壱夏が空港に居る頃、此所は東京にある、とある霊園。そこは左右にある何十個の墓がずらりと並べられており、一つ一つが……否、名字が同じ物もあるが一応、名字は違い、大きさも、形も少しばかり違う。
そんな場所では暴動の手は回ってこなかった。否、こんな場所で暴れるのは罰当たりであるのと、此所を暴れると言う考えを持つ者は居なかったのだろう。
しかし、此所は街とは違い静かであるが騒がしい事は御法度であり、死者を供養する場所でもある。大抵は命日か報告等の理由で来る者がいれば毎日来る者もいるだろう。
そんな中、とある墓の前には、一人の三十代の男性がいた。彼は黒いスーツを纏っているが墓の前で片膝を突きながら跪いていた。近くには水が汲まれている水桶や掬う為の柄杓があるが墓を洗う為であった。
既に終わらせているのか墓は少しばかり綺麗であり、色んな種類の花がある花束や、火の点いた線香の束に、お供え物としてのお萩が置かれていた。
「良枝……明日香……俺は来たぞ」
男性はそう呟きながらも何処か寂しそうであった――が、その男性は肆狼であった。彼はバイクで霊園まで来たが、やる事があると言うのは、墓参りであった。
しかし、肆狼の口から良枝と明日香と言う者が出てきたがそれは彼の妻と一人娘であった。
「…………」
肆狼は無言で瞑目すると、軽く手を合わせる。その墓の、その下には二人の遺骨が納められていた。二人は肆狼の全てであり、肆狼もまた大切な者達としても認識していた。
彼等は肆狼の――否、肆狼の大切な家族である妻子であった。彼女等は既に故人となっているが、彼が肆狼と言う名を与えられた切っ掛けにもなっていた。
事の発端は二年前……肆狼は家族をある事件で喪ってしまった。それは何処にでもある交通事故であった――否、あれは自動車による轢き逃げ事件であった。
犯人の目星はついていたが何故か未解決に終わった――それもその筈、その事件は女尊男卑主義者であり、大物政治家の母を持つ娘であった。
娘は自分のしでかした事に怯え、母に助けを求めてしまった。母も娘を思うがあまり、事件を揉み消し、警察やマスコミに圧力をかけたのである。
事件は未解決――それは肆狼には辛く、肆狼は文句を言おうとしたが門前払いに拒絶――挙げ句の果てには社会的抹殺と言う形で人生を狂わされてしまった。
しかも女尊男卑社会の中、女に逆らえないのも事実だった。それが社会的抹殺を食らったからである。
肆狼は絶望したがそこは何れ話そう――が、肆狼が女尊男卑社会を憎む理由が判った。否、彼は世界を変えるつもりであった。男尊女卑社会にするのもその母娘の人生を狂わすつもりであった。
ILが必要なのも男尊女卑社会を生み出す為なのもそれが理由であった。逆に妻子の事を玖牧に言わなかったのは、復讐をする自分を止めるつもりで、止めろと言うからだろう。
牧師である彼ならばそう言うのと、強行手段で――否、私利私欲でILを使う様な彼ではない――言葉で解決するつもりであるからだ。
そして、壱夏達を気遣っているのも彼等を亡き娘と重ねてみてしまい、父親としても微かな情が残っていたからだ。
しかし、今の彼は肆狼――
刹那、肆狼は哀しそうに目を細めると微かに笑う。
「良枝――明日香、俺は、父さんはお前達の無念を晴らす事が出来るぞ?」
肆狼は墓に語りかける。無駄だと判りながらも墓には自分の最愛の妻や娘が居ると判ると我慢出来なかった。が、それでも彼は墓に語り続ける。
「お前達を殺した奴は何れ破滅するだろう――それでも良い、俺はお前達の無念を晴らす為なら俺は悪魔にもなる……でもよ俺は父親失格だな……お前達の事を思ってとは言え、間違っている様にも思えるだろうな?」
肆狼はそう言いながら俯くと、不意に空を仰ぐ。空は青かったが肆狼は空を見上げた後、墓の方を見る。一見、何の変哲も無い墓だ。が、自分の妻子が眠っているとなれば来ない訳にもいかない。
彼女等は既に故人であるが墓の下の中にいる。そして心の中で何時までも生き続けている。肆狼はそう言い聞かせると、柄杓と水桶を片手に持ちながら立ち上がり、身を翻す――不意に肩越しで墓を見る――哀しそうであるが何処か寂しそうにも思える。
