三人
あれから数時間後、此処はロシアの首都、モスクワにある、とある五階建てアパートの一室。そこは三上の部下の壱夏と、彼が教育係であり、養育している子供、伍が居る一室。
二人はキッチンにあるテーブルに座っているが壱夏が居ない間、伍の一時的保護者でもある楯無もいた。三人は今、朝食を摂っているが異様な雰囲気でもあった。
「…………」
伍は朝食を摂りながらも視線を何度も走らせていた。壱夏や楯無を交互に見ているのだ。二人は普通に摂っているが雰囲気は重苦しい。壱夏は瞼を閉じながら食事を進め、楯無は辛そうでもあるが哀しそうに食事を勧めている
何方も表情は違うが彼、伍は心配する。彼は二人の様子がおかしい事に気づいたのだ。子供であるが故ではない、好奇心が彼を煽らせているからだ。壱夏と楯無は何かの理由で喧嘩した。
それは自分には判らないが昨晩での出来事である事には気づいていた。自分の事か? 或いは三上の事か? そのまた或いは私情での縺れか?
どれを考えても自然と色んな、新しい仮説を立てていく。想像が膨らんでいく。伍自身が子供である故の好奇心かつ、気にさせている。
伍はその事で考えるが勇気を出して口を開いた。
「お兄ちゃん……楯無お姉ちゃん」
彼の言葉に二人は振り返る。何方も気にしていないが食事する手を止めている。伍の言葉でだ。壱夏は兎も角、楯無は伍の言葉で不意を突かれたのか目を見開くだ。が、伍は訊ねる。
「二人共、何か遭ったの?」
「えっ!?」
伍の言葉に楯無は目を見開く。それでも伍は言葉を続ける。
「二人共、どうしてそんなに暗いの? どうして互いに目を合わせないの?」
「…………」
「あっ……」
彼の言葉に壱夏は無言で彼を見据え、楯無は哀しそうに目を逸らす。彼の言葉は図星を突かれる発言でもあったのだ。二人は昨晩、否、数時間前に夜咄をしていたのだが壱夏は楯無に殆どの事を教えたのだ。
しかし、その痕の彼の行動が楯無にとって、驚きと初めてを奪われたからだ。壱夏は自分にキスしてきたのだ。あれには楯無も驚くがセクハラとも言えるのだ。
が、壱夏はそれを教えてくれたのだ。彼を、伍を見てくれた感謝と言う意味で……同時に異性との関わりを知らないが故でもあるがそれは彼、壱夏は楯無には言ってない。
話を戻すが伍の言葉に楯無は困惑する。伍は心配そうに見ていた。
「あ、あの……」
伍は楯無を見て困惑する。何か変な事を言ったのかと? それが本当ならば自分はとんでもない事をしてしまった。伍はその事で後悔し、項垂れる。
「あっ、伍君……」
楯無は伍を見て困惑する。何かを言わなければ、慰めなければ、と。彼が悪い訳ではないのだ。が、彼は自分を責めている事に気づいたのだ。
彼女は自分よりも一回り小さな身体の彼を慰めようとする中、ある人物が助け舟を出した。
「安心しろ……俺達は寝足りないだけだ」
「……えっ?」
彼の言葉に伍は目を見開きながら顔を上げ、楯無は驚きながら彼を見やる。壱夏は軽く微笑んでいた。伍に対してであった。不安になっている彼を励まし、気にさせない為でもあった。
が、伍が心配している事を壱夏は言った。
「俺達は昨晩遅くまで起きていた。その為、俺達は眠れないのもあれだから、寝る事が出来るまで、話をしていた……だろ?」
壱夏は視線を楯無の方へと向けた。これには楯無も驚くが伍に言った。
「そ、そうよ? 私達は夜遅くまで話をしていたの! それで他愛もない会話だけど、少しは時間を潰す事が出来たのよ?」
楯無は一夏に釣られるように言った。が、話をかなり脚色させている。三上の事を隠しているのだ。伍を心配させない為にもだが楯無は伍にそう言った。
彼女の言葉に伍は驚いているが、ふと、壱夏を見る。彼は微笑んでいるが伍は一夏と楯無を交互に見る。何方も微笑んでいるが伍から見れば驚きしかなかった。
「……本当に?」
伍は恐る恐る訊ねる。すると、楯無は深く頷いた。伍はハッとするが嬉しそうに笑った。
「そうなんだ! ……フゥ〜〜」
伍は胸の閊えが取れたのか撫で下ろす。自分の単純な考えだったのか? 伍はそう思ったのだ。彼等は夜更かししていたからである事だと理解したのだ。
「ごめんね伍君、私達を心配してくれてありがとね?」
楯無は伍に対して微笑むが伍は恥ずかしそうに笑った。
「良いよ別に。それに夜更かしはダメだよ? 肌が荒れちゃうから」
「ええ、これからは気をつけるわね?」
「お願い! お姉ちゃんは綺麗な人だから!」
「待ってん…あ、伍君ったら」
