R.G.S.0023
目の前の爆発の嵐は、間違いなく戦争をしている証拠。しかし、今はどの国も、どこの勢力も戦争などはしていないはず。なのに、何故。理解が出来ない。そもそもコロニーの形までもが違う。シリンダー型スペース・コロニーではなく、中学生の時の「宇宙の未来」という理科の本の片隅に載っていたスタンフォード・トーラス型のスペース・コロニーであった。かつての宇宙世紀には当然、未来世紀でもスペース・コロニーはあったと習ったが、このような形ではなかったはずだ。一体ここは、どこなのだろうか。
「応答しろ、所属不明機!」
お肌の触れ合い回線を通じて話しかけてくる、見たことのない、特徴的なツインブレードアンテナを持つNMSのパイロット。味方が援護に来てくれる雰囲気でもない。リヒターは仕方なく、MFDを操作して、このVMSが何なのかを調べる。リヒターもこの機体が何という名前なのか知らなかったので、丁度よかった。形式番号と機体名らしきものが表記されたので、それを読み上げる。
「G-740 ヴァーヴォル……だ」
「ヴァーヴォル? そんな名前、聞いたこともないぞ。どこの機体だ」
「って言われても、落ちていたのをそのまま使ってるだけ――」
説明しようとしたら、機体の周りを既に5機の正体不明のMSが、ライフルを向けて囲んでいた。少しでも抵抗すれば、撃破するという雰囲気であった。
(従うしか、ないのか……)
その気になれば、6機のNMSなど、このVMS、ヴァーヴォルでどうにかなるかもしれないとリヒターは思った。が、現状が分からない以上、そんなことをして、孤立するより相手に従って情報を仕入れる方が正しい。かなり気に食わなかったが、リヒターは所属不明NMSに従うことにした。
正体不明のNMS6機に誘導されてやってきたのは、これも中学の歴史の授業の資料映像で見たことのある、薄く、平に伸びた放熱板を2基、羽のように有する宇宙戦艦。何百年も前に反地球連邦軍組織「エゥーゴ」と地球連邦軍外郭新興部隊「ロンド・ベル」で活躍したと聞いたことのある「ネェル・アーガマ」に酷似した戦艦だった。艦の側面にドームが設置されている。恐らく大出力のメガ粒子砲が備えられているのだろう。その隣のブロックにMSデッキと、長距離発艦にも対応しているであろう、ロングレンジカタパルトが2基あった。誘導していたNMSが、MSデッキ前に着艦するよう指示する。リヒターはVMS――ヴァーヴォル――のバーニアを吹かせて着艦する。
「こいつ、脚にしかバーニアがないのか」
旧アナハイムのMS工場で見つけた時は状況が状況であったため、機体の全容を把握することが出来なかった。MFDに表示される機体状況モニタリングで機体の全体的な形は見ることは出来たものの、それは正面だけであって、後ろ姿は一切確認出来なかった。バーニアを吹かせた際、脚部を使用中という意味であろう、普段は緑の機体状況モニタリングの脚の部分が、青く変わっていた。歩行も可能なため、詳細設計が少々歪なだけであって、基本設計は通常のMSに忠実なのだろう。
リヒターはヴァーヴォルをネェル・アーガマのような戦艦のMSデッキに入れる。カタパルトのハッチが閉まり、先に謎のNMSから降りていたパイロットが、降りてくるよう合図をする。MFDからハロを外し、コックピットから降りようとするリヒター。だが。
「……ハッチが無い」
乗り込む際も、ハッチは開いていなかった。爆風によって吹き飛ばされて、普通なら機体とぶつかって死ぬ、という時には既にヴァーヴォルのコックピットの中にいた。
要するに、搭乗方法が分からなければ、下乗方法も分からない。さてどうしたものかとリヒターは悩んだ。このままではコックピットから出られずに、餓死するか酸素不足で死ぬだろう。今がどのような状況下なのかも分からずに死ぬなど、御免である。とにかく降りなければ。
