機動音伝士ヴァーヴォルガンダム   作:折井昇人

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第2部「聖像」
第4話「偶像襲撃」


R.G.S.0023 4/2

 

 そこは、一面が真っ白だった。雪が積もっている、ということではない。病院の病室よりも、更に真っ白な空間。リヒターは今、そこにいた。体重が全て無くなったかのように、体が軽い。宇宙の無重力状態とも違い、気を抜けば、この白さに魂と体を丸ごと搔っ攫われてしまいそうだ。

 リヒターの目の前に、誰かがやって来る。気配で分かった。目を凝らして誰なのか判別しようとするが、あまりにも白が強すぎて、顔どころか、どこが体なのかも判断し辛い。誰だ、とリヒターは問う。相手は何も答えなかった。少しずつ近づいているのが分かる。

「あなたは……」

 少女の声だった。前にもワープの際に聞いたことのある声だった。

「あなたは、世界を救う役目がある。迂闊に話してはならない。そう。どちらが勝利するかなんて、以ての外。絶対教えちゃ駄目」

 何のことなのか、リヒターは分からなかった。ただ、少女の声は至って真剣そのもの。軽々と無視してもいいものではないと、リヒターは本能で理解していた。

「あいつが来た。とにかく、この事は誰にも言わないで」

 少女の気配が消え始める。

「待ってくれ、君は一体……」

 リヒターは思わず手を前に出す。しかし、そこには何も無い。ただただ、白く見える空間があるだけ。段々と、少女の気配が遠ざかっていく。

「世界はあなたが――」

 去りながら、少女はそう言って、完全に姿を消した。それと同時に、この白い空間も、光が訪れ、崩壊していった。

 

 

 

 

 気づけば、リヒターはユニバーサル・アーク級「ウォルディン」で与えられた、自分の部屋のベッドにいた。天井に向かって、手を伸ばしている。

「夢、か」

 ゆっくりと起き上がり、手の感触を確かめる。確かに感覚はある。先ほどのような、無の感覚ではない。そこに手は有る。物質もある。大気もある。空気もある。ちゃんと、そこにある。

 一体誰だったのか。あのような少女とは会ったことはない。気配だけだったが、それでも会ったことはない。

 だが、会ったことが無いだけ。どことなく、知っている(・・・・・)気がする。何故そう思うのかもリヒターには分からないが、とにかく、何故か頭が覚えている。脳が知っている。その結果、リヒターは涙を流していた。悲しかったわけではない。嬉しかったというわけでもない。それ以外の気持ちでもない。

「何で、泣いて……」

 リヒターはしばし、あの少女について考え込んだ。幼少期に会ったことがあるのか、それとも他人の空似なだけなのか。世界を救う役目とは、一体どういうことなのか。それに、誰にも未来を教えてはいけないのは、何故。教えた方が、同盟軍をより確実に倒せるのではないだろうか。

 もしや、こういうことだろうか。その昔、とあるSF小説だったか映画だったかは忘れたが、主人公がタイムスリップするというのを覚えている。その作品の中で、主人公は過去の世界で、父親をからかっていた奴に怪我をさせようとすると、過去での自分の体が透明になり始める。未来から持って来ていた、主人公の写っている写真から、主人公だけが消えていく。そんな内容だった気がする。

 今が本当にR.G.S.0023年なら、フィクションとはいえ、この法則はかなり怖い。未来にいるべき自分の存在が、消滅してしまうのだから。言いようもない恐怖に、リヒターは襲われる。だが、ここは現実で、フィクションの中の話ではない。

 そう考えると、何故SFのことを思い出したのだろうか。それが馬鹿らしくなり、リヒターはベッドに横になって、毛布を体にかけた。

「もう一回寝よう……」

 としたその時。

 ベッドサイドで充電していた携帯端末が、けたたましく鳴る。リヒターは面倒くさそうに端末を取る。

「もしもし」

『起きていたか、リヒター・如月。我がNMS部隊より優秀だな』

「ジャベル艦長。何の用だ。俺は眠い。もう一度、眠らせてもらうぞ」

『ブリッジで旨いサンドイッチと香りの良い紅茶、コーヒーを用意している。他の人間はまだ来ていない。今なら君が一番乗りで、美味しいサンドイッチにありつけるが、どうするかな?』

