転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。   作:逆立ちバナナテキーラ添え

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 全 然 ボ ッ ク ス ガ チ ャ 引 い て な い 。





 一気に寒くなってきましたね。作者は風邪を引きました。皆さん、どうかお気をつけください。

 そんなこんなで、熱とくしゃみに手伝ってもらったほんへ。

 どうぞ。


欠陥

 

 

 

 冷たい、氷や鉄のような心。温度は無く、輝きは無い。不変、平坦、恒常。揺らぎも無い。

 

 『それなら、私が君に心を教えてあげる。君が何処かに置いてきてしまった大切な物を、取り戻す手伝いをしよう。君は、人形じゃないんだから』

 

 何時か、何処かで言われた言葉だった。何処で言われたか、何時言われたか覚えていない。いや、上手く思い出せない、と言った方がいいか。どちらにせよ、私は今さっきまでこの言葉を忘れていた。頭の奥を掻き回されるような強烈な不快感と共に、この言葉がサルベージされた。

 

 暖かなコーヒー、白いレースのカーテン、ベージュのエプロンと白いシャツ。度の弱い眼鏡と、後ろで一つに縛った綺麗な長髪。髪の色は、何だっただろう?そんな女性が浮かぶ。こちらを見て、にこやかに笑う。私も笑い返していると思う。豆を挽いていた彼女は私の向かいに座って、何かを話し始めた。砂嵐のようなノイズが声を掻き消して、私の耳に彼女の声を入れる事を阻む。それがもどかしくて、仕方ない。彼女の声を聞きたい。彼女と言葉を交わしたい。彼女に謝りたい。これまでの事、迷惑をかけた事、逃げてしまった事、傷付けてしまった事を。許されないだろう。これは夢なんだろう。それでも、()の言葉で、■■■■として彼女に謝りたい。

 

 嗚呼。何故、忘れてたんだろう?こんなにも大事な事を。何よりも大切な思い出を。いや、忘れてたんじゃない。忘れたんだ。自分の意思で、思い出を薪にして、燃やして、糧にしたんだ。全く、自分の事ながら呆れる。ここまで擦り減っているとは思わなかった。馬鹿にも、愚かにも程がある。

 

 そうやって、これからも捨てていくんだろう。そういう道を選んだんだ、仕方ないと否が応でも割り切るしかない。これを彼女が見たら怒るだろう。私の選択を許さない筈だ。それでも、私があれに言った言葉を違わない為に私は歩き続ける。きっとそれが私が願った事だから、後付けの心でも願った物は本物だと信じているから。彼女が教えてくれた心は、まだ燃えているから──

 

 『ならば、私が君を助けよう。君を何からも守ろう。私が君だけの正義の……いや、君の味方になろう。大丈夫。私は負けない。さぁ、依頼してくれ……』

 

 残滓すら燃やして闘おう。あれが求める物の為に、全てが辿り着く場所まで──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──?」

 

 そうして彼は今日も起きる。頬を伝った涙の跡に気付かず、決定的な物を忘れたまま。

 

 『ごめんなさい……』

 

 少女の声がした。それは誰の耳にも入ることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 少しばかり空が高くなっても、残暑は中々穏やかにはなってくれない。未だに蝉が鳴くこともある。近年の地球温暖化のせいか、暦上はすっかり秋という季節になっている筈なのに陽射しは肌を焼く。どんどん日本の気候は崩れていく。その内、四季なんて物は無くなってしまうのではないだろうか。

 

 「先生」

 

 物思いに耽っていた石井を呼ぶ声。リーバイスのジーンズにシャネルのティーシャツを着た一夏だった。電柱に寄り掛かる石井を見ると、小走りで向かってきた。ゆっくりと石井も電柱から背を離して手を上げる。

 

 「どっちに乗りたい?」

 

 駐車されている二台の愛車を見て石井が聞く。一夏は目を輝かせながら唸る。決めかねているようだった。ロードスターを見たと思えばGTRを見て腕を組んで天を仰ぐ。苦笑いしながら、石井はタバコに火を付けた。ロードスターの周りをぐるぐる回ったり、GTRの前で座り込んだり、見ていて飽きる物ではなかった。

