転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。   作:逆立ちバナナテキーラ添え

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 ハンニバルはいかに勝つかということを知るも、いかに勝利を利用するかを知らず。


                        プルタルコス 「英雄伝」より


anti―no―my♯possibilitas♯violentus

 

 圧倒的。その一言に尽きた。

 

 機影は閃光と化し、凡そ視認できる速度域には無かった。幾度となくぶつかり、互いを墜とそうとする。一方は貫いて、一方は光で消し飛ばそうと。雪のように無垢な白と、銀のように輝く白が舞う。

 

 白式・雪羅。再起動した白式は二次移行(セカンドシフト)を果たした。新たに発現した武装、『雪羅』の荷電粒子砲による直下からの奇襲により福音は損傷率を大幅に上げる事となった。その構図は意趣返しか、再現か。白式が撃墜された時と同じ物だった。

 

 雪羅が福音の装甲を掠める。格闘戦を想定されて取り付けられたその鋭利な爪の一つ一つには零落白夜が纏っている。掴まれる、貫かれる、その爪に触れてしまう行動、結果の全てが福音の死へと繋がる。装甲を掠めただけで、抉れて内装が顔を覗かせる。銀の鐘(シルバーベル)を展開し、弾幕を張って距離を取っても、それを掻い潜り喉元にその爪を突き立てようとしてくる。

 

 福音はこの状況に於ける最適解を思考する。自分と同じフィールドに立った強者との戦闘は福音にとって、好ましい物とは言えなかった。福音の本領は格下の有象無象を皆殺しにする殲滅戦。二次移行を果たした近接格闘機とのドッグファイト、こと白式との戦闘は避けるべき物であった。故に、初めに白式を墜としたのだ。専用機六機の中で一番の脅威足り得るのは紅椿ではなく、白式だから。そしてこの状況は福音、そして背後にいる者にとって別の意味も持つ。そこから導きだされる結論、最適解は撤退。福音はスラスターを全開にする。ソニックブームが発生し、一気にトップスピードに到達する。これまで散々、蹂躙の限りを尽くして来た者とは思えない程の全力の逃走だった。

 

 しかし、福音の機動は止まってしまう。左腕を掴む大きな純白の手。そして、それは容赦なく腕を握り潰した。美しい唄が響く。悲鳴というよりは嘆き。逃れられなかった事への嘆き。白式に増設、強化されたスラスターは容易に福音の尻尾を掴んだ。

 

 すかさず、右腕も掴む。無理な方向へ捻り、剥奪する。人の身体ならば腕を三百六十度捻り切った形だ。両腕を奪った。損傷率、七二パーセント。

 

 白式を蹴り、距離を作った福音は翼を顕現させた。最大稼働。三対六枚の翼。凛然と輝く翼に光が収束していく。尾を引きながら一点へ圧縮され、放出されようとしている。

 

 白式の左腕──雪羅に紫電が走る。爪が青白く輝き、オーバーフローしたエネルギーが稲妻となり放出される。ジェネレーターは限界寸前。何とか規格に収まる程の力。零落白夜の新たな姿。可能性の一端がここに花開く。

 

 閃光と閃光の衝突は凄まじい余波を起こした。海面は荒れ、波打ち、今にも割れそうな様相を呈する。終末をもたらす光と必滅の一撃。大気が逆巻き、雲が出来る。夜闇は消え、光が満ちる。二次移行機(セカンドシフトマシン)同士の一騎討ち。次元の違う戦いに、専用機持ちたちも発令所にいる者も、ただただ口を開け、傍観者に徹する他無かった。

 

 エネルギーを消滅させ、消滅させられた傍から、また新たな、膨大なエネルギーを送り込み、それをまた消滅させる。千日手とも言えるようなぶつかり合い。黙示録のラッパと零落白夜は拮抗していた。これは福音のジェネレーターの性能の高さのおかげであると言えるだろう。零落白夜の処理速度を越える効率でエネルギーを生成し、ラッパへ回す。土壇場に於いて、闘争の中で福音はもう一つ進化したのだ。両腕をもがれ、満身創痍の状態でのその現象は闘いの中にある可能性を示す物だった。

 

 翼に皹が入る。光は細くなり、切り開かれていく。

 

 『あ゛あ゛──あ゛あ゛Aaaa──あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛aa──あ゛あ゛Aaa──あ゛!!』

 

