翼のない天使   作:クッキーガール

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苦悩と後悔

 しばらくしてあの子はページをめくる手をパタンと静かに小説を閉じた。そしてそれをまた机の中にしまいこみ自分の席を立ち、静かに教室から足早にでていった。私はその時あの子が教室をでていく際あの子の瞼から一筋のしずくが流れていくのを見逃さなかった。私はあの子の後ろ姿をただ見送ることしかできなかったけど、あの時追いかけていたら何か変わっていただろうか。と他人事のように思い浮かべた。数分後チャイムが鳴り、授業の始まりを告げる音と同時に、友達と会話していた子や席の近くでこっそりゲームをしていた子もバタバタと音を立てながら席に座った。ただあの子を除いて。私は心配になり先生に言って探してこようと思ったが、どこか頭の中でどうでもいいだろう。とささやく声がした。ああ、私ってこんなに冷たかったっけ。とどうこう考えていると授業が始まってしまった。私は授業が始まってもなかなか切りだせないでいた。でも私とあの子は元々そんなに大して仲良くなんかなかったし、あの子も仲良くする友達を一人も作らずずっと本ばかり読んでいたから、何を考えているのか分からなかったし、正直心の中ではどこかどうでもいいと考えていた。やっぱり私にとってあの子はどうでもいい存在なんだ、と感じた。自分の中でこの結論がでてしまった以上結局あの子を探しに行くのをやめてしまった。いや、正しくはやめたと言ったほうが正しいのだろう。結局その子は授業中でも戻ってくる気配はなかった。確か授業が始まる前にあの子がいないことに先生が気付いて

「おい、○○はどうした?」

って誰かに聞いていたけどあの子の小説に落書きをした男子が

「あいつ二時間目辺りからすごい気分悪そうだったので保健室に行きましたよ。」

とわざとらしそうに言っていた。先生は

「そうか、珍しいな。」

とか言っていたけど本当は嘘。あの男子授業中になるとすぐ近くの男子とくすくすあの子の机のほうに指で指しながら笑っていたもの。きっとあの子の小説におもしろおかしく傷つくようなことを書いたんだな、と感じた。周りのクラスの子達は特に気にすることなく黙々とノートに黒板に書かれている文字を書いていた。周りの子も私と同様きっとあの子のことはどうでもいいんだろう、とか思っているんだろうな。でもどこか心の中ではあの子のことを心配している自分もいた。結局のところ、一体どっちが本当の私なんだろう。授業が終わり、しばらくしてあの子が教室に戻ってきた。やっと帰ってきたのかと思い、チラリとあの子の方に向くと少しギョッとした。なぜなら目が充血しているみたいに赤かったから。なんとなくきっと泣いていたんだな、と直感した。あの子は少しうつむき加減にてくてくと自分の席のほうに向かっていくと少し離れた前から右横の席に座っていた男子が

「なんだよ~、もう戻ってきたのかよ。」

と大声で聞こえるように言った。少ししてピタリ、とその子が自分の席の前で立ち止まり、うつむき加減の顔をゆっくり上げ、ギロリと赤くなっている目で男子のほうににらみつけた。男子も少し眉をひそめ、

「なんだよ、何を睨んでるんだよ。」

といいその子の顔を真正面にみながら言った。少しの間何もしゃべろうとしないあの子だったが、やがて

「最低」

とつぶやき自分の席に座った。そして何事もなかったように新しい小説なのだろうか、それをパラパラと読み始めた。少しあっけなかったのか男子はポカンと口をあけたが、やがて

「ハァ?なんだそれ、マジわけわかんね~。」

と他の男子とバカにするかのようにゲラゲラ笑い始めた。様子を少しだけみていた私も終始ポカン、となってしまったあの男子に傷つけられるようなことをされたにもかかわらず、あの子はあの一言だけで何もいわなかったのだから。それは本人に対する怒りもあったのだけれど、今思い返せば本当におとなしい子だったからああいう事しか言えなかったのかもしれない。私は少しだけあの子に対して同情したけど、あの子の気持ちだけはあまり理解することができなかった。やっぱり私って冷たい人間なのかな。

 

