機動音伝士ヴァーヴォルガンダム   作:折井昇人

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第3話「ガンダム神話とその覚悟」

R.G.S.0023 3/26

 

 ユニバーサル・アーク級巡洋艦「ウォルディン」は、アメリア大陸上空を順調に航行していた。同盟軍の邪魔は特に無いようだ。しかし、一体この艦はどこに向かっているのだろうか。それはリヒターだけでなく、ドレやルシエルも知らないようだった。が、二人ともそれを特に気にすることもなく、リヒターの発言に驚いていた。

「本当にガンダムを知らないのか?」

「だから何度言えば分かる。俺はガンダムなんていうMSタイプは知らん」

 面倒くさそうに答えるリヒター。それは当然のこと。先ほどからルシエルに本当に知らないのか、と散々訊かれていたのだ。人間の目のような形をしたデュアルセンサー、ツインブレードアンテナetc……。そもそも、ガンダムの名を知らずに、どうやって生きてきたのかということまで言われた。

「普通、ガンダムの名前は神話レベルで有名だから、誰でも知っているぞ」

「って言われても……」

「やめとけルシエル。こいつはガンダムを知らん。本当にな」

 横からドレが入ってくる。侮蔑するような言い方に、リヒターはイラっとした。

「ルシエル、あの時は戦闘中だったから言えんかったが、こいつ、自称未来人だぞ」

「……は?」

 至極当然の反応を示すルシエル。誰がリヒターのことを未来人だと考えるものだろうか。普通は、ただの世間知らずだと思うことだ。それがいきなり未来人だと言われてみれば、誰だって意味が分からない、という表情をするに決まっている。が、それがリヒターは気に食わなかった。そもそもリヒターは、まだここが20年前の世界だということを、半分信じていない。

 知らないのだから知らない。それの何が悪いのだろうか。いや、悪くない。悪いのは、今ここがアメリア大陸上空で、ということはここが地球であるというのに、ドレはそれを否定したことだ。ドレは嘘を吐いている。

「20年後の未来から来たそうだ、全く信じれねぇけどな」

「そんなの、俺だってそうだ。ここにアメリア大陸がある以上、ここは地球だ。信じる信じないはいいとして、ドレ。あんたはまず、俺に謝ってもらう」

「何でそうなるんだよ……」

「当たり前だ、あんたは俺に嘘を吐いた。ここはれっきとした地球だ」

 ドレは呆れ顔で大きくため息をついた。自分の言っていることを、全く信じていない。リヒターはそう感じた。これ以上追及しても無駄だと思ったため、このことを訊くのはもう諦めた。

「このVMS、ヴァーヴォルって言うんだろ?」

「へ? ああ、そうだが」

「だったらこのVMS、ヴァーヴォルガンダムってコードネームにしないか?」

 こいつはいいなり何を言いだしているのだろうか。ヴァーヴォルにはガンダムという名前は使われていないのに、勝手にガンダムにしようとする。ガンダム神話というだけあるのだから、ガンダムというMSタイプは伝説なのだろう。それを、偶々旧アナハイムMS工場で見つけただけのVMSに伝説の名を付けるのは、リヒターはどうにも嫌だった。理由は詳しく言えない。ただ、何となく、嫌だった。

「やめてくれ、そんな伝説とか何とかって呼ばれているMSの名前なんて。それに俺は、そんな伝説のMSの名前を使って戦う英雄みたいな、出来た人間じゃない。所詮未来人。この世界のことなど知らん、不出来な人間だ」

「確かに、それには同意する」

 とドレが言う。

「ガンダムの名すら知らん未来人に、ガンダムを使ってほしくないしな。幸い、このVMSはただのVMS。ガンダムに似ているのは、偶々だ」

「……言い方は気に食わんが、大まかにはそういうことだ」

「てなわけだ。ルシエル、空いてる部屋、あるか?」

「え? ……ああ、ある。ハンガーを出て左に行ったら休憩場がある。そこが左右に通路が別れているから、左手に行ってくれ。空き部屋がある。確かベッドもあったはずだから、休めるとは思う」

「分かった」

 ドレはこの会話に興味を失くしたのか、あるいは面倒くさくなったのか、すぐにリヒターとルシエルのもとから離れた。リヒターもリヒターで、それはそれでストレスがかからないから助かったと思った。

 リヒターもルシエルに空き部屋があるか尋ねた。流石にほぼ20時間以上も動きっぱなしでは、若いリヒターも疲れていた。

「こっちだ、着いてきてくれ」

 リヒターは欠伸をしながら、ルシエルに着いて行った。

 