 リヒターは時計を見る。針は午前7時を差していた。何故こんな時間に起きたのだろうか。全てはあの夢のせいだ。

 しかし、ジャベルからの誘いというのも中々捨てがたかった。腹はしっかりと減っている。食堂の食事にはあまりいい思い出はない。だとすると、選択肢はただ一つ。

 リヒターは無言で端末を切り、部屋にあった議会軍の制服を着た。制服のデザインは大して変わっていない。むしろ、20年間殆ど変えていないということに問題があるように思えた。しかし、あまり変わっていないことに、リヒターは何とも言えない安心感を覚えた。部屋から出る。目標はブリッジへ一番乗りし、サンドイッチと紅茶にありつくためだ。部屋の目の前の窓から、朝陽が覗き込む。その朝陽が、妙に気持ちよかった。

 

 

 

 

 ブリッジの前の廊下からは、コーヒーや紅茶の香りがしっかりと漂っていた。何故か二つの異なる香りは混ざることなく、個々を活かしていた。空腹のリヒターは、更に空腹を覚え、自然とブリッジへの足が早まる。

 ジャベルは既に食事は終わっているようで、艦長席で正面から照らされる朝陽を浴びながら、コーヒーを楽しんでいた。

「そこにサンドイッチがあるだろう。好きに食べていい」

「ドレやルシエルたちは?」

「早起きは三文の徳、と言うだろう?」

「なるほどな。では、遠慮なく頂こう」

 リヒターはブルーベリージャムのサンドイッチを手に取り、口にする。しっかり噛んで呑み込み、すぐさまもう一口食べる。絶品という味ではない。分厚さから、市販で売っている食パン用のパンをそのまま使っているようだった。しかし、それが普通の薄切りパンよりも美味しい。パンのほんのりとした甘味が、しっかりと舌に伝わる。一般的で、庶民的で、ホッと安心する味だ。

「旨い」

 思わず本音が口に出る。リヒターはガツガツと、一つ目のサンドイッチを食べ終わり、二つ目の卵とハムを挟んだ、これまた普通のサンドイッチを食べ始めた。こちらもまた、卵が表面はしっかり、しかし中はふんわりと少し半熟に近く、ハムとの相性もバッチリであった。卵とハムのサンドイッチを食べ終わったリヒターは、紅茶をコップに入れ始める。流石にこの分厚さのサンドイッチを、朝から三つも胃に入れることは出来ない。実際には出来ないことはないのだが、確実に逆流する。リヒターは昔から、朝からそんなにも食事が入る者はただの化け物だと思っていた。

 しばらくブリッジから見える広大で綺麗な緑のあるアメリアの大地を見ていると、ドレとルシエルが入ってきた。まだ眠いのか、目を擦っている。

「何だよ朝っぱらから」

「サンドイッチとコーヒー、それに紅茶もあるぞ」

 リヒターが、サンドイッチがある方を指差す。

「こんなに?」

「これはジャベル艦長が、ですか?」

「食堂に行きたければ、そちらでもいいぞ。私は不満だがな」

「いえ、折角用意してもらったので。頂きます」

「俺も食べよう。リヒターは?」

「早起きは三文の徳って言うだろう? そういうことだ。さっきまでは朝陽が入って、目の前も綺麗だったぞ」

「二度寝せずに起きればよかった……」

 ガックリと項垂れながらも、ドレはしっかりとサンドイッチを頬張っていた。それも両手に持って。ルシエルも同じであった。真面目な部分があるから、食べ方も綺麗なのかと思っていたが、そうでもないらしい。

 リヒターは再び、アメリアの大地を見る。リヒターは、この眼前に広がるアメリアの大地に、違和感を覚えていた。モビルスーツのMFDは敵機情報と周囲の地形だけを表示するため、どのように樹木があるか分からない。リヒターの見たアメリアは、あまり樹木の無い、乾燥した大地、という印象が強い。土と岩で構成された谷が大量にあるというものだ。リヒターはアメリアには住んだことがないため、写真やテレビでしか見たことがなかったが、眼前に広がるアメリアは違った。西のヨーレシア大陸東南地区によくある巨大森林とまではいかないが、それなりの森林と樹木が立っている。湿度のありそうな大地であった。

