感謝。
「あれ?」
それはあの機械の四肢をもったキャスター、アルケミストが来て数日が経った日のことだった。
新たな特異点が見つかるまでの小休止…わずかばかりの休暇を自室でゴロゴロしながら端末を弄っていたのだが、サーヴァントのマテリアルを眺めていると、ふと目についたものがあった。
本来、霊呪をもつマスターには召喚、あるいは縁の出来たサーヴァントのステータス、マテリアルを見ることが出来る。それは、そのサーヴァントの簡易な能力値を確認することが出来るだけでなく、相手の同意…絆の深さが必要にはなるが、その人の生きた歴史を見たり往来の性質を覗いたりすることも可能なのである。
「どうしました?先輩」
「アルケミストのマテリアルを見てたらさ、ちょっと妙な所を見つけてさ」
また、カルデアを触媒としているためかそのマテリアルはある程度データとして記録もされているので、暇潰しに端末で見ることも珍しくない。それを自室に遊びに来ていたマシュにも端末ごと渡して見せてみる。
「…?特に妙な点は見当たりませんが」
「アルケミストのクラスの所見てみて」
残念ながら来てまだ日が経っていないアルケミストのマテリアルは殆どが虫食い状態ではっきりと分かる所は簡易なステータスと略歴程度の部分なのだが、
「クラス『錬金術士(キャスター)』…あれ?」
「ね?変だよね」
アルケミストのクラス部分には確かにキャスターと書いてはあるのだが、漢字がおかしい。
「錬金術師、って最後の漢字が師匠の師だよね」
「確かにそうだと記憶していますが…なんでしょうか」
そうして悩んでいても分かる筈もなく、まさかデータの書き損じやバグなどという筈もないので二人して唸る他ない。
別に特段問題があるわけでもないのだが、一度気になってしまったものは忘れることなど出来る筈もない。まして謎のサーヴァントの情報である。何かあるのかもしれない。
むぅむぅと唸っていると見かねた様子のマシュが声を掛けてきた。
「そんなに気になるのなら本人に直接聞いてみてはどうでしょうか」
「そう、だね。よしっ!聞いてみよう」
思い立ったが即行動。善は急げだよね。
と、マシュを引き連れて錬金術以外にあまり趣味の無さそうな彼の事だからと部屋に向かったのだが、中はもぬけの殻だった。
はて?てっきり此処にいると思っていたのだけど。
「万策尽きた…」
「その判断は早すぎです、先輩」
半分冗談めかしてそう言うと、呆れたようにマシュがツッコミを返してくれる。初めてあったときと比べるとかなり仲良くなれたと感じ入っている暇もなく渦中の人の居場所を考える。
無難な所だと食堂か談話室だろうか。今の時間だとエミヤかブーティカさんがキッチンで夕飯の仕込みをし始める頃だし、居なくても目撃証言を聞けるかも知れない。
「そうだね、なら食堂に行ってみようか」
「はい」
そうして食堂に向かって歩いていると、何やら賑やかな声が聞こえてくる。近づくと声が大きくなる辺り食堂で何人か話をしているのかもしれない。
「…ぁ、…ごいね」
「いい…じゃ…。他の…れるん…う?」
「なにやら賑やかな声が聞こえて来ますね。何かあったのでしょうか」
「取り敢えず入ってみよう」
楽しげな声に誘われるように食堂に入ると、そこには椅子に座って錬成を行っているアルケミストとそれを見守るジャックとクー・フーリン(術)がいた。
なにやらジャックの楽しげな様子を見るに、何か作っているらしい。
「おやマスターにキリエライト君」
「おぉ、嬢ちゃんいいところに来たな。今アルケミストが面白いもん作ってるとこなんだ」
錬成の光が落ち着いてこちらに気づいたアルケミスト達がこちらへ口々に声を掛けてくる。
何をしているのかと近付くと、アルケミストのもつ物を術ニキが借りて見せてくれた。それは白い石材で出来たチェスのピースのような彫刻だった。
「わっ、凄い!」
「先輩の像、でしょうか。上手く特徴を捉えてデフォルメされていますね」
ざっくりと彫刻として見ていたのだけど、よく見ると私の立ち姿をしているようで、霊呪の刻まれた方の手を前に出して決めポーズをしている。
何やら凛々しい顔をしているのだが、そんな格好いい感じ出せないよ、私。
「元々細かな作業は得意でね。便利な能力を持っていることもあって物作りが趣味なんだ」
「わたしがね、『おかあさん』がほしいって言ったら魔法使いさんが作ってくれたの!」
そう言うアルケミストの言葉にこれが道具作成EXの力かと納得していると、続くジャックの言葉についアルケミストの方を見てしまう。すると先程までの表情とは一転してなにやらばつの悪そうな顔でそっぽを向いてしまった。
なんだろう?