 それは誰の声か。美しい唄は聞こえず、鬼気迫る叫びが木霊する。それは酷く人間味に満ち、否、人間そのものだった。

 

 掻き消される。極光は白夜に裂かれ、御使いはその胸を貫かれた。福音は失墜した。

 

 『──これで──いい──』

 

 ハスキーな女の声だった。誰の声かも分からない。ほんの一瞬、一言だけ。ノイズ混じりの通信だった。そして福音は完全に停止した。翼が砕け、霧散し、雪を降らせる。夢のような光景。専用機持ちたちはその光景と空に佇む白式──一夏を見ていた。

 

 菫色の空と燃える雲。空の彼方、地平線から暁光が海を照らす。眩しさに目を細めながら、終わりを実感する。

 

 ラウラが変わらず佇んでいる一夏に声を掛けようとした時、発令所からの通信が入る。

 

 『所属不明機一機、IFFに反応無し……そちらに急速接近中!!戦闘体勢を……』

 

 『あ、その必要はないよ?』

 

 場の緊張を壊す、甘ったるい気の抜けたような声が通信に割り込んできた。篠ノ之束だった。

 

 『あっちには、いしくんがいるから。君たちはさっさと撤退してね?多分戦闘にはならないと思うけど、万が一があるから。いっくんを担いでとっとと帰りたまえよ』

 

 夜が明ける。織斑一夏の夢も覚める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 海上に二機のISが対峙していた。漆黒の全身装甲(フルスキン)。そして、黒と血のような赤を要所に散りばめた機体。

 

 「久し振りね。猟犬。ご機嫌いかが?」

 

 「いつも通りだ。変わりはない」

 

 「いつも通り飼い主に尻尾を振ってるのね?犬らしいわね。本当に残念だわ」

 

 朝日が二機を照らす。猟犬は装甲の下で顔をしかめた。この女と話すのはごめん被る、嫌いだ、と。嫌いな朝日と相まって、今の彼は嫌いな物を二つ突き付けられている状況だ。心底忌々しそうにライフルを握る。

 

 「ねぇ、あなたこちらに来ない?」

 

 ほら、まただ。また始まった、と舌打ちをする。猟犬が目の前の女と話すことを嫌がる所以がこれだ。彼は辟易していた。

 

 「何度も言うが、私はそちらに付くつもりは無い。しつこいぞ」

 

 「何故かしら?私はこんなにもあなたを求めているのに……」

 

 女は装甲越しに下腹部を擦る。

 

 「私を墜としたあなたならば、私のパートナーとして十分……いや、十二分なのに。ツンドラの大地に叩き落として、そのライフルで私の身体を貫いたあなたなら。いえ、それ以前にあなたはこちら側の人間だと思うのだけれど。どうしてあんな気狂い兎のペットなんかやってるのかしら?あなたはそんな殊勝な人間じゃないでしょう?」

 

 「買い被りにも程があるな。私は一介の、どこにでもいるような凡百の存在だよ。お前の言う殊勝な人間かどうかは置いておくとして、彼女と私の間には契約があるのでね。そう易々と飼い主に噛み付く気は無い。それに、私はお前が苦手だ。何故、そうも私に付き纏う?」

 

 あなたが欲しいから、と女。冗談じゃない、と猟犬。互いにある程度面識があるせいか、一触即発の状況でも表面上は軽口を叩く程度の余裕はあった。

 

 「冗談を抜きにするとね。我々はあなたの力が欲しい。その圧倒的な暴力が。世界を壊せる力がね。我々の悲願には強い力が必要なの」

 

 「それで世界を変えるとでも?」

 

 「えぇ、あるべき姿に戻すの」

 

 「笑わせないでくれよ、アート。お前らの言うあるべき姿と言うのは、人間が何の意義も持たずに壊死していくだけの無菌室だ。それは結果的に終わりを早めるだけだ。ある意味では地獄(ад)とも言えるな。お前の名と同じだ。進化を許されない、袋小路に入った世界だからな。全ての人々が争わずに済む世界など存在しない」

 

 「それでは、このまま世界の流れに身を任せろと?いずれ来る、世界中が、この星が燃える程の争いを何もせずに迎えろと?争いを、戦争を、死を肯定しろと?ふざけないで。闘いの先に何があるというの?何も無い。何も残らないわ」

 

 いいや、と猟犬は否定する。地獄(ад)の名を背負う女──アートを否定する。それは以前の猟犬には出来なかった事だ。しかし、可能性が芽吹き始めた今、彼は確実に、断固としてそれを否定できる。

