シェム・ハ「爽快である。忌々しきは全て塵芥。怪物共と眷属は実に役立ってくれた。後は月食に合わせて…ん?」
爆発した月遺跡の一角を見て勝利を確信したシェム・ハだったが月から地球へ伸びる1本のトンネルのようなものが見えた。
響「こ…これは!?」
遺跡爆発直前に"アマルガム"を起動させ、シールドで無酸素で真空の宇宙に対応して、ガウを響が、リルをマリアが抱えていた。
しかし、彼女たちが見ているのは漆黒の宇宙ではなく、青いトンネル―通路型に形を変えたダイダロスであった。
エルザ「私めら三人が形成する全長38万kmを超える哲学の迷宮!」
ミラアルク「遺跡ボカンの衝撃を遮断するだけでなく空間を捻じ曲げて地球への道を!切り開くんだぜ!」
月遺跡の爆発時にヴァネッサたちは哲学の迷宮ことダイダロスを発動させ、さらに空間を捻じ曲げることで最短の距離で月から地球への距離を縮めたのだ。
響「最速で最短、一直線に。だけど…」
ただでさえ、万全の状態で1~2発打てるダイダロスに加え空間を捻じ曲げるなどという芸当をすれば体への負担は計り知れない。
しかも3人は探査ロッケト打ち上げ施設と月遺跡での戦いでボロボロの状態である。
そんな状態でこれらの芸当をすれば…っとさすがの響でも分かっていた。
ヴァネッサ「勘違いしないで…これは怪物が苦し紛れにかける呪い…鼻持ちならない正義の味方に手遅れとなった地球を見せつけたいだけのちっぽけな抵抗…」
同情されそうになったヴァネッサは怪物らしいことを言う。
だが、本音はその逆であることなどみんなが気付いていた。
響「うん…だけど…ありがとう。呪いは祝福に変えられる。お父さんがそう言ってたし私も信じて疑わない」
ヴァネッサ「そう…でも……」
響の言葉を聞いてヴァネッサは微笑んだかと思いきやエルザの方へ行くとそのまま腕を掴んでガウの方へ投げた。
エルザ「ヴァネッサ、何を!?」
ガウ「がう!?」
投げれてエルザはもちろん、キャッチしたガウも驚いていた。
ヴァネッサ「エルザちゃん、貴女だけは生きて」
ミラアルク「そうだぜ!腹ん中の子供のために生きないとダメだぜ!」
エルザが妊娠していることを知っていた2人は言う。
エルザ「気付いてたでありますか!?」
自身が妊娠していることに気付いていた2人にエルザは驚く。
実はエルザは自身が妊娠していると気づいたとき、お腹が大きくならないように錬金術で子供の成長を遅らせていたのだから気づいたことには驚きを隠せなかった。
ヴァネッサ「あんなにお腹を守ってたり、お腹に錬金術をかけてたりしたら誰にでも分かるわ」
全て気付いていた上であえて言わなかったヴァネッサは微笑んで言うとガウの方を見た。
ヴァネッサ「ゴジラ…いえ、ガウさん。エルザちゃんをよろしくね」
ミラアルク「エルザを幸せにしないと化けて出てやるから覚悟するんぜ!」
さっきまで敵同士であったが自分の家族を任せられる殿方として認めたのかヴァネッサとミラアルクは言う。
その体は光となって消滅し始めていた。
ヴァネッサ「そろそろ限界ね…」
消えゆく自身の体を見てヴァネッサとミラアルクは最期の時を迎えようとしていると悟る。
エルザ「そんな…嫌であります…死ぬなら3人一緒に…」
ミラアルク「そいつは駄目だぜ、エルザ。お前の腹の中には新しい命があるんだ、その命まで奪うのはお門違いだぜ」
ヴァネッサ「じゃあね。エルザちゃん。ちゃんと幸せになってね。これはお姉ちゃん判断です」
ミラアルク「幸せにな、エルザ」
そう言ってヴァネッサとミラアルクの2人の体は光となって消滅した。
エルザ「ヴァネッサー!ミラアルクー!」
2人が消えてダイダロスも消滅、響たちは地球前の宇宙に放り出された。
エルザの悲しみの声が宇宙の中に消えていくのだった。