いつもの日常、いつもの店、いつもの幻想郷…

霖之助はいつも通りの日々を過ごしていた。

そんな日常の中に、ある一人の少女が霖之助の店にやってきた。その少女は、帰り際に帽子を落として行った…

しかし、これは飛んでもない事に関わってしまう引き金であった。
そんな事とは梅雨知らず、彼は帽子を拾い上げ、少女に届ける為に店を出た…



※この小説は主の空想(妄想)が含まれた割りと俺得な小説だったりします。ハーレム、主人公最強は当たり前です…(しかし、今回の話にはハーレムも主人公最強も無いかも?)

もしそれ等が嫌な方は読むのはオススメしません。

全然問題無いぜ! と言う方のみお読みください。


駄文なので、生暖かい目でお願いします…

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まず、今回の短編を『読んでやろう!』と言う猛者様達に感謝致します。
今回の話は三つ存在する中の一つの物語のプロローグとして、書いた物語です。

香霖記本編のストーリーとは少し違いますが、何らかの形でそれは何れ関わってきます。そしてまた今回の物語は発展編であり、関わり始めなのでまだ内容としては薄いのは明白です。

以後も短編と言う形で残りの二つの物語も投稿していきますので、よろしくお願いします。


それでは、東方香霖記 〜橙色の章をどうぞ


橙色の章

紅霧異変から早一週間…

 

時が経つのは生き物が思ったよりもずっと早い。

楽しい時間が"あっという間に過ぎる"なんてのも、その所為だ。

 

思い出した話だが、“向こうの世界”では知らないところで『戦争』を“まだ”行っているとかどうとか…

 

日常に慣れ過ぎたり、“平和ボケ”などになった方が生きる側としては都合も心地も良い。闘いに明け暮れる日々は誰だって嫌な筈。

 

 

僕も勿論、そんなのは御免だね。

 

 

僕は頭の中で言葉を放ち、いつもの席でいつものように煙草の紫煙を燻らす。

 

僕にとって読書や煙草は、ほんの一時の安らぎのようなモノだ。無いと生きていけないワケでは無いが、一般に言う“娯楽”なので、在るのと無いのでは その日一日が大きく違う。

 

こんなゆっくりした時間をそれ以上に緩やかに過ごすのが、僕だ。

 

しかし……

 

 

「客も来ないしーー今日は店を閉めようかな…」

 

 

ふと僕が そう呟いた時だった…

 

 

カランカラ

 

 

不意になる店の入り口のベル。

 

入り口の戸の方向を見ると、そこには赤い服の少女が立っていた。よく全体を見ると、猫のような耳が頭にあり、腰辺りに黒い尻尾が二つある。

 

少女はどうやら妖怪のようだ。

 

「いらっしゃい。ようこそ、香霖堂へ。何かお求めかな?」

 

僕は少女に問うた。ところが、少女は首を横に振った。

すると少女は、僕の目の前まで歩み寄ってきた。

 

「今日は紫様の代わりに新調された服を頂きに来ました」

 

“紫”の代わり。

そう言えば昨日、紫さんに服の新調を頼まれたんだったな。

 

自分は来ないが代わりに、“使い”を向かわせる とか言ってた。

 

そうか、この少女が紫さんの“使い”か…

 

「昨日 言ってたヤツだね。今、持ってくるよ」

 

僕は席を立ち、店の奥へ向かい、仕立て終わって畳んで置いた新調した紫色のドレスを持ち、戻る。

 

「これだね、ほら。代金は既に貰ってあるから大丈夫だよ」

 

「ありがとうございます!」

 

少女に紫さんの服を渡したところ、少女は笑顔で店を出て行った。少女が店を出る際、僕は またのお越しを と言った。

 

ふと床を見降ろすと、少女の物と思われる帽子が落ちていた。僕は帽子を拾い上げ、店を出て少女の居る方へ声を掛ける。

 

ところが、距離が離れ過ぎた為か、走り去る少女に僕の声は届かない。紫さんや藍が来たら帽子を渡す と言う手段もあるが、次にいつ来るか全くわからない。

 

仕方無く僕は店の開店の札を返し、急遽閉店として店閉め、帽子をズボンのポケットに入れて少女の走り去った方向へ走った。

 

 

 

 

 

〜 10分後

 

 

 

「クソ、見失ったか」

 

なかなか少女の足が速いのか、僕の足では遅過ぎるのか、僕は少女を見失ってしまった。

どうやって少女を探す? どうやって追う? 僕は考えた。

 