 数日、男子があの子に対する嫌がらせは何回も続いた。あの子が気に入っている小説に落書きをするだけでなく、ページを破いたりあの子の体操着や昼ごはんに絵の具を混ぜたり次第にエスカレートしていった。しかも他のクラスの皆も男子と一緒にその子に嫌がらせをするようになってきたからとても質が悪い状況にまでなってきた。その子に対する嫌がらせを見かねて一部の子が

「ねぇ、もうやめなよ。」

と言ったが、誰も聞こうとしないのでその子もよくないって思ってた子も次第に何も言わなくなった。まるで何事もなかったかのように。私もその子に対してただ様子をみるだけだったから、多分クラスの皆と同じ同類なのかもしれない。そして数ヶ月たったある日のこと、その子は学校に来なくなってしまった。先生は私達に、「○○はな、ちょっと病気でしばらく来れないそうだ。」

とか言っていたけど、私はなんとなくあの日以来あの子がすごく悲しんでいるようにみえた。きっかけはほんの些細な出来事で、それがまるで増殖のように広がっていって最終的にはもう取り返しのつかないことになってしまった。

 

もし私が、あの子が、誰かがあの子に話しかけていたら、あの子は救われただろうか。そんなこと誰にも分かるわけない。けどその一筋の光を私達の誰も照らしだそうとはしなかった。結局誰もかれもが味方してくれるわけじゃない。世の中なんてそんなものだ。例え誰かがその人の味方になったとしても、その人も浮かばれるとは思うけど、それだけではいけないようか気がした。皆が皆優しいのではないのだから。

 

 しばらくして何ヵ月かたったある長期の休みのこと、その子はどこか別のとこへ引っ越したといううわさを耳にした。別に驚きはしなかった。私も皆と同じように

「へ~、そうなんだ。」

というどうでもいい感じで終わった。皆の態度をみて担任の教師は怒っているようだったので授業が終わったあと急遽いじめについての簡単なアンケートが行われた。皆面白半分に書きながら真面目に書いていたが正直どうでもよさそうな雰囲気だった。私も当たり前のように正しいことを書いて提出した。そしてそのアンケートを読んだ中で何故か私といじめの主犯である男子が呼ばれた。私は内心「めんどくさい」と思いながら職員室へと向かった。正直呼び出しをくらったのは意外だった。教師は私達の顔を一人ずつ怒った表情で見回し、「誠実がこもってない」だの「本当にそう思っているのか」など説教をし始めた。とりあえず教師は何がいけないのかを私達に根本的に言いたいらしい。誰かのお説教をくらうなんて、体育で体を動かすより精神的に辛かった。教師の話がだんだん佳境になるにつれ、私はあくびをかみしめながら必死で耳を傾けた。隣の男子も真剣な顔で聞いていたが、とても眠たそうな顔だった。結局この子も、あまり反省していなうな、と思った。そしてようやく話が終わりホッとしかけたとこてま担任の先生は私達の顔を見比べ、

「お前達はあまり真面目になったことはないだろう。正直にいうが、この文章からは誠実さが全く感じられないぞ。」

と眉をひそめながら言った。その顔からは私達に対する怒りのようなものが感じとられた。けれど私にとって何が正解で何が不正解なんて分からなかった。だからさっきの話も何がよくていけないのか曖昧な表現にしか聞こえなかった。私にとってあまり自分に関係のない話はそこら辺に散らばっているゴミと同じような感覚でしかないのだ、と思うから。正直この話をされたときから、私の頭の中はどこかへ現実逃避をしていた。他人の気持ちなんてずさんな性格の私にとってはどうでもいいに等しい存在だった。

 

 自分のことは自分だから分かるのに、他人の事になると無関心になるのが私のいけないとこなのかもしれないけど、人に何をしかられようが言われようが、正直私にとってはどうでもいいことだった。先生が私をみる眼差しはきつく、少し軽蔑するような視線が私にとって歯がゆくて、それで痛かった。痛みなんて、とっくの昔のどこかに置き忘れたのに、それがまたぶりかえしそうで嫌だった。

 

「あの子どうしているかな。」

とふと思い、何もない空を見上げる。

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