それだけを考えていると、コックピットが光に包まれ、気づけば甲板に立っていた。ますます分からない。考えたら降りられるということなのだろうか。しかし状況はそのことを考える余裕すら与えてくれない。
そこでは、誘導してくれた6機のNMSパイロット全員が拳銃を構えていた。ハンドビームガンではない。形からして、ただの実弾拳銃だ。いつの時代にタイムスリップしたのだろうか。現代で実弾拳銃など、時代遅れにも程がある。主流は小型ビーム兵器だ。だというのに、彼らは実弾を恰も当たり前のように扱っている。宇宙海賊ですらハンドビームガンだというのに。
拳銃を構えた一人の男が近づいて来る。
「あのMSはどこで手に入れた」
先ほどお肌の触れ合い回線で聞いた声だった。
「月の、旧アナハイムMS工場だ」
最初は無反応であった。全員が呆然、いや、理解出来ない、とでも言えばいいのか、そういう顔をした。が、少しして理解出来たのか、全員が一斉に大声で笑い始めた。中には腹を抱えている者、涙を流している者がいた。
「何がおかしい!」
リヒターに近づいていた男が、笑うのを必死で堪えた。不快だ。
笑うのをやめた男は、リヒターの胸倉を荒っぽく掴み上げた。
「冗談抜かせ、月なんてあるわけねぇだろうが」
何を言っているのかさっぱり分からない。先ほど見えた青い星は紛れもなく地球で、議会軍の艦隊は間違いなくユニバーサル・アーク級だった。地球圏以外のどこにユニバーサル・アーク級が配備されているというのだろうか。そもそも議会軍は地球圏しか統一していない。
「あれが地球で、月は反対側にある。それが正しい」
「だから無いってんだろうが」
「だったら、俺のVMSを調べてみろ。月は確かに、ここにある。無いはずがない」
「~~~ッ!」
男はイライラしていた。それは目に見えて分かることだ。立ちながら貧乏揺すりをしたり、辺りを歩き回っている。
「あの青い星のどこが地球じゃないってんだ」
そう。あの青い星が地球じゃない証が、どこにあるというのか。旧北米の北アメリア大陸や南アメリア大陸、ヨーレシア大陸もある。とすれば、今は見えないが、ヨーレシア大陸の更に東に位置するゴンドワン大陸や、その南にはヘリアカ大陸もあるはず。
「面倒くせぇ。独房にでも放り込んどけ。さっさとこのMSの解析、始めるぞ」
この男は、リヒターの言い分を全く聞いていない。最初は多少なりともあったのだろうが、あまりにも話が通じないので、もう聞かないことにしたのだろう。去っていく男に、リヒターは憤りを覚えていた。
が、男は扉の前で立ち止まった。扉が開いて、中から長身で細身の男が現れた。細身の男と話したのか、男は戻ってきた。そして、リヒターに手錠をかけようとしていた部下を下がらせた。
とにかく、助かったことに変わりはないし、有り難いことだが、一体何者なのだろうか。細身の男が近づいて来る。近くでよく見ると、聖職者のようなローブを身に纏っている。ここは何なのだろうか。NMSも扱っている。戦争にも参加している。武装集団であることに変わりはないのだろう。が、とにかく何も分からないことだらけだった。
「あんたは?」
細身の男がリヒターの前までやって来る。
そして、リヒターの質問に答えることもなく。
「君は今、ここがリバージング・センチュリーの何年で、何月だと思っていますか?」
あまりにも意味不明な質問が飛んできた。いや、質問自体に意味が分からないというわけではない。
何故、分かり切ったことをわざわざ質問するのかが、分からなかった。リヒターは当然のように答える。
「リバージング・センチュリー0043年は9月3日。当たり前だろう? 何故そんなことを――」
「それは違います」
「……何だって?」
細身の男は持っていた携帯端末の日付を、リヒターに見せる。
そこには、リヒターには信じ難く、全くあり得ない日付が表示されていた。何かの間違いかと思って、何度も見直したが、やはりそのデジタルの表示は同じだ。変わることはなかった。
