インフィニット・レギオン   作:NO!

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悲観

「伍君、もうそろそろ寝ましょう?」

 

 その頃、此所はロシアの首都、モスクワにある五階建てのアパートにある壱夏と伍が住んでる個室にある玄関。そこには寝間着姿で膝を抱きながら座っている伍と、その後ろには壱夏の寝間着を着ているのか心配そうに伍を見ながら言う楯無が居た。

 伍は元より、楯無は一時的な住人であった。それでも、楯無は心配そうに伍に言う。

 

「伍君、壱夏君は大丈夫よ? それにもう一時よ? 子供は寝る時間よ?」

 

 楯無はそう言った後、彼の後ろ姿を見据え続ける。彼の後ろ姿は、背中は子供らしく小さいが何処か悲観に暮れている様にも思えた。この街は少し前までは平和であった。

 しかし、更に先の日は、未来はILの誕生によって暴動が起きてしまった。自分はロシア代表である為に政府から暴動を止めてくれと言う自殺行為に近い事を命令されてしまった。

 否、今は自分の事は良いだろう――今は彼、伍の事が心配であった。彼は今、悲観に暮れている。この街が暴徒達により壊滅的な打撃を受け、更には兄の様に慕っていた壱夏がいなくなった事で心を痛めている。

 五歳くらいの彼にとって、残酷な現実と重すぎる現実だろう。それに自分が居るのも、現状では日本に帰国出来ないのと、彼を置いて帰国出来ないでいたからである。

 本来ならばホテルで待機していれば良かったが資金の問題もある為に今は壱夏と伍が住んでいるアパートで一時的なお世話になる事になったからである。

 服とかは少しばかりだが用意しており、足りない分は壱夏の服を着れば問題ないと、ある人物が言ったからであった。その人物は勿論、伍である。

 伍は楯無を心配し、日本に戻るまでの此所に居れば良いと言ったのだ――が、本来の彼は楯無よりも壱夏を心配しているのと彼の帰宅を誰よりも望み、玄関の前で待っていたのである。

 お帰りなさい――伍は壱夏にそう言いたかったのと同時に、少し怒っていた。

 

「お兄ちゃん……何で、僕を置いて、行った、の?」

 

 伍は玄関の扉を見ながら辛そうに呟いた。これには後ろにいる楯無は辛そうに目を逸らすが掛けてやる言葉が見つからなかった。彼は壱夏を慕っている分、突然居なくなった事は裏切り行為に等しいだろう。

 それ以前に他人でもあり、一時的の居候でもある自分が干渉出来る立場では無い事に気付きながらも下唇を噛んだ。自身の微かな無力さと、壱夏に対して多少の怒りが沸いてくる。

 突然とは言え、伍を置いて何処かに行くのと、それを丸一日は経つであろう時に電話一本も寄越さない。どう見ても放棄している様にも思えるが今は伍を思い、彼に近づくと肩に手を置くと優しく訊ねた。

 

「伍君、もう寝ましょう――」

「……嫌だ」

「嫌だと言っても彼は……いえ、彼は帰ってくるわ――だって彼は私に、貴方を一時的に預けてくれって言ったのよ?」

「……お姉ちゃん」

 

 伍の言葉に楯無は「何?」と言いながら首を傾げると、伍は静かに楯無の方を見る――彼は哀しそうな瞳で彼女を見ていた。これには楯無は瞠目するのと同時に、ある事にも気付いた。

 彼の瞳には壱夏への逢いたい気持ちとそれを堪えながらも何処か堪える事が出来ない様にも思えた。自分は暗部の人間だが人の心理は一応一通り判るが此所で活用する事になるのと同時に、伍が壱夏に寄せる信頼は確かな物である事を改めて知った。

 それ以前に疑っていたが確信へと変わった――楯無はそう思いながらも伍は再び玄関を見る。玄関には何も無い――向こう側から誰かが扉を開けてくれるのを期待している。

 言わずともその人物は壱夏であって欲しい――伍は切に願うと共に、目に涙を浮かべ始める。彼の帰還を願うが為の、我慢していた筈の、泣かないと決めていた筈の涙であった。

 

「お兄ちゃんは……ウグッ、えぐっ、がえっで、ひぐっ……ぐるもん」

 

 伍は涙を流しながら言った――表情は険しい物の泣き顔を見せながらも見せない様にしていた。壱夏の帰還を誰よりも願い、兄のように慕う彼を、この帰るべき場所で待っていた。

