インフィニット・レギオン   作:NO!

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行動

 翌日、此処はIS学園の一年一組の教室。今の時間帯は自習であるが生徒達は皆、不安とも言える雰囲気を醸し出していた。

 明るい話題は愚か、そう言った事を話す気配はない。理由は簡単。ILだ。

 ILの存在かもしれないが生徒達はその事を未だに引き摺っている。何かされる、何か酷い目に遭う。それだけが彼女達を追い詰めていた。

 

「皆……」

 

 そんな中、十春は周りに居る同級生不安や哀れみを感じていた。異性の様子を心配しているが彼は男性であり、ILを扱える。

 自分は彼等を裏切るのではないか? 彼もそれで不安を感じていた。が、そんな彼に約束してくれと頼んだ者もいた。

 

「十春……」

 

 ある女子高生が十春に近づく。箒だった。彼女はと春の幼馴染みにして、約束してきた者。彼が裏切るのではないかとも心配していた。

 しかし、十春は箒に気づく。

 

「どうしたの?」

「……否、ちょっとな」

 

 十春と箒は会話する。どこかぎこちないがどんな会話をしているのかは当人達にしか解らない。が、ILに関係する事か、全く別なの者なのかも判らないだろう。

 

「……十春」

 

 そんな中、廊下には鈴がいた。彼女は困惑していた。理由は十春と喧嘩した事だった。くだらなくも、十春が悪い事だった。鈴はその事を指摘しようとしていたが話を聞ける場合ではなかった。 

 彼女もまた、ILの事で悩んでいたからだった。

 

「……うん?」

 

 刹那、近くから足音が聴こえ、鈴は反応し、振り返る。音は近づいてくるが鈴は驚いていた。顔見知りではない――同時に、此処に居る筈ではない者だったからだ。

 

「だ、誰よ!?」

 

 鈴はその人物に訊ねるが聞く耳を持たない意味で無視された。その人物は鈴を鋭い眼差しで見ただけで何も言わなかった。

 

「っ!?」

 

 鈴は戦慄した。その人物の向けてくる視線は痛々しくも冷たく感じたからだ。何かに怒っている。そう思ったからだ。鈴は警戒するがその人物は何も言わず、教室の扉に近づく。

 刹那、扉が自動で開く。同時に周りも扉の音に反応し、視線を向けた。そして、驚いたのだった。そこにいたのは、自分と同い年とも言え、全身を黒で統一した服装を纏い、眼鏡を掛けている青年だったからだ。

 そして、その青年は拓陸であった。が、彼はある人物を見据え続けていた。それは、十春だった。

 

「…………」

 

 拓陸は十春に鋭い眼差しを向けていた。怒り、憎しみ、と言った負の感情で見ている訳ではない。彼の視線は冷たくも、十春を嫌っている訳ではない。

 彼はただ、織斑十春が自分の友であり、同僚でもある一条壱夏の弟である事に気づいていたのだ。彼とは瓜二つであるが弟である事は、壱夏の口から聞かされた為に知っている。

 しかし、性格は真逆だろう。彼の場合は……刹那、拓陸は問い質す意味で口を開く。

 

「貴様が、織斑十春か?」

 

 彼の言葉に十春は瞠目する。突然ともいえるが初めて口を開いたからだ。見ず知らずとは言え、自分の名を知っている。有名人ではないがISを起動させた時点で既に有名……否、織斑千冬の弟として有名になっているからだ。

 彼はファン、と言う訳ではないだろう。が、彼が何者なのかは判断出来ない。この学園の生徒ではない事は把握しているが不審者と言う事もあるだろう。

 十春は拓陸……名を知らぬ彼に対して、そう言った印象しかなかった。十春だけじゃなく、周りの女子生徒達も同じように思っているだろう。

 しかし、中にはヒソヒソ話をしている者達もおり、彼女達は無言よりも気になっているからだろう。吐き出す意味で口を出しているのも、彼女達の本心だろう。

 周りはそれぞれの思惑がある中、音が聴こえた。駆け足とも言えるが一人だった。それに気づいたのは、廊下にいた鈴だった。鈴は音の正体を、その人物を見て驚くがその人物は教室に入る。視線が一斉に拓陸から、その人物へ向けられる。その人物は真耶だった。

 

「山田先生!?」

 

 全員の視線が真耶に向けられる中、十春が声を上げながら驚く。周りも驚く中、真耶は肩で息をしながら困惑していた。疾しい事があるようにも思えるがそう言った理由ではなかった。

 彼女は捜していたのだ。ある人物を、だ。少し前まで一緒だったのに、何時の間にかいなくなっていたからだ。その人物を捜していた意味で走っていたのだ。

 教師が廊下を走るなど、あるまじき行動だろう。が、その人物は……ついさっき、見つかった。そう……刹那、真耶は拓陸を見て、困惑しながら言った。

 

「さ、捜しましたよ、何時の間にか、いなく、ならないでください……!」

 

 真耶は拓陸を見ながら困惑し続けていた。

 

「えっ!?」

 