R.G.S.0023、3月26日と、そこには表示されていた。
「……20年前?」
その発言に、細見の男以外が息を呑む。現実的に考えて、現在から過去に遡るなどあり得ない。そんなものは、未だフィクションの中だけだ。ここはノンフィクションの世界。なのに、この端末には確かにR.G.S.0023年の3月26日と表示されている。空間ワープの理論と機械の仕組み自体は現在では全体の半分は解明されているが、それでも実際に動かすことはない。危険だからだ。ならば、仮に過去に跳躍したとして、どうやって過去へ跳躍したのか。
思い当たることは、ただ一つ。あのG-740ヴァーヴォルと呼ばれる、誰が、どこで、いつ、何を目的に開発したのかも分からない、謎のVMSだけだ。跳躍の前、確かにヴァーヴォルは謎のヴァーヴォルウェポンで黒々とした渦を精製した。そして、自らもその中に引きずり込まれていった。これ以外に思いつくことが無い。
「あり得ない……」
ポツリと呟くリヒター。原因は恐らくヴァーヴォルであろう。しかし、どうやって。その原因が細身の男にも分からないらしく、何やら難しい顔をしていた。
「少なくとも、君がヴァーヴォルと呼ぶ、あの白いVMSがこの事態の鍵でしょう」
だが、先ほどリヒターの胸倉を掴み上げていた男が怒鳴る。
「ソーサラー、今は原因より、こいつの処遇をどうするか考えるべきじゃないか? 俺はまぁ、とりあえず邪魔だから独房入りでいいと思うけどな」
ソーサラーと呼ばれる細身の男。
「ドレ・ドラン、またあなたはそんなことを。なりません。そのように、感情的ではそのうちやられてしまいます。あなたも、この『明けの明星』も」
「しかしだな……!」
「ドレ、あなたは気に食わないかもしれません。というより、間違いなく気に食わないでしょう。しかし、そうせざるを得ない状況なのは、あなたも理解出来ていることでしょう」
「……その訳の分からん、未来から来たかもしれない人間を、『明けの明星』に入れようってのか?」
「流石はドレ。よくお分かりで。その通り。彼を我々『明けの明星』に入れるのです。戦力も足りないことですしね。それに彼が乗っている機体はVMSです、丁度いい。VMS1機があれば、多少は戦局もマシになるでしょう」
「……それはそうだが。いや、しかしだな」
「マシーンは多い方が助かります、今後の活動のためにも」
「……了解した」
冗談じゃないと、リヒターは思った。咄嗟にヴァーヴォルの方へ走り出していた。が、その動きはドレ・ドランと呼ばれたNMSのパイロットの拳銃の威嚇射撃で止められる。所詮実弾だと侮っていた。ビームはほぼ一瞬届くが、実弾もこの距離だとビームとあまり変わらない。リヒターは大人しく立ちどまり、ドレやソーサラーがいる方へ振り返った。
「逃がしはしないぞ、VMSのパイロット。貴様は今日付けで、このレジスタンス組織『明けの明星』にて動いてもらう」
明けの明星という名前。どこかで聞いたことがあるなとリヒターは思ったが、それがどこで聞いたかは思い出せなかった。何故なのだろう。ここまで大規模なレジスタンス組織なら、議会軍の教本に載っていてもおかしくはないのだが。
「VMSのパイロット、名前はなんだ」
「……リヒター。リヒター・如月だ」
「俺はドレ・ドラン。この『明けの明星』の旗艦『エクシード・クロス・アーガマ』、エクスアーガマ所属NMS部隊隊長だ。貴様はこれから、この俺の隊の下で動いて――」
「冗談じゃない、誰があんたの下なんかで動くものか」
「口答えか、貴様。いい覚悟だな」
「誰がNMSの部隊と行動するか。俺のヴァーヴォルはVMSなんだぞ。あんたらのような、宇宙世紀時代のMSのレプリカのような性能が下のNMSが、まともにVMSと連携して戦えるはずがないだろ。それに、どこの味方をしているのか知らんが、議会軍も同盟軍も、柔な相手じゃない」