 ズズズ、という飲み物を啜る音が聞こえる。音を出しているのはドレだった。コーヒーを飲んでいた。

「ドレ、音を立てるな、汚い」

「猫舌なんだよ」

「だったらアイスコーヒーにしろ」

「嫌だね。寒くて風邪を引く」

「ルシエル、何とか言ってく――」

 ルシエルの方に向くと、彼もまた、音を立てて飲んでいた。紅茶だった。

「ルシエル、あんたもか……」

「ん?」

 と、ルシエルがようやく反応する。

「何でもない」

 小さく小さくため息をして、リヒターは紅茶を飲み干した。

 程なくして、ルシエルも紅茶を飲み終わり、ブリッジの窓からボーっと外を眺めていた。

 ジャベルがコーヒーカップをテーブルに置き、脱いでいた艦長帽を被った。ドレがリヒターに尋ねる。

「何か始まるのか?」

「知らん。そんなことより、いつまで飲んでるんだ」

「その通りだ、ドレ・ドラン。そろそろ話を始めたいのだが」

「勘弁してくれ。猫舌に早飲みは無理だよ」

「今回の地上降下作戦の概要を説明する」

「無視かよ……」

 ドレは急いでコーヒーを飲んだ。その間にも、ジャベルによる今回の目的の説明は進んだ。

「同盟軍の地上施設の破壊が、今回の最大の目的だ。奴らの地上施設は、MS工場兼同盟軍地上基地を兼ねているからだ。これを叩き、地上の同盟軍にダメージを与える。すると、同盟軍は宇宙にいる同盟軍に、物資、MSの補給の数は減少する。その減少している間に、我々議会軍と明けの明星で同盟軍を叩く、という流れだ」

「議会軍単独では……無理か」

「不可能だ。何せ、NMSとVMSでは、ただのMSとして見ても、性能差がありすぎるからな。明けの明星の戦力は必要だ。それに今は、ヴァーヴォルガンダムがある。あれだけの高性能な機体があれば、かなり成功率が上がる」

「そりゃ、俺たちの中で今のところ、唯一所持してるVMSだからな」

「しかしガンダムに過信し過ぎるのは、結果的に慢心を生みます。アテにしてはならないというわけではありませんが、我々も、全力を尽くすべきです」

 ルシエルが紅茶のカップを皿にカチャリと音を立てて置く。

「そうだな、ルシエルの言う通りだ。ガンダムを過信してはいかん。ガンダムと言えど、神にもなれれば、悪魔にもなれるからな」

「俺のヴァーヴォルは、そこまでの代物でもないと思うのだが」

「とりあえず、これからウォルディンは、地上施設の破壊を目標に行動する。異論は認めることは出来ない。決定事項なのでな。ところでリヒターよ。貴官はあのガンダム、どこで発見したのだ? 議会軍の物でないことは分かっている。しかし、同盟軍でも明けの明星でもないというのは、どうにも引っかかってな」

 リヒターは夢の中で現れた少女の話を思い出した。未来のVMSだということを、果たして一端の議会軍の人間に言ってもいいものなのだろうか。夢から醒めた時、何故かこの戦争の勝敗を明かしてはならないと納得している。だが、ヴァーヴォルのことは話した方がいいような気がするのも、また確かなこと。上手く伝えなければならない。さて、どういう構成で話そうものか。

 と、リヒターが悶々としている時、ドレが言う。

「こいつ、未来の世界から来たらしいぜ、艦長さん」

「……未来? ドレ・ドラン、何を言っているのだ?」

「いやまぁ、本人がそう言うもんだから、そのまま言っただけなんだけど。なぁ、ルシエル」

「そうです、ジャベル艦長。リヒターは確かにそう言いました」

 リヒターは内心慌てていた。あっさりと未来から来た、などと言っていいものなのだろうか。問題は無いのだろうか。あるような気がする。

「それを理由づける証拠か何かはあるのか?」

「まぁ、あのガンダムだな。どう見ても、現代の技術で作ったVMSとは思えん。外部装甲は今と変わらないが、あのバーニア出力、火力の高さ、そして、その巨体。今の技術じゃ、あんなの造れるはずがない」

