謎の巨大空中戦艦の攻撃に危うく巻き込まれかけた後、響たち二課に戻り、八紘を問いただしていた。
翼「あの巨大な戦艦はいったいなんですか!?」
八紘「ヴィマーナだ。聖遺物をベースに、異端技術によって組み上げられた兵器」
空中戦艦―『ヴィマーナ』のことを語る。
クリス「知ってたのかよ!?」
八紘「ああ。あれはかつてF.I.S.が発見した物で、幾度となく起動実験を繰り返されてきた。しかし、結局起動には至らず、F.I.S.は起動計画を放棄した。それを、オズワルド率いるNEXTが継いで、研究をつづけていたものだ」
クリス「聖遺物を元にした巨大兵器…。チフォージュ・シャトーみたいなもんか」
翼「そのようだな」
ヴィマーナがかつてキャロル一派が用いた世界解剖のための兵器―『チフォージュ・シャトー』を思い出し、同様の物だと語るクリスと翼。
八紘「あれは起動すれば、シンフォギア・システムをも凌駕する、人類の切り札たり得る代物だった……」
響「でも。あんな…街ごと吹き飛ばす兵器なんて!」
翼「立花の言う通りです。避難が完了していなければ、どれほどの犠牲が出ていたか知れません」
クリス「ガウが助けに来なかったらアタシらも危なかったけどな」
ヴィマーナの放った閃光により吹き飛ばされた街とガウが助けに来なければ危うく巻き込まれかけたことを言う。
八紘「確かにあれは人間には強力すぎる力…劇薬に違いない。だが結果、黒いノイズの撃破に成功、オートマシンに対しても有効であると示された」
翼「ですが……」
反論したかったがこの世界の現状を思い起こして言葉を飲み込んだ。
八紘「私たちには、この手段しかなかったのだ……かつてF.I.S.の開発したシンフォギアは不完全な代物の上、唯一の適合者もノイズの前に敢え無く敗れた。怪獣などの巨大生物も存在しない。ノイズに対抗するには、我々は別つの力にすがるしかなかったのだ。例えそのために、1人の少女を犠牲にし、異星人の犯罪組織と手を組んでいても…」
響「少女って…まさかシャロンちゃん!?」
翼「なんだと!?」
クリス「どういうことだ……おい!!」
八紘の言葉に全員が驚く。
八紘「少女は、ヴィマーナを起動する鍵だと、オズワルドはそう言っていた。そしてヴィマーナを起動させるために資金提供と聖遺物の情報提供をしていたのがあのガスドリンカーズだそうだ」
響「それって、どういう……?」
シャロンが鍵で、ヴィマーナの起動のための資金援助や聖遺物の情報提供がガスドリンカーズだと聞かされて首を傾げる。
クリス「そうか、ヤントラ・サルヴァスパか!?」
八紘「その通りだ。あらゆる機械を制御しうる、ヤントラ・サルヴァスパ…その力を引き出して、ヴィマーナを操艦しているはずだ」
翼「ですが、そんなことをしたら……」
八紘「ああ…遠からず、あの少女は……」
響「そんな!?シャロンちゃんが……」
八紘「薬は発作を抑えるが、浸食そのものを止めるものではない……力を使えば使うほど、聖遺物は、彼女の人たる部分を浸食していくだろう」
クリス「黙ってやらせたっていうのか!?」
八紘「まさか、このような形で生み出そうとするとは、私も思っていなかった」
ガウ「ガルルルル…がうがう!!」
八紘たちの話を聞いてそれまで黙っていたガウが怒りを露にして鳴いてきた。
響「落ち着いて、ガウくん」
怒るガウを響は落ち着かせるために抱き抱えた。
八紘「その子が怒るのも当然だ。それはただの言い訳だな。この手を汚さなかったというだけに過ぎん」
翼「…………」
ガウが怒るのは当然だと八紘は理解して、翼もまたそれを理解していた。
