しばらくして汽車は××駅に到着した。日曜日ということで朝からはあまり人が多くなかった。私と天使は汽車を降り改札口をでて××駅から町へ向かった。私は天使に
「町へ着いたらまずどこに行きたい?」
と聞くと天使は
「じゃあ本屋さんに行きたいな。君が本を読んでいるところをみて書物に興味がわいてきたしね。」
とワクワクしながらいった。私は天使も本に興味がでてきたのをみて少し嬉しくなった。これを機に天使も本を好きになってくれるといいな。私と天使は本屋「新月堂」へ向かった。
私のお気に入りの本屋である「新月堂」は駅から歩いて行けば30分ぐらいかかる。駅から歩いて行くならばまず大通りにでると交差点が狭い道があるのでそこをしばらく歩き右に曲がりまたまっすぐに歩くとグループホーム「ひまわり」という木造で造られた建物がみえてくるのでその建物の手前にその「新月堂」はある。そこの本屋は他の本屋とは少し変わっており、店主は代々女性という決まりでできていた。理由は分からないが、なぜかそういう決まりになっている。またその店主はすごく美人なので店主目当てで本屋に来る客もいるとか。その度に私はとても嫌な気分になるのです。ああ、男というのは。だがその本屋は店主だけでなく、本の品揃えもよく、絶版でも売っていないだろうという本も売っていた。だが絶版になった本はとても価値がいいので値段は少し高めなのだが。だけど少しの間だけでもいいのでいつか手にとって読んでみたいなぁ。と心の中で思った。私と天使は「新月堂」に着くまで他愛のない話で盛り上がりながら歩いた。天使が住んでいる世界のことや、私の家族の話や、今熱中ししていること、死ぬまでに何をしたいかなどを話した。私が死ぬまでに
「なんでもいいから小説を書きたい。」と言うと
「毒のある小説をかきなよ。そしたら皆が君に注目するさ。」
と言って私を笑わかしてくれた。天使にはユーモアのセンスがあるかもしれないと思った。
私と天使はしばらく歩くと「新月堂」に到着した。「新月堂」は洋風なレンガ造りの建物でできており、まさに童話「ヘンゼルとグレーテル」にでてきそうな感じの建物だった。ドアの右隣には看板が建てられており、今日は珍しくセールをするそうだ。
「本日限りだって。どうするの?」
と天使に聞かれ、私は少し間を開け
「いい本が見つかったら買っちゃおうかな。」
と言いながらドアの取手を掴みゆっくり右に回して入った。天使もそれにつづくようにあとから入った。店内には数人ぐらいの客がいた。「新月堂」の店内中は少しおしゃれな感じでできている。インテリアの窓は二羽の鳥が交互に羽ばたいているのが描かれているステンドグラスで、本棚の上には木製の小さな木馬や船の模型などが置かれていた。本当に落ち着く雰囲気のあるみせだな、と思った。そして店内で買う本を決めるべく色々立ち読みして決めることにした。まずは小説や雑誌などが置かれている本棚をみることにした。ジャンルはさまざまで、その中で私の好きなミステリー小説を読むことにした。少しだけ目をとおしながらみているとずっと気になっていた小説が置いてあったので思わず手にとってみた。題名は「夜の眠り姫」というもので、ある貧しい夫婦とその夫婦の娘が美しい月の夜に何者かに殺され、夫婦が娘を殺した犯人に復讐をするという話だ。この小説は随分昔に直木賞候補にも選ばれていた。斬新な表現と当時では珍しい比喩の書き方をしたのが評価の一つだった。しかもこの作者は物心ついた頃から自分で話を作るのが好きで暇さえあれば物語を書いていた、というので驚きだ。多分この人は元々才能がある人なんだなぁと思った。
そしてその本をしばらく立ち読みしてから私は本をカウンターに持っていき購入した。カウンターでは黒髪のおさげ姿の女の人がなにやら恋愛小説を読みながら座っていた。この女性こそがこの主であり店長である。パッチリとした二重の目とモデル並みのスラッとしたスタイルはどこか別の世界の住人に思えて仕方がなかった。この店長、これは悪魔で噂なのだが昔都会でモデルの仕事をやっていたとか。でも理由はよく分からないがある日突然辞めてこの「新月堂」を新しく継ぐことにしたとか。つくづくこの店長は謎が多い人物である。実は店長の経歴などを知る者は少なく、私がたまに尋ねても「さぁて、おぼえてないな。」と話をはぐらかせてしまい、結局分からずじまいになっている。何か言いたくない理由でもあるのだろうか。私は本をカウンターの机の上に置き、
「すみません、お願いします。」
と店長に言った。すると店長は先ほど読んでいた本から顔を上げ、本の裏表紙のバーコードを読みとった。少々めんどくさそうな顔だったが。
「250円です。」
と気だるそうに言い本を丁寧に紙袋の中にいれ始めた。私も財布の中から小銭をとりだし相手に手渡した。店長は小銭をとったあとすばやくレジを打ち私にレシートを渡した。そして
「ありがとうございました。」
と言った後またすぐに本の続きを読み始めた。その目はもう本に集中している目だった。私が本を購入した後本棚の方に戻っていくと天使もまた本棚かりなにかを抜きとって読んでいた。私は周囲に聞こえないか辺りを伺ってから
「なにを読んでいるの?」
と天使に尋ねた。すると天使は
「人魚姫っていう本を読んでいたんだよ。」
と言った。
「人魚姫かぁ。内容は悲しかったけど小さい頃はよく読んだなぁ。」
「うん、少し読んだけど確かに悲しい物語ではあるよね。王子様に恋した人魚が王子様のそばにいたくてわざわざ人間になるために海の魔女に自分の声と引き換えになったのに結局実るわけもなくて海の泡となって消えてしまう。なんか人魚を命の恩人だとわからなかった王子も鈍感だけど泡になってしまった人魚もかわいそうだよ。」
と話し切なそうに眉をひそめた。私はそれをみた時天使でもこんな表情するんだなあ、と思った。その顔を多分私は一生忘れないだろう。