 

 

 

 空き部屋を無事見つけたドレは、部屋に入ってベッドにスプリングやシーツがあることを確認した途端、飛び寝転がった。ギィッ、とベッドのスプリングが大きい音を立てる。

 何故、リヒターがガンダムを持っている。それも20年後の世界から。ガンダムを知らないということは、ガンダムは存在しないのではないだろうか。だが現に、リヒターはヴァーヴォルと呼ばれる、どう見てもガンダムタイプのVMSを所持している。あの装甲材質や武装から、量産機との互換性は無く、ワンオフで造られた機体だろう。しかも、相当特殊な機体なのか、コックピットハッチが存在しない。そして、パッと見ただけで細かいことや本当のかどうかは分からないが、あのガンダムは恐らく、何か目的があって開発された。MSなのだから、それは至極当然のことなのだが、あの武装の異様な火力と射程は、何か強大な力に勝つためのものだと思える。そして、人間でいうところの口に当たる部分に、あのガンダムには本当に口と思わしき切れ目があった。あれは一体何なのか。考えれば考えるほど、謎が深まる。しかしそんなことはある意味どうだっていい。

 何故、あんなガンダムを知らない奴にガンダムが渡ったのだろうか。何故、ガンダム神話を信じて、わざわざ宇宙世紀時代の可変合体MS「Vガンダム」をベースとしたレベリオンの頭部を、ガンダムのようにしてもらったのか。目の前に本物のガンダムが現れれば、自然とこうもなろう。

 こんなことを考えていては、休めなければならない体も休まらない。

 忘れよう。一旦忘れよう。そうしないと、本当に体が持たない。

 ドレは懐から、愛用の携帯音楽再生端末を取り出し、好きな音楽を聴き始めた。ドレはすぐに眠りについた。

 

 

 

 

 ドレはレベリオンで、必死に大量のオウルを撃墜していた。何機も撃墜したが、数が減る気配は一向に来ない。むしろ、どんどん増えてきている。こちらのレベリオンは次々と撃破され、もう残存戦力は殆ど無かった。同盟軍は、どれだけの戦力を隠し持っていたのだろうか。一瞬、そんなことを考えてしまい、隙が生まれた。その隙を敵は見逃さず、ドレのレベリオンにキャノン攻撃を入れた。間一髪、直撃は免れたが、ビームシールドを装備している左腕を破壊された。爆破の衝撃で、戦場外にまで吹き飛ばされる。コンソールを動かしても、フットペダルを踏んでも、動かなかった。操縦システムが故障したのだろう。何も出来ないドレは、ただ見ているしか出来なかった。

 別の方向から、異様な光が飛び込んでくる。虹色のような光。その方向を見ると、ヴァーヴォルが謎のMSと交戦していた。両機体から、虹色の光が放出されている。その光はどんどんと戦場全体に広がっていき、小隕石を、小惑星を、そしてMSや艦船を粉塵にしていった。虹色の光に触れただけで、そうなっていった。

 その光は、身動きの取れないドレにまで届いていた。その時には既に、宇宙に巨大なブラックホールのような、底知れない闇が形成されていた。まるで、世界の終焉の時のように思えた。

 徐々に光によって、機体が塵になっていき、ドレの身も消えていった。完全に消える寸前、声が聞こえた。くぐもった声。誰かは分からなかった。

「世界は滅ぶ。滅ばなければならない。この救いようのない人類のためにも……。世界を、やり直す」

 それだけが聞こえて、ドレは塵になり、宇宙、いや、世界のどこかに消え去った。意識が遠のき、そして、覚醒する。

 

 

 

 

「ッハァ!」

 ガバッと起き上がるドレ。耳にはまだ音楽が流れていた。好きな音楽だというのに、不快に感じた。息が上がっている。MSパイロットらしからぬ、情けない姿だと思った。ベッドから降り、洗面台に置いてあったコップに水を目一杯注ぎ、一気にごくごくと飲む。ひと息つくと、まだ先ほどの夢の内容が鮮明に思い出せるということに、違和感を抱いた。

 当然、あんな現場に遭遇したことはない。もしかしたら、これから遭遇するかもしれない。だったら、このようなデジャヴ(・・・・)は体全体で覚えないはずだ。なのに、体はどことなく覚えている。コップを持った手を見ると、中の水が小刻みに震えているのが分かる。恐怖している証だ。一体どこで経験したのだろうか。それとも、偶に誰かから聞く前世の記憶、というやつなのだろうか。いや、そんなのはあり得ない。輪廻転生という言葉も聞いたことはあるが、本当に前世の記憶を引き継いでいる人間なんて、聞いたことがない。