「そうだな、俺たちだけ(・・・・・)なら、確かにそうかもしれない」
「……何?」
俺たちだけ、とはどういうことなのだろうか。議会軍、同盟軍に次ぐ、第三の勢力でもあるというのだろうか。だが、ここがR.G.S.0023年ならあり得ない。議会軍も同盟軍も、どちらもレジスタンスと共同戦線を張っていたなどというのは聞いたことがない。それに、第三勢力も知らない。それとも、本当はあったのだろうか。リヒターは必死で状況を理解しようとしたが、思考がどうにも追いつかなかった。
「まぁ、任務が入ればすぐに分かる」
嘲笑するドレ。リヒターは本能で、こいつとは一緒にやっていけないと判断した。現状が分かっていないにしろ、あの時、怪我をしてでも出て行けばよかったかもしれない。それに、そうすれば元の時間に戻れたかもしれない。
しかし、とリヒターは思いとどまった。ここを出たところで、何かが分かるわけでもないだろう。むしろ、状況がどんどん己を追い詰めて、殺されることだろう。ならば、しばらくの間共に行動して、情報を集めた方が今後のためにもいい。あのドレ・ドランというNMSパイロットはかなり気に食わないが、ここは我慢だ。
そう思った矢先、MSデッキのアナウンスモニターから呼び出し音がする。リヒターとドレ、以下NMSパイロットが向かう。モニターには「明けの明星」のロゴであろう、星型に三角形を組み合わせたようなマークの入った帽子を被っている男が映し出されている。
『エクスアーガマ艦長、ゼーレン・クラックだ。ドレ・ドランとそのNMS部隊、そしてリヒター・如月に、任務を命ずる』
「早速か。艦長も仕事が早い」
『衛星軌道上で大気圏突入を行おうとしている、外宇宙国家議会軍のユニバーサル・アーク級『ウォルディン』にヴァーヴォル宇宙同盟軍の1個艦隊が迫っている。今回の内容は、そのウォルディンの援護だ。何としても、守り抜け。既に送る部隊編成は、ドラン中尉を主軸にこちらで編成している。このアナウンスの終了と同時に、モニターに映し出す。確認出来た者から発進準備にかかれ。以上』
外宇宙国家議会軍の部隊への救援任務。確かにゼーレン・クラックはそう言った。ヴァーヴォル宇宙同盟軍は分かる。だが、コロニー国家議会軍ではなく、外宇宙国家議会軍とは? 現在の人類の技術では、外宇宙と言われている距離までは行けないのでは? 仮にここが現在の過去ならば、それは尚更だ。外宇宙と名乗っているのなら、何故目の前に地球が? 何がどうなっているのか、リヒターにはさっぱりだった。
ドレに肩をバンと叩かれる。
「なんて顔してんだ。さっさと機体に乗れ。行くぞ」
「その前に、訊きたいことがある」
「さっさとしろ」
「外宇宙国家議会軍とは何だ? コロニー国家議会軍じゃないのか? あの星は本当に地球か?」
「……お前本当に知らねぇのか?」
「知らんからこうして訊いている」
「今ここで知りたいなら、軍のことを簡単に言うだけだ」
「それでいい。言ってくれ」
「外宇宙国家議会軍。かつて宇宙世紀の時代にあったと言われている、地球連邦政府が名前を変えて、莫大な金で動いている軍隊だ。まぁ一応、俺たちと同盟を結んでいる。以上だ」
「話がさっぱりだ。何故――」
「そんなに知りたきゃ着いて来い! こちとら急いでるんだよ!」
「……分かったよ」
リヒターはヴァーヴォルに向かい、思考を搭乗することに集中してみた。すると、ヴァーヴォルの胸部が輝き始め、リヒターは気づけばヴァーヴォルの独特なコックピットの中に座っていた。ハロをセットし、機体の起動スイッチを入れ、センサー類、全天周囲モニター、武装ロック解除を行おうとすると。
「……便利だなぁ」
全ての項目が一気にオールグリーンとなった。このようなことは、今まで搭乗してきたNMSではあり得なかったことだ。もしかしてVMSは、全てこのような仕様なのだろうか。それとも、この機体が(恐らく)同盟軍の物だからだろうか。それは分からなかったが、手間なセットアップをしなくて済むので、有り難い。
