空母「信濃」へ捧ぐ   作:高津信暁

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2周目のある場面の、別枠抜粋です。
フラグを随所に入れています。分かりやすいです。

あと、大和のボイス2時間ぐらいぶっ通しで聞いたのに、大和の口調がつかめません。
なんか陸奥みたい。



2周目、11月19日~裏~

 「おい…いい加減、へそを曲げるのをやめないか、バカ姉」

 「でも、仕方のないことじゃない。あれは私たちには許せない。いいえ―――許してはいけない」

 

 

 時刻は午後6時少し前。場所は間宮食堂。

 珍しく駆逐艦のみで溢れかえるこの場所に、大盛の間宮カレーを前に、暗い目でごちる、なでしこのような美しい少女と、彼女をなだめる、凛として芯のあるしたたかさと、獰猛な野生を纏うこれまた美しい少女がいた。

 名を大和・武蔵。日本の誇りである大和型戦艦、彼女らはその生まれ変わりであった。

 

 ―――さて、普段ならば、彼女らを語る言葉は上記で十分ではない。

 大和であれば「提督がからむと暴走する」、武蔵であれば「見かけによらずド天然」。これだけでもまだ少ない。彼女らを知る者であれば、もっともっとたくさん語ることがあるだろう。彼女らはそれらの魅力をもって、提督諸氏の心を掴んで離さないのだから。

 

 

 ―――しかして現在、彼女らの目の奥に映る感情は、「激情」と「不快感」。今の彼女らは、はた目から見ても分かるぐらいに、怒っていた。

 そして、その理由を察せるからこそ、周囲の誰も、彼女らの怒りについて触れることはなかった。

 

 

 「今思い返しただけでも腹が立ちます。なんなのよ、あの男」

 「そりゃあこの武蔵とて、アイツは許してはおけん。まさか()()()()()()()()()()()()()()とは思いもしなかったんだからな」

 「そうよ…」

 

 

 ―――そう。今サラッと流したが、怒りの相手はあの男。空母「信濃」の名を騙るあの男(主人公)である。

 空母「信濃」は、元々大和型戦艦の3番艦として、1937年のマル4計画で建造される予定だった。しかし計画の変更などにより工期は遅れに遅れ、最終的に1942年、MI作戦での主力空母4隻の沈没と、46cm三連装砲(大和砲)を運ぶ輸送船・樫野があのグロウラーに沈められたことを受け、空母になることが決定、横須賀で空母「信濃」になった。

 故に彼女らにとって、信濃(しなの)はかわいい妹であり、また10日間で沈んだ悲運の艦であるがゆえに、数多の脅威から守るべき相手でもあった。

 

 

 ―――しかし、しかしだ。

 

 

 「そう!!妹は、信濃は、()()()()()!!それなのに、どうして…」

 「―――それには、正直私も混乱している。妹が深海棲艦になるならまだしも、男になって戻って来るなど、先例がない」

 

 

 ―――端的に言うと、この前に、「信濃」と名を受けた艦娘は、()()

 

 それも約1か月ほど前、10月15日の夜、雨が降りしきるサーモン海北方海域(5-5)、そこで彼女は()()()()()()。主原因としては、敵艦隊の攻撃が彼女に集中したことであるが、もっと根源的な原因は、前任提督の功を焦った無謀な突撃である。運の悪さもあり、連戦に次ぐ連戦で相当消耗しているところへの、相当無慈悲な「ボスを叩け」の指令に、旗艦・荒潮は耳を疑ったことだろう。

 この結果、突撃は失敗。轟沈1大破4中破1など、第一艦隊自体が大損害を被り、主力空母の一端を担う信濃の沈没も受けて、南方海域の攻略はしばしの断念を余儀なくされた。前任提督は当然ながら左遷、今は本部で下っ端と一緒にこき使われていることだろう。

 その後、新たに着任したのが今の提督である。

 

 信濃沈没、第一艦隊壊滅の報がもたらされてからまだ1か月ほど。あの男(主人公)が現れたのは、妹を喪った悲しみから癒えない矢先の出来事であった。

 

