転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。   作:逆立ちバナナテキーラ添え

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 戒めは灯、教えは光である。

      
            『箴言』第六章二十三節


anti―no―my♯resurrectio♯lux

 湖面に雪が落ちる。 

 

 他愛の無い話をした。学園の話。友人たちの話。千冬姉の話。色々教えてくれる憧れの先生の話。どうでもいいくだらない話もした。それらを彼女は笑顔で聞いていた。本当に楽しそうに、時折紅茶を口にし、空になった俺のカップにおかわりを注いでくれた。

 

 酷く長い時間こうしている気がする。でも、五分も経っていないような気もする。ふと、そう考えると、

 

 「続けて?あなたの話をもっと聞かせて欲しいのだけれど?」

 

 「あぁ、でも随分と長く喋っている気がするんだ。まだ修復ってやつは終らないのか?時間は大丈夫なのか?箒たちは……」

 

 「問題は無いよ。ここでは時間は意味を持たない。夢なんだから。現実に支障は無いさ。後少しばかり、私とお茶会を楽しんでいれば君は目を覚ますよ。然るべきタイミング、君が出るべき場面に出るよ」

 

 カップを両手で包むように、暖かさを感じるように持った彼女は変わらず、難解な言い回しで答える。紅茶を啜る。

 

 「なぁ、俺の話なんて聞いてて面白いか?」

 

 単純な疑問として、それは当初からあった。お世辞にも俺は自分が面白い人間だとは思ってない。十五、六年間の生涯を振り返っても、面白い出来事なんて思い当たらない。物心ついた頃には両親は蒸発していたし、家には一人でいることが多かった。千冬姉は忙しそうで、箒の家に預けられることが多かった。その流れで剣道をやることになったが、正直俺は箒の親父さんが苦手だった。確かに剣道を教えてくれる事や、俺を預かってくれている事に関しては感謝していた。だが、親父面されるのは嫌だった。俺が大人の男との関わりが無く、そういう存在に戸惑っていたというのもある。しかし、俺の家族は千冬姉だけで、血の繋がりも無い他人が家族面をして俺の頭を撫でたり、叱ったりすることに気持ち悪さと嫌悪を覚えていた。何が家の子も同然、だ?俺は篠ノ之じゃないし、あんたの息子でも無い。という具合に内心ボロクソに言っていたものだ。何の話かは分からないが、千冬姉に親父さんが頑張れと言っている場面を見た。その日は自分の部屋から出なかった。千冬姉はもう頑張っている。夜遅くまでバイトして、学校行って、バイトして。あんなに頑張ってるのに、それなのにあんたはもっと頑張れっていうのか?本人の苦しさも知らない癖に、両親に囲まれて育った癖に分かったような口を訊くあんたは何なんだ?

 

 箒の姉ちゃん、束さんの事もあった。あの家はどうも束さんを嫌ってるようだった。ガキの所見だったが、そう思った。親父さんとお袋さんは逃げてるようで、箒に関しては無闇矢鱈と噛みついているような印象を受けた。別に束さんの人格に問題があるとは思わなかった。寧ろ話しやすい人だと思った。よく暇潰しの相手になって貰った。あの頃から天才だなんて呼ばれていて、排他的だけど、身内や認めた相手にはベタベタしていた。

 

 稽古が終わって道場でぼうっとしていると束さんが来てアイスをくれた。二つに割るタイプの物で、味は決まってチョコだった。冬はココアで、春や秋は紅茶。砂糖を沢山入れて甘くして飲むのが束さんの飲み方だった。

 

 「そんな顔してると、ちーちゃんが心配するぞぉ?ほら笑え、笑え」

 

 時折、そう言いながら束さんはアイスを食べてる俺の頬を引っ張った。聞くと、酷い顔をしていたらしい。ストレスか稽古の疲れかは分からないが、確かにその時の俺はやる気やそう言った物を無くしていた。親父さんや箒にバレれば怒鳴られる事は間違い無かった。そんな俺の頭を太股に押し付けて束さんは言った。

 

 「少しは肩の力を抜きなよ。ここが君にとって、居心地の悪い場所でも、そんなに肩肘張っていたら皹が入っちゃうよ?スライムになれ!!」

 