不意に見回すと、左の先に少女の姿が小さいながらも見え、そして少女の向かっている場所も この目で捉えた。何かの集落であろうか、古民家が沢山存在する そこは、薄い霧に覆われた人気の無い地だった。

 

少女は古民家の並ぶ道を突っ切り、真っ直ぐ走り進んで行く。ここから先、ずっと真っ直ぐ進んで行くだろうーー何故なら、もう少女の目的地らしきモノは既に見えているからだ。

 

妖怪少女が通過して行った古民家が並ぶ通りには案の定、人の気配どころか、人の居た跡すら残っていない。唯一の気配と言ったら、周囲に蔓延る猫の気配くらいだろう。

 

驚いたのは その“猫の気配”だ。ただ大量なだけでは無い、何百、何千の数の猫が そのまま居たり、人の居ない家屋に潜んでたりしているのだ。

 

ここまでの膨大な数の猫が一点集中するように“この地”を“巣”として住み着いているのか。僕としては、誰かが猫達を使役してると考えている。

 

それ等はそれ等、だが先ほど少女が向かって行った目的地と思われる“家”も気になる。少女の家? とでも、取り敢えず喩えておこう。

 

しかし……

 

「こんなに奇妙で立派な家は、今まで生きてきて一度も見た事が無いよ」

 

本当に、実に奇妙だ。家の下に“家”があり、その下にも“家”があり、山のように積もった"家"が一纏めとなり、まるで一つの巨大な"城"のようになっているとは。

 

外見は勿論、家自体の構造が気になるところだが、今は目的を果たす事だけを考えよう。正直、この家は“迷路”のように入り組んでそうだからね。

 

暫らく歩いていたが、漸く“少女の家”の玄関前に到着した。ところが玄関の戸を開けた時、玄関から先が視界ゼロの真っ暗闇だったのだ。

 

さすが"猫の妖怪"と言ったところか、この視界ゼロの空間を いつものように通って行ったのだろう。この暗闇の中であっても少女には少し暗いだけでいつもと変わりはしない。

 

 

明かりの確保が必要だな。何か良い物はないかな…

 

 

僕は立ち止まってポケットやら懐を調べた。暫らく探していたら、僕の望む物が僕自身の懐に在った。

『八卦炉銃』だ。

 

偶然にも懐に入っていた八卦炉銃の動力部位の“八卦炉”を取り外し、八卦炉から火を灯して明かりにした。八卦炉の明かりは“少女の家”の中の暗闇を照らし、視界ゼロの空間を広げた。

 

「さぁ、行くか」

 

少々溜め息に近い深呼吸をした後、僕はついに少女の家の中に足を踏み入れた。

 

先ずは一階…

空間としては普通で、然程 広くも無く、特にこれと言ったモノや罠は何も無い。

 

周りを見回すと、階段が幾つかある。この階段で階を上るとしても、妙だーー何故、階段が複数も同じ階に在るんだろうか。

 

だが、妖気紛いの怪しい気配は全くしない。あるのは先ほど少女が通って行ったと思われる気配だけだ。

 

気配を元に道標として利用すれば、“何かに当たる”事も無いだろうがーーしかし…

 

「少し引っ掛かってみるか?」

 

僕の中の僅かな好奇心が、僕を少女の気配がしない階段へと歩み寄らせる。この家の“罠”に掛かってみるのも、何か貴重な体験のような気がしたのだ。

 

邪気や妖気は無いから、大丈夫だろう。

 

そう確信して、僕は歩み寄った階段を上って行く。目先の光を目指して歩いてるとーーこれは驚いた。

 

「この場所は…」

 

僕はしっかりと覚えていた。今まさに階段を上って離れた筈の一階に、自分が居ると…

 

少女は紫さんの式神だろうーーならば、“少女の家”にはある程度の仕掛けを施す事もある。なるほど、紫さんは階の境界毎にスキマを張り巡らせ、普通の人間を避けたのか。

 

これはこれで何だか冒険心が(くすぐ)られる。知らない場所を“探検したくなる”と言うのも、わからなくは無いかもしれない。

 

僕は今度はちゃんと少女の気配がする階段を上って行った。少女の気配には、難しい迷路を抜ける為の"道標"になってもらう事にしよう。

 

階段を上り、登り、昇り、下る時は下り、そしてまた上り、今現在、僕のやってる事は意味がある事なのか疑いたくなるくらい長い道程を歩き続けた。しかし確実に気配は近づいていたので、迷わず進んだーーーー

