此処は小さな事務机と付属の椅子しかない真っ白い部屋。
目の前には水色の長い髪と透き通った水色の瞳、整った顔立ちの少女がいる。
少女は静かに口を開くと、
「ようこそ死後の世界へ。」
と厳かに告げた。
言われた内容については別にいい。だか、この少女は自分の正体に気付いてないのか!?という考えが脳裏を埋め尽くす。彼はこの場に来る前のことを思い返していた。
全て白く染まった世界。
物や部屋といった一部分の話ではなく、空や大地、もしかしたら空間までもが白いのかもしれない。
そんな世界に置かれた五脚の椅子。そこには三人の人物が座っていた。
「暇じゃのう…暇じゃ…」
と呟くのは褐色の肌に相反するような輝く金髪、真っ赤に染まった瞳を持つ背の小さい少女。
その近くには我関せずというかのように書類仕事を進める一人の青年。
その場にいる最後の一人である青年は椅子に膝を抱えて座りながら翠の瞳でどこか遠くを見つめていた。
その三人は皆、人外とも呼べる言葉では表せないような美しい顔立ちだ。
また、この三人、この場にいない二人もそうだが皆、世界を司る神であった。
褐色の少女は『命』を、膝を抱えている青年は『死』を、書類を進める青年は『理』を。他の二人もそれぞれ世界に欠かせないものを司っている主神である。
しばらくそのまま静かに時は進んでいたが、ついに耐えきれなくなったのか褐色の少女が大きな声を上げ立ち上がる。
「『理』!お主、異世界に行かんか?!」
『理』と呼ばれた青年は間髪入れずそれを断った。
「嫌だ。何故行かなかければならん。『命』が行けばいいであろう。」
断った理由は簡単だ。他の四人が書類仕事をしないので書類が溜まっているというのもあるが、この少女に見える人物が持って来た話は、大抵碌なことがないからだ。
少女はジト目で青年を睨む。
しばらくの間『理』が書類をめくる音だけが響いていたが、唐突に『命』はその場にいるもう一人の青年に向かい叫んだ。
「『死』よ、『理』を捕まえろ!」
遠くを眺めていた青年、『死』はその言葉が耳に届いた刹那、機敏な動きで『理』の事を拘束した。
「ごめんね…?姉さんが言っているから…」
当然、青年は暴れたが力では『死』にかなわない。
『命』が両手に青い輝きを貯めていく。
『理』は叫ぶ。
「せめて何故私が異世界に行かなくてはならないのか説明せよ!」
それに対し少女は静かに理由を告げた。
「異世界にはお主の管轄である地球の者を、魔王を倒すという条件で送っているじゃろ?しかし、チートを与えているにも関わらずあやつ達は未だに魔王を倒せておらん。ならばもう、責任者が行くしかないではないか。」
地球の者をを異世界に転生させているのは『命』を司っている少女だ。それを言われると弱い。
「わかったならもういいかのう。」
少女は『理』に向かい青い魔術の光を浴びせかける。
光に包まれ意識が遠のく彼に告げられたのは、
「お主の能力は強大だからな。弱体化をかけておくぞ。」
それを送られる間際に聞いた青年は思わず、
「ふざけるなよ?!」
と口調が崩れ本音が漏れたが、それが少女に届いたのかは分からなかった。
そんなこんなで彼は今、水色の髪をした少女と対面しているのだが。
いくら弱体化させられたとはいえ、彼は神である。それも主神だ。見た目は変わっていないので普通、直属ではないとはいえ部下である女神アクアは気付くはずなのだ。
しかし目の前の女神は気付いた様子もなく、転生についての説明をしている。この女神の直属の上司が自由奔放な『命』であるとはいえ此れはまずいだろう。異世界に渡った際の報告書にはこの事を書いてこうと決意する。
「あなたは天国に行くのと異世界に渡る事、どちらを望みますか?」
女神アクアが鈴の鳴るような声で言葉を紡ぐ。もちろん彼は
「異世界だな。」
と告げた。
「即答?!…まあいいわ、この中から異世界に渡る際のチートを渡す事が出来ます。選んでください。」