「子供の願いを無下にするのも憚られてね」
照れているのか、と思ったのだが違うらしい。
何故ならそう言ったアルケミストは言葉とは裏腹に苦み走った顔でまた作業に戻ってしまったからだ。
「こうして平和なことの為だけに能力を使えたらどれだけ良かっただろうか…」
「え?」
彼の表情の変化にも、だれにむけた訳でもない彼の呟きにも、反応したのは私だけ。もしかするとクー・フーリンは気づいていながら流しているのかもしれないが、どうにも私には気になってしまった。
アルケミストの闇は想像よりも深いのかもしれない。あの虫食いだらけのマテリアルはもしかして、と。
『マテリアル が 更新されました▼』
やぁ諸君、私だ!
誰だ!僕だ!ブルーノ…お前だったのか。
と、一回ネタを挟みつつ私ことアルケミストでございます。
現在、人理の焼却を前に我々はカルデアという限られた空間で生活を余儀無くされているわけだが、個人的にはここはパライソかパラダイスだと思っている。
協会の追手も来ず、衣食住の心配も要らず、三食錬金付き!そして上司はひたむきで優しい美少女と来た日には永久就職待ったなしである。
冗談はさておき、実際のところえぐ味の強い英霊達を上手くまとめあげながらも不満をあげさせないマスターの手腕は大したものだと思っている。
俺に対してもお願いはしても頼りっぱなしにはせず、労いを忘れないという「等価交換」の原則を決して外れないように行動している。
カルデアの生活にしたって元々研究者をやってたから室内暮らしは文句ないし、たまにある特異点への資源の回収や
だが人間関係となると少しめんどくさい部分はある。
我が
この間のダ・ヴィンチの野郎なんか
「君ならこの程度朝飯前だろう?まさか美女のお願いを断るなんて甲斐性のないこと言わないだろうね?」
とか言って自分で起こした騒動で壊れたカルデアの修復に駆り出そうとしてきやがった。せめて頭を下げてくる様なら多少なりとも好意的に見られるが、焚き付けようとはなにを考えているのか…。
しかも断ろうとしたら、こちらの正体をマスターにばらそうかとちらつかせてきた。まったくもって腹立たしい。天才という生き物の厄介さを再確認させられたところである。
確かに、錬金術というのは利便性を追求したもの、俺のはその究極形だ。別に便利に使われるのは慣れているがいい気がしないのも事実である。
それに本当は真名の件もマスターにばれて困るものではないのだが、他人の口から漏らされるというのは彼女に対する不義理である。
それも言い出すタイミングを掴み損ねている自業自得なのだが…。
まぁ、今はそれは置いておこう。良いことをかんがえよう。そうだ!逆に良い出会いもあったのだ。
旧友であるロード・エルメロイⅡ世や我らが錬金術の父ことパラケルスス殿と巡り会えたことは良かったと言えることだろう。
偶然ロードに廊下で出くわした時は「グレートビッグベン☆ロンドンスターがなぜここに!?」と言った途端に謎の石柱に殴り飛ばされそうになった。
彼曰く、日々のストレスによる暴走と咄嗟の判断だったらしい。あと声に不快感がぬぐえなかったとか…解せぬ。
そしてパラケルスス殿に関しては…
「…また貴方ですかアルケミスト」
「研究の途中にすまないね。パラケルスス殿」
「悪いと思うなら来ないで欲しいのですがね」
何故か嫌われている。
ファーストコンタクトは普通だった筈なのだが…はて?どこでやらかしてしまったのだろう。