 

 

 

 

 

ーーーーやれやれだ。

 

ついに、漸く上り切り、天辺に着いた頃には既に辺りは暗く、月も"昇っていた"。天辺屋根上には、気配の元である少女が屋根の瓦の上に座っていた。

 

「こんばんわ」

 

僕が少女に声を掛けると、少女は首だけで振り向き、コチラを横目で見た。僕は少女に渡すつもりだった物をズボンのポケットから取り出し、少女の目の前に差し出す。

 

「この帽子は、確かキミの物だよね?」

 

「それは私の帽子…! 何処に落としたかと思ったら、店主さんが持ってたんですね」

 

少女は体ごと振り向き、帽子を視認すると、ホッとした様子でコチラに歩み寄り、帽子を手に取った後に頭に被った。少女の元気に動く猫耳が帽子のちょっとした穴から飛び出し、少女は帽子の具合にしっくりいき、僕としても帽子の穴について納得した。

 

「ーーところで、店主さん。此処へはどうやって来たんですか? 確か紫様のスキマが張り巡ってるから"ここ"まで来る事は紫様や藍様や私以外は凄く難しい筈だけど…」

 

なるほど、やはり"アレ"はスキマだったか。上り始めた時に同じ場所に居たから、おかしいとは思っていたんだーーが、その仕掛けを施したのは、この少女では無かったワケか、常識と言えば常識かもしれない。

 

「いや、まぁね。帽子を落としたキミを追ってたら"変な城"が在ったもんで、冒険気分で進んだら、此処まで来れたんだ」

 

「偶然で此処まで上れるの⁉ 凄いね店主さん…」

 

「なに、ただ偶々運が良かっただけさ。隣り良いかい?」

 

瓦の屋根の上、僕は少女の座っていた場所の隣に座り、夜空と地上を明るく照らす蒼い月を眺めた。少女も僕の隣に膝を抱えて座り、不思議な眩さを放つ蒼い月を見つめた。

 

「キミ、名前は? 僕は森近 霖之助って言うんだ」

 

「私は(ちぇん)。藍様のシキガミです」

 

「そうか、キミが藍くんの式か。名前は聞いていたが、実にキミにピッタリだ」

 

「えへ、ありがとうございます!」

 

少女は照れ臭そうに帽子の上から頭を掻く。彼女の名前は"橙"か。確か、藍くん曰く、名前の漢字は(だいだい)の中文字読みらしいが、僕にはその"中文字"がよくわからないので、その時はとりあえず頷いていた。

 

そして、橙の元の姿は猫かーー藍くんは九尾の妖狐が元の姿、狐と猫、似たような種族を式神にしたのには何か意味はあるのだろうか? しかし、紫さんの式神である藍くんが更に式神を創るのは、大丈夫なのだろうか? 紫さん曰く、主と式神は互いに繋がりがあり、式神は主の言葉通り動けば同じ力を100%で得るが、式神と式神ではいくら強い繋がりが在ろうと力は100より遥かに下回ってしまうそうだ。

 

それ故の橙のこの容姿だとすれば、紫さんの言っていた事は確かなようだ。人間、妖怪問わず、力の有無は大抵容姿で判別出来るらしく、力が弱い者は子供のように小さく幼い容姿、例を上げるならルーミア、リグル、ミスティア、チルノ、てゐ、リリーホワイト、その他妖精etc…しかし、人に危害を加えるには十分な力を持ってる娘達であり、例外で中には体は小さくても力は強大な者も居る。

 

「あら、橙の隣りに誰か居ると思ったら、あなただったのね、霖之助さん」

「おや、僕の後ろに誰か居ると思ったら、あなたでしたか、紫さん」

 

薄々ともわかっていたさ、僕の背後に在る気配ぐらい。その気配がまさか紫さんだと言うのは、少し予想外だった気がーーいや、いつもの紫さんの雰囲気は在ったんだ、しかし、とてもその気配が"八雲 紫"、彼女自身の物だとは思えなかった、思う事も、そう気付く事も出来なかった。

 

何なんだ、この空間一体に漂う空気はーー何か果てしなく強い力と滞りを感じるその上、必死に堪え、耐えている…。これは本当に八雲 紫の気配であり力なのか? 今この場に居る僕には、後ろを振り向いて僕の視界に入った八雲 紫以外の強い気配と力は全く感じないぞ…

 

「どうしたの霖之助さん? 顔色がよろしく無いですわよ?」

 

「ん? あぁ、いや、何でもありませんよ」

 

「私には何でも無い風にはとても見えませんわ。何かおぞましいモノでも、"視た"かのような…」

 

紫さんがこの言葉を口にして扇子を口元に翳した瞬間、僕は僅かだが何かの"片鱗"を彼女の顔から浮かんだのを見逃さなかった。クソッ、八雲 紫であるが八雲 紫では無いこの禍々しい気配は一体何なんだ⁉ 以前なら彼女はここまで滞らせる必要があるほどの力も気配も有しては無かった筈なのに、一体何だと言うんだ…!