「それに、仮にリヒターが未来の世界から来たとしたら、何らかの手段で時空をワープしています。即ち、それはリヒター本人に出来るとは思えない。その類の装置を、リヒターは持っていないからです。とすると、要因はあのガンダムにあります。つまり、あのヴァーヴォルガンダムは、何らかの手段で、未来の世界からこの世界にやってきた、ということになります」

「我々は、リヒター・如月を未来の世界……一々未来の世界と言うのは面倒だな、何か名称をつけよう。名前は大事だからな」

 ジャベルたちはリヒターに目を向ける。リヒターは、何故自分に目を向けられるのか、よく分からなかった。だが、ここで何か言わないと、事が進まない気がした。

「……未来をV世界、過去をC世界」

「V? C? 何だそれ?」

 とドレが尋ねる。

「Vは……議会軍の勝利を祈ってという意味のヴィクトリー。Cは、俺にとってはこの世界は過去だが、それだと紛らわしいから、現在のカレントという意味のC、だ」

「なるほど。V世界にC世界。語感は悪くない。で、リヒターよ。V世界でこのヴァーヴォル戦争はどうなっているのだ?」

「それは……」

 リヒターは言い淀んだ。この先の未来を軽々しく言ってもいいのだろうか。先ほどはドレが未来から来た、とだけ言ったからこそまだよかったものの、未来を知っている自分がこの世界の未来を話していいものなのだろうか。葉月の言葉が、頭を過る。

「どちらが勝利するかなんて、以ての外。絶対教えちゃ駄目」

 そう、教えてはならない。そんな気がする。

「……よくは知らない」

「何? 貴官は我が艦に来た時、議会軍のノーマルスーツを着ていた。議会軍の所属ではないのか?」

「ああ、議会軍は議会軍だ。しかし、情報開示が制限されていて、過去に何があったかのかは、よく知らない。だから、明けの明星のことは、未だによく知らない」

 明けの明星のことに関しては本当のこと。未だにどれだけの規模の組織なのか、知らない。そもそも知る機会が無い。しかし、情報開示制限というのは、真っ赤な嘘。そんなことはされていない。だから、このヴァーヴォル戦争の行く末を、リヒターは大雑把ながらも知っている。

 だからこそ、V世界の議会軍のことを教えたくない。いや、教えてはならない、とリヒターは本能で判断した。

 しばらくの間、ブリッジに沈黙が訪れたが、それを最初に追い払ったのは、ジャベルであった。

「我々、一兵士が未来のことを知ろうとするなど、おこがましいのかもしれない。各員、解散。自室にて待機」

 

 

 

 

 部屋に戻ったリヒターは、歯磨きをしながら、先ほどのV世界とC世界のことについて考えていた。

 あれで、あれで本当に良かったのだろうか。こうやって一人冷静に考えるのは初めてだ。仮にV世界のことを教えたとする。それが議会軍全体に伝わる。C世界の議会軍とV世界の議会軍の体質が同じなら、間違いなく議会軍は同盟軍に慢心し、敗北する。そうすると、V世界は消滅し、自分の存在そのものが消滅してしまう。それに、仮に同盟軍が勝利した世界で自分が存在していたとしても、同盟軍が支配する世界など、見てみたいとは微塵も思わなかった。

「それだけは避けなければ……」

 何とかして議会軍を勝利に導く。それが、リヒターの当面の個人的な目標となった。

 これで、これでよかった。こうするしかなかった。もしかすると、運命がこうするように出来上がっているのかもしれない。

 口を濯いでいる時、敵機接近警報が艦内に鳴り響く。

「朝っぱらから元気なもんだ、同盟軍の連中も」

 リヒターは急いでノーマルスーツに着替えて、MSハンガーへ向かった。

 

 

 

 

 男は、VMSのコックピットの中で、舌なめずりを何度もしていた。VMSに着いてきているオウルは、全速力だ。オウルのコックピット内の様子が、通信用小モニターで窺える。男のVMSの速度に合わせるために、僅かに呻いているようにも見えた。

