お盆、特別編 見守っていて…
ゴジラ誕生の地にして、ガウの古里…太平洋マーシャル諸島のルオット島とクェゼリン島に挟まれた小さな島―『ラゴス島』。
現在、ラゴス島は…。
ゴジラ「ゴガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
ゴジラとなったガウが雑草(ラッキョウやタマネギのような蕾が本体で、先端に鉤爪が付いた5~6本の蔦状の触手が特徴の『怪草 マンダリン草』と『巨大植物 ジュラン』こと『怪奇植物 マンモスフラワー』と蔦状の吸血植物の『怪奇植物 スフラン』)抜きに勤しんでいた。
マンダリン草は触手の先に神経毒があるがその実は神経毒の薬になるので地面から抜いてすぐに実を抜いて実だけ残して触手などの草の部分は草食系怪獣の食料にスフランとマンモスフラワーと共に運び出すために用意した超巨大バケツに入れていた。
マンダリン草の実は別に巨大なバケツに入れていた。
因みにいくつかのマンダリン草やスフランは抵抗したが他の怪獣ならいざ知らず、全ての地球生命の頂点に君臨するゴジラには毒や吸血の針、締め付けなど効かず普通の雑草のように引き抜かれていった。
ゴジラ「グルルルルル……」
あらかた抜いたゴジラは一息吐いて丁度良い感じの岩(人からしたら巨石)に座った。
岩に座ったゴジラは昔のことを思い出していた。
70年以上昔…未熟児として産まれ、父や母、祖父や祖母、姉や兄たちに助けられながら育ったこと。
まだ若かった新堂たち旧日本軍ラゴス島守備隊と出会い、日本の食や歌、遊びを教えてもらったこと。
新堂たちがいなくなった後も家族皆と平和に、穏やかに、楽しく暮らしていたことを思い出していた。
優しく、暖かく、安心する…今はもう2度と感じることが出来ない……。
全てを失ったあの日、運命の歯車は止まったのかもしれない……。
昼空を照らす閃光、それと同時に襲う熱と衝撃波……。
家族が紙みたいに吹き飛ばされ、燃やされていく……。
それは幼き日のガウも例外ではなかった……。
ガウ《熱い…熱いよ…母さん…父さん…じいじ…ばあば…姉さん…兄さん…どこにいるの…?
熱いよ…痛いよ…何も見えないよ…ここはどこなの…?》
あの日、体が熱くなり、何も見えないながらも必死になって家族を探し回った……。
でも見つかるのは黒く焼け焦げた、変わり果てた家族の死骸だけだった……。
しかし幼きガウはそれに気付かない…いや、気付けなかった……。
灰となった木々と家族の死骸が混じり、気付けなかったのだ。
やがて歩けなくなり幼きガウは倒れ、次第に弱り、声も上げられなくなった……。
何も感じなくなった……。
熱さも…寒さも…感触も…何もかも感じなくなった……。
もう…動けない…死にたくない……。
そう思った時だった。
風を感じる……。
海の匂いが香る……。
大地の感触を感じる……。
感じなくなった感触や感覚が甦り、最初は戸惑った。
やがて視界までも甦り、自身の状況を知った。
小さいハズだった自身の体は何百倍にも大きくなっていた。
それに今までに感じられなかった力を感じた……。
生き返った自身にガウは戸惑いながらも家族を探した……。
皆が死んだと気付いたのはそれから少ししたあとだった。
そして、家族を奪ったのが人類による兵器の実験だったことを知った。
それを知った時、人類を怒り、憎み、恨んだ。
だから、世界から人類を消そうとした…。
他の怪獣たちを配下に治め、世界中を攻撃した…。
そこで出会った…。
響たちに……。
響たちと交流している内に…失われた家族と同じ温もりを感じた……。
2度と感じることが出来ないと思った優しく、暖かく、安心する、あの温もりを……。
ゴジラ「グルルルルル……」
昔を思い出していたらいつの間にか眠っていたようだった。
目が覚めたゴジラは日が傾きだしていることに気付いて雑草を再び抜き始めた。
全ての雑草を抜き終わった頃にはすでに夕日が海を、空を茜に染めていた。
雑草を抜いたゴジラは島の中心にあるものを建てた。
巨大な大理石の墓石であった。
墓石の下にはこう書かれていた。
《太古より繋ぎし命の灯火、ここに眠る》
そして大理石の墓石自体には…。
《ゴジラザウルス之墓》
と書かれていた。
この墓石は新堂に頼んで作くってもらったのだ。
新堂は70年前の恩義で快く引き受けて作ってくれた。
そして今は日本では盆。
ご先祖や家族の霊が1年に1度だけこの世に帰ってくる日なのだ。
墓石を置いたゴジラは両手を合わせた。
いつまでも、いつまでも自分たちを見守っていて欲しい…。
皆に繋ぎ止められたこの命、大切な者たちのために振るうとゴジラは…いや、ガウは亡き家族に伝える。
ゴジラ「グルルルルル……」
伝え終わってゴジラは雑草が入ったバケツを持って帰り始めた。
今度はリルや響を連れてこようと考えていた。
そんなゴジラの背を見送る者たちがいた。
うっすらとしてはいるがティラノサウルスに外見は似ているが歯は鋭くなく、大きさも一回り小さい、顔や背中にある小さな背鰭や尻尾はどことなくゴジラに類似していた。
その者たちはやがて人間の女性と男性になった。
女性は優しい顔立ちに、背中の中心まで伸びた長い髪をして、顔立ちが響に似ていた。
男性は逞しい四肢を持ち、少し跳ねた癖っ毛をした髪、顔立ちはガウに似ていた。
母「あなた…あの子、立派になったわね」
父「あぁ…守るべき者ができたアイツならきっとどんな困難も乗り越えられるだろうな。流石は俺たちの息子だ」
そう楽しそうに話す2人。
ゴジラを見送るこの2人こそ、ガウの本当の父親と母親なのだ。
ゴジラ「グルルルルル?」
海に入ろうとしたゴジラはふと後ろを振り向いた。
今、何となくだが両親が見ていてくたのかもしれないと感じたのだ。
ゴジラ「グルルルルル……ゴガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
気のせい…いや、気のせいではないと感じたゴジラは天にまで届くことを祈りながら雄叫びを上げるのだった。
雄叫びを上げ終えて、ゴジラは海に入って帰路につく。
立派に成長した我が子の背をガウの両親は見えなくなるまで見守っていたのだった。