 

 「決められないです……」

 

 一夏が出した答えはそれだった。計五分間、駐車場で悩んだ結果は情けない物だった。石井は予想通りの展開に内心微笑ましく思っていた。彼もまだまだ子供だな、と。

 

 「それじゃあ、ロードスターにしよう。今日は暑い。風を浴びることにしようか」

 

 キーを回して、シートベルトを閉める。一夏が助手席に座るのを確認すると、エンジンを吹かしてアクセルを踏む。駐車場を出て、学園と本土を繋ぐ橋の検問所で手続きを済ませて赤い車体は走り去っていく。

 

 助手席の一夏にサングラスを投げ、目を指差す。掛けろ、と促す。タバコを咥えている為、口を開けなかった。レイバンのサングラス。石井が以前使っていた物で、今使っている物の予備として車に積んでいる物だった。

 

 「どうですか?」

 

 「似合わないな。まだ若い」

 

 じゃあ何で渡したんだ、と喚く一夏を無視して音楽を掛けた。ひたすら真っ直ぐな橋を大音量の音楽を流しながら走る。一夏が合わせて歌っている。大して上手くはなかった。かと言って、石井の方が上手いかと言われればそういうわけでもない。どっこいどっこい、と言った所か。

 

 発端は数日前だった。織斑一夏と愉快な仲間一行は昼食を取るために、食堂へ来ていた。食券販売の列に並び、各々が食べたい物を浮かべながら雑談に興じていた。何時も通りの昼休み。美味い飯を食い、満たされる。それだけの筈だった。

 

 「おや、君たちもここで昼食を?」

 

 彼らに声をかけたのは副担任の石井。列の隣を通りすぎようとしている所を立ち止まる形で彼らと話している。彼らは何時も通りに受け答えをする。あぁ、先生も食堂で食べるんだ。セシリア・オルコットは思ってもないチャンスに口角を上げる。これは石井と共に食事をする絶好の機会。今まで何度もこのような機会はあった。だが、一度や二度で満足する筈が無い。今日も誘おう。誘ってしまおう。織斑一夏争奪戦?勝手にやっていろ。私には関係無い。願わくば、おかずを交換し合いたい。乙女回路が燃え上がる。何人の敵がいようと、ここは私のホーム。織斑千冬にも対抗しうる。この闘い、私の勝利だ。

 

 セシリアが勝利を確信している中、ラウラは義父の行動に幾ばくかの疑問を感じていた。父様は昼食を取りに来たのではないのか、と。石井は食券の列を通りすぎようとしていた。食堂で食事をするには、食券を買って渡さなければならない。しかし石井は発券機に並ぶ素振りを見せない。だが、『君たちも』と言った。誰かを探しているのか?それに、父様の様子が変だ。何時もと少し、雰囲気が違うような。

 

 「はい、先生も昼飯を?」

 

 「あぁ、そうだよ」

 

 「何、食べるんですか?」

 

 一夏と石井の取り留めの無い会話。ほんの三秒程の短い時間。しかし、食堂にいた一部の者たちは寒気を覚えた。第六感、とも言うべき言い様の無い感覚が警鐘を鳴らす。思い出せ、と叫ぶ。前にもこんなことがあった筈だ、その時は──

 

 「あぁ、ちょうどよかった……」

 

 石井が──

 

 「今から麻婆を作るんだ。君も食べるといい」

 

 麻婆を作ったんだ。

 

 食堂に衝撃が走る。やってしまった。とうとう、犠牲者が出てしまった。よりもよって織斑一夏だなんて!一夏の愉快な仲間たちは顔を青くして祈りを捧げている。彼女らの頭の中からは昼食という目的は消え失せていた。この場において何よりも大事なのは生存することのみ。何時、自分たちに矛先が向くか分からない。一夏には可哀想だが犠牲になって貰おう。このぐらいはバチは当たらない筈だ。何時も、何時もその鈍感さで私たちを弄ぶ報いを受けろ。彼女らは一夏を見捨てた。因果応報。自業自得。ショッギョムッジョ。一夏の命運はしめやかに爆発四散することが確定した。

