「すみません……遅れました」
肆狼と玖牧が壱夏達を思い、暗く重い話をしている頃、十春と箒は自分達が所属しているクラスへと戻るや否や、クラスの生徒達は一斉に二人を見やり、真耶ともう一人のこのクラスを受け持つ教師でもある女性も二人を見る。
真耶の他にもう一人の教師は窓側に置かれ、ノートパソコンが置かれているデスク近くにあるイスに腰掛けている――凛々しい雰囲気に何処か怒りが孕んでいる様な雰囲気を醸し出している。
整った顔立ちに腰まで掛かる美しい黒い髪をゴム紐で纏め、黒い瞳は凛々しくも何処か不機嫌で怒りをも孕んでいる。
理由としては一つしか無い――彼女は十春と箒が遅刻した事に怒っていた。教師としての使命であり、生徒達に示しがつかない意味でも怒っていた。
服は黒を基準とした女性用スーツに黒いスカートに黒いハイヒールを穿いている。
「遅いぞ織斑に篠ノ之、入学初日の二時間目から遅刻する意味でも恋沙汰を優先していたのか?」
女性は静かに訊ねる――怒っていた、誰から見てもそう思えざるを得なかった。が、真耶は二人を心配そうに見ており、クラスの女子生徒達は興味津々かつ関係ない様に気にもしない生徒達で別れていた。
しかし、十春は女性の言葉に恐れる所か訳を話す。
「すみません織斑先生――彼女とは、篠ノ之さんとは久しぶりに出逢ったのでつい、時間を忘れて話していました」
十春は申し訳なく、そして静かに語る。少し脚色しているが箒を気遣う意味でも偽っている。そこの言葉に女性は――否、十春と同じ名字を持つ女性は十春の嘘を見破った。何故なら彼女は、十春と亡き一夏の姉でもある織斑千冬である。
千冬は二人を咎めようとしたが女性は溜め息を吐く。
「全く、それは休み時間か休憩時間で話せ――取り敢えず今日は最初だから見逃してやるが、次は無いと思え――席に着け」
千冬はそう言うと、二人に自分の席に着くよう促す。二人は頷くと歩き出し、十春は教卓の前の席に、箒は窓際の一番前の席に着く。
「さて――一応全員揃った所で授業の再開をしたい――が、諸君に言いたい事がある」
千冬はそう言いながら立ちあがると、教卓の前に立つ。
「このクラスで、クラス代表を決めたい」
千冬の言葉に周りがざわつき始める。『クラス代表』と言う言葉に判らず戸惑っていた。とは言え、彼女等は新入生であり、判らない筈だ。
――静かにしろ! ――。戸惑う生徒達を千冬は一喝して黙らす。効いたのか生徒達は肩を震わすと同時に口を閉ざす。生徒達が黙ると千冬は腕を組んで言葉を続ける。
「取り敢えずクラス代表と言うのは、このクラスの委員長的な事をしてもらう――まあ、行事にはクラスの代表として強制参加してもらう――無論、決め方だが諸君らが良いと思った者の名を言えば良い――推された者は辞退出来ない、代表になった者は何か遭った以外、一年間変える事は出来無い――それを肝に命じろ」
「はい、私は織斑君が良いです!」
「私も織斑君に一票よ!」
千冬の言葉の後、我先にと女子達は自身ではなくある人物を推し始める。織斑――即ち十春であった。彼女達は彼を推薦する理由は様々であった。
共通する事と言えば、彼女等は十春をクラス代表にしたいだけであった。珍しい事ではないが単なる好奇心であり、自分達はクラス代表になれる器ではないと自覚していた――否、それに気付かない者達もいたが今は彼を推薦する者達が後を絶たない。
――ちょっ!? ――。当人の十春は困惑していた。自分が推薦されている事に困惑していた。自分が推薦される事までは考えていなかった。
否、推薦されること事体、思っていないと思えば良いだろう――彼の慌てた様子が物語っている。
「どうやら、全て織斑の様だな――では織斑……」
――お待ちくださいませ!! ――。刹那、ある女子生徒が名乗りを上げ、周りが声がした方を見る。
腰まで掛かる美しくも手入れさせている金髪に澄んだ色の青い瞳。ドレスを模した制服を纏っているが白く透き通った肌が特徴的な女子生徒であり、立ち上がっていた。
東洋人ではない――西洋人であった。しかし、その生徒は十春がクラス代表に反対していた。蒼く透き通った瞳には怒りが籠められており、憎しみをも孕んでいる。