 

「あはは、バレましたか。えぇ、今日はこの娘が僕の店に帽子を落として行ったので、届けようと後を追ってたので、その疲れが顔に出てしまったのかもしれませんね」

 

その時に明らかに僕は疲れを感じてるような表情をしてなかったのは僕自身にだってわかるが、こんな時は例え見え見えの嘘でも吐いておかなければ心の中を見抜かれる。だから、今は何とかこの場をやり過ごせるような言い訳を探し当て、こうやって無理矢理にでも納得させるしか無いんだ…

 

「あら、そうでしたの? それはそれは、橙が御世話になりましたわね。藍、いらっしゃい」

 

「お呼びですか、紫様?」

 

突然紫さんは指を弾いて、直後にスキマが縦に開き、その後に紫さんの式神の八雲 藍こと、藍くんが紫さんが開いたスキマから現れた。ふと藍くんは目を開けて、橙を確認した後に僕を見た瞬間に無の表情から驚きの表情へと変化し、直ぐ様紫さんの隣りへ駆け寄って行く。

 

「紫様、何故彼が此処に居るのですか⁈ 橙はともかく、どうして霖之助さんが…」

 

「霖之助さんは橙の大事な帽子をわざわざ自分のお店から橙を追って此処まで届けてくれたそうなの。だから迷惑を掛けたお詫びとして何か出来ないかと思ってね。折角だから、私達の家へ招待しようと思うのだけれど、どうかしら?」

 

「いや、僕は遠慮しておく。悪いが、店に帰らなければいけないんだ。やる事が一応としてあるのでね」

 

僕は僅かながらに自分の身の危険を感じたので、この場を早く去りたいのもあるので、丁重に断る事にした。ふとこの場を即座に立ち去ろうと駆け出した瞬間、僕の立っていた位置の屋根が腐っていたのか、穴が空いて抜け落ち、そのまま後ろ向きに倒れるように屋根上から僕は真っ逆さまに落下した。

 

「あッ! 店主さんが!」

 

「霖之助さん⁉」

 

「あら」

 

「まずい、早く助けないと! ーー紫様! 何故止めるんです⁉ 早く助けに行かねば霖之助さんは…!」

 

「藍、あなたはまだ気付かないのかしら? 彼が、彼自身が今の世で、あの恰好で何故古道具屋を営んでいるのか、わからないの? 彼は私より長く生きてる。彼自身が『幻想郷』の"歴史"にして"守護者"だと言う事を…」

 

「霖之助さんが…?」

 

 

 

 

 

ーーーー全く、実に勘弁して欲しいモノだな、こう言うのは…。僕は悪運が強いのか? それとも違う意味で幸運なのか? どちらにせよ、僕からしたらどの運も恵まれたモノでは無く、寧ろ"不幸"へと突き進む足掛かりか、もしくは手摺りの示す魔の道か…そう言ったところか。

 

「やれやれーー。しかし、八雲 紫…あなたの中に"居る"力、何れ僕とあなたが対峙する時が来るのか」

 

僕は落下途中の内に片手で辛うじて掴んだ命綱と言うべき、城の屋根から手を離し、再び急速落下を始めた。そこから地面に着地し、神速で森の中を駆け抜けつつ道を旋回し、僕の店の在る方向へと軌道を変えて地面を思い切り蹴り放ち、先の城での出来事、記憶を胸の内に仕舞い、風を遥かに凌ぐ速さで帰った。

 

無事店に到着した僕は閉店の札が掛かったドアを開け、今日の一件で疲れた為、僕は布団を敷き、布団を敷き終わった直後、普段着のまま力尽きるように倒れ込んで、そのまま寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

橙色の章、完




霖之助が関わってしまった事…
そして紫の中に居る力…

知ってしまった今ではもう後戻りも出来ず、霖之助はその謎を探るざるを得なかった。


次回、藍色の章 にて…


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