空母「信濃」へ捧ぐ 作:高津信暁
ただ、これ以上書き直せない、というだけ。納得は今もしていません。
そして後半がまだ推敲中なので…前後編に分けてしまいました。
―――どういうことなの?
うん、浮気してるわけじゃない。やましいことは一切してないし、女の子に手を出すようなこともしてない。俺がその言葉を聞いて、真っ先に思い浮かぶのはそのニュアンスだった。浮気がバレた亭主ポジション。ヤンデレっていいよね…白露型っていいよね…。
だが、今この場においては、その意味ではない。これは純粋な疑問だ。英語に直せば「WHAT DO YOU MEAN??」。問うた側は、今、目の前で何が起こっているのかを知りたいわけで、それ以上のことは何もない。どーゆーいみー??
…前置きが長くなった。言いたいことはひとつ。
古今東西、この問いに返す言葉は、いつもひとつと相場が決まっている。
―――こっちが聞きたい。
〇
「―――どういうことなんですか!!」
「いや、こちらが聞きたい…」
2044年、11月20日。
大事なことなのでもう一度言おう、
…ええはい。驚きは手に取るように。
お前19日に
―――でも違う。今回の場合、そんなラブコメ的感じのニュアンスが入る余地は一切ない。
「こっちが聞きたい」、その言葉に俺の言いたいことは全て集約されてますよ。
―――何せ、
…触雷したんかな、俺。
いやいつだよ!!いつフラグ立ったんだよ!!全然分かんねぇよコレ!!唐突過ぎてマジメガテン状態だよ!!HA!?俺19日に何をした!?もしくは3周目か!?どこの状況がこういう行動を生じさせてるんだ!?助けてジャ〇アン!!
思わずセルフノリツッコミをしてしまうほど、俺は今混乱のドツボにいる。だっていきなりの女の子だよ!?女の子だよ!!???隠しイベントなの??パーリナイなわけ???…ちょっと纏う。整理させて寝、生理。穆もいろ井ろショ吏し隊ンDA☆…混乱しすぎて地の文が誤字った。許してヒヤシンス。
3周目の11月19日。
まずは素直に検査を受け―――ずに、いきなり逃走をかましてみた。…そしたら45分後に、長門さんに捕まってぶん殴られた。それはもう全力で。
やー…ながもんの本気を見たよ。2周目の時、遅刻して殴られたのよりずっと痛かった。頭蓋骨割れたかと本気で思った。―――頭の端に小破って文字が駆け巡ったのは、全力で気のせいだと思いたい。
そんで鬼の検査を嫌がりながら受ける。この辺りは変わらなかった。変わってたらどうかと思うけど。
ほんで終わった直後に、行かなかった鳳翔さんの店に直行、そのまま一人でさんざん管を巻き、酔いつぶれてお店で爆睡、というのが3周目11月19日の大まかな流れだ。
…嫁に殴られて渋々健康診断を受ける酔っ払いみたいだな。自堕落自堕落ゥ!!
―――だいぶ2周目と違う行動をとってしまったが…なんともまぁ、不思議なことに、次の20日の行動は、
これで、この永遠ループゲーは
だから4周目の11月19日。今の俺からすれば、昨日にあたるわけだが。
俺はあえて、2周目とほぼ同じ行動をとってみることにした。1周目??HAHAHA、あれはお遊びだろう??面白くもなんともない俺とか、最早ギャグじゃないか!!…面白くない俺がギャグっていう矛盾な。…できれば笑って欲しかったが、セルフでとどめておこう。
まぁ、基本2周目と同じように、検査は30分遅刻、間宮食堂へゴー、そしてそのまま帰宅、という行動パターンをしてみたわけよ。
―――しかし、2周目と変わった、というか、変えてしまったのは、夜のこと。
俺は部屋でひとり待っているのにも飽き、暇つぶしがてら、少し外出してみたのだ。3番館の中、ちゃんと見たことなかったし。…というか、主原因としては、昨日3番館ですれ違った艦娘に、推しがいっぱいいたのが大きいんだよなぁ…。第2駆逐隊とか、第24駆逐隊とか、第27駆逐隊とか―――やだ、白露型ばっかり!!やはり白露型は天使。全員とケッコンは当たり前定期。最推しは村雨嬢、2番目推しが春雨と山風。異論は認める。頼むから白露型は全員改二になってくれ。レアリティ詐欺でもいいから。
すまん、話がそれた。
―――まぁ、原因はアレとしても、結果としては、それは大当たり。
今、俺の目の前にいる
「―――話がある。明日、朝8時に間宮食堂に来てくれ」
…と、部屋を出た瞬間、武蔵ネキに超怖い顔で言われました。改二仕様で。
―――うん。これ完全に