「だらしねぇ、全くだらしねぇ。てめぇらそれでも同盟軍のVMSパイロットかよ、だらしねぇ」

 男はニヤリと卑しく笑う。

「てめぇら、俺の機体にちっと不具合が出た。修理するから、てめぇらは先に敵艦とMS部隊を叩いてこい」

 了解、と苦しそうな声をしながら、オウル2機はウォルディンへと向かった。

 男はVMSを着地させた。不具合など出ていない。ただ単に、男にとって面白いことを思いついただけである。

 男は機体に搭載された外部スピーカーを起動させた。

「どうした、出てこないのか、ガンダム! それとも怖じ気ついたかぁ!?」

 

 

 

 

『オウル2機が接近。後方で立ち止まったVMS、何かを叫んでいます。音声、全機体に回します』

 コックピットで待機していたリヒターたちに、男の声が入る。リヒターは驚いた。相手はガンダムを知っている。それはC世界では常識なのかもしれない。しかし、ガンダムと呼べる機体はこのウォルディンにはヴァーヴォルガンダムとレベリオン以外には無い。そう、議会軍の艦だから、普通は知らないはずだ。ましてや、地球に降下したばかりだというのに、それを知っているというのは、どうにも不自然で不気味だった。

 しかし、そんなことで怯えている場合ではない。オウルは2機とはいえ、接近して来ている。それに、あのVMSがいつ動き出すかも分からない。

『外部スピーカーを使っているVMSだが、識別不能の新型だ。出ない方がいいかもしれんが――』

「ジャベル、そんなことを言っている場合ではない。相手が新型なら、こちらは最大の力を持つガンダムで対抗すべきだ」

『やむを得ないか……。よし、MS部隊、発進!』

『了解! ルシエル・フォンレイ、バーストイージ、発進します!』

『ドレ・ドラン。レベリオン、行く!』

 次々とNMS部隊が、カタパルトを使って発進する。リヒターはヴァーヴォルガンダムをカタパルトレールの上に立たせ、いつものように自力発進を行う。バーニアが火を吹き始める。

「リヒター・如月、ヴァーヴォルガンダム、出る!」

 脚部大出力バーニアが雄叫びのように火を吐き出す。

『リヒター、お前の目標は、あの新型のVMSだ』

『オウル2機は任せておいといてくれ!』

「了解」

 各機が散開し、リヒターはひたすら直線に突っ込んだ。まだ新型VMSとの距離はある。

「この距離なら、問題無く射程内に入れる」

 と言った直後こと。熱源察知アラートが、コックピットに鳴り響いた。まさか、とリヒターはヴァーヴォルガンダムに回避運動を取らせる。

 リヒターの予感は的中しており、先ほどまで飛んでいた場所は、もう大出力のメガ粒子の塊が占領していた。長距離攻撃の機体なのだろうか。いや、見た目は黒いVMSだというのに、武器はヴァーヴォルウェポンではなく、一般的なメガ粒子によるビーム兵器。それに、あのVMSにはどこにも長距離で攻撃が出来そうな兵装など無い。右腕には一般的に見えるライフル系の兵器、左腕には不自然に大きいシールド。それ以外は、特徴と言えるべき点が一切存在しない。

 しかし、長距離戦を得意とするなら、取るべき行動はただ一つ。

「ヴァーヴォルソード展開」

 ソードで斬り裂こうとするリヒター。落ち着けば、問題無く倒せる。そう、倒せるに違いない。

 だが、敵VMSは思わぬ行動に出た。

「ッ、ビームソード!?」

 そう。敵VMSは長距離攻撃を仕掛けてきていたため、近接兵装は邪魔となり、装備していないだろうとリヒターは予想していた。その予想が大幅に外れた。敵VMSは、右手でビームソードを持ち、ヴァーヴォルソードに対抗してきたのだ。

 ヴァーヴォルソードは通常のビームサーベルなら、そのビーム刃を両断することが出来る。しかし、このビームソードは斬り裂けなかった。つまり、高密度のメガ粒子で構成されたソードだということだ。どれだけ押し込んでも、斬り裂けない。むしろ、ヴァーヴォルソードの方が両断されていっているように見えた。