ドレが乗ったNMSが、リヒターのヴァーヴォルに近づき、お肌の触れ合い回線で話しかけてくる。
『そういえば、このNMSの名前を言ってなかったな。レベリオンだ』
それだけを告げて、ドレは左舷ロングレンジカタパルトへ向かった。リヒターも左舷へと向かう。右舷はレベリオンと呼ばれるNMS2機が既に待機していたからだ。管制室の声が入ってくる。
『ハッチオープン』
ゆっくりと、エクスアーガマのロングレンジカタパルトハッチが開く。カタパルトの全貌が見える。
これまでに見たことのない長さのカタパルトであった。議会軍のユニバーサル・アーク級も、かつての「カイラム級」をベースにしたコロニー国家議会軍の旗艦「パーティクル級」のカタパルトは、これほど長くはない。少々大型化したMSに合わせて、旧来の物より長いらしいが、これはその比ではない。更に天井が展開され、カタパルトの脇にはリニアカタパルトのようなレールが、ロングレンジカタパルトを囲うように伸びる。ドレのレベリオンが、カタパルトに脚部を固定され、発進態勢を取る。カタパルト脇にあるカウントが減っていき、そして。
『ドレ・ドラン。レベリオン01、出るぞ!』
『ガロム・ルシエッタ。レベリオン02、発艦する!』
『クルガ・毒島。レベリオン03、出ます!』
レベリオン一個小隊がエクスアーガマから発進する。続いて待機していたリヒターのヴァーヴォルもカタパルトに脚部を接続しようとする。が。
「接続出来ない……。足の形が違うのか」
『ヴァーヴォル、さっさと発進しろ!』
「足の形状が、合わないんだよ!」
何度やっても、ガッガッとカタパルトをまるで壊すかのように踏み外してしまう。先に発進したレベリオン小隊は、かなり先行してしまっている。リヒターは、ヴァーヴォルの推進剤を大量に使う覚悟をして、脚部のバーニアを吹かせる。
「自力発進を行う!」
ロングレンジカタパルト射出よりも速度は遥かに遅いが、形状が合わない以上、仕方がない。少しずつ、速度が上がっていくのが側面リニアレールに施されたラインで分かる。機体をレールや天井にぶつけないよう、細心の注意を払って、ヴァーヴォルのバーニアを吹かせる。
カタパルトレールから出たのを確認すると、リヒターはヴァーヴォルの脚部バーニア出力を全開にする。かなり先行していたレベリオン小隊だったが、特に問題無く追いつくことが出来た。
『何があった』
「自力発進をやっていた」
『!? ……自力でこの速度……。リヒター、先に言っておく。今回の任務は、俺たちが上だ。戦場では基本どう動いても構わんが、俺の言うことは聞いてもらう』
リヒターはドレの言うことは分かったが、納得は出来なかった。何故、確実にヴァーヴォルよりスペックが下のNMSと連携しなければならないのか。VMSなら、小規模な戦場なら1機でも十分蹂躙することが可能だというのに。元々コロニー国家議会軍にいた時も個人プレイの多かったリヒターには分からないことだった。
しかし、ここで反論して見捨てられては元も子もない。何も知らない宇宙で死んでゆくだけ。それだけは避けたかった。
「了解」
淡々と返事をし、外宇宙国家議会軍のユニバーサル・アーク級「ウォルディン」のもとへと急いだ。
衛星軌道上にリヒターたちが到着した時には、既に外宇宙国家議会軍とヴァーヴォル宇宙同盟軍の戦闘は開始されていた。同盟軍はガルマイヤー級1隻に、オウル12機で編成された中規模VMS部隊を展開している。一方、議会軍はユニバーサル・アーク級1隻に、リヒターは教本でしか見たことのない、双方とも宇宙世紀時代に開発された物に近代化改修を施したNMS「フリーダムⅡ」と「バーストイージ」の2機種で展開されている。バーストイージが5機、フリーダムⅡが10機という、アンバランスな編成であった。だが、そのアンバランスさは関係無いらしく、じわじわとオウルの部隊がフリーダムⅡ、バーストイージを追い詰めていた。リヒターはこの2機を講義で「骨董品程度の価値しかないNMS」と習ったが、それはどうやら正しかったようだ。本当にロクな動きが出来ていない。特にフリーダムⅡは、2機がかりでもオウルに翻弄されていた。如何にオウルの性能、信頼性の高さがあるかが窺える。