いやほんとね、ここまで敵意むき出しの娘さん久しぶりですよ、ええ。部屋の前で待ち伏せてたの??とかそういうことを聞く余裕もなかったですよ、はい。まぁ、俺の周りにいた女の子は、ひたすらに嫌悪感ばっかりでしたからねぇ。…結局マイナスの感情なんだよなぁ。
とりあえずその後は「アッハイ」で即部屋に戻り、悶々としたまま半覚醒状態で朝を迎えました。眠れなかった。心ドキドキプリキュア状態だった。でも節子、これたぶん期待のドキドキやない、恐怖の
ということで。待ち合わせ時刻より3時間も早く起床してしまった俺は、生まれて初めての「朝ランニング」を敢行(ただし何故か誰もいない)、シャワーを浴びてさっぱりしてから朝8時の弾劾裁判に臨んだわけであります。
―――で、そこで最初に大和さんが仰せになった言葉が。
「―――どういうことなんですか!!」
「いや、こちらが聞きたい…」
そう。つまりはそういうこと。冒頭に戻るわけだ。だからこその「こっちが聞きたい」…まぁ、主語述語がほぼないせいで、何を言いたいのか全然わからんよね。
妹も同じことを思ったらしく…姉の不思議行動に、額を押さえてため息をついた。
「おいバカ姉、流石にそれは質問が悪い。気持ちは分かるが先走り過ぎだ」
「あ、す、すいません…」
「全く…何故バカ姉はいつも、提督と信濃のことになると暴走するのか」
「そ、それは違います!!…私、提督のことで暴走なんて、していません」
真っ赤になっている大和と、「…どうだかな」と呟き首を振る武蔵。遠慮のない彼女らのやりとり。―――なんでだろう。今の少しの会話で感動してしまった自分がいる。
―――よかった。超弩級戦艦と謳われる彼女らの仲は良好なようだ。書類上においては義姉妹にあたる彼女らの仲睦まじい姿に、内心ほっとする。少し恥ずかしそうな姉に、やれやれと微かに首を振る妹。史実では「ホテル」やら「御殿」やら悪い意味に揶揄され、揃って出撃することはついぞなかったこの姉妹が、こうしてこの世界で、姿かたちは違えど、楽しげに会話出来ている。…軍艦マニアの俺にはグッとくる瞬間だ。美しき姉妹愛、よきかなよきかな。
…振り返って俺を向いた顔はどちらも険しかったですけど。ですよね、分かってました。
「だが、お前には、聞きたいことがいくつかある。私からも、大和からもだ」
「…うむ」
「先日のお前の自己紹介は、私も大和も聞いている…その上で、尋ねたいことがあるのだ―――いいだろう??」
…そんな「断ったら殴る」みたいな顔で、俺を見ないでください武蔵さん。大丈夫です俺は逃げません。こんなストーリーイベント、逃げたらそれこそクリアから遠のいちまう。
「お手柔らかに、と。だが、聞かれた質問には、正直に答えることを約束する」
「ああ、それでいい。では、まずは単刀直入に…
―――キタ。一番来ると予測していた質問。
いきなり海から鎮守府に来た上に、男の艦娘、なんていう奴の身分、疑うのが当然だ。彼女らの行動は正しい。…とはいえ、俺の正体は、俺本人でもよく分かっていないのだ。「知らない」「分からない」と簡単に言うのはあまりに無責任なものとしても、言葉は慎重に選ばなければ、彼女らに変な印象を抱かせかねない。転生者だとバラす必要性もないだろう。
俺は少し考えて、ゆっくりと口を開く。
…というか、俺割と軍人っぽい口調を真似て喋ってみてるんだけど、ちゃんと喋れてるっぽい??自分じゃわかんないっぽい。
「―――
「…なるほど」
「………………」
「司令官と長門殿にもお墨付きを貰った。客観的に見れば私は艦娘である―――が」
「…?」
「約束した手前、正直に言おう。私は、
「ほう?…続けてくれ」
「…私は、容姿も、出生方法も、ここに生きる艦娘とは異なっている。それらの差異は私に、私を艦娘と名乗らせることを躊躇わせる。私は信濃である…と、断言できない程度には」
「随分、後味の悪い回答だな。何か答えられない事情でもあるのか?」
「…すまない。私にも語れない事情がある」
「ふむ。…つまりお前は、身元も正体も不明の不審者、ということになるが??」
「否定は出来ない、な。…にしても、かの武蔵の名を冠する通り、中々厳しい艦娘のようだな」
「嫌いになったか?まぁ、私はお前が嫌いだがな」
「…前途多難だな」
…えっ、武蔵さん怖すぎません??ドスの利かせ方とか、脅しのやり方とか、前世に映画で見た世界のKIT〇NOのヤクザより圧倒的に怖いんですけど。まぁ、「指詰めろ!」とかは言わなさそうだけどね。どっちかというとヤ〇クミに近い…のか??うーん??
