壱夏が伍と共に肆狼に逢いにいった同時刻、此所は別のとある国――今の時間帯は昼だが西洋人が造り、建てたであろう建物が幾つも見受けられ、東洋とは一味違った町並みが美しくも、西洋人らしい町並みが印象的だった。
此所はとある市街地近くの森の中にある川――そこは流れが激しく、子供だったら流される危険もあった。
「ブアッ! アァっ!?」
しかし、今、一人の五歳ぐらいの西洋人の少年が川に流されていた。少年は川の流れに逆らえず、抗う事も出来ず、只々流されていた。このままでは少年は流され続け、最悪の場合、溺れ死ぬ危険があった。
近くには人がいない――訳ではなかった。川に流されている少年を発見した者達がいた。
「あっ、あれは!? いたよ!」
「流されている! このままじゃ危ないよ!!」
近くには一人の二十代前半の日系男性と、五、六歳くらいの西洋人の子供達(男の子と女の子)がいた。二人の子供達は子供らしくし子供らしい私服を着ているが、男性は全身を黒を象徴とした服を着ている――否、彼は近くの施設で仕事をしている牧師であった。
涼しそうな顔立ちに少し長めの黒髪で左目を覆い隠し、右目は翡翠色であった。三人は川に流されている少年を見て驚きを隠せないが男性は無謀にも川に飛び込む。
「あっ、牧師様!!」
女の子が牧師が川に飛び込んだ事に驚くが牧師は流れの速い川を何とか泳ぐ。が、上手く少年の元に辿り着くと、少年を抱え、引き返すと川辺まで泳ぎきった。
「牧師様!」
「牧師様っ!」
子供達は牧師の元に駆け寄り、その間に牧師は少年を見る。
「大丈夫ですか!? しっかりして!」
「う……ぼ、牧師、さん……?」
牧師は少年の身体を揺さ振る――一方、少年は薄れていく意識の中、牧師を見る。
「ああっ……! 良かった……!」
牧師は少年が無事である事に安堵し、少年を抱き締める。彼なりの本当の気持ちを表し――彼が心から安心している事を彼が行動で示していた。
その行動には偽りは無い。彼を助けたのも彼なりの行動でもあったからだ。
それに少年は最近来たばかりであり、この場所に足を踏み入れた事はなく、川がある事さえも聞いたが彼はある理由で施設を飛び出したのだった。
その為、牧師は他の者達と共に少年を捜していたのである。
「ごめんなさい……勝手に一人で行動して、でも、僕はパパに捨てられた……そう思うと、僕はパパに逢いたいと思った……それで勝手に……ごめんなさい」
少年は泣きながら牧師に言う、少年自身の気持ちの表れであり、少年自身が思う、辛く受け止められない気持ちでもあった。
彼は最近来たばかりであるがそれは捨て子でもあったのだ。彼は数日前に父親に捨てられた意味で施設に送られたのである。
彼は施設は馴染めず、一人でいる事が多かった。だからこそ、施設を飛び出し、森の中へと逃げてしまったのであった。
しかし、来た道とは反対に森の中へと入ってしまったのだ。人は冷静さを失うと間違いを起こすと言う事は良く聞くが正にその通りであるのと、父親に捨てられた事が余程ショックだったのだろう――そんな少年に牧師は辛そうに見ていたが不意に微笑む。
「そんな事はありませんよ?」
牧師の言葉に少年は「……えっ?」と少し驚くが男性は微笑みながら少年に言う。
「貴方は一人ではありません、貴方には私達がいます――私達は親に捨てられ、事故や病気で親を喪った者達の集まりです――それに私達は家族です――困った時は私達に言って下さい――それにあなたが死んだら、周りは哀しみ、私も哀しみます――どうか、自分を責めないで下さい――それに貴方はもう、家族ですからね」
牧師は少年に対して、優しく論する――聖母とは言えないが聖人その者だった。優しさ、少年への慈悲を表している。
自分の命を顧みず、他人の為に命を賭ける――まさに聖人――否、それ以上の聖人だった。少年は男性を見て辛かった事が忘れ、吐き出す形で涙を浮かべると、牧師に抱き着く。
「う、ううっ!!」
少年は牧師の胸の中で泣きじゃくる――母に捨てられた哀しみ、生涯を孤独に過ごす寂寥感に嘖まれていた。しかし、男性の言葉に全てが救われ、洗われた様にも思えた。
一人は嫌だ、一人で寂しい思いをしたくない――少年はそう思っていた。身体が濡れて、風が通るだけでも冷たいのに、心は温かく感じた。