 ならば、あの夢は嘘。全てが嘘。何もかも嘘。そうだ、そうに決まっている。この体の震えも、きっとただ単に珍しく、夢が怖かっただけに違いない。もしくは。

「リヒター・如月……。あいつが余計なことを言うから……」

 自称未来人のリヒター。本人は未だ、ここがR.G.S.0023だということを認めていない。だがドレは、あのガンダムを見る限り、未来から来たのだろう、と納得せざるを得ない。気に食わなかったが。

 この時代でガンダムが開発されるということはない。ガンダムは反抗の証として、伝説になっているからだ。そもそも、いつの時代かは知らないが、誰かが「目が二つあって、2本角が生えていれば、誰がどう見てもガンダムになる」というとんでもないぐらいにいい加減な言い伝えが、未だに残っているせいで、見た目はガンダム、名前は違うというのが主流となってしまった。だからガンダムは伝説であり、神話にもなっているのだ。レベリオンだって、本当はガンダムタイプの名前を冠する予定であったが、その言い伝えを誰かが思い出して、今の名前になった。

 だがルシエルは、リヒターのVMSをガンダムと呼ぼうと言い出した。それ自体は別に構わない。嫌なのは、リヒターのヴァーヴォルが本当に、かつてのガンダムタイプと設計コンセプトが似ているということだ。つまり、リヒターさえ認めれば、あれはガンダムとなり、ガンダムが世界に復活するということになる。本来ガンダム部隊の指揮官となるはずであったドレにとって、それは屈辱以外の何物でもなかった。

「クソッ……!」

 部屋の壁を思いっきりグーで叩く。鈍い音がして、少し痛かった。そして、こんな身を傷つけることで、夢へのストレスが発散されることもなく、ただただ延々と、夢で見た映像が頭でリピート再生される。落ち着かせるために、もう一杯水を飲もうとしたその時。艦内にアラートが鳴り響いた。

『同盟軍のVMS隊が接近! 数は9! NMS部隊は発進準備に入ってください!』

 

 

 

 

 ハンガーにやってきたリヒターたち。ウォルディン所属のNMSパイロットと共に、NMS部隊隊長の話を聞いている。

「作戦概要は各員のハロにデータを送っている。発進まではまだ時間がある。頭に叩き込んでおけ。以上。各員、コックピットへ」

 「了解!」と、ウォルディン所属NMSパイロットが腹から声を出す。それぞれ散り散りに、各々の機体に移動する。リヒターも移動しようとすると、ドレがその場で俯きながら動かなかった。何か考え込んでいるように見えた。

「ドレ、どうした?」

 ドレはハッとなり、リヒターに答えた。

「……何でもない。さっさと行くぞ」

 気遣いの言葉一つ無し。どうやら杞憂だったようだ。それに、そんな声をかける必要も無いと思った。リヒターはヴァーヴォルに向かい、いつものようにイメージを浮かべ、コックピットに入り込む。シートに座って、MFDにハロをセットし、作戦概要をチェックする。ハロの口が開き、そこから浮遊透明ディスプレイが浮かび上がり、作戦内容が表示される。内容は、ヴァーヴォル、レベリオンの2機を主軸に、フリーダムⅡを3機、バーストイージを2機、合計7機で敵部隊を殲滅するというもの。敵はオウルだけであり、中には指揮官タイプのオウルもあったが、この数なら十分7機で対応が可能。それに敵の艦は確認されず、恐らく相当後方にいると思われる。敵艦からの長距離砲撃はまず無いので早めに出て、ヴァーヴォルとレベリオンをフリーダムⅡとバーストイージで援護しつつ、撃破。要するに、高性能なMSに頼り切った、情けない作戦であった。そもそもこれは作戦ではなく、ただのゴリ押しだとリヒターは思った。