でもそんなところもかわいいんだから、艦娘ってズルいわ…。
―――と、そこで、ずっと黙っていた大和(かわいい)が、見た目おずおずと、だが毅然とした目で、俺に質問を投げて来た。
「―――あの。貴方は結局、何なんですか?」
「…何なのか、とは?」
「結局、貴方は武蔵の一番最初の質問に、全く答えていません。大和はそれが知りたい」
「――――――」
「大和型の長姉である以上、妹の名を名乗る人が、どのような人物であるかは把握しておきたいのです―――聞かせて、くれますか?」
―――
なんてことは口が裂けても言えない。この空気の中で言ったら社会的に死ぬ。その前に失言で俺が恥ずか死ぬ。そして何より理解してもらえるはずがない。
とはいえ、大和の質問はかなり核心に迫るものだ。流石に何かを言わねばならない。ただ「正直に話す」と約束しちゃった以上、見え見えの嘘をつくのはアホだ。つまり俺は、
「―――私は…」
★☆★☆★
「―――私は…」
―――へい。現在
いやきつい。難易度設定イカれてやがる。いかなゲーマーでもこれは匙を投げるだろう。そう言える自信がある。
だってここの言葉さ、間違えると
でも、そんなマジモンのクソゲーをクリアするためには、俺は言葉を選ぶしかない。試行錯誤を繰り返すしかない。…ただ誠に残念ながら、このクソゲーには「人生」と一緒で、
間違ったルートに入ってしまっても、強制的にゴールまで進まされて、しかもゴールに着いた途端、「道中が間違っているから」という理由だけでスタートまで叩き戻される。
―――よく耐えてるなぁ、俺…。
…まぁ、当然の如く、3回ほど失敗いたしましたね。そりゃ無理だよ。一撃でクリアするのは余程の運がいる。それこそ宝くじレベルをとうに超えるぐらいの、とてつもない運が。
ただ…な。こっからがちょーっと、今までの失敗と違う話。
要はアレだ、いつもの通り、笑って流せない失敗ってことだ。…まぁ、バカにされてもしょうがないぐらいの、酷い失敗だったんだ。情けないことにね。おかげで、こうして変に盛り上げないと、精神が擦り減ってしょうがない。基本楽しく生きたい俺は、シリアスはもうごめんだ、と言いたいんだが…これは無理だなぁ。
…ごめん、こっからはシリアスだ。とりあえず、この3回の失敗は残さず晒す。特に5周目は、一応重要なターニングポイントだ…っていうふうに思える失敗だ。だから、ちゃんと知ってくれ。ちゃんと知ったうえで、俺を思い切りバカにしてくれ。…頼む。
★回想★
4周目。「―――私は…」の後に、知ってる信濃の経歴を並べて、俺が信濃であることを証明しようとしたら失敗した。…まぁ、はたから見れば変質者だよね俺。意味わからないことを目の前で騒ぎ立てられたら、そりゃ逃げますわ。これで終了。4周目の20日は、3周目以前と同じルートをたどり始めた。…まぁ、失敗。初手の失敗は…しょうがないだろう。うん。
だから5周目は「―――逆に、君たちは、私をどう見る?」って逆に問うてみた。そしたら「妹の名を騙る偽物」「
―――そこで聞いてしまった。この鎮守府に、
「信濃…あの子は素晴らしい艦娘でした。この鎮守府で、あの子ほど、みんなに慕われた艦娘はいないでしょう」
「あの嫌な提督の無謀な指示も、キッチリとこなしていたな。まるで、鳳翔さんに並ぶ、うちの鎮守府の母のような存在だった」