独り身になったとは言え、彼は寂しいのだろう。が、彼は寂しそうに笑うと微かに口を開いた。――また来るぜ? ――。彼はそう言うと前を見ると、歩き出した。
妻子と離れて行く様にも感じた。が、何時までもそこに居る訳にもいかない――肆狼は自分にそう言い聞かせると振り返りもせずに歩き続けた。
酷い男と言われようが彼は再び、此所に来るつもりであった。一時の別れ――否、その間までに別れとも言い換えれば良いだろう。
「これからどうしょうかな……ん?」
肆狼は周りに墓がある中、バイグを停めている場所がある所までの間、歩いていると、不意に視線をある方へと向けた。そこは目の前であるが左右には墓しかなかったが彼は、横の、とある墓の前で目を閉じながら手を合わせている二人の人物に気付き立ち止まる。
何方も十代前半かもしくは後半に差し掛かる青年と少女。顔立ちは似ているが兄妹なのだろうか? 赤い髪と琥珀色の瞳が特徴的な者達だ。
何方も長い赤髪であるが片方は黒いバンダナを付け、黒のシャツに蒼いズボンを穿いている。片方の少女は薄紫のバンダナを付けているが白いワンピースを纏っている。
「何だあの子供達? ――何故此所に居るんだ?」
肆狼は二人を見て疑問に思う。この時間帯は兎も角、平日である。こんな日に墓参りは珍しいだろう。学校はどうしたのだろうか? サボったのか――それとも創立記念日か? 肆狼はそう思ったが二人が一緒に学校を休むのは珍しくもない。
では誰かの墓参り? 身内と言う線もあったが肆狼はそう思いながらも近づく。と言うよりも彼はそこを通らなけばならなかった。バイクが停まっている場所がある道であるからだ。
「まあ、俺には関係ないがな……」
肆狼はそう呟くと同時に、再び歩き出す。彼等の直ぐ近くまで来た刹那、肆狼は何処から音が響き渡ってくる事に気付く。
――ん? ――。肆狼は音に気付くが、近くに居た二人も音に気付くが彼等は音の出所を捜す様に辺りを見渡す。
――あっ、あれ! ――。刹那、少女がある方角を指差す。そこは青空であった。が、指差した方向には、何かの物体の様な物が此方へと近づいてくる。
その物体は人型であるが機械の様にも思える。――っ!? 逃げろ!! ――。肆狼は何かに気付き二人に叫ぶ。二人は肆狼の言葉に驚くが、その間に人型の機械は右手を突き出すと、肆狼達目掛けて何かを放つ。ピンク色のレーザーの様な物であるが肆狼は二人を引き寄せながら叫んだ。
――音韻!! ――。刹那、肆狼の身体が白い光に包まれるがレーザー光線らしき物は肆狼に当たり、そして爆発した……。が、人型の機械はレーザーを肆狼目掛けて撃ち続けていた……。
肆狼を、そして他人である二人を巻き込む形で撃ち続けていた――当たりに煙が発生する。
刹那、何かが煙の中から出てきた――一発の砲弾であった。人型の物体は避けようとしたが何故か避ける事は出来なかった。
身体が何故か言う事を聞かないのと、同時に一発の砲弾をモロに食らう。それだけではない――煙から何発もの砲弾が出てくると、全て物体に命中し、同時に物体は耐えきれなくなったのか爆発し、四散した。
その間に煙は消えて行くがそこには一つの大きな影が見える――否、そこには肆狼と二人の青年と少女がいた。煙が徐々に消えて行く中、肆狼はILを起動していた。
肆狼は二人を守る様にILを起動したのだ。そのILは黒を基準としつつも全身装甲型であり、音符らしき模様が幾つも刻まれている。
しかし、肆狼の頭には額には音符のマークが刻まれているマスクを被っているが何処か禍々しい。彼の絶望を表している様にも思える。
が、彼は二人を見る。青年は驚いているが少女は怯えている。二人の反応は様々であるが肆狼は二人を見て安堵していた。
無事である事が何よりも嬉しかったのだろう――が、肆狼は不意に空の方を見る。さっきの物体は倒した物の何者かまでは判らなかった。
三上が放ったとは言い難いが肆狼は一応、ILを解除すると周りを見渡す。此所が墓場である事に気付いており、苦虫を噛んだ表情を浮かべていた。
そして、罰当たりな事をした事に後悔していた……。
次回、目的。三上の彼等を自由にした理由とその思惑。そして、参の登場