いくらノイズやオートマシンに対抗できるからとシャロンを犠牲にしてまで力を使うことに、かつて同じ国が使用した『悪魔の光』(別名:人類の叡知の炎)に家族を奪われたガウだから怒るのだ。
八紘「あれがどれ程忌まわしい所業の産物だとしても、一瞬、この世界を照らす光明と思ってしまったのは事実だ」
クリス「なんだと?」
八紘「これまでノイズやオートマシンの前に、成す術もなく死を迎えた数多くの市民や局員の最後を思えば、な…これ以上の数多く犠牲と少女1人の命を天秤に掛ける…。二課を率いる者としては、その数の論理を否定はできぬ」
クリス「…!!」
多くの人命を失ったこの世界からすれば、ノイズの唯一の対抗できるヴィマーナは希望の光そのものである。
後々の人命とシャロンの命を天秤にかければどちらを優先するか…八紘は二課を率いる者として言うのだった。
八紘「オズワルドは言っていたよ。我々は同じ穴の狢だ、とな」
翼「そんな……」
クリス「くそったれが!!」
八紘の意に翼は言葉を失い、クリスは毒舌を吐いた。
響「シャロン……ちゃん………」
シャロンを助けられないと言う見解に響はショックを受けてしまう。
ガウ「がう……」
ショックを受ける響にガウは心配していたのだった。
クリス「…で。どうする?」
部屋に戻り、今後のことをクリスは聞いてきた。
響「どうするって……」
クリス「チビのことだよ。言っただろ?ここに連れ戻して、笑わせてやるって。まだそう思ってるのか?」
響の言っていたことを返すクリス。
響「私、は……私、やっぱり、シャロンちゃんを見捨てられないよ……」
翼「それは私も同じ想いだ。だが……」
クリス「だが?」
翼「あれはノイズやオートマシンへの対抗手段を持たない、この世界の唯一の希望…それを私たちが情にほだされ、奪ってもいいものなのか……?」
響「シャロン、ちゃん……」
響(私、どうしたら……)
シャロンを助けたい、だがシャロンはヴィマーナを起動させるための鍵であり、シャロンを助けるにはヴィマーナを止めねばならない。
しかしヴィマーナを止めればノイズへの対抗手段がないこの世界から唯一の対抗手段を奪うことになる。
響は心の中で葛藤する。
ガウ「………!、がうがう」
シャロンのノートをふいに手に取って開いたガウは何かを見つけて、響たちに差し出した。
響「これって…シャロンちゃんのノート……」
ガウからノートを受け取り、開く響。
【ヒビキおねえちゃん。クリスおねえちゃん】
【ツバサおねえちゃん。ガウくん。いつもありがと】
響「シャロンちゃん……」
【みんながよくしてくれて、ほんとうに、うれしいです】
クリス「あのチビ……」
【ずっと、ここにいたい】
【でも、たぶん、そろそろ、おわかれです】
翼「そこまで悟って……?」
ガウ「……がう」
響「……ッ!?」
【わたしはだいじょうぶです。へいき、へっちゃらだから】
響「…ッ!!」
シャロンの残した言葉が響の中にある何かを突き動かして決心させる。
響「こんなの…へいきなはずない!へいきでいいわけないよ!!」
苦しむことを承知でいたシャロンが本当は『へいき、へっちゃら』のハズがないと響は感じていう。
翼「……そうだな。あんないい子が、兵器の犠牲になどなっていいハズがない。そんなこと、許されるはずがない」
クリス「ああ、助けてやろうじゃねーか」
ガウ「がうがう」
シャロンの残した言葉は響だけでなく、翼にクリス、ガウにも同じ決心をさせた。
響「待ってて、シャロンちゃん。必ず、お姉ちゃんたちが助けに行くからね」
4人が決心したこと…それは例え、この世界から最後の希望を奪うことになるとしてもシャロンを…1人の少女を助け出すことだった。