少年は男性に抱き着きながら泣きじゃくる中、牧師は微笑ましそうに少年を優しそうに抱き包みながら背中を撫でていた。
「大丈夫です、時間はまだまだあります――私達と触れ合う機会はまだまだあります――辛かったら、周りに言って下さい」
牧師がそう言うと、少年は牧師の胸の中で更に泣きじゃくった。
「ねぇ牧師様? そろそろ施設に戻ろうよ? 皆が、大牧師様が待ってるよ?」
「そうだよ、皆心配しているかも知れないよ? 早く戻ろうよ」
そんな牧師に、近くに居た二人の子供達が牧師に言う。
「そうですね……では戻りましょうか?」
牧師はそう言うと、抱き着いている少年に言う。
「戻りましょう、皆さんが待っています――さあ、泣きやみましたか?」
「……うん、もう大丈夫です牧師様、ごめんなさい、皆に迷惑をかけました」
少年は男性から放れると少し困惑した様子で謝る。が、男性はニコッと微笑むと、少年の頭を撫でる。
「大丈夫です、皆さんはあなたを責めませんよ、逆に安心しますよ?」
牧師の言葉に少年は目を見開き、男性を見上げる。牧師は微笑んでいた――安心する様にも思え、少年はまた泣きそうになるが牧師は少年の頭を撫でる。
「泣いてはいけません――泣いたら周りを哀しませます――どうか、子供らしく笑顔を絶やさないで下さい」
牧師は優しく論ずる――その言葉に少年は再び驚くが目に涙を溜めながら笑顔になる。
――うん! ――。少年は元気良く言った。それを聞いた男性は微笑むと同時に深く頷く。
「さあ戻りましょう――施設に戻れば温かいスープを用意します――勿論、温かい布団も用意しますね」
牧師はそう言うと少年を背負い、二人の子供達と共に森を出て行く形で歩き始めた。
「ねぇ牧師様?」
歩いていると、二人の子供達のうち、少女が男性に訊ねると牧師は不思議そうに「何でしょうか?」と聞き返す。
「牧師様――牧師様はどうして私達の為にそんなに感張るの?」
「頑張ると言いますと?」
「うん、だって牧師様、何時も沢山のお金を持って施設に寄付したりしてるけど、そのお金はどうしたの?」
刹那、牧師は立ち止まる。二人の子供達は牧師の様子がおかしい事に気付き、立ち止まる。
牧師は少し俯いていた――疾しい事がある訳ではないが、牧師は少し眉間に皺を寄せていた。あの優しそうな顔を、微笑む様な顔をしていない。
しかし、少女の言葉に怒っている訳ではない――自分は単に、危ない仕事をしている訳でもない。
自分は単に、そのお金は何処から持って来たのかを牧師自身が知っているのと、それを周りには言ってない――言えばいえばで問題があったからだった。
「どうしたの牧師様? 顔、怖いよ? ……まさか私が何か言ったから?」
そんな牧師に少女は怯えながら訊くと、牧師は我に返り、少女を見ると微笑む。
「いえ、何でもありません――それにお金は私自身が汗水流して稼いだ物ですし、君達は心配しないで下さい」
牧師はそう言うと、少女の頭を撫でる。少女は少し罪悪感に嘖まれるが男性は少女に言う。
「ジェシカ、私は別に悪い事をして稼いだ訳ではありません――ちゃんとした仕事で稼いでいます――どうかご安心を」
「そうなの? 本当に本当に?」
「はい、私は神に仕える身――決して、やましい仕事をしている訳ではありません――私はちゃんとした職に就いておりますからご安心を――さっ行きましょう、私と彼が風邪を引いてしまいますからね?」
牧師はそう言った後、再び歩き出した。そんな彼を二人の子供達は互いを見合わせたが直ぐに彼の後を追う様に歩き始めた。
彼は如何いった仕事をしているのかは、何を本業にしているのかは判らない――だがこれだけは言える、今の彼は牧師と言う仕事をしている。
今の彼は自分達の家族で、一番上の兄の様な存在だと言う事を忘れてはいけない――二人はそう思った。
一人の牧師と三人の子供達は施設と言う家に戻る中、彼等は軽く会話しながらも施設に戻る足を速めていた。
そして、牧師は子供達と少し楽しい会話をしていたが彼の名は
彼は副業を牧師にして、本業はIL操縦者にして専用機持ち。
――そして、専用機の名は――『懺悔』。
彼が悪人に対し、今までの罪を悔い改め、許しを請う事で罪を償い、更生する様に願う意味で彼の為に造られ、彼が専用機持ちとして持っているILだった。
次回、集結