 

 「私も前まではそう思う時があった。矛盾する二律背反に悩まされた。だが、今なら。織斑一夏が、白式が、福音が可能性の一端を発現させた今なら、はっきりと言える。闘いこそが人間の可能性だ。その先に答えがある。彼は世界を変える。そして必ず……」

 

 猟犬は黙る。彼が見出だした可能性の先、その結末。予測される未來。大きな不確定要素。希望的観測が頭を巡る。彼の争いを忌避していた心、それと共通した因子を持つ織斑一夏。後天的な物では無く、先天的に備わっていたそれは彼の機体──白式に確実に影響を及ぼしている。

 

 「逆にお前たちが介入することによって更に混迷を極めるだろうな。今回の一件で、パワーバランスに大きな皹が入った。もう、戻れない。お前たちも理解しているだろう?既に流れに巻き込まれていると」

 

 「それでも、逆らう事は出来る。そんな物に賭けて、滅びを座して待つなんて冗談じゃない」

 

 「だから織斑一夏を殺す?」

 

 「えぇ。あれは危険よ。首輪の付いてない狂犬よ。あなたのように物を考えられるだけの頭を持っている訳でも無い。誰にでも噛み付く、何処にでも飛んでいくイレギュラー。私たちだけじゃない。他の勢力も危険視し始めるでしょうね。だから、今殺すの。確実に殺せる、今ね」

 

 「そうか。なら、私はお前を通す訳にはいかないな。少なくとも、私は彼を評決の日までは守らなくてはいけない。彼が答えに辿り着くまでは。芝居は終わった。もう、演者はいらない。元より、亡霊共に役等無いがね」

 

 だがまぁ、と猟犬は一拍置く。

 

 「そろそろ帰る時間だと思うのだが?」

 

 アートの機体に通信が入る。それは撤退命令。覆る物では無かった。

 

 「お前の上は案外と頭が回る。だから分かったんだろう。お前の単一仕様能力(ワンオフアビリティ)では墜とせない、逆に戦力を失う、と。いくらシングルナンバー同士の連戦とはいえ、今の白式には勝てない。一夏君相手に出直してくるんだな」

 

 歯軋りをする音と拳を強く握りしめ装甲が軋む音。アートは何も言わずに身を翻し、去っていく。

 

 残された猟犬──石井は溜め息を吐いて、燦々と輝く朝の太陽を見る。カメラアイが目と同様に細まる。腹が減った、そう呟いて石井もその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 崖の上、満足そうに笑う女が一人。余程機嫌が良いのか、鼻唄を歌っている。

 

 「いやぁ、いい朝だね。ちーちゃん」

 

 その背後には黒いスーツを着た女がいた。鼻唄を唄う女、束とは対照的に千冬は今にも束を噛み殺さんとする程の鋭い視線で睨み付けている。

 

 「説明しろ、何もかも」

 

 うぅん、と束は唸る。形の良い顎に手を当て、空を眺める。

 

 「まずは、お疲れさま。つまらない劇の役者になった気分はどうだった?」

 

 「今回の件は全てお前たちの仕業か?」

 

 まさか、と束。鼻で笑った。

 

 「まぁ、今回の件はね、委員会と機構……というよりは企業が仕組んだんだよ。いしくんは初めから気づいてたけど、ごり押しして何とかするつもりだったみたい。全部墜として、お客さんもお帰り願うつもりだった。でも、少し事情が変わってね。私が出て、久し振りに猟犬として仕事して貰ったんだよ」

 

 「仕組んだ、とは?」

 

 「そもそも、福音を暴走させたのは委員会さ。福音の中に、新型の無人操縦プログラムを仕込んで起動させた。厳密に言えば、暴走なんかしていない。あれは正常に機能していた。そしてラプターにも同じようにプログラムをインプットした。ただ、福音とラプターとでは中に入れたプログラムのタイプが違うみたいだけどね。電子化してインプットした元人格の残留率の違いだったかな?福音の方が書き換えが緩い方だったみたいだね、最後に元の人格が出ていたし。これが今回の件が仕組まれた要因の一つ、新型の無人操縦プログラム、『ファンタズマ』のテスト」

 

 「電子化してインプット……?何を?」

 

 「思考、意識、人格。人の魂と言うべき物を」

 

