空母「信濃」へ捧ぐ 作:高津信暁
フラグを随所に入れています。分かりやすいです。
あと、大和のボイス2時間ぐらいぶっ通しで聞いたのに、大和の口調がつかめません。
なんか陸奥みたい。
「おい…いい加減、へそを曲げるのをやめないか、バカ姉」
「でも、仕方のないことじゃない。あれは私たちには許せない。いいえ―――許してはいけない」
時刻は午後6時少し前。場所は間宮食堂。
珍しく駆逐艦のみで溢れかえるこの場所に、大盛の間宮カレーを前に、暗い目でごちる、なでしこのような美しい少女と、彼女をなだめる、凛として芯のあるしたたかさと、獰猛な野生を纏うこれまた美しい少女がいた。
名を大和・武蔵。日本の誇りである大和型戦艦、彼女らはその生まれ変わりであった。
―――さて、普段ならば、彼女らを語る言葉は上記で十分ではない。
大和であれば「提督がからむと暴走する」、武蔵であれば「見かけによらずド天然」。これだけでもまだ少ない。彼女らを知る者であれば、もっともっとたくさん語ることがあるだろう。彼女らはそれらの魅力をもって、提督諸氏の心を掴んで離さないのだから。
―――しかして現在、彼女らの目の奥に映る感情は、「激情」と「不快感」。今の彼女らは、はた目から見ても分かるぐらいに、怒っていた。
そして、その理由を察せるからこそ、周囲の誰も、彼女らの怒りについて触れることはなかった。
「今思い返しただけでも腹が立ちます。なんなのよ、あの男」
「そりゃあこの武蔵とて、アイツは許してはおけん。まさか
「そうよ…」
―――そう。今サラッと流したが、怒りの相手はあの男。空母「信濃」の名を騙る
空母「信濃」は、元々大和型戦艦の3番艦として、1937年のマル4計画で建造される予定だった。しかし計画の変更などにより工期は遅れに遅れ、最終的に1942年、MI作戦での主力空母4隻の沈没と、
故に彼女らにとって、
―――しかし、しかしだ。
「そう!!妹は、信濃は、
「―――それには、正直私も混乱している。妹が深海棲艦になるならまだしも、男になって戻って来るなど、先例がない」
―――端的に言うと、この前に、「信濃」と名を受けた艦娘は、
それも約1か月ほど前、10月15日の夜、雨が降りしきる
この結果、突撃は失敗。轟沈1大破4中破1など、第一艦隊自体が大損害を被り、主力空母の一端を担う信濃の沈没も受けて、南方海域の攻略はしばしの断念を余儀なくされた。前任提督は当然ながら左遷、今は本部で下っ端と一緒にこき使われていることだろう。
その後、新たに着任したのが今の提督である。
信濃沈没、第一艦隊壊滅の報がもたらされてからまだ1か月ほど。
故に許せない。
皆から慕われ、皆から信頼されていた、妹の名をいけしゃあしゃあと名乗るなど。
「だがな、バカ姉。私はまずはアイツに関して情報を集めることが先だと思うが?」
「………………」
「妹の名を使われるのは許せない、それは理解できる。だが憎しみをアイツにぶつける前に、私たちはアイツを何も知らない。最初アイツを見たときにぶっ放したのも、今となっては早計だったと後悔している」
「………」
「なに、話しかけるのは、もう少し慣れてからでいい。時間はあるし、アイツに直接当たらなくても、情報を得る手段は沢山ある。…だからバカ姉、その剣呑なオーラをしまえ。駆逐艦が怖がるだろう」
「―――…そうね。少し熱くなりすぎていたみたい。ごめんなさい」
大和はふと周囲を見渡すと、怯えた目でこちらを見る駆逐艦たちと目が合った。…自分でも気づかぬうちに、余程怖い雰囲気を作っていたらしい。それはいけないと、大和は笑顔を作り、周りにごめんね、と謝る。戦々恐々としていた彼女らも、それで安心したのか、食堂内にはまた賑やかな雰囲気が戻って来た。
武蔵はそんな姉の様子に、やれやれと息をつく。
「全く…少しは周囲を見ろ」
「赤城さんも、『慢心はダメ』とよくおっしゃっていたものね」
「ああ。―――そういえば、だ。相棒がなんだか妙なことを言っていたようだが、大和は何か知らないか?」
「提督が?ええと、聞いてすらいないのだけれど…?まさか、武蔵…??」
「お、おい。自慢するつもりはない。教える、教えるから、押さえてくれ」
武蔵から突然もたらされた提督の情報に、首を傾げる大和。どうやら本当に知らないらしい。というか、「提督とお話したんですか…??」という、先程とは別種の剣呑なオーラが後ろから出て来た。これはまずい。こうなったときの大和は七面倒くさいと相場が決まっている。武蔵は慌てて声のボリュームを落とし、大和に口を近づけた。