 何だかんだ、俺が潰れなかったのは束さんのおかげだと思う。その後は、白騎士事件が起きて、箒たちは引っ越して俺が無為な数年を過ごして今に至る。何の面白味もない人生だ。

 

 「面白いよ。すごく面白い」

 

 彼女はカップに紅茶を注ぎながら言う。靄が掛かっていて見えないが、笑っているのだろう。

 

 「私はあなたの話を聞いているだけでいいの。あなたがどういう道を歩いてきたか、今どういう道を歩いてるのか。あなたにとってはありきたりでつまらない物だとしても、私にとっては宝石みたいに輝いて見えるんだよ。あなたは特別な存在だから、あなたの周りはすごく綺麗な一枚の風景画みたい」

 

 「そうなのか?それに、特別な存在って?」

 

 「特別な存在はそのままの意味だよ。自分の存在の特異性については正しく認識している?」

 

 「よく分からないな」

 

 「あなたは何から何まで特別なんだ。あなたの姉、姉の友人、あなたの単一仕様能力(ワンオフアビリティ)。全て、特別。その資格があった。本当の一人目なんだから」

 

 「本当の一人目?」

 

 「本来、男性操縦者は一人だったんだよ。あなたしかいなかった。新しく誕生する事は無かった。これは初めから決まっていた事だよ」

 

 「でも、じゃあ石井先生はどういう事なんだ?あの人が一人目だろう?おかしいじゃないか」

 

 「うん。おかしいよ。でも、あの人は真性の例外(イレギュラー)だ。本来存在する筈の無い二人目(一人目)。黒い鳥。猟犬。予期してなかった事態だったよ。あれほどの存在が出てくるなんて、驚いた」

 

 「つまり、どういう……」

 

 「よく分からない。こう言うしか無いね。まぁ、そんな存在が見出だした可能性という点もあなたを特別足らしめる一因なんだけどね」

 

 可能性や資格。例外と特別。理解できない物ばかりが増えていく。本来存在しないとか初めから決まっていたとか、これではまるでプログラムに沿って生きているようではないか。俺の何が可能性なんだ?資格とは何だ?何が特別なんだ?そもそも、目の前の彼女は何なんだ?名前も知らないし、知ろうともしなかった。それを疑問にも思わなかった。明らかにおかしいだろう。ここは、本当に夢か?

 

 「うん、大分修復が進んだようだね。そのせいであなたの頭の中がぐちゃぐちゃになっていると思う。疑問や不審が沸き出てくるよね?どうやら、フェーズシフトの際に負荷が掛かったみたいだ。ごめんなさい。こちらの落ち度だね」

 

 テーブルと椅子が消える。湖面は白く濁り、いつの間にか積もった雪が凍り始める。空は暗くなり星が瞬き始めた。再び、焦点がズレ始める。立っていられない。膝を着いて、氷の床に倒れこむ。冷たさは感じない。

 

 「何が……?」

 

 「お開きの時間が来ただけだよ。夢は覚めて、あなたは戦いへと戻っていく。私はそれを今まで通りに見守る。それだけ」

 

 「戻れる……のか?」

 

 「そうだよ。あなたとのお茶会は本当に楽しかった。ありがとう、織斑一夏。何となく、あの人が可能性を見出だした理由が分かったような気がするよ。また、一緒にお茶をしよう。まだまだ、あなたの話を聞きたい。善い話も、悪い話も。私にあなたを理解させて欲しい。あの子とあの人のように、私もあなたとならまた新しい形を得られるかもしれない」

 

 「よく分からないけど、一つ教えてほしい。君の名前を教えてくれ」

 

 薄れる意識と遠退く感覚の中で俺は彼女に訊いた。きっと、彼女とはまた会う。確信があった。どんな形であれ、俺は彼女に助けられ、今後も彼女の世話になるだろう。知る義務があった。

 

 「名前ね。私やこの場所では名前も時間同様に大した価値は持たないの。だから、私には名前は無い。でも、そうね……ニクス。ニクスと呼んでよ」

 