 周りは真耶の言葉に驚き、その直後に拓陸を見た。彼は、拓陸は真耶を見たまま何も言わない。まるで、真耶が余計な事をしたかのようにも思えるが口にしない。

 さっきまで一緒にいたが関係無い話だった。が、真耶から見れば、勝手な行動だっただろう。そして、真耶は十春達に気づく。

 

「あっ……」

 

 真耶は驚く。が、直ぐに困惑する。周りは拓陸の正体を知りたいのだろう。しかし、それでは彼等に危険が及ぶ。危険でもあるが真耶は教えなければならなかった。

 彼が後に、自分達がいる学園の者になるという事を、そして、彼は……真耶は困惑しながらも、彼を自己紹介した。

 

「か、彼は六条(むじょう)拓陸君です……そして……」

「三上の、部下だ」

 

 真耶が言い終わる前に、拓陸が喋った。

 

「!?」

 

 刹那、教室内にいる者達と廊下にいる鈴が驚愕した。否、愕然と言い換えればいいだろう。彼が、三上の部下である事に驚いているからだった。

 三上の部下で、なおかつ、自分と同い年ぐらいの彼に驚いているのだろう。十春達は誰一人喋ろうとしない。が、拓陸は十春を見続けていた。

 眼鏡を掛けていながらも、鋭い目つきは彼を捉え続けていた……。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 その頃、ここは日本の某所にあるIS委員会。そこは今、壊滅的な打撃を与えられていた。通路の至る所には女性達が倒れていた。壁に凭れ掛かりながら気を失っている女性。仰向け、横向け、俯せ等、それぞれの倒れ方をしている女性達もいた。全員気を失っているが襲撃された事を物語っていた。

 それはILを使った男達がした訳でもなく、ISに怨みを抱き、襲撃された訳でもない。しかし、ある一人の男によって、その状態にされていたのだ。

 その男は今、IS委員会の最高幹部にいるIS委員長の所に居た。

 

「……おい……貴様……委員長……か?」

 

 男は今、中年の女性を俯せに倒しながら、彼女の後頭部を踏んづけながら訊ねていた。彼の口調には怒り、憎しみが孕んでいるが敢えてそれをぶつけていた。

 返答次第では容赦しない、そう教えさせていた。女性のほうはボロボロであり、全身に激痛を走らせていた。それもその筈、彼女はさっきまで、参流に無慈悲に暴力を受けたからだった。

 それでも、彼女は参流に怨みが籠った視線を向けながら、口を開く。

 

「お、お前は誰よ……!?」

「無回答……俺の質問に……答えろ……」

 

 参流は女性の頭を踏み付ける足に力を入れる。これには女性は悲痛の声を上げそうになるが参流は慈悲を掛けない。彼はIS委員会を責めたのも、余興や遊戯しに来た訳でもない。

 彼はある事でIS委員会を攻めていた。その理由は彼が良く知っているがそれを周りには言わない。言っても、余計な行動を招くだけだった。

 今は中年の女性に問い質している以外、何もしない。が、逆鱗を触れさせる事をしない限りは……。

 

「こ、答えなさい! 貴方は誰よ!?」

「…………」

「答えないと……貴方の身柄は他の、それぞれのIS委員会に報告しといたわ!」

「……それで?」

「なっ!?」

 

 参流の言葉に女性は戦慄した。殺されるかもしれないと知りながらも無関心だったからだ。今までの男だったら、それを聞いただけで怯える。

 社会的地位を失い、暗殺される。しかし、その男からは、参流からはそう言った怯えはない。全てを諦め……否、女性から見れば彼が何を考えているのか解る筈もないからだ。

 女性は彼を見て戦慄する中、不安を隠しきれないでいた。殺される……! そう感じたからだ。

 

「な、何者よ……ま、まさか……!?」

 

 女性は気づいた。彼は三上の……刹那、大きな音が辺りに木霊した。茹で玉子を潰すような、痛々しい音だった。同時に、女性からの声は無くなった。

 息もせず、反応もないーー否、彼女は殺されたのだ。頭を潰されたのだ。既に帰らぬ人となってしまったのだ。犯人はいわずとも、参流だった。

 彼は、女性の頭を踏んでいる脚だけ、ILを展開したのだ。ILは女性の頭を難なく踏み潰すことは出来たのだ。が、参流は頭がない女性の死体を見て、なんとも感じていなかった。

 そして、彼は三上の命で動いた訳ではない。彼は独断で動いたのだった。刹那、参流は歪んだ笑みを浮かべた。快楽を、感じていたからだった。

 同時に、彼の名は三条参流、三上の部下にして、一番危険な存在。

 参流も三上に与えられた名であり、忌み数の三から取った物。三は、『惨』を連想させるからだった。

 参流……惨劇を流すと言う意味でも三上が付けたのだった。現に、惨劇は起きている。参流が起こしたのだが、彼は止める気はない。

 

「……未だ……足りない……もっと……もっと……糞野郎共を……鏖殺するまで……!」

 

 参流はそう言い残した後、歪んだ笑みを浮かべながらその場を後にした。そして、そこに残るのは、惨劇の跡のみ。

 これからも、惨劇を流し続けるつもりでいる。誰にも、止めることは、出来ない。




 次回、始動。玖牧、動く。

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