―――余談ではあるが、あの金剛ですら近づかなかった前任の提督と比べ、今の提督はわずか1か月にして相当な人気者である。当然ながら、提督を恋い慕う艦娘も多くいた。武蔵が声を潜めたのは、そんな艦娘の一人である姉・大和に対する気遣いである。現に提督の名前が出た瞬間、響や天津風をはじめとする駆逐艦の何人か、加えて間宮さんもこちらに視線を向けた。提督を狙う艦娘は多いのである。
大和もそれを察したのか、恥ずかしさで多少頬を赤くしながらも、武蔵に耳を向けた。
「…実はな、昼アイツに出会った後に、相棒が言ってたんだが」
「…?」
「『なるほど、こいつは面白い。
「なりそこない…?あの男が?」
武蔵から語られたのは、確かにあまり大声で言えるものではなかった。
艦娘の世界において、それは様々な意味を持つ。
―――だが最も有名なのは、「
前者のパターンは特定の呼び名はない。というか、普通は公になることではない。
言えることは、このタイプの深海棲艦は総じて能力値が高い傾向にある、ということだ。戦艦水鬼、軽巡棲鬼、飛行場姫など、鬼、姫と名のつく深海棲艦は、元はこのタイプである可能性が高い。そして、撃破すると―――あとは、想像の通りである。
後者は別名「特定深海化疾患」。少なくとも2度以上、大破以上を経験している艦娘に起こりうる病気である。この病気は一度かかると、体全体が
その途中段階のことを、患者は自虐をこめて「なりそこない」というのだ。
…しかし、
「…それ、不味いわよね?」
「ああ。不味い。私なら隔離する」
だが、仮にそのような場合が起こった場合、鎮守府はおそらく「隔離」という手段をとる。理由は、主には自分の艦娘に病気を見せる、ないしうつすわけにはいかないから。そして、高確率で
「でも、相棒はそれをしなかった。それどころか、半ばほっといている状況だ。つまりアイツは、
「提督がそう判断したのであれば…そうなんでしょうけど…でも、なりそこないって…」
それでも提督が何も行動をとらない、ということは、
うんうん唸りながら、大和はもう一度カレーを口に運ぶ。
―――その瞬間だった。会話に上がっていた男が、間宮食堂に入って来たのは。
「――――――ッ!!!!」
途端に食堂が静寂に包まれる。声にならない憎悪が、ブワッ!!!と大和の中を駆け巡る。
見るだけで腹立たしい。妹の名を名乗り、妹とは全く違った人、性別すら違うのに、
―――あの男が伊良湖ちゃんを困らせている。
悲しいかな、人間とは一度ネガティブに物事を見てしまうと、なかなかポジティブには戻れない生き物なのだ。大和の中で「信濃」を喪った悲しみは、未だ清算できていない。
「大和」
明らかに憎悪が先走っている姉を見かね、武蔵は小声で姉をたしなめる。
「今は耐えろ。駆逐艦もいる手前だ、動くな」
「――――――」
「これも聞いた話だが、アイツの部屋は私たちと同じ3番館にある。次にアイツが外に出て来たタイミングで話を聞けばいい。だから今は抑えろ」
噛んで含めるように姉を注意する武蔵。だが大和は、伏せた武蔵の目にも、静かな激情がともっていることに気が付いた。それも、次にアイツが妙な行動をしたら、即ブン殴りに行けます、と言わんばかりの激情。
―――今の言葉は、自分を律する言葉でもあるのか。
大和は我に返った。自分は時々、こうして暴走してしまう癖がある。
「…またやってしまいました」
「いいさ。とりあえず、さっさと食べてしまおう」
縮こまる姉に、鼻を鳴らす妹。
以後の大和型姉妹二人の食事は、とても静かなものだった。
短め、かつなんかヌルッとした終わり方ですいません。
大和型の二人、ひいては艦娘みんなが主人公を嫌う理由は、ちゃんとあります。
そのあたりは次の話で。
※追記
色々と説明を忘れていました。
・グロウラー(SS-215)
端的に言えば、「霰」を沈め、「霞」「不知火」を単艦で大破せしめた潜水艦。文中の樫野のほか、「敷波」も沈めている。
・「特定深海化疾患」
とある方のmmdにあったものです。この病気を表現する最もうまい言葉だと思い、使わせて頂きました。
【11月20日へ進むか??】
【1.はい】
【2.いいえ】
【3.馬鹿め、と言って差し上げますわ!】