 

 故に許せない。

 皆から慕われ、皆から信頼されていた、妹の名をいけしゃあしゃあと名乗るなど。

 

 

 「だがな、バカ姉。私はまずはアイツに関して情報を集めることが先だと思うが?」

 「………………」

 「妹の名を使われるのは許せない、それは理解できる。だが憎しみをアイツにぶつける前に、私たちはアイツを何も知らない。最初アイツを見たときにぶっ放したのも、今となっては早計だったと後悔している」

 「………」

 「なに、話しかけるのは、もう少し慣れてからでいい。時間はあるし、アイツに直接当たらなくても、情報を得る手段は沢山ある。…だからバカ姉、その剣呑なオーラをしまえ。駆逐艦が怖がるだろう」

 「―――…そうね。少し熱くなりすぎていたみたい。ごめんなさい」

 

 

 大和はふと周囲を見渡すと、怯えた目でこちらを見る駆逐艦たちと目が合った。…自分でも気づかぬうちに、余程怖い雰囲気を作っていたらしい。それはいけないと、大和は笑顔を作り、周りにごめんね、と謝る。戦々恐々としていた彼女らも、それで安心したのか、食堂内にはまた賑やかな雰囲気が戻って来た。

 武蔵はそんな姉の様子に、やれやれと息をつく。

 

 

 「全く…少しは周囲を見ろ」

 「赤城さんも、『慢心はダメ』とよくおっしゃっていたものね」

 「ああ。―――そういえば、だ。相棒がなんだか妙なことを言っていたようだが、大和は何か知らないか?」

 「提督が?ええと、聞いてすらいないのだけれど…?まさか、武蔵…??」

 「お、おい。自慢するつもりはない。教える、教えるから、押さえてくれ」

 

 

 武蔵から突然もたらされた提督の情報に、首を傾げる大和。どうやら本当に知らないらしい。というか、「提督とお話したんですか…??」という、先程とは別種の剣呑なオーラが後ろから出て来た。これはまずい。こうなったときの大和は七面倒くさいと相場が決まっている。武蔵は慌てて声のボリュームを落とし、大和に口を近づけた。

 

 ―――余談ではあるが、あの金剛ですら近づかなかった前任の提督と比べ、今の提督はわずか1か月にして相当な人気者である。当然ながら、提督を恋い慕う艦娘も多くいた。武蔵が声を潜めたのは、そんな艦娘の一人である姉・大和に対する気遣いである。現に提督の名前が出た瞬間、響や天津風をはじめとする駆逐艦の何人か、加えて間宮さんもこちらに視線を向けた。提督を狙う艦娘は多いのである。

 

 大和もそれを察したのか、恥ずかしさで多少頬を赤くしながらも、武蔵に耳を向けた。

 

 

 「…実はな、昼アイツに出会った後に、相棒が言ってたんだが」

 「…?」

 「『なるほど、こいつは面白い。()()()()()()か』と」

 「なりそこない…?あの男が?」

 

 

 武蔵から語られたのは、確かにあまり大声で言えるものではなかった。

 

 ()()()()()()

 艦娘の世界において、それは様々な意味を持つ。

 ―――だが最も有名なのは、「()()()()()()()()()()()()()()()()()」ものと、「()()()()()()()()()()()()()()()()()」。この2つだろう。

 

 前者のパターンは特定の呼び名はない。というか、普通は公になることではない。()()()()()()()()()()()、その根幹にかかわってくるため、海軍上層部があえて伏せているのだ。もちろん、何の艦娘になるつもりだったのか、それは観測してもわからない。

 言えることは、このタイプの深海棲艦は総じて能力値が高い傾向にある、ということだ。戦艦水鬼、軽巡棲鬼、飛行場姫など、鬼、姫と名のつく深海棲艦は、元はこのタイプである可能性が高い。そして、撃破すると―――あとは、想像の通りである。

 