 

 「え!?先生が作るんですか?楽しみだなぁ」

 

 状況を理解していない今回の犠牲者。中華鍋を振るう石井を見ながら、運ばれてくるであろう麻婆に思いを馳せる。ラウラは若干の嫉妬を抱えつつ、戦慄した。鍋の中で熱せられる食材。投入された数多の調味料。秘蔵、とラベルが貼られた謎の瓶から流れ出る名状しがたいほどの赭。人類史上、最高級の頭脳と肉体を持って産まれたであろう天災の意識を一口で飛ばした劇物。言うなれば、この世全ての辛味。それが皿に盛られ、こちらへ運ばれてくる。

 

 「うわぁ、辛そうですね」

 

 「暖かいうちに食べなさい。冷めるといけない。どうぞ」

 

 いかん、そいつに手を出すな(ISTD)──周囲の願い虚しく、一夏は蓮華を口に運ぶ。破滅的な辛さが口内を蹂躙するだろう。石井は気にせずに麻婆を食べ始める。牛乳の用意をする鈴。中華料理、麻婆豆腐に正道で殴り掛かる代物は彼の意識を飛ばす

 

 「辛っ!!でも、美味いな……美味い!!」

 

 ──筈だった。

 

 食堂にその日二度目の衝撃が走る。一度目の衝撃等とは比べ物にならない。石井の、劣化泰山麻婆を食して意識を保っているのだ。これまで無傷で返った者のいない試練を耐え抜き、あまつさえ笑顔で麻婆を頬張る。にわかには信じがたい事だが、純然たる事実だ。織斑一夏は麻婆に耐えた。これぞ、織斑。これぞ戦乙女(ブリュンヒルデ)の弟。正当な後継。いや、当然とも言えるだろう。

 

 しかし、ここで一つの説も浮上する。あの麻婆は辛くないのでは、という物だ。石井が気を遣って辛味を抑えた結果、一夏は麻婆を食べて無事であるのではないか?色だけの見かけ倒しではないか?私たちにも食べられるのではないか?

 

 「ねぇ一夏、少し味見させて」

 

 「おう、いいぜ。滅茶苦茶美味いから、食ってみろよ!」

 

 鈴がスプーンに麻婆を乗せる。確かに色だけ見れば禍々しい色をしている。だが、湯気や香りが粘膜に接触しただけで辛味や痛みを感じるという訳では無い。鈴は意を決してスプーンを口に入れる。周囲も固唾を飲んで、それを見守っていた。そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「凰さん、どうなった?」

 

 「あぁ、まだお粥食べてますよ。アイツ胃が弱かったんだなぁ、初めて知りましたよ」

 

 「中辛にしたんだけどね」

 

 事も無げに話す二人。車は橋を越え、市街地へと入った。

 

 顛末はありきたり、至極当然の物だった。凰鈴音は卒倒し、医務室へと搬送された。反説は立証されなかった。石井の作る麻婆は私たちには食べられない。織斑一夏?同類でしょう?作った本人が気を遣って辛味を抑えても、大した意味は無かった。それを食べた一夏が異常だっただけの話。

 

 そうして彼らは今、本物に──紅洲宴歳館・泰山本店の麻婆豆腐辛さ愉悦に挑戦する為、休日に男二人で町に繰り出した。

 

 「最近どうだい?夏休み明けたけど、もうこの生活にも慣れただろう?」

 

 「はい、大分物騒な事も増えましたけど。それなりには」

 

 そうか、と石井。信号が赤に変わる。一夏が捕まっちゃいましたね、と笑う。仕方ないと新たな煙草に火を付ける。

 

 「先生ってヘビースモーカーですよね。身体に悪いですよ」

 