…驚いた。と同時に、納得してしまっている自分もいた。
「―――だからこそ、あの子の沈没には全員がショックを受けたわ。その日から、みんなの顔に覇気が消えたの。泣いていた子もいた」
「あの前任提督が、それを機に左遷されたのがせめてもの救いか。それでも、
ゲームにはいなかった空母・信濃。それがこの鎮守府で生を受けていた、ということは、正直予測できなかった。というか冗談だよな?って変な笑いが出た。やはりここは、ゲームとは違う。俺の全く知らない、初めて知る「艦これ」の世界だ。なるほど、そりゃ初見プレイ状態になるわけだ。納得したよ。
そして同時に理解した。俺がこれだけ、彼女らに嫌われる理由。
―――
「…なるほど。貴女たちは、余程彼女―――私ではない『
…まぁ、今思えば、ここで話を終わらせていれば、失敗はなかったのかもしれない。
「そこで―――不躾なお願いだが、私に彼女…空母・信濃について、教えてくれないか」
―――たぶん、本をただせば、この質問がダメだったんだろう。
俺は、その後全く考えなしに、「信濃」について聞いてしまった。「信濃」とは何なのか?「信濃」とはどういう艦娘だったのか?最初のほうは、彼女らも、ぽつりぽつりとではあるが、答えを語ってくれた。時には自慢の妹を誇りながら、噛んで含めるように、ゆっくりと。
その説明は分かりやすかった。その説明は少しづつ、彼我の距離を縮めていった。
…だから俺は…まぁ、有り体に言えば、俺は
「…もう一つだけ、頼む。『
俺は―――彼女は、「信濃」は、どのような生涯だったのか?と、問うてしまった。そして同時に、彼女らなら、「信濃」の何かを知っているのではないか、と、一縷の期待を込めて。
「…おい」
「…どうした?」
「―――お前、何を、聞いているのか、分かっているのか??」
しまった、と思ったときはもう取り返しがつかなかった。言葉は戻ってこない。
今の質問、俺は何と聞いた??「信濃の生涯を教えろ」と聞いたのか??俺の聞き方の問題か??
…違う。最大の敗因は、「
―――何せ、艦娘は
ゆえに
「お前は信濃ではないのか!?」と。「お前が信濃なら、信濃のことはお前自身がよく知っているだろう」と。そりゃそうだ。彼女らは俺を
何より、
だが自分の死に様すら語りたくないというのに、まして愛する妹の死に様を語れ、というのは―――もちろん、言語道断である。それも、親近感を抱いているならまだしも、敵愾心しか抱いていない相手に、だ。
…結局、俺にはデリカシーがなかったのだ。彼女らは珍しくガチギレで出て行った。俺は手痛く罵られ、食堂での非難の視線に晒された。それどころか、そのせいで俺は鎮守府内で「正体不明の化け物」だと囁かれ、その後のイベントが一切発生しなかったのだ。
―――要は、5周目が、俺にとって初の
―――なにせ次の6周目、俺は初めて
高笑いして、全フラグを恐ろしい勢いでスルーしたんだから、まぁ当然の如く失敗。トラウマを気にしすぎるとこうなる。だから頼む、トラウマは笑い飛ばすに限るんだ。トラウマは早く俺の中で消化しなきゃだめなんだ。だから、5周目の失敗は思い切り笑ってくれ。でなきゃいつまでも俺の中にくすぶって、俺はまた壊れてしまう。
そして、ああいうのは出来る限り少なめに抑えなければならない。そう何度も何度も発狂して立ち直れるほど、俺の精神は強靭じゃないんだからな。
