戦姫絶唱シンフォギア PROJECT G   作:ダラケー

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第429.5話 それぞれのかけ引き

S.O.N.G.本部が制圧されてしまった頃、とある場所にてヴァネッサたち3人は訃堂に呼び出されていた。

 

理由は新しいアジトを提供するとのことだ。

 

エルザ「灯台下暗しなのであります…」

 

ミラアルク「まさかここをあてがわれるとは思ってもみなかったぜ」

 

あてがわれたアジト…それはヴァネッサたちが"シェム・ハの腕輪"を始めて起動させたアジトだった。

 

訃堂「護災法の適用以来、国内における特異災害の後処理は全て儂の管理下にある。裏を返せばここは誰も簡単に手を出せぬ聖域に他ならぬ」

 

またこのアジトをあてがわせた理由を語る訃堂。

 

訃堂の後ろにはアザルドと護衛の人間が数人いた。

 

訃堂「計画の最終段階に着手してもらおう。神の力を防人が振るう一振りに仕立て上げるのだ」

 

訃堂がそこまで言うと護衛の1人がアタッシュケースを出した 。

 

訃堂「ここにはそのための環境を整えてある。設備稼働に必要なエネルギーも事前に説明してある通り手筈は既に進めておる」

 

訃堂の言葉に会わせるようにアタッシュケースを開き、中を見せた。

 

中には全血清剤とそれを冷やす保冷剤が入っていた。

 

訃堂「だが…儚きかな」

 

全血清剤の1つを掴むと地面に落とし、踏み潰した。

 

訃堂「ロクに役目をこなせぬ者がいると聞く。おかげで儂の周辺で犬が嗅ぎまわるようになっているとも」

 

エルザを見ながら訃堂は言う。

 

ヴァネッサ「それは…!」

 

アザルド「おっと、言い訳は見苦しいぜ?アンタらも、オーナーには恩義があるんだろ?」

 

反論しようとしたヴァネッサの首にアザルドが長い長方形のブレードの専用武器『アザルドナッター』を向ける。

 

言われてヴァネッサは思い出す。

 

自分たちが結社でどんな扱いを受け、そして訃堂と出会ったかを…。

 

 

 

語りヴァネッサ:私達ノーブルレッドは蔑まれ物同然に扱われてきた。

 

パヴァリア光明結社においてファウストローブの研究者であった私は不慮の事故にて瀕死の重傷を負ってしまう。

 

失われた生体部分を自身の研究対象でもあるファウストローブに換装され命を取り留めたものの、完全なる命を至上とする結社においてこの事実は私の位階を下げるばかりか…。

 

データ採取用の臨床検体というさらなる辱めを受ける結果となってしまった。

 

屈辱と苦痛の地獄…それでも耐えて来られたのは同じ検体として出会ったミラアルクちゃんとエルザちゃんの存在に他ならない。

 

やがて地獄に終焉が訪れた……

 

結社の崩壊は軛からの解放でもあった。

 

だがこの身は特別な血液なくしてままならぬ不自由を抱えている。

 

その時、現れたのが風鳴 訃堂。

 

私兵を持たないこの男は血液の提供と願いの成就を条件に私達に計画の参加を呼び掛けてきたのだ…。

 

 

 

訃堂「怪物なら怪物なりに務めを果たしてもらうぞ、ノーブルレッド!計画は走り出したのだ。最早何人たりとも止めさせはせぬ!」

 

訃堂はそう言い捨てるように言うとその場を後にする。

 

訃堂がその場を後にするとアザルドもヴァネッサに向けていたアザルドナッターを降ろして、「せいぜい頑張りな」っと言って訃堂の後に続くのだった。

 

 

 

一方、弦十郎はある人物と密かに連絡を取っていた。

 

八紘《そろそろだと思っていたが盗聴は大丈夫か?》

 

弦十郎が連絡を取った相手―八紘が出て聞いてきた。

 

弦十郎「御用牙時分から昵懇の情報屋回線を使わせてもらっている」

 

八紘に聞かれて弦十郎は言う。

 

弦十郎「勿論念の入れようは十重に二十重だが…」

 

弦十郎の周囲には緒川たちが見張りをしていた。

 

八紘《お前の読み通りだ。今回の一件、正式な手続きの査察ではあるが担当職員の中に不明瞭な経歴の者が含まれてるようだ》

 

八紘はS.O.N.G.本部を制圧した査察官たちの職員たちの資料を見ながら言う。

 

八紘《そして功名に秘匿されてはいるが鎌倉の思惑と思しき痕跡が見受けられるな》

 

今回の査察に鎌倉―つまりは訃堂の息がかかっていると言う。

 

八紘《こちらも米国と例の交渉、怪獣軍団との仲介が佳境だった故後手に回らざるをえなかったのだが…》

 

S.O.N.G.本部が制圧され、査察まで受けることとなったのを聞いた時は八紘も驚いて、聞いたときには些か焦っていた。

 

弦十郎「兄貴…結社残党のノーブルレッドを擁してるのやっぱり…」

 

八紘「早まるな弦。全てがつまびらかとなるまでは疑うな。私とて信じたいのだ。風鳴 訃堂は曲がりなりにもこの国の防人。何より私達の父親ではないか」

 

ノーブルレッドの支援しているのが訃堂だと疑う弦十郎に八紘は言う。

 

紛いなりにも訃堂は八紘と弦十郎の父であるからだ。

 

親は子を信じるように、八紘も父である訃堂を信じたかったのだ。

 

 

 

弦十郎《ああ…だがしかし…》

 

八紘「私は人を信じている。最終的に信じ抜く覚悟だからこそいかなる手段の行使すら厭わない。だから私は政治を自らの戦場としているのだ。今は関係悪化している米国とも協力体制を必ずしてみせる。それと怪獣軍団の米国対する怒りも抑えてみせるさ」

 

色々な厄介事を抱えてはいるが何とかすると電話越しに八紘は言う。

 

八紘「月遺跡共同調査の提案もその膳立てに過ぎん。なおもこじれるなら我が国への反応兵器発射事実を切り札に国際社会からの孤立、さらには怪獣軍団との和解仲介取り止めを口実に恫喝させてもらうさ」

 

最終手段で米国を脅すと言う八紘。

 

 

 

弦十郎「そいつは堪える。やっぱすげぇな八紘兄貴は。兄貴の中でも一番おっかない」

 

そんな八紘を弦十郎は笑いながら言う。

 

八紘《前線は託すぞ弦。計画が綻びを見せるのはいつだって走り始めてからだ。この先にチラつく尻尾を逃さず掴めば必ず真実は明らかになる。疑うのはそれからでも遅くない。それまで怪獣王の怒りを爆発させたりするなよ》

 

弦十郎「あぁ、分かったよ。任せとけ、八紘兄貴」

 

電話を切って弦十郎は回線用のUSBを公衆電話から引き抜いた。

 

弦十郎「ばぁちゃん。ありがとね」

 

公衆電話の隣にあった煙草屋のおばちゃんにUSBを渡す。

 

おばあちゃん「またいつでもおいで」

 

弦十郎に渡されたUSBを素早く片付けるおばちゃんだった。


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