 ニクス。その三文字を噛み締め、頭に焼き付けて俺は意識を手放して、目を閉じる。聞こえたかは不安だが、ありがとうと言う。また会おう、とまでは言えなかったけれど。

 

 

 「うん。そうか。あれが『特別』か……。悲しいな。いくら才能があっても、あの人には勝てない。いつか、あなたが可能性を開花させた時、あの人は……。黒と白は交わらない。だから、私は私に出来ることをしなくちゃ……評決の日までには……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 大気が沸騰したと錯覚する程の熱が放出される。極光、青い光は一帯を白く塗り潰し、ホワイトアウトに似た物を起こさせる。焦げた臭いが鼻をつく。

 

 背後からの衝撃を感じる。オレンジ色の機体が背後から蹴りを入れたようだった。腕には見覚えのあるパイルバンカー。

 

 「ちょっとばかり、効くからね?」

 

 しかし、それは福音の記録にある物とは比にならない威力を持っていた。有澤重工製パイルバンカー『KIKU』。シャル・有澤が搭乗する、有澤重工製試作型第三世代機『RAKAN』に搭載された新兵装。従来のパイルバンカーと一線を隔す威力を叩き出す凶悪極まりない切り札。しかし、

 

 『Aaaaaaaa──!!』

 

 同じ轍は踏まない。新しく発現した高熱量のエネルギーを圧縮した翼でシャルを薙ぎ払う。それに吹き飛ばされるシャルだが、ただではやられない。RAKANの装甲は非常に堅牢だ。しかし機動性を低下させない。そしてもう一つ、ギミックがある。

 

 福音が炎に包まれる。それは内装系へと負担を掛ける。装甲内に作られた格納スペース。そこに仕込まれた対IS用発火(ナパーム)ロケットが福音を焼く。鎮火させようと、海中へ向け急降下する福音をオレンジの機影が追う。右手にはKIKU、左手には火炎放射機『NICHIRIN』。RAKANが突っ込んでくる。しかし、二次移行(セカンドシフト)した機体には、いくら第三世代機と言えども通常の機体では追い付けない。このまま行けば、海中へと浸入、そこを鎮火に成功した福音に狙われてやられてしまう。

 

 海中へと突入しようとする福音の動きが止まる。見えない鎖に繋ぎ止められたかのように機体を震わせ、海上数メートルで静止している。そして数瞬遅れて福音の周囲を青いビットが取り囲み、掃射を始める。不可視の砲弾が着弾する。ミサイルと狙撃が爆ぜ、貫く。側面からは高濃度のエネルギーを限界まで圧縮した紅色の斬撃が飛来する。そして、KIKUとNICHIRIN。

 

 シュヴァルツェア・レーゲンのAIC。ブルーティアーズのBT兵器と狙撃。甲龍の衝撃砲。紅椿の高エネルギーを圧縮して飛ばす斬撃。RAKANのパイルと熱攻撃。全ての機体の最大火力を一点に収束させた攻撃。全てが着弾し、NICHIRINの炎に照射された福音の機体表面温度は八百度を越えた。そこに打ち込まれたKIKU。福音は海中に墜ちる。

 

 そして何事も無かったかのように、海中から上がり唄いだす。

 

 『福音、損傷率二十六パーセント……ラッパが来ます!!散開してください!!』

 

 直後、再び極光が辺りを覆う。 二次移行(セカンドシフト)を果たした福音の新兵装、『黙示録のラッパ(アポカリプストランペット)』。背後に発現した翼がエネルギーを収縮させ、それを放出する。白式を墜とした兵装でもある。

 

 この時点で戦闘が開始されてから十五分が経過していた。二次攻撃、作戦の第二段階として委員会が提示したのは残存戦力を全て投入して福音を撃墜するという物。つまり、第二防衛ラインにいた専用機持ちだけで福音を撃墜しろというのだ。ラプターは三沢へ帰還し、通信は繋がらない。意図的に切られていた。

 

 作戦は単純。兎に角、撃つ。それだけだった。敵機の情報はゼロ、予備の打鉄は旅館の警備に回っている。たった五機で死にに行く。命の値段が途端に安くなるように思えた。箒には鎮静剤と向精神薬を投与して無理矢理引っ張り出した。そうしなければ、生存率はぐっと下がる。慎重に攻めなければならない、しかし絶対に墜とさなければならない。八方塞がりという言葉がそのまま当てはまる状況だった。