★回想終わり★
―――6周目の途中で、手帳を見てどうにかこうにか立ち直った俺は、今、リベンジを兼ねた7周目を迎えている。そろそろ決めないと不味い。こういう系のゲームは、20日のイベントを全てこなさないと、21日以降のイベントに影響を及ぼしてくるものだ。しかもこのイベントがどこに影響を及ぼしてくるのか、それがまだ分からないのだから、余計気を抜けない。はい、ここで最初に戻る。思考が高速化してるとかいわない。よくある話じゃないか。
慎重に、慎重に言葉を選んだ。
…10日間、考え抜き、選び抜いた言葉を、乾いた口から漏れる息に乗せる。
「―――私は…そうだな、
―――ああ。元DQNニートとしては、これは最高に面白くない。面白くなくてすまない。
だがそれ以上に、
未クリアの領域に飛び込みたい。新しいものに挑戦したい。「知らないエリア」にはいつだってワクワクしちゃうのが、ゲーマーの性というもん。だからこれが、DQNニートとしては面白くなくても、ゲーマーとしては最適解だと信じたい。
「…からくり人形??」
「…すると、お前は誰かに操られている、とでも言いたいのか??」
「いや、それは
「…」
「武蔵、すまない。先程『話せない』と言った事情だが…やはり、非難を覚悟で言わせてもらう」
「…非難??信濃ではない、とでも言うつもりか??」
「いや…そうではない」
さて。気を取り直して、ここからは当然未知の領域。作戦なんてない。だが、どうすればいいのかはわかる。馬鹿正直、馬鹿正直だ。それを忠実に遂行する。
「
「――――――ッ!?」
「お前…それは…」
「ゆえに
「…なるほど。空っぽとはそういうことか…」
うん、納得してくれてありがとう。聡い子で本当に良かった。艦娘は素晴らしいな。
でもまだ、まだ言い足りない。彼女らが追っているのは「かつての」
―――
俺が今言いたいことは、簡単にはこう。30日かけて編み出した俺の答えがこれだ。
あとはそれが合っていることを確かめるだけ。証明問題の答え合わせだ。正直に。
「加えて私には―――実績もない。空っぽ、という言葉にはその意味も含まれている」
「それは…仕方のないことでしょう。貴方がここに配備されたのは昨日で、出撃すらしていないのですから」
「ああ。だが、それだけではない。―――私が言いたいのは、かつてこの鎮守府に実在していた、空母・
…その名前を出した瞬間、食堂中の視線がこちらを向いた。箸を止めてこちらを見る者すらいる。まるで「信濃」という言葉に引力が発生したかのように。
5周目の失敗のおかげで、彼女についてはいくらか知っていたが…成程、これは予想以上。俺の想像以上に、彼女は鎮守府の者に慕われていたようだ。ネームバリューがすさまじい。いやーすごいね。余計罪悪感湧いてきた。
それを確認して前を向くと、大和は唇をわななかせ、武蔵はこちらを睨んでいた。…おう、この反応は、なんだか不味い気がする。正直に答えなきゃ、とは思っているが…こっからはアドリブとハッタリも込めてみるかなぁ…。
「どうして…―――どうして貴方が、彼女のことを知っているんですか!?」
「………………」
「何とか言ってください!!あの子は、あの子は…貴方が来る前に沈んだはずです!!それなのに、何故…!?」
「落ち着け、バカ姉」
「落ち着けません!!!