 浮遊透明ディスプレイを閉じて、発進まで待機していると、ドレが固定回線で呼び出してくる。応答し、何だ、と言うリヒター。

「作戦じゃねえだろ、これ」

「今回ばかりは、あんたと同意見だ。俺たちがいなかったら、この部隊、どうなってたんだろうな」

「さぁな、そこまで俺は考えるつもりは無い。そんなことより、だ」

「愚痴がメインじゃないのか」

「警報が鳴るまで、寝ていたんだ。疲れでな。そこで見た夢のことについてなんだが」

「はぁ? 夢? 何で俺がそんなのを」

「いいから聞け、これがメインなんだから。内容は、世界が何か虹色の光によって滅ぶものだ」

「現実味が無いな。切るぞ」

「まぁ話はここからだ。俺はレベリオンで同盟軍のVMSと戦っていたが、仲間がどんどん撃墜され、最後は俺も左腕を破損し、操縦システムが故障して、動けなくなった。その時、ふと別の方向を見ると、ヴァーヴォルが全く見知らぬMSと交戦していた。そしてその戦いの中で、ヴァーヴォルとその謎のMSは、虹色の光を出し始めた」

「それが何だ」

「虹色の光は、触れた物を一瞬で塵にしていた。あれはただの光なんかじゃなくて、殺戮兵器だ。……お前、何か知ってるんじゃないか?」

「何でそうなる」

「お前が自分のことを未来から来たと言うからだ」

「馬鹿げてる。切るぞ」

「あ、おい、ま――」

 ドレの声が聞こえなくなる。一体何を言い出すと思いきや、ドレは変な人間なのだろうか。とてもそうとは思えなかったが、今の話を聞く限り、そうとしか思えない。

 しかし、ヴァーヴォルが出てきた、というのは引っかかるもので、確かにこのVMSには謎が多い。何か隠されているものがあるかもしれない。だが、それが何故、ドレの夢の中に現れたのか。やはり謎が多い。

 考えていたら、いつの間にかリヒターの発進順番まで来ていた。当然、脚部の形状がウォルディンに合うはずもなく、エクスアーガマの時のように、バーニアを徐々に吹かして自力発進を行おうとする。

「リヒター・如月。ヴァーヴォル、出るぞ!」

 ウォルディンの中央にのみ装備された唯一の発艦カタパルトから、ジャンプするように発進する。先行していたドレとウォルディン所属NMS部隊に追いつき、速度を合わせて飛行する。ウォルディン所属NMS部隊の一人であるルシエルから通信が入る。

『流石はガンダム。あっさり追いつい――』

「ガンダムと呼ぶな。それに、こいつは未来で造られたVMSだ、追いつくぐらい、どうということはない」

『……なぁリヒター。何でそんなにガンダムを嫌がるんだ?』

「無駄口を叩くな。それより、俺のヴァーヴォルは既に射程圏内だ、先制攻撃をかけるが、いいか?」

『え? あ、ああ。隊長、リヒター・如月のヴァーヴォルは、既に射程圏内に入っているそうです。どうします?』

『やってもらおう。1機でも落とせるなら、それに越したことはない』

『了解です。……だとさ、頼む』

「よし。ヴァーヴォルロングボウ!」

 巨大な弓がヴァーヴォルの左腕に出現し、右腕で作ったヴァーヴォルの矢を発射する。勢いよく飛んでいった矢は、見事敵オウル編隊の1機を撃墜した。残っている8機のオウルが散開する。

『各機散開! 敵はこちらよりも空中戦に適しているが、そんなことで怯むな。我々の方が、腕があるという事実、見せてやれ!』

 『了解!』がヘルメット越しに聞こえてくる。リヒターは、NMS部隊隊長の言葉に疑問を抱いた。

 一体どこに、同盟軍のVMSパイロットよりも腕があるというのだろうか。仮にそれがあったなら、最初の衛星軌道上での戦闘で、苦戦はしないはずだ。なのに、彼らは同盟軍よりも腕があると思っている。信じている。信じ切ってしまっている。それは危険なことだ。このままでは自滅するだけだ。が、だからといって、リヒターは何も言わなかった。

 そんなこと、彼らが一番分かっていることだからだ。腕に自信はあるのだろう。だが、どれだけ腕があっても、MSにスペックのほんの僅かといえど違いがあれば、生か死かの確率は、死の方が上がる。だから彼らは、リヒターのヴァーヴォルに先制攻撃を依頼した。本番戦はここからだ。気を抜かないようにしなければ。

 リヒターは正面にいるオウルに対して、ヴァーヴォルを振り子のように動かし、照準を狂わせた。ヴァーヴォルキャノンを発射するオウル。ヴァーヴォルキャノンは、現代のビームライフルのように、アサルトライフル並の連射は出来ない。完全な単発兵器だ。瞬間、生まれた隙をついて、リヒターはヴァーヴォルソードで2機のオウルを斬り裂いた。周囲を見渡す。風神雷神の刺青が入ったバーストイージが、1機のオウルをビームサーベルで貫いている。ルシエルだ。中々やるものだなと、思いながらリヒターは見ていた。それが敵に隙を作ってしまった。