『やっと出てきたか、ガンダム! 死ねよやぁ!』

「!? こいつ、やる!」

 リヒターは一旦距離を取り、ヴァーヴォルキャノンで応戦する。全弾が敵VMSの左腕に装備された大型シールドで防がれる。それでいい。これならあの高火力攻撃も出来ない。仮に放ったとしても、こちらに位置がバレて、不利になるだけだ。煙が立ち籠っている間に、一気に接近して斬り裂こう。それがリヒターの狙いであった。

 だが、一旦距離を取ったのが間違いであった。

 煙の隙間から微かに見える敵VMSは、左腕に装備させていたシールドの表面を正面に向ける。何をする気なのだろうか、リヒターは当然分からなかった。シールドの表面が二面に分割され、パカッとハッチのように開く。すると。

「小型メガ粒子砲……。まさか」

 そのまさかであった。敵VMSはざっと10個以上はある小型メガ粒子砲を、チャージし始めた。その煌めきは、不思議と美しく、また、懐かしくも思えた。小型メガ粒子の塊が発射され、一点に集中、極太のメガビームとなってリヒターにヴァーヴォルに襲いかかる。リヒターはヴァーヴォルシールドを展開させ、それを防いだ。

「あのシールドが、長距離攻撃の正体……」

 しかし、いつまでも耐えているわけにはいかない。ヴァーヴォルシールドにも、許容量がある。既にコックピットはシールドの耐久許容アラートで鳴り響いていた。これ以上は持たない。

 後方で爆発音が聞こえる。ドレとルシエルから通信が入った。

『オウル2機はどうにかしたぞ!』

『リヒター、そっちはどうだ!?』

 オウル爆散の瞬間、敵VMSに一瞬だけ隙が生まれた。その瞬間を見計らって、リヒターはメガビームの攻撃をヴァーヴォルシールドで弾き飛ばすように、払い飛ばす。

 ドレのレベリオンと、ルシエルのバーストイージがライフルを構えながらやって来る。

『フン、使えん。しかし、それなりにデータは取れたから、良しとするか。次はその首、もらってかえる! 覚悟していろ!』

 敵VMSは、よくある捨て台詞をオープン回線で言い放って、さっさと後退していった。

『何だったんだ、あれ……』

『恥ずかしいとは思わないのかな、あんな情けない捨て台詞……』

 確かにそれはリヒターも思っていた。だが、それ以上に、あのVMSの姿が気になる。どこかで、どこかで見たことがある。どこだったかは分からない。しかし、見たことはある。それは、記憶がそう言っているから、見たことがあるに違いない。

 そして、あの機体の頭部の形状。あれは。

『どうしたリヒター、黙り込んで』

 ドレが声をかけてくる。

 このことは素直に言った方がいいのだろうか。言ってもいいのだろうか。V世界で見たことがある。そう言ってもいいのだろうか。それとも、ただの記憶違いなのだろうか。

 そうだ、記憶違いだろう。何故なら、あのようなVMS、議会軍のMSシミュレーターにも、議会軍のNMSのコンピューターにも登録されていない。つまり、ただの記憶違い。先ほどの戦闘で、少し疲れているだけ。そうに違いない。

 だから、これだけをドレとルシエル、ジャベル、そして、他のNMS隊に告げた。

「あの黒いVMS、ガンダムの顔をしていた」

 スッと息を呑むドレとルシエル。通信モニターに映っていなくとも、二人が驚いていることぐらい、分かった。

 そう、あれはガンダム。

 ガンダムの頭部を持っていた。

 

続く




次回予告
 議会軍地上基地「ラジエント基地」に補給のため寄港しているウォルディン。そこでリヒターは一人、海を見ながら、黒いVMSのことを考えていた。あれは一体何なのか。何故ガンダムの頭部を持つのか。そんな矢先、あの黒VMSからの一騎打ちの挑戦状を受けるリヒター。黒いVMSの正体は一体。そして一騎打ちの狙いは一体何なのか。リヒターは思考を巡らせながら、ガンダムで発進する。
 次回、機動音伝士ヴァーヴォルガンダム、第5話。
 「それはGを冠するMS」
 ガンダム神話を見届けるのは、君だ。
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