彼は考える。正直な話、ここでもらえるチートよりも彼の固有能力の方がよっぽど強い。
だから彼はチートはいらないが初期装備にある程度の硬貨を入れて欲しい、という内容を女神に伝えた。
チートを断った人間はいないらしく驚かれたが、硬貨の件については了承されたので良しとしよう。
手続きが終わったのか女神が告げる。
「さぁ、勇者よ!願わくば、数多の勇者候補達の中から、あなたが魔王を打ち倒す事を祈っています。……さあ、旅立ちなさい!」
厳かに女神の声が響く中、彼は眩く輝く白い光に包まれた。
瞼越しに暖かい光を浴び目を開ける。
目の前には《駆け出しの街、アクセル》、と書かれた標識が立っている。彼はその光景に違和感を感じた。この世界に来る前、彼は25歳ほどの青年の姿になっていた。
だがしかし、それでは有り得ないくらいに視界が低い。都合良く近くには池があったため覗き込む。
そこには12歳ほどの少年が立っていた。目を擦る。変わらない。何度見て見てもそこには少年が映っている。『命』が言っていた弱体化とは此れのことか、と思わず両手を地面につき項垂れた。絶望に沈みながらも彼は自分の装備を確認した。
自分の使っていた愛杖やローブは消えているがアンクレットやネックレスなどの細かな装飾品は残っている。だがやはり能力は制限されているようだ。
女神アクアに頼んだ硬貨は持っていたウエストポーチに入っていたがその額がおかしい。女神アクアは知力が低いのか普通に考えて有り得ないであろう量が入っていた。一万エリス硬貨が百枚、百万エリスである。お金はあるに越したことはないのだが。
そういえば自分の部下は異世界で硬貨の名前に使われているらしい。それはいいことなのだか、女神アクアの方が先輩なはずだ。やはり彼女は何処かおかしいのだろう。
良かった点と悪かった点を考えて見たら、明らかに悪い点の方が多い。もう泣きそうだ。
神だから泣かないけど!
彼は冒険者ギルドに行くため、白いローブを翻して歩き出した。
アクセルの街は駆け出し冒険者の街だからか予想よりも大きかった。水の都アルカディアほどではないが街中には水路が縦横無尽に流れていて、水浴びや釣りをしている人たちがいて微笑ましい。
王都のように都会でないからか農家なども多く、酪農をしている家も見る事ができた。
少し迷いながらも冒険者ギルドに辿り着いた彼は大きな木の扉を押し開けた。
冒険者ギルドは役場のような機能をしている所と酒場が一緒になっているようだ。
カウンターに向かい冒険者登録をしてもらおうとしたのだが…
「えっと、その、貴方の年齢では冒険者は…」
お姉さんに止められた。
「年齢は大丈夫だ。魔力には自信がある。」
「で、でも…」
「大丈夫だ!!」
「そこまでいうのであれば…無茶はしないでくださいね。」
ようやくか、と安堵で胸をなでおろした。いくら見た目が幼児化していたとしてもなぁ、と思う。周りには屈強な見た目の人が多いから目立っていたので早く手続きをしてもらいたい。
「では、こちらのカードに触れていただけますか?…ありがとうございます。ユーリさんですね。え?十八歳?その見た目で?能力は、筋力が少し低いですけど…知力と魔力がずば抜けて高いですよ?!今日も高いですし…え?!幸運がすごく低いですけど…計測不能っておかしいですよ?!」
幸運が低いのは知っている。毎回貧乏くじを引かされて、いろんな事の尻拭いをさせらてるし…
「この運の低さで冒険者は無謀だと思うんですけど…本当に冒険者になりますか?…その様子だと諦める気はなさそうですよね。職業は如何されますか?筋力が低いので戦士職は無理ですけど、魔法職やプリーストの上級職にはつけますよ?」
「アークウィザードでお願いする。」
「わかりました。説明はお聞きになりますか?」
自慢ではないが、この世界のルールを決めたのは『理』の神である自分だ。冒険者のルールくらい覚えている。聞く必要はないだろう。
「では登録料千エリスを頂きます。…はい、確かに。それでは良い冒険者ライフを!」