 千冬は口を噤む。言いたい事は山ほどあるが、それよりも聞くべき事の方が多い。それで、と次を促す。

 

 「二つ目、いっくんの排除と福音の二次移行。これに関しては、理由は分からないなぁ。多分、一部の連中がいっくんが予想以上に結果を出しすぎて目障りになったとかなんじゃないかな?いしくんみたいになるとでも思ったとかね。本命は福音の二次移行だけど、これは上手く行ったね。ラプターと戦わせて、データを取りつつ、福音へ二次移行を促す。つまり、いっくんは片手間さ」

 

 「人の弟を片手間で殺すだと?」

 

 「連中に怒っても仕方ないよ。君に何が出来る訳でもないんだから」

 

 親友の珍しい辛辣な言葉に千冬は驚いた。これまで、自分には向けられた事の無い君、という二人称。薄く開かれた目。彼女には眼前の女が全く知らない別人に見えた。

 

 「三つ目、最後はパワーバランスを壊す目的。現在の国家が力を持つ世界に皹を入れてパワーバランスを歪める狙いがあった。そして事実、それは成功した。国家が管理していた福音が暴走。それを企業が開発したラプターが撃墜。しかし、二次移行して再起動し、未来ある代表候補生と織斑一夏を殺害。それを再び企業が墜とす。こんなシナリオだったかな?少しばかり筋書きは変わったけど、先に言ったシナリオと同じように、国家、取り分け世界の警察の威信は揺らいだ。国家という枠組みでのISの管理に疑問を提唱するぐらいは出来るだろうね。企業主体の管理、企業が主体となった委員会や機構による一括管理。それはISだけに留まらない。きっと、あらゆる物を企業が管理するようになる。戦争、食料、資源。そしていつか大きな戦争が起こる」

 

 「それで、それを止める為にお前たちが出てきたということか?」

 

 「違うよ」

 

 事もなさげに、束は言い放った。そんな事はどうでもいい、と表情が語っていた。

 

 「私がしたのは本来のシナリオよりは幾らかマイルドなシナリオを用意したことと、いっくんの生存と安全の確保。別に止める必要は無いし、止められないよ。ちーちゃんや私がどんなに足掻いてもそれは来るよ」

 

 「一夏の安全?生存?何故、一夏と白式は再起動した?それに、二次移行まで」

 

 「いっくんと白式は今後、企業の連中には狙われない。保証するよ。貴重なシングルナンバーコアの二次移行機だからね。おいそれと手を出すバカはいないよ。白式にはフェーズシフトするだけの経験と要素が貯まっていた。だから、二次移行するように仕向けた。それが最善の策だったからね。そしていっくんは予想通り、可能性を開花させた。まだ満開では無いけれど、まだまだ進化していく筈だよ。そしていつか、世界を変える」

 

 「シングルナンバーコアだと!?まさか、あれは……」

 

 「そう、これで九機全て目覚めた。評決の日、いっくんが答えを得たその時、可能性と暴力がぶつかる。その先に本当の答えが出るよ。新たな人類の転換点。全てが焼き尽くされるのか、新しい時代を迎えるのか。それまでは何があってもいっくんは私といしくんで守るよ」

 

 太陽が姿を現した。崖の前をシュープリスが通過した。束は手を振る。

 

 「ISを作る前から狂っていた。いずれ来る終わりが早まっただけ。今更、システムが変わったぐらいで滅びる程、人間は弱くないさ。人類に新たな黄金の時代を……」

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 





 前回の没ネタのせいで、ラウラがマークニヒトに乗って「無に還れェェェェ!!」って言いながら不元気玉とか皆城ドーナツ投げてる夢を見ました

 シャル「ボーデヴィッヒさん謝って」

 特に理由の無い謝罪要求をラウラが襲う。




 私たちは待った、数年の焦燥と共に。瞼の裏に揺らめく大きな背中、甘い香り。
 最早追憶は、倫理と共に時の彼方か。だが、炎は突然に蘇る。ベッドの軋みと父の驚愕。
 イグニッションブーストに載せて脳裏を駈ける遺伝確率0分の0、脳内麻薬の衝撃
 「崩壊倫理イシイズモラルハザードファイルズ」背徳の父娘は存在するか?



 ていう嘘予告その4。相変わらずやりません。

 そろそろ、ボトムズ以外の奴もやろうかなとか考えてます。

 でも、石井家長女クロエ・クロニクル。戦慄の戦略動議発案!!とかもやりたい。



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