リヒターはまず、長距離兵装であるヴァーヴォルロングボウを展開し、バーストイージに付き纏っているオウルに照準を定め。
「当たれッ!」
ヴァーヴォルの矢を勢いよく放つ。閃光のような速度で飛んだ矢は、レーダーで気づかれる前にオウルを貫き、爆散させた。バーストイージはビームシールドを展開して、爆風を防ぐ。
『リヒター! 何をやってんだ!』
「何って、バーストイージを援護したまでだが」
『あんな近距離で爆破させてどうする! バーストイージのパイロットが危ないだろ!』
『いや、構わない! 事実、俺はこうして生きている!』
爆風の中からバーストイージが姿を現して、リヒターたちに近づいてきた。よく見ると、昔本で見たことがある、日本の風神雷神のマーキングが機体の肩に描かれていた。その姿は、まるで人間の刺青のようだった。
『俺はルシエル・フォンレイ。君たちガンダム隊は、明けの明星か。思っていたよりも早く来てくれて助かった。見ての通り劣勢だ。援護してくれ!』
『ガンダム、ねぇ……』
『レベリオンは、ガンダムじゃないんだがな……』
『お前ら、無駄口叩いてる場合か! 行くぞ!』
『『了解!』』
レベリオン小隊が、ルシエルのバーストイージと共に戦場に向かった。しかし、リヒターだけはその場で止まっていた。ドレに言われたことを気にしているわけではない。ルシエルの言った、「ガンダム」という単語に引っかかっていた。
ガンダム。教本や講義でも全く聞いたことのない単語だった。ルシエルはレベリオンのことを、ガンダムと言ったのだろうか。だが、ルシエルは「ガンダム隊」と言った。リヒターが知っているのはジムタイプだけであった。ガンダムとは一体何なのか。MSのコードネームなのか。
『リヒター!』
ドレに怒鳴られて、リヒターはハッと現実に戻った。
『さっさと援護しろ!』
「分かっている!」
バーニアを噴射して、腕のヴァーヴォルキャノンで牽制しながら、ヴァーヴォルソードの範囲内に入ろうとする。だが、相手も易々とそれを許すほど、馬鹿ではない。別方向にいたもう1機のオウルが、リヒターが狙っていたオウルの援護をする。音波波動反応のアラート。ヴァーヴォルのバーニアを逆噴射させ、急制動をかける。一瞬隙が出来たオウルに、フリーダムⅡがビームライフルを連射、撃墜する。撃墜されたオウルは、コントロールが効かないのか、大気圏の方へと落ちていき、燃え尽きた。
(ああはなりたくないな……)
落ちていったオウルを見て、リヒターは恐怖した。
一瞬立ち止まっていたヴァーヴォルに、オウルが3機がかりで攻撃をしかけてくる。
「しまった……ッ!」
3機のレベリオンが、オウルの攻撃をビームシールドで防ぐ。ヴァーヴォルキャノンなどの音波波動兵器は、ある程度までならビームシールドでも十分防ぐことが可能だ。
『ボーっとするな! さっさとトドメを差せ!』
「ッ……!」
リヒターは下方向からオウルにヴァーヴォルソードで斬りかかる。一気に3機をまとめて斬り裂く。一撃で3機をまとめて斬り裂いたからか、ヴァーヴォルに近かったオウル6機が一気に接近してくる。リヒターはMFDの兵装パネルを操作した。ヴァーヴォルキャノンの他に、何か射撃兵装はないのか。
「あった! 頭部ビームバルカン、胸部ビームマシンキャノン。これかぁ!」
