは考えが少し変わって、もう少しここでがんばってやろうという思いだった。このことについて後日友達に話をすると、
「あきらめるの早すぎるよ~。」
と笑われてしまった。そりゃそうだろうな、自分が行きたかったのに結局ダメにしとしまったのだから。だが私は相手の言葉に反論できずどうしても押し負けしてしまうところがあるので、なおさら悪かった。こんな自分にイライラしてしまうけれど、今の私には姉や母のことを考えるとどうしても自分の進路のことなど到底話すことなんてできなかった。もう自分の行きたいとこは決まったも同然だったのに、なぜか私の心の中にはモヤモヤと霧がかって晴れなかった。そして地元の高校を受験し、合格して晴れてなんの障害もなく進学をすることはできたが、自分の心の中ではあられもない「行きたかった」という思いが強くて、結局後々「あの時もう少し母を説得できれば」という後悔だけが残った。私は自分の意志が弱かったのだ。だが自分を責める一方で、親にも真剣に話を聞いてほしかった。姉のことだけじゃなくて、私の話も…。結局、あの時私は親に自分の意見を聞いてほしかっただけかもしれない。モヤモヤと霧が私の心をくもらせる。まるで自分が閉じ込められたようなそんな気持ちがした。