「我らが錬金術の父に手解きをしていただきたく思い参った次第でございます」
「…大根芝居はやめなさい。胡散臭過ぎます。
私の技術から貴方が得られるものなど有りはしないでしょうに」
まさか胡散臭い代表のような人に胡散臭い奴と思われるとは…心外である。
折角人が礼節を尽くして教えを請おうとしているのに。
「私たちの世界は「等価交換、すべてはギブアンドテイクである。だろう?」…えぇ、貴方が何を対価として持ってきたのか知りませんが私に出せるものなど無いのですよ」
どうやら俺のことを高く買ってくれているようだが、どうせ俺たちは自分の欲に抗えぬ者である。
作れぬものがあるなら
「
「はぁ…。本当に度しがたい。体を壊す嗜好品など合理的ではないでしょう」
高く買ってくれているということは俺の作るものに価値を見いだしているということだ。いくら賢人であってもキャスターである以上、欲には勝てない。
嫌そうにしながらも否定の言葉を返さないところをみるに、やはり欲には素直なようだ。
それに、かく言う俺もそれは例外じゃない。
残り二本になった煙草に火を点けて少しふかす…あぁ、不味い。
「ましてやそれを不味いと言いながら使うなど、貴方は本当に錬金術師なのですか」
煙草の臭いに顔をしかめたパラケルスス殿には悪いが、ゆっくりと肺を侵す煙草の煙を満喫して肺の中身を全部吐き出す。
おいおい、そんなUMAでも見るみたいな目で見るんじゃねぇよ。
「間違いなく、だよパラケルスス殿。我が名はエドワード・エルリック、鋼鉄の
ん?と眉根をあげて見せるとまた深々とため息を吐かれてしまった。錬金術士であることは俺の唯一だ。それは否定させるわけにはいかないから、多少の無礼は目をつぶっていただくとしよう。
無言は了承と勝手に判断し手に持っていた対価を近くの机に置くと、おもむろに何かをこちらへと投げ渡してきた。
「この間作った残りです。一先ず1カートンほど出来たら連絡しますので」
「感謝するよ。パラケルスス殿」
安っぽい箱に陰陽図を描いたパッケージ、あぁこれだ。
再び元々やっていたであろう作業に戻るパラケルスス殿を尻目に受け取ったものをローブの内ポケットに放り込む。
「なぜわざわざその様なものを求めるのです?」
………。
…さぁな。
「俺にもわかんねぇよ」
難しいことなんてない。それがあればより強く在れると思っただけだ。
世界を救うため、それ意外に理由なんていらない。
「私には分かりません…。」
本当は違うと
自分の心を無視して生きる俺には、やはり英霊なんて似合わないと。煙草の苦味だけが生きてる事を教えてくれる…そんな存在でいい。
無理矢理自分にそう言い聞かせて何も考えないようにする。
きっと頭に浮かぶあの女のイメージは気の迷いに違いないのだから。
元から不味い煙草が余計に不味く感じた。
「…ところでパラケルスス殿は何の実験をしているのです?」
「九十九神を作れないかと、ね。魂の錬成ですよ」
面白そうなことやってんじゃん。(フラグ)
ちょいと友人に突っ込まれたので出せる設定は出しておこうという感じで書きました。
「魔術使い」と「魔術師」の違いのようなものと捉えてください。
うーん、書いてて楽しいのだけど行き当たりばったりなのでここまでかな。
ぐだ子に真名を明かす話が書けたらそっ、と更新するかもしれません。
あ、一応言っておくと煙草はらっきょのアレです。
主人公の人理修復の原動力は橙子さんという設定。雑かな?