「だから落ち着け!!まだそうと決まったわけではない!!決めつけで話すには時期尚早だ!!そうではないかもしれないだろう!!」
…っと、大和と武蔵が言い合いをはじめちゃった。食堂内に剣呑な空気が渦巻きはじめる。いかんいかん。これは何とかしなきゃ。さっきまで仲良い姿見せてくれてたのに、俺のせいでケンカして仲違い、なんてのはたまらんからな。
「…
「ッ!!??」
怒りと驚愕を存分に込めて怒鳴り合っていた二人が、俺のまさかの返しにたじろぐ。どちらにとっても予想外だったようで、先程まで吊り上がっていたはずの目は、いつの間にか真ん丸になっていた。
「―――お、お前、この状況でカマをかけるか…」
「何、スリルがあるだろう??」
「馬鹿にしないでくれ…」
「…貴方、どうして、そう、思ったんですか…??」
―――っぶね。本音出ちゃったよ。セフセフ。
まぁ、正直に言えば、彼女の質問の答えは、「
「…最初は、初日の君たちの視線だ。紹介式の時、私を睨んでいたのは歓迎の目線ではなく、多くが不審の目だったからな。その可能性も疑う」
「―――だがそれでは、根拠としてはあまりに薄くないか?」
「そうだな。『男の艦娘』という矛盾した存在である私への、艦娘の不信感だともとれるだろう。だから、それはまだ予想だった」
「だった…」
「予想が現実味を帯びたのは、昨夜、私のところに
「――――――」
…大和武蔵さん呆然としちゃってるよ…いきなり矢面にあげちゃってごめんよ…。
さって、畳みかけるとしよう。馬鹿正直がダメなら、丁寧にハッタリをかますほかあるまい。もー正直、割と説明口調してるし、既に準備をしていた回答だから罪悪感パナイんだが、まぁ、しょうがない。なるようになれだ。
「昨日の夜、貴女たちは私に会いに来ただろう??それで少し、な」
「―――え?」
「貴女たちは
「………………あ」
「妹を殺したいと思っていないことは、貴女たちが姉妹揃ってやってきたことから分かる。であるならば、
「………………」
「―――まいった。これは一本取られたかな…」
―――うん。何度も言うが、用意してた回答だから、そんな敬服されるとそれはそれでむず痒いけど。
畳みかけるように説明した俺の努力は、どうやら報われたようだ。大和は唖然とした表情こそすれど、納得はしているようだし、武蔵はその理解力で、俺の言わんとすることを読み取ったらしい。よかった。もう一回説明はしたくなかったし。まだ一人称の「私」に全然慣れないし。
黙っている大和型姉妹。―――ごめん、言っちゃダメなんかもしれんけど、それはそれで怖いよ。俺ミスったんじゃないかって不安になっちゃう。いやーん、まいっちんぐ。
…大和がこちらを向いた。俺がふざけてるのバレたかな…。
「―――では、最後に一つだけ、聞かせてください。
「
今までとは比にならないほど、真剣な瞳でこちらを見る大和。俺も鷹揚に頷き、「イエス」の意思を彼女に返す。ここは譲れない。11月30日が来ないとはいえ、この鎮守府には俺も思い入れがある。嫌いになんてなれない。なったら俺はゲームを投げ出してる。
俺は彼女の瞳を見つめ返す。彼女は俺の目の後ろを、瞬きもせずジッと見ている。見透かすように、とは月並みな言葉であるが、まさにその通りだ。俺の網膜の裏に隠れた、真意を読み取るような眼。
…嘘をつかなくてよかった。馬鹿正直、やっぱりよかったな。
どのくらいの時間、思いを探っていただろうか。どちらともなく、ふっと肩の力を抜いた。
「―――分かりました。貴方の複雑な状況は理解しましたし、この鎮守府に危害を加えるつもりはなさそう、ということも」
「…理解してくれて何よりだ」
「ですが。それでも、貴方がまだ『出自不明で信濃を名乗る男』であることには、変わりありません。とりあえず今は、『危険な人ではない』ということが、分かっただけですから」
「手厳しいな」
「『私は艦娘ではない』と言ったのは貴方でしょう…」
「―――まぁ、私も納得したよ。お前を全面的に信用したわけではないが、お前の言うことが間違っているとも思えない。私らを騙している可能性は、まだ否定できないがな」
「ああ、それはそうだろう。
「…食えないヤツだよ、お前は」
武蔵が嫌そうな顔でそう呟いた直後に、彼女らは食堂を出て行ってしまった。失敗だった時と同じく、俺のほうを振り返ろうともしない。お代だけ置いて終了。それだけ。何かフラグが立つでもなく、ただ話をしただけのようだ。
――――――。
―――。
―。
…え、終わり?
…あれ?失敗??
結構いい感触だったのに??