「私は彼が、男がクラス代表になるのは反対ですわ!! それにクラス代表は実力ある者が就く物――それにクラス代表は、この私、セシリア・オルコットが相応しいですわ! それに私は学園に来たのは……」
女子生徒、セシリアは理由を述べ始める。彼女はイギリスから来た事、この学園に来たのはサーカスをしに来た事や観光しに来た訳ではない事も話した。
しかし、十春がクラス代表に就く事を反対しているのは彼女が女尊男卑に染まり、女尊男卑主義者でもあったからであった。今は女性が偉く、男性は見下される
立場になっている。
その所為で女性達は偉いと思っている者は多く、非女尊男卑主義者は少なくはない物の、偉そうなことを言える立場ではなかった。セシリアの言葉に十春は不機嫌そうになるが、反論する。
「なあ、オルコットとかと言ったっけ? どうしてクラス代表は自分が相応しいって言うの? それに理由は何だ?」
「それは勿論、私が適正検査は元より、実戦で教師を倒したのですわ! それが理由でありますのよ?」
セシリアは高らかに喜ぶ。勿論それは、この学園に入学する時に必要な、何処の学校でも必要な事だがそこを受ける者達にとっては人生を賭け、全ての努力を試される。
この学園も例外ではないが実戦は難しく、そこで選ばれる者達は教師か学園の在校生であり、何人もの受験者達が負けた。そこで落ちる訳ではないが何とか勝利した者達もいる。
セシリアはその中の一人であり、それを自慢していた。そんなセシリアの言葉に十春は何も言えない訳ではなかった。
「僕も倒したよ、教師の人を」
「な、何ですって!? 貴方も倒したのですか、教師を!?」
セシリアは驚くが十春は無言で頷く――周りはざわついてた。何故なら十春はISを扱った事も無い素人であり、倒すのは珍しいくらいであった。
が、実際は相手が自滅した為に勝利したのだが――それも十春だけは特別に一人での試験を受けた為に、それを知っているのは数名の教師だけである――そして、その教師とは、相手は真耶であった。
真耶は恥ずかしそうに俯いているが千冬は真耶を見て呆れていた。
「それにISを造ったのは日本人であり、セシリアの言動は日本を侮辱しているんだよ? 第一、ここにいる人は皆、日本人だし、教師は織斑先生――ここにいる人達は皆、セシリアの言葉を聞いて不愉快な思いをしているよ?」
「何でっすって? ……っ!?」
十春の言葉にセシリアは周りを見る――セシリアは戦慄した。周りは皆、セシリアを見て不機嫌そうに、恨めしそうに見ていた。何故ならせシリアの言動は日本を侮辱している。
言葉は凶器と言うがまさにその通りだった。最悪な場合、日英戦争に勃発し、そうなれば多数の死傷者を出し、第二次世界大戦を繰り返す事になる。
一人の言動が周りに危害を加える事もある――セシリアはそれを自覚していなかった。否、女尊男卑主義者なら尚更だろう。セシリアは周りを見て震えるが、直ぐに表情を険しくすると、十春を指差しながら宣言した。
「け、決闘ですわ!! 貴方に引導を渡してやりますわよ!?」
セシリアは十春に宣言する。それは八つ当たりでもあり、我が儘でもあった。最初にこの雰囲気を作ったのは彼女だが十春がそうしたと思っていた。
しかし、彼女が悪い訳ではないが、女尊男卑に染まってしまった為に被害者と言っても過言ではない。そんなセシリアの言葉に十春は表情を険しくすると、口を開く。
「良いよ――でも貴女なんかには絶対に負けない!」
十春は静かに怒る――日本を侮辱した事や、セシリアの言動に怒りを覚えていたのだ。そんな二人に周りは困惑するが内心、小声で何方かを応援する様に呟いていた。
「全く馬鹿共が――山田先生、クラス代表は、この二人が何方かが勝ったらで良いか?」
「あっ――はい!」
「それで、この馬鹿共の為に空いてるアリーナは有るか?」
千冬の言葉に真耶は慌ててデスクの方へと向かい、ノートパソコンを開き、操作する。
「有りました――第一アリーナです。空いてるのは一週間後の放課後だけです!」
「そうか……では此所に高らかに宣言する! 一週間後の放課後、そこでクラス代表を決める戦いをする――両者はそれまでに心身ともに鍛える様にしろ!」
千冬は宣言した。その言葉を聞いたクラスの者達はざわつく。が、十春とセシリアは互いの相手を睨んでいた。そして入学初日は、異様かつ困惑した空気と悪い空気が流れてしまった。
次回、邂逅