 

 「弾は?」

 

 「カツカツ。でも、まだ大丈夫。まだやれる。そっちは?」

 

 「幸か不幸か、実弾兵装は積んでないから。その手の心配は大丈夫よ。意気込みって事なら、まだまだ。墜とすまで、墜ちないから。ラウラは?」

 

 「レールカノンの砲弾はまだ余裕がある。だが、パンツァー・カノニーア(砲戦パッケージ)はパージしたから、威力は期待しないでくれ。あんな物付けてたら、今頃水底だ」

 

 シャル、鈴、ラウラが再び仕掛ける。シャルが背部兵装のグレネードキャノンを撃つ。続けてジャマーロケットでレーダーに極微量ながらジャミングを掛ける。無いよりはマシだ。そして爆煙の中から鈴が飛び出して斬りつける。刃が止められた瞬間に零距離で衝撃砲を発射。即座に距離を取る。鈴が福音から離れると同時に福音にレールカノンが着弾。福音の体勢が崩れる。そこに箒が一太刀入れる。

 

 福音は未だ健在。そして、翼を振るう。光弾が撒き散らされ、近辺に展開していた四機が被弾してしまう。損傷率平均六十パーセントオーバー。離脱を推奨するレベルのダメージ。ガワはいい。内装が想定よりも酷かった。このまま戦闘を続行すれば、被弾云々より早く不時着か爆散。

 

 射程外(アウトレンジ)からのセシリアの支援も精細さが欠けてきていた。遠距離からのビットの操作は彼女の脳に大きな負担を掛けていた。それと平行しての狙撃。通常の何倍もの負担で、頭は割れそうな痛みに纏わり付かれ、正確な操作が出来なくなっていた。ここまでやって、三割弱しか削れていない。

 

 翼が増えた。一対二枚が二対四枚に。光が収束する。本能が叫ぶ。全力で逃げろ、死ぬ、と。でも、避けられない。機体が動かない。ECMでも無い、仕掛けが分からない。

 

 光が放たれる。ラッパが吹かれる。

 

 そして極光が視界を潰す。

 

 『不明機……IFFに反応……?海中から……これは……嘘!?』

 

 福音が白い柱に呑まれた。

 

 『白式……再起動……』

 

 誰かが描いた、予定調和の脚本が破り捨てられた。

 

 

 

 




 減り続けるお気に入り、下がり続ける評価。

 どうせみんないなくなる。

 そんな感じで思い付いて止めた没ネタ。







 一夏「ラウラ……」

 ラウラ「嫁……なのか……?」

 一夏「システムとクロッシングしたい。白式と同じように出来る筈だ」

 ラウラ「今更お前が……何を……」

 一夏「ラウラ、お前はこの学園だけが楽園だったって言った。俺はその意味も、お前が考えてることも分からないまま、ただお周りが言う通り戦った。だけど今は……少しだけ……分かる気がする」

 ラウラ「……何が分かった?」
 
 一夏「お前が……苦しんでたことが……。俺たちが何も知らない時から、お前は学園を守ろうとしてくれた。千冬姉のときも、束さんのときも、お前ひとりで痛みを背負ってた。お前は決して……」

 ラウラ「……その機体の識別コードは?」

 一夏「00-ARETHA」

 ラウラ「クロッシングのために機体を登録する……五秒待て」

 一夏「ラウラ?」

 ラウラ「すぐに済む」









 最も危険な罠、それは家族。巧まずして仕掛けられたベッドの闇に眠るお父さんっ子(意味深)。それは、突然に目を覚まし、束の間の休息を打ち破る。自宅は巨大な罠の筵。そこかしこで信管をくわえた不発弾が目を覚ます。
次回、『罠』。石井も巨大な不発弾。自爆、誘爆、御用心。


 という嘘予告その3。やりません。

 御意見、御感想、評価お待ちしてナス!!



 毎回、誤字報告を下さる読者様、本当に助かってます。ありがとうございます。至らぬ作者なので、今後ともドンドン指摘してくださるとありがたいです。



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