 ――伍君……――。そんな彼を楯無は辛そうに呟くと、後ろから彼を包む様に抱き締める。彼は寝間着であるが少し冷たい。なのに、彼の心は何処か穴が空いている。

 彼は自分よりも心身共に小さいのに、壱夏を想う強さは大きい――自分にも妹がいるが彼女とは仲が冷えきっているが彼と壱夏は違う――彼等の仲は家族ではないが家族を超える絆を持っている。

 楯無は嫉妬と共に羨ましいと感じた。にも関わらず、彼は泣き続けていた。泣き虫ではないが彼を、壱夏を求めているが為の涙であった。彼にとって壱夏は憧れであり、彼の背中を追いかけ、目指す存在なのだろう。

 楯無はそう思いながら出来る限りの言葉を彼に与える。

 

「伍君、大丈夫よ……彼は、壱夏君は絶対に戻ってくるわ……」

 

 楯無の言葉に伍は泣きながら楯無を見ようとしたが彼女は後ろから抱き締めてくれている為に見えなかった――が、楯無は優しい表情を浮かべている。

 

「伍君――さっきも言ったけど、彼は、壱夏君は私に貴方を頼む様に言ったのよ? 普通ならよそ者の私に頼む事はしない筈よ?」

「……何でだろうね?」

「そうよね……でも今は私が貴方の一時的な保護者――今は貴方が心配なのよ?」

 

 楯無はそう言うと、伍は「えっ?」と泣きながら答えるが、楯無は「ええ」と優しく答える。

 

「伍君……私は貴方に訊きたい事が沢山あるわ――でも今は、寝ましょう? それは壱夏君が一番望んでいる事よ?」

「お兄ちゃん、が?」

 

 伍が不思議そうに言うと、楯無は深く頷き、そして理由を述べた。先ずは夜更かしの事――今は深夜一時を回っているが子供は既に夢の仲であるのと、伍がこの時間まで起きているのは身体に良くない。

 二つ目、壱夏から見れば今の彼を、伍を見れば少し怒るのと心配するかも知れない――楯無はそう指摘すると同時に彼に対して、ある約束をする。

 

「伍君、お姉ちゃんと約束しょうか?」

 

 楯無の言葉に、伍は「約束?」と言いながら楯無を見る。楯無は優しく微笑みながら頷くと口を開いた。

 

「伍君、今は我慢して――今は私と居て――壱夏君が居ない分、私が貴方を守ってあげる」

 

 刹那、伍は瞠目したが楯無は、彼女は笑みを崩さない――彼女なりの優しさであった。一人の少女として、彼、五条伍の事を気遣っていた。

 遊戯の存在や彼、一条壱夏の正体等色々あるが今は、単に気遣っている。理由は勿論、彼を一人に出来ないからであった。子供であるのと同時に未だ五歳である。

 高校生までなら兎も角、彼は五歳で幼稚園で例えるなら年長組に入るだろう――楯無はそう思いながらも彼を優しく言い聞かせる。

 

「伍君、もう寝ましょう――貴方がクヨクヨしていたら不眠症になったら、貴方が倒れたら壱夏君が哀しむわ――それに壱夏君を笑顔に出来るのは、貴方だけよ?」

「……………お姉ちゃん……うん」

 

 伍は頷くと楯無は「良い子ね」と言いながら彼の頭を撫でる。刹那、伍は立ち上がると楯無も立ち上がる。刹那、伍は楯無の手を握る。

 ――伍君? ――。楯無は伍の行動に戸惑ってはいないが彼を見る。彼は潤んだ瞳で楯無を見ていた。何かを訴えている様にも思えるが子供らしい純粋な願いがあるのだろう。

 ――一緒に、寝て、良い? ――彼は楯無に訴えた。壱夏がいない寂しさを紛らわす為か、それとも単に怖いからなのか、暴徒達が家に来ない事を願っての事なのか?

 それは伍にしか判らないが楯無は敢えて理由は言わずに、微笑みながら「ええ」と言いながら頷き、彼の手を握り返す。とても小さいが何処か懐かしい――楯無はそう思いながらも壱夏の部屋へと向かった。

 理由はベッドがあるのは伍と壱夏の部屋だけであり、自分が今寝られる所はあそこであるのと同時に、伍が壱夏のベッドで寝る事で彼が壱夏がいるのと、彼の匂いが染み付いたベッドに寝ると彼が安心するのではないかと、そう感じた。

 今の自分に出来る事は伍を見ている事――そして彼、壱夏が戻ってきたら伍を置いた事、自分達は何者なのかを問い質そう――楯無はそう壱夏に無理約束させようと考えながらも同時に、伍と共に壱夏の部屋へと向かった。

 

 

 




 次回、集会。学園長、全校生徒への約束と三上と交わした約束
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