嘘ぉ。
でも4周目の感じだと失敗だよね。成功とはいえないよね。――――あーーーーあ。ダメかぁーーー!!!また失敗かよチクショウ。はぁ、次どうすっかなぁ。真面目に攻略してみるかなぁ。
―――まぁでも、ここまでまともに話せて、挙句
そして同時に、俺の言いたいことは達成できた、はずだ。
…えー、現在食堂中の注目を浴びている俺ですが。
とりあえず、さっきの会話中、緊張で朝飯が食えてないので、今から食べます。いただきます。―――カレー冷めてるし。それでも、美味しい。冷めたカレーとかレンジでチンしても風味戻らないのに。いやぁ、間宮さんはすごいなぁ。尊敬するなぁ。
え??現実逃避??そんな言葉、どこで習ったのかなー??ははは…。
☆★☆★☆
―――さて。朝飯も食べたし。現在時刻は9時30分。何をしようか悩ましいとこではある。なんせまだ1日が始まったばかり。んー、なーにしよっかーなー。
…というか、よく考えれば、こっからは答え合わせタイムってことにもなるのか。さっきの行動が正しければ、ここで起こるイベントは、6周目以前と
ということで。今回もまた「自由記述型」の選択肢になるわけだが。
…いや、待てよ。今の状況、
また食堂に行くのはアホ、飲んだくれるのも無理、提督が決断を下す系統の行動は出来ない、となると出来ることは…4つか??
まずは「任務受注」。次に「アイテム屋」。そして「入渠、工廠」。あとは「出撃」である。
うん。やっぱ出来ないこと多いねこれ。まず「入渠」はなんでな、って話だし、「アイテム屋」に行っても大したものは買えない。―――いや、まぁ、「入渠」だと艦娘のお風呂を覗ける可能性があるし、「アイテム屋」に行くと、艦娘内でも随一のスタイルを持つ明石さんに会えるけど。でも俺そんなこと出来る立場にないし。てゆか俺入渠ってどうすりゃええのん??俺の部屋のユニットバス使うんかな??
といった風に、俺の出来ることは相当少なく、あとは「任務受注」と「出撃」に絞られるのだが…うーん、「任務」ねぇ。それで得するのは
残る「出撃」もなぁ…俺は艦隊に入ってないから遠征はハナから不可だし、今の俺のスペックだと…艦載機が上手く発艦してくれれば、1-3までなら行けそうかなぁぐらい。でも、恐らくだが、ここの敵編成がゲーム時代と同じことはないだろう。1-1すら、俺の思ってたのと違う奴が出てくる可能性があるし、単艦出撃(しかも無断)は厳しいかも。
ということで、俺に残された選択肢は「演習」―――ではなく、「
…まぁ、練度上げるための出撃すら出来そうにないんじゃ、俺は自分で練習するほかないよね。朝のランニングとか、まさか提督が指示したわけでもあるまいし。要は自分のことは自分で、っていうアレだな。だったら俺もそれに従うほかない。
鎮守府の風景を眺めていると、改めて、ゲーム時代とは全く違うんだなぁ、と実感させられる。俺は違う世界に来たんだ、って。だからこそ、俺の常識が通用しなくてビックリしてるわけなんだけど。
―――10分程歩いて、弓道場らしき建物にたどり着いた。思ったより遠かったが、今の俺にとっては大した苦でもない。ごめん嘘です。遠かったです。距離にして約1キロ。東京ドーム何個分の広さだよ鎮守府…。
幸いにも、中には誰もいない。奥には8つの的が控えているのみだ。逆に言えば、誰にも見られないということである。これは僥倖…だ、はい。僥倖僥倖。そうだね。誰もいないね。
―――ここで、ひとつ悪いお知らせがある。
この行動は、
…それが意味することは、余程後にイベントが来ない限り、先程の大和武蔵相手の大立ち回りにしくった、ということだろう。はぁーあ。あれ、結構自信あったんだけどなー…ダメかー。
―――まぁ、もういい。スルースルー。気にしたら負け。あとで考えよう。
で、だ。空母たる者、弓と艦載機の扱いは上手くならなきゃいけない。これは確定事項。だってグラとかアニメとか空母ってだいたい弓ひいてるじゃん。明らかにやらなきゃだめでしょ。てか…軍艦マニア的には、艦載機と乗員の練度が、空母の上手な運用に大事だと思うの。だって装甲値は足りてるし、耐久もまずまずある…まぁ、