 接近アラート。後方を見ると、3機のオウルが、ワイヤーのような物を三角状に繋げて展開している。あの兵器は何なのか。急いでMFDを操作して調べた。が、その間に敵機はゼロ距離になっていて、ワイヤーの内側から網のような物が張られた。ヴァーヴォルはそれに引っかかり、直後、リヒターは叫び声を上げるほどの電流が流れた。5秒ぐらい続いただろうか。ヴァーヴォルの全電源が落ち、機体は落下を開始した。ドレの呼び出しにも、リヒターは反応出来なかった。

 

 

 地面に落ちていくヴァーヴォル。その姿は、ガンダムタイプとは思えないぐらい、情けないものだった。ドレは何度もリヒターを呼んだ。それでも、リヒターはうんともすんとも言わなかった。

「気絶してるのか……!」

 だが、ヴァーヴォルの救助に行けるほどの余裕は、ドレには無かった。少しずつだが、味方のフリーダムⅡやバーストイージは堕とされ、挙句の果てにはNMS部隊隊長のバーストイージが撃墜されていた。完全に戦場は混乱していて、まともに動いているのはドレのレベリオンと、ルシエルのバーストイージだけであった。残っていた最後のフリーダムⅡが撃墜される。惨めに見えた。

「ルシエル!」

『何だ!?』

「俺は下方向に行って、ヴァーヴォルを救出する! あんたは上方向に一気に上昇してくれ! 相手を惑わせるんだ!」

『了解! 行くぞ!』

 ドレのレベリオンが下方向へ。ルシエルのバーストイージが上方向へブーストする。残存オウル5機が一斉にヴァーヴォルキャノンを同じ方向に発射した。が、既にその場所には何も無い。爆発が起き、オウルはしばらく動かなくなる。と思っていた。

 下方向に行ったドレは、上を見る余裕など無く、とにかくヴァ―ヴォルを引っ張り上げることだけを考えていた。つまり、後ろががら空きだった。爆風に惑うことなく動ける1機のオウルが、ドレのレベリオンのバックパックを狙う。ロックアラート。

「馬鹿な!?」

 オウルの腕からヴァーヴォルキャノンが発射される。回避することも出来ず、ドレのレベリオンはまともにバックパックをやられた。

 一緒に地面に落ちていくヴァ―ヴォルを見て、ドレは叫んだ。

「それでもガンダムか、ポンコツがぁ! ガンダムなんだろ! ガンダムらしく、蘇って見せろ!」

 それでどうにかなるものでもないというのは、ドレも分かっていた。だが、叫ばないとどうにもスッキリして死ねないと、ドレは思っていた。

 

 

 

 

「……何だよ、これ」

 リヒターは四方が白く囲まれたよく分からない空間で、浮遊しているモニターに流れる映像を見ていた。どうやらMSの戦闘記録、それも、頭部を見る限り、ガンダムタイプのようだった。

 1機のガンダムは、ビームサーベルをあり得ないぐらいに巨大にして、敵を斬り裂く。

 1機のガンダムは、残像のような物を作りながら、巨大兵器に近づいてそれを撃破する。

 1機のガンダムは、ピンク色の翼を作り出し、全てを包み込むような動きをしている。

 1機のガンダムは、右手を光り輝かせ、ガンダムのような敵の頭部を輝く手で握り潰す。

 1機のガンダムは、両手を真っ赤に輝かせ、エネルギー体を発射し、強大な敵を倒す。

 そんな映像が、延々と流れていた。

 一体これは、何なのか。全く分からない。誰が、何のために、こんなものを見せてくるのか。

 その時、声がした。若い女の声だった。この時代にやって来る前に聞いた声。上手くは聞き取れなかったが、前回よりはマシだった。

『……ダム。……ヴォルガン……。あなたしか……えない。……ねがい、目覚めて。……ヴォルガンダム……』

 そうして、この白い空間は崩壊を開始した。

 

 

 

 

 気づけば、ヴァーヴォルが地上に向かって降下している。それは、コックピット内で逆さになっているので、全天周囲モニターがついていなくても分かった。速度も衰えることがなく、むしろ、徐々に加速しているように思える。このままでは、死ぬ。間違いなく、死ぬ。リヒターは必死で機体を再起動させるべく、あらゆるスイッチを触り、MFDにセットしているハロをセットし直すなど試みたが、何とか通信系統と全天周囲モニターだけは生き返った。肝心の操縦システムは、未だ死んだままだ。