冒険者カードを受け取り、クエスト掲示板を見に行く。後ろのテーブルでは誰かが登録料を払えず困っているようだ。そんなことを考えていたら絡まれた。
「汝はアクシズ教の信者ですか?信者ならばお金を貸していただきたいです!」
思わずこけそうになった。目の前には水色の髪の少女がいる。言わずもがな女神アクアだろう。なぜ女神が此処にいるかはわからないが、と考えて自分はアクアのことを言えないなぁ、と思う。それにしてもやはりこの女神は大丈夫だろうか。自分よりも上の神に自分の信者か聞くなんて。
まあ彼女のおかげで懐は潤っている。登録料くらいいだろう。
「私はアクシズ教の信者ではないが…まあどうぞ。」
言い訳としては、この間自分も助けてもらい、冒険者は持ちつ持たれつだ、と言われたということで如何だろうか。
「ほら見た?カズマ!あの女の子アクシズ教徒じゃなくてもお金くれたわよ!しかも一万エリスも!」
「いや、確実に哀れに思っただけだろ…」
そんな会話をしていたが、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。
間違っても自分は少女ではない。
どんな理由があるのかはわからないが女神が簡単に下界に降りて良いわけではない。増してやお金をせびるなど…。それに女神アクアはそのあまりのアホさ加減と、仕事に対するやる気のなさで地味に問題だった。これは観察したほうがいいかもしれない。
初めまして!俺は日本人の佐藤和真!女の子を助けようとして華々しく死んだ高校生だ!
そんな俺の前に女神が現れて?!俺は女神と一緒に異世界に?!
同じ境遇のはずの女神は人の死因をバカにしてきてもう大変!
でもきっと俺にはチート能力が備わっているから!
…なんて思っていた時期が俺にもありました。
まず冒険者登録をするための金がない。
そんな話をしていたらアクアが銀髪の子に絡みに行った。
その子は青と紫の透き通るようなオッドアイの瞳にサラサラの背中の真ん中位の眩く輝いた銀髪、真っ白い肌、華奢な体の絶世の美少女だった。日本で見た芸能人とかアクアは比べ物にならないくらい。白いローブを羽織っている。チェーンのヘッドドレスとお揃いのブレスレットやネックレス、アンクレットにイヤリングを身につけていて、動くたびにシャラシャラと鳴る音が少女の可憐さを強調していた。喋り方は仰々しいがそれもギャップで可愛い。
そんなことを思っていたらアクアがお金を貰えたらしくこっちに話しかけてきた。
「ほら見た?カズマ!あの少女アクシズ教徒じゃなくてもお金くれたわよ!しかも一万エリスも!」
「いや、確実に哀れに思っただけだろ…」
女の子がこちらをじっと見ている。なんか気になることでもあったのか?
「あの、すまない。私も今冒険者になったばっかりなのだ。もし良ければ其方らのパーティに入れては貰えないか?それと私は少女と呼ばれる歳ではないし、女でもない。」
やっぱり声も綺麗だ。でも女ではない?は?!この見た目で!?
「え?!貴方、女の子じゃないの?!」
「やべぇ、この子なら普通に付き合える…」
「危ないわよ!クズマから離れなさい!」
アクアが何か言ってるが周りでも可愛い、とかこの子なら抱けるわ、とか嬢ちゃんじゃなくて坊主なのか?!って言われてるぞ。俺だけじゃない。
この駄女神と二人のパーティは不安だったからありがたいけど、
「君はそれでいいのか?コイツ、スッゲェアホだぞ?」
「私も初心者なのでな。アークウィザードだか筋力が低めなのでソロはどうか、と思っていたのだ。」
「ちょっとカズマ?私のことバカにしたでしょ!…まあいいわ、この子に免じて許してあげる。私はアクア、アクシズ教の女神よ!!」
公衆の面前で少女、いや少年に向かい女神とかほざいたアクアに生暖かい視線が向けられた。
多少のメアリー・スー展開は否めないかも?
初投稿なので暖かく広い心で見ていただけると嬉しいです。