リヒターはコンソールに備えられた、親指と人差し指の部分にあるトリガーを押した。ヴァーヴォルの頭部、胸部から、小粒のビームの弾丸が大量に発射される。バルカン2門、マシンキャノン2門、合計4問の砲口から放たれるビーム弾丸の雨あられは、十分過ぎる牽制となった。回避運動を取るオウル。その隙を見たレベリオン3機がビームライフルで撃破する。だが、1機だけが全ての攻撃を回避。ヴァーヴォルサーベルを展開して、レベリオン3機をまとめて攻撃しようとする。
「させるか! ヴァーヴォルロングボウ、いけぇ!」
リヒターはすぐさまヴァーヴォルロングボウを展開、矢を発射して、オウルの片腕を破壊し、態勢を崩させた。
『よくやったリヒター! フクロウ野郎め、トドメだ、ビームサーベル!』
ドレのレベリオン01がすぐさまビームサーベルを抜刀、オウルに接近、コックピットを貫いた。すぐさま引き抜き、離れる。爆散するオウル。
あの動きは、かなり戦闘に慣れている。それも、オウルのコックピットの位置を正確に把握した攻撃だった。明けの明星は、どれだけ戦闘に慣れたレジスタンス組織なのだろうか。そもそも、どこで議会軍と繋がっているのだろうか。
残り3機のオウルがガルマイヤー級に戻り、撤収した。これ以上続ければ、間違いなく全滅させられると思ったのだろう。良い引き際だった。
『こちらユニバーサル・アーク級のウォルディンの艦長、ジャベル・ジャンだ。まず、貴官らに感謝の言葉を述べたい。ありがとう』
『けど被害は出た。もう少しこちらが早く到着していれば……』
『いや、この程度の損害で済んだと思えばいい。それにパイロットは全員脱出して、無事艦に戻っている。そして貴官らに、明けの明星の司令であるソーサラーから伝言が入っている。ドレ・ドラン、リヒター・如月は、我々ウォルディンと共にしばらく行動するように、とのことだ』
『了解した。というわけだ、ガロム、クルガ、お前たちはエクスアーガマに戻ってくれ。リヒター、行くぞ』
「了解」
リヒターとドレはウォルディンの後部着艦用甲板に機体を着艦させ、ハンガーに入り、機体を固定させてもらった。すぐさま大気圏突入は開始された。
(遂に地球か。果たしてここは本当に地球なのだろうか……)
大気圏突入は何の問題も無く、無事成功した。リヒターとドレはハロを持ってコックピットから出て、固まっていた体を伸ばした。艦内アナウンスが入る。
『艦長のジャベル・ジャンだ。現在ウォルディンはアメリア大陸の上空を航行中。異常無し。警戒態勢解除。ご苦労であった』
(アメリアか。やっぱり地球じゃないか。ドレは何故、あのようなことを……)
「あなたが、リヒター・如月か?」
風神雷神の刺青を施しているバーストイージから降りてきたパイロットが、リヒターに近づいて来る。
「その声は……」
「そう、さっきのバーストイージのパイロットの、ルシエル・フォンレイだ。ルシエルでいい」
「ルシエル、ここは地球か?」
ルシエルは何を言っているのか分からないという表情をした。リヒターは何となく、場の空気が悪くなったのが分かり、すぐに話題を変えた。
「あんたがさっき言ってた、『ガンダム』ってなんだ?」
「……ガンダムを、知らないのか? 目のようなデュアルセンサーにツインブレードアンテナ。間違いなく、ガンダムだ。本当に知らないのか?」
「ああ、ガンダムなんて単語、聞いたこともない」
そう。リヒターはガンダムを知らない。どういうMSがガンダムになるのかも、リヒターは知らない。
続く
次回予告
何も知らないリヒターにイライラするドレ。眠っている時、ドレは世界が崩壊するような悪夢を見る。そこで聞こえたのはソーサラーの声だった。「世界は滅ぶ。滅ばなければならない。この救いようのない人類を救うためにも……」。無情にも攻めてくる同盟軍。そこでドレは、リヒターにガンダムに乗っているという覚悟を教える。
次回、機動音伝士ヴァーヴォルガンダム、第3話。
「ガンダム神話とその覚悟」。
ガンダム神話を見届けるのは、君だ。