 後者は別名「特定深海化疾患」。少なくとも2度以上、大破以上を経験している艦娘に起こりうる病気である。この病気は一度かかると、体全体が()()()()()()()()()()していくのだ。原因は分かっていない。抑制剤はあるにはあるが、それでももって3年程。死は避けられない。かかった瞬間に「余命3年です」と告げられるようなこの病気は、艦娘に最も恐れられる病気のひとつである。

 その途中段階のことを、患者は自虐をこめて「なりそこない」というのだ。

 

 

 …しかし、あの男(主人公)を見る限り、そのどちらでもないように見える。強いて言うなら、後者のパターンであるだろうが、「なりそこない」のまま海から出てくるのは初の事例だ。

 

 

 「…それ、不味いわよね?」

 「ああ。不味い。私なら隔離する」

 

 

 だが、仮にそのような場合が起こった場合、鎮守府はおそらく「隔離」という手段をとる。理由は、主には自分の艦娘に病気を見せる、ないしうつすわけにはいかないから。そして、高確率で()()()()()からだ。

 

 

 「でも、相棒はそれをしなかった。それどころか、半ばほっといている状況だ。つまりアイツは、()()()()()()

 「提督がそう判断したのであれば…そうなんでしょうけど…でも、なりそこないって…」

 

 

 それでも提督が何も行動をとらない、ということは、あの男(主人公)は本当に艦娘なのだ。では提督の「なりそこない」とはどういう意味の言葉なのだろう。

 うんうん唸りながら、大和はもう一度カレーを口に運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――その瞬間だった。会話に上がっていた男が、間宮食堂に入って来たのは。

 

 

 

 

 

 

 

 「――――――ッ!!!!」

 

 

 途端に食堂が静寂に包まれる。声にならない憎悪が、ブワッ!!!と大和の中を駆け巡る。

 見るだけで腹立たしい。妹の名を名乗り、妹とは全く違った人、性別すら違うのに、()()()()()()()()()()()その姿に、どんどんイライラしてくる。もし周りに人がいなかったら、大和は昼と同じように46cm砲を叩き込んでいただろう。そう言える程、今の大和の精神状態は不安定であった。

 

 

 ―――あの男が伊良湖ちゃんを困らせている。

 

 悲しいかな、人間とは一度ネガティブに物事を見てしまうと、なかなかポジティブには戻れない生き物なのだ。大和の中で「信濃」を喪った悲しみは、未だ清算できていない。

 

 

 「大和」

 

 

 明らかに憎悪が先走っている姉を見かね、武蔵は小声で姉をたしなめる。

 

 

 「今は耐えろ。駆逐艦もいる手前だ、動くな」

 「――――――」

 「これも聞いた話だが、アイツの部屋は私たちと同じ3番館にある。次にアイツが外に出て来たタイミングで話を聞けばいい。だから今は抑えろ」

 

 

 噛んで含めるように姉を注意する武蔵。だが大和は、伏せた武蔵の目にも、静かな激情がともっていることに気が付いた。それも、次にアイツが妙な行動をしたら、即ブン殴りに行けます、と言わんばかりの激情。

 ―――今の言葉は、自分を律する言葉でもあるのか。

 大和は我に返った。自分は時々、こうして暴走してしまう癖がある。

 

 

 「…またやってしまいました」

 「いいさ。とりあえず、さっさと食べてしまおう」

 

 

 縮こまる姉に、鼻を鳴らす妹。

 以後の大和型姉妹二人の食事は、とても静かなものだった。

 

 

 

 

 

 

 




短め、かつなんかヌルッとした終わり方ですいません。
大和型の二人、ひいては艦娘みんなが主人公を嫌う理由は、ちゃんとあります。
そのあたりは次の話で。

※追記
色々と説明を忘れていました。

・グロウラー(SS-215)
端的に言えば、「霰」を沈め、「霞」「不知火」を単艦で大破せしめた潜水艦。文中の樫野のほか、「敷波」も沈めている。

・「特定深海化疾患」
とある方のmmdにあったものです。この病気を表現する最もうまい言葉だと思い、使わせて頂きました。






【11月20日へ進むか??】




【1.はい】



【2.いいえ】



【3.馬鹿め、と言って差し上げますわ!】
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