 通信回線が復活した途端、ドレの声がコックピットに響き渡る。ポンコツガンダム、ロクでなしガンダム、詐欺ガンダム……。言いたい放題言っていて、流石のリヒターもイライラした。モニターで見る限り、ドレのレベリオンも落ちているらしく、このまま死ぬまで放ってやろうかと思った。だが、ドレはしぶとくガンダムガンダムガンダムガンダムと、ガンダムという名前を連呼してきた。もう我慢の限界であった。

「ガンダムガンダムガンダムって、うるさいんだよ! ああクソッタレが! やりゃあいいんだろうが! 動け、動けよ! 伝説のガンダムって呼ばれてんだぞ、おい! 動けってんだろうがぁ!」

 キレながら叫ぶリヒター。

 それに応えたのか、或いはガチャガチャとMFDを操作していて、偶々のことなのか。

 ヴァーヴォルの操縦システムが復活した。リヒターは隣で降下しているレベリオンの腕を掴むと、遥か上空に待機しているウォルディンの方へ思いっきり投げ飛ばした。レベリオンから、ドレの悲鳴が聞こえる。いい気味だった。

「まとめてぶっ潰してやる!」

 ヴァーヴォルロングボウを展開し、矢を5本精製し、照準を定める。ロック完了。

「喰らえ! ヴァーヴォルロングボウ、重ね打ち!!」

 回避させる余裕など、与えない。閃光に輝く矢は、全ての漆黒に塗られたフクロウを打ち抜く。全てが爆散し、敵の反応が全て消滅する。

 未だ落ちていたヴァーヴォルは、脚部バーニアを全力で噴射させ、意外にもあっさりとウォルディンへと帰還した。これにはリヒターも驚いた。ここまでの爆発的な推力があるとは思っていなかった。

 

 

 

 

 先に帰還していたドレとルシエルは、リヒターのヴァーヴォルを迎えに行った。艦内で待機していた他のパイロットも迎えに来ていて、まるで有名スポーツ選手の凱旋のようだった。正直、気分はどうかと言われれば、悪くないものだった。コックピットから出て、ドレとルシエルに近づくリヒター。ドレもルシエルも、堅く、重苦しい表情であった。リヒターは、今の気持ちを素直に答える。

「まだ、この世界が何なのか、全部は分からんが……。というより、理解するつもりもあまり無いが……」

 表情の変わらないドレとルシエル。

「……まぁ、神話にまでなってるらしい、ガンダムに乗るってのも、悪くないもんだなって、思った」

 二人のうち、最初に動いたのはルシエルだった。堅い表情のままだったので、殴られるかとリヒターは思ったが、そんなことは無かった。腕を肩に回され、揺さぶられる。

「調子のいいこと言いやがって! そうさ、君のVMSはガンダムなんだ。ヴァーヴォルなんてダサい名前は捨てて、ガンダムにしよう!」

「却下」

「ええ!?」

「ガンダムって名前じゃ、どのガンダムか区別出来ないだろ。だからこいつの名前は、ヴァーヴォル。ヴァーヴォルガンダムだ」

「ヴァーヴォルガンダム……。悪くない名前だな」

「だろ?」

 リヒターはドレを見た。ドレはどことなく、笑っているように見えた。それ以上追及すると、どうせロクな返事しか来ないことは分かっているので、何も言わなかった。

 これからも戦いは続く。生き残るには、今はこのヴァーヴォルガンダムの力を借りるしかない。それにリヒターは、ヴァーヴォルガンダムがどことなく、かっこよく見えた。

 

 

 

 

 リヒターたちが命名している頃、無人のヴァーヴォルガンダムのコックピットのMFDが動く。

 パネルには、「40回目、開始」とだけ表示されていた。

 

続く




次回予告
 未来の世界をV(ヴィクトリー)世界。過去の世界をC(クレント)世界。リヒターは二つの時代を知る人間として、そう呼称するようになる。だが、リヒターの身の回りの物には、未来人であるという証拠はない。歴史を語っても、それは歴史改変にしかならず、己が来た世界にはならないかもしれない。どうすればいいのか。迷っている時に、同盟軍のVMS部隊が攻撃を仕掛けてくる。その中には、ガンダムとよく似た顔を持つVMSがいた。
 次回、機動音伝士ヴァーヴォルガンダム、第4話。
 「偶像襲撃」
 ガンダム神話を見届けるのは、君だ。
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