楯無は彼の言葉にほんのり頬を紅くする。彼の言葉が嬉しかったのだ。が、綺麗な人と言われたら嬉しくない者はいないのだ。楯無は彼の言葉に嬉しく感じるが壱夏は哀しそうに見ていた。
彼に余計な気遣いはしない方が良い、そう感じたのだ。同時に自分達はもう自由……が、それは不信感しかなかったのだ。三上は何を考えているのだろう? 壱夏はそう思っていた。
「あっ、そうだ!」
刹那、伍が軽く叫ぶ。これには一夏も我に返り、楯無は驚きながら伍を見る。伍は笑っているが、ある事を言った。
「これから散歩しょうよ! いい天気だから!」
「……やはり、惨い」
「……ええ」
あれから三十分後、壱夏は伍や楯無と共に街の中を歩いていた。しかし、壱夏と楯無は顔を引き攣らせ、伍は怯えていた。街の至る所は破壊され、窓ガラスも罅割れしている。
人もいるが大抵は仕事か色んな事をしている。が、この前までの暴動の影響かつ、その痕を残しているようにも思えた。ILの存在が街を変え、世界を変えた。
女尊男卑から男尊女卑と言う新たな、愚かな風潮が流れ始めているのだ。反面、街は活気や経済を取り戻しつつある。常世かも知れないが時代はどうなるのかは、どう変わるのかは子供達である彼等には知らない。
同時に次世代の卵でもある彼等が変えるか、それとも後世の者達が変えるかは、誰にも判らない。壱夏達は街の中を見渡しながら歩く中、伍が哀しそうに項垂れる。
「ごめんなさい……」
彼は呟いた。その言葉に壱夏と楯無は反応し、彼を見やる。伍は項垂れていたが立ち止まっていた。否、二人も彼に続くように立ち止まっていた。
しかし、彼は項垂れたまま呟き続けていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「伍?」
「伍君?」
壱夏は屈むと彼の両肩を掴みながら振り向かせる。楯無は心配そうに見ているが壱夏は伍の顔を覗き込む。壱夏は顔を引き攣らせた。彼の、伍の顔は酷い物であった。
顔の形ではない、表情である。彼の表情は苦痛、困惑と言った負の感情が孕んでいた。街の惨状を、爪痕を彼自身目撃したからだ。同時に散歩と言い出した事を後悔している。彼は純粋に三人で街の中を歩きたかったのだろう。
彼自身の無邪気な願いに自分達は心を打たれたに過ぎないが彼が悪い訳ではない。彼は自分よりも一回り小さく、十年も離れている人生の後輩でもあり、幼子でもある。
人に対しての不信感や知らない事がまだまだあるのだ。一夏はそれに気づきながらも謝罪の言葉を何度も口にしている彼を辛そうに見た後、哀しい笑みを浮かべながら頭を撫でる。
「伍、お前が悪い訳じゃない」
「でも……僕のせいで……!」
伍は顔を上げ、彼を見る。彼は悲痛な思いで顔を歪ませていた。後悔その物であるが一夏は首を左右に振る。
「お前の所為じゃない……お前は俺や更識の為にも、散歩したいと言いだしたけど、この惨状は俺達が起こした事じゃない……」
「…………」
「この街を変えたのはILだ。男達は今まで一部の女性達に辛辣され、愚行を受けられた……」
壱夏は辺りを見渡す。街の惨状は目を背けたくなるようなばかりであるが彼は再び伍を見つめる。
「それがILの存在で大きく変わり、世界その物が反転している……だが、俺達は俺達だ」
壱夏は目を附せる。
「……俺達は持ってる……強大な物を、ISを超える存在を……が、俺達は変わってはいけない。俺達は自分を見失うわけにはいかない……」
一夏はそう言った後、彼の頭に手を置く。
「俺達はもう……否、俺達のすべき事は安心した生活を送るだけだ。俺達は……」
壱夏はその先を言わなかった。これ以上、言葉が出なかったのだ。これ以上、伍を心配させたくない、彼自身そう思っているからだ。壱夏は辛そうに項垂れた。
「お兄ちゃん……?」
ごは彼を心配そうに見た。が、彼は何の反応もない。これには伍も泣きそうになった。自分は彼を傷付けた、と。そんな彼等に楯無は困惑していた。
同時に彼女はある事に気づいたのだ。彼、壱夏は何かを隠している。それも、彼自身、葛藤しているのではないのか、と。彼女はそれを言わなかった。
理由は彼、伍を心配させない為でもあった。彼を心配させるのは壱夏を困らせる。そう感じたからだ。楯無は彼等を心配するが自分は何も出来ない事に後悔し、項垂れた。
伍は壱夏を心配そうに見ているが彼等はその場を動かなかった……。そして、街の至る所には復興作業が進んでいるが騒音が耳に響き、街の至る所に聴こえた……。
次回、行動。拓陸、IS学園へ。参流、戦慄の狂宴。