―――だが。
実はこの信濃という軍艦、史実では最後発に近い空母だからなのか、
あと、信濃は処女航海で沈んだが、その際に甲板上にあったのは
現に。
「――――――ふっ!!!」
矢をつがえて、射る。これだけの動作、はたから見るとカッコイイし、美少女が引くと凛々しい横顔が美しい。弓道ってやたらアニメによく登場するのはこのせいだろう。
だが、まぁ、カッコイイのは、うん、基本、
「はぁ…当たらないものだな」
俺の場合は、ほら、御覧の通り。
センスがないどころの話ではないのだ。まずもって当たらない。的をキッチリ狙っていても当たらない。的の縁を掠めるのが精いっぱい。酷いもんである。たぶん誰が見ても鼻で笑うし、初めて2日の初心者でも俺より上手いはずだ。
こんなとこまで史実再現かよ、いろいろ忠実過ぎんだろ。俺の沈没が雷撃だったことといい、練度の低さといい、交流する艦娘が少なすぎることといい…なんでや、阪神…。アニメも見習えよなー…ほんとなぁ。神通さんは華の二水戦の旗艦だし、夕立は三水戦じゃなくて四水戦だしで全く史実と異なっており俺としてはクソだとうわなにをするやめ(ry
3 話 如 月 シ ョ ッ ク を 許 す な ! !(復活)
…おっと、すまない。感情が高ぶってしまった。まぁ、うん。とにかく、クソAIMのイカレベルで的に矢が当たらない俺は、実戦には出られない、というか、出たくない。殺されに行くようなものだし、何よりカッコ悪い。最高にカッコ悪い。暁ちゃんとかにバカにされたら俺死ぬ自信がある。…あれ、ご褒美かな??
だからこそ、こうして練習しなきゃいけない。いかに言ってもこれは29日絶対沈むわ。
―――とまぁ、ここまでは
「…もう一射」
2射目。やたらカッコイイ感じで打った矢は、大きく右に外し、別の的の左隅に中った。…当たりは当たりだが、全然喜べないな。本当に救えない。
その後、3射、4射と撃っていくが、結果は似たようなものだ。最早俺の遺伝子が、命中弾なしを推進していると思えるほど、全く当たらない。その事実を拒否するように、俺はさらに矢をつがえる。
☆
「…ここまでにするか」
一心不乱に弓道に勤しむこと4時間。気づくと、時計は正午をとっくに回っていた。おっと、流石にメシを食わなきゃ。空母は燃費が悪いからな、腹が減ると文字通りに戦が出来なくなる。弓を降ろす。矢も外す。
撃った矢は4時間で69本。そのうち的に中ったのは11本。…まぁ、狙った的に中ったのが3本しかないのはご愛敬ってことで。…そして、中央付近に見事命中したのが、17射目の1本だけってのは、お馬鹿さんってことで。
これは不味い。この有様ではどこにも貢献できない。穀潰し空母の名を不動のものとしてしまう。ヤヴァイリヴァイ。
―――だからこそ。俺のここからの日程、
まぁ具体的に言えば、
俺の練度だと、フルタイムで練習に充てたほうが、29日の戦闘で圧倒的に有利にはなる。だが、途中途中で艦娘とコミュニケーションをとることは、決して不必要なことだとは思えない。むしろ、俺のループゲークリアには、相応に必要なことだろう。朝のアレ含め。
というか、艦娘と話したいじゃん!!!なんで艦これの世界に来たのに、艦娘と一切話さないルートくぐらなきゃいけないのさ!!!推しと話そう!!!でなきゃ死んじゃうよぼく!!!俺は見たいんだよ、人間の可能性を!!!
バランスを考えていかなきゃ、このゲームはやっていけないのだ。まるでダイエット。1周1周じゃ微々たる差しか出なくて、継続していってようやく実感するタイプ。せっかちな俺にとっては、とても腹立たしい限りだ。
…もういい。細かいことを考えるのはやめにしよう。まずは飯だ。
※第2駆逐隊(4代)…村雨嬢、ぽいぬ、給食係春雨ちゃん、ドジっ子教祖
※第24駆逐隊(2代)…圧倒的嫁力、夜戦バカ2号、俺がパパだ、てやんでぇ
※第27駆逐隊(3代)…大一番白露、大天使時雨
これで誰が誰だかだいたいわかっちゃうのが白露型のいいところ。
【後編へ進むか??】
【1.はい】
【2.いいえ】
【3.期待、不安、そして予兆】