 「そう言ってもな。随分と長い付き合いなんでね。コーヒーと同じぐらい」

 

 「周りから言われません?先生まだ若いのに……」

 

 「君は大分老成しているように見える。君こそまだ若いんだから、少しは遊びたまえよ」

 

 「遊ぶって何ですか?」

 

 「誰かと付き合ったりしないのか?」

 

 うぅん、と一夏が唸る。煙を吐き出しながら、一夏の答えを待つ。

 

 「分からないですね」

 

 「何が?」

 

 「恋愛云々ですよ。まぁ、確かに誰かと付き合ったり恋人作ったりするのって素敵なことだと思います。俺だって憧れますよ。でも、いまいちその好意っていう物が分からないんです」

 

 「誰かから告白されたことは?」

 

 「あります。でも……」

 

 でも、と繰り返す。一夏はシートベルトをぎゅっと握り締めた。

 

 「分からない。好きとか愛とか。そりゃあ千冬姉のことは好きです。大好きです。愛してます。唯一人の家族だから。それは確かなんです。でも、俺はそれ以外を知らない。その好き以外を知らないんです。赤の他人から向けられる好意っていう物が……。自分でも欠陥、だと思いますよ」

 

 「認識は出来るけど、応え方が分からない」

 

 「多分」

 

 ふぅん、そう言って石井はアクセルを踏む。景色は流れる。手を繋いで笑い合うカップルも溶けていく。一夏の視界には映らない。

 

 「まぁ、いいんじゃないか?」

 

 「適当ですね、自分で訊いた割りに」

 

 「いや、そういう訳じゃないさ。私は真剣に言ってるよ。その悩みだって、然程大した物じゃない。解決法もはっきりしている」

 

 「何です?」

 

 「分からないなら教えて貰えばいいだけの話だ。簡単だろう?別にテストじゃないんだ。難しい問題にぶち当たったなら、誰かの力を借りればいいだろう。君は自分のキャパシティを越える問題を抱えて、オーバーヒートしてるだけだ」

 

 「そんなに簡単に答えが出る物ですかね」

 

 「さぁな。そんなの知るわけがないだろう。君の問題なんだから。永劫出ないかもしれないし、明日の朝突然悟るかもしれない。私には分からないよ。君が考えて、悩むことが重要なんじゃないか。不安なら教会にでも行けばいい。ちょうど、泰山の店主は元神父だ。懺悔でもするかい?」

 

 ろくなことにならなさそうだ、と一夏は直感的に感じた。嬉々としながら自分の根幹を捻じ曲げようとするカソックを着た男を幻視した。

 

 「まぁ、君が欠陥だろうとそうじゃなかろうと、私からすれば些末な事なんだよ。それに君が欠陥だとしても、案外同類は多い物だ。取り分け、この世界(業界)はそうだ。破綻してたり欠けてる人間は吐いて捨てるほどいる。私も漏れなくその一人だ」

 

 幼少期の孤独。一人ぼっちの広い家。家族面の他人。行き場の無い感情。自分と姉だけで完結していた世界。打ち込んだ(やらされた)剣道。一夏の脳裏に記憶が流れる。つまらない、灰色の意味を持たない映像が頭のスクリーンに投射された。

 

 「先生は、どんな子供だったんですか?」

 

 ふと、その問いが口から出た。滑らかに、訊くべきと定められたようにするりと喉から飛び出した。

 

 石井はちらりと助手席の方を見て、すぐに視線を戻す。

 

 「覚えてないな……。どうも、最近忘れっぽくてね」

 

 困ったような笑みを浮かべて、石井はハンドルを切る。

 

 

 

 

 

 

 

 






 店主「少年、悩みがあるのか?」

 一夏「え?」

 店主「話してみたまえ。奥に懺悔室がある。こちらだ……」

 一夏「え?」







 色々と開き直ってきた石井さん。段々、タガが外れていきます。

 冒頭の部分と磨耗に関しては、まだ説明出来ません。文化祭後辺りからその片鱗というか磨耗の影響が出てくる予定です。

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