世界の八割以上の人間がなんらかの特異体質を持つと言われている、通称『超人社会』。実は、八割以上に含まれない特異体質でない人間も、数年後にはなんらかの特異体質を発現する確率が非常に高く、五歳以上の人間に限定すれば既に九割を越える。
……そんな世界のそんな時代に、私は産まれた。よくわからないけれど、自分ではない誰かの記憶と、自分ではない誰かのたくさんの知識を持って。
やったことのないはずの経験があった。読んだこともない本の内容を知っていた。知るはずのないことを知っていた。そして、そんな記憶があることは私にとっては当然で、知識の中にあるような様々な物を試してみようとするのもまた当然のことだった。
私の個性は、外からも中からも理解するのがとても難しいものだった。母さんにも父さんにも黙って何回も何百何千回も試してみて、それでようやくわかったくらいだ。
私の個性は所謂経験値ブーストのようなものであり、同時に成長における上限や無理な成長による反動を無視できるようにもなる。ちょっとどころじゃなく無茶なことをしてもそれを単に経験値として蓄えることができて、そうやって得た経験値を使って個性や身体能力を底上げできる。ただ、一度振るまではただの人だし、振ってしまうと取り返しはつかないけれど、まあ後悔はしていない。
それに気付いた頃には私は無個性であると周りに思われていて、わざわざ否定する理由も私には無くて、私は無個性と言われながら普通に生活していた。
……で、まあ、そんなこんなと色々あって、名字も変わって幸せに暮らしています。
……私の名前? はい、構いませんよ。
爆豪出久、旧姓は緑谷。夫には『デク』って呼ばれてます。
この物語は、私とかっちゃんがいい感じに結ばれるまでの物語。時間があって暇してるなら、ちょっと私の惚気話に付き合ってくださいな。
個性『経験値理想配分』
爆豪出久(旧姓:緑谷)の個性の一側面。実は出久自身もここまでしか把握していない。
実際には、そう言った経験値配分に加えて『今までに得た経験値分、自身が他のモノに与える影響が大きくなる』という効果もあるが、流石にそれには気付けていない。
この個性を持った存在の究極点は、オールマイトである。膨大な経験値を宿したまま戦えば、強い硬い速い上手いの四拍子揃ったクッソ面倒な相手となる。勿論回復力も凄いぞ!
また、振った経験値の内容によってはゲームの動きを再現することもできてしまう上に、新しい個性を目覚めさせることも可能。密度の高い人生を送れば送るほどに凄まじい事になる!
さらに特殊なのは、一度に一人までならば他者に使うこともできると言う点だ。他者の経験値を勝手に配分してしまうことで、長所を伸ばすのも短所を補うことも出来る!この事は何となくそんな気がする程度に出久も気付いているぞ!
俺には幼馴染みがいる。仲良くなって、喧嘩もして、お互いに認めあって、俺には個性が出て、あいつには個性が出ないで、それでも俺の隣に並び立てるような女だ。
……ただ、俺はあいつが苦手だ。確かに俺の隣に居てほしいと思える女はあいつだけだし、現実に隣に立てる女はあいつくらいだろう。
今も、俺のとなりにはあいつが居て、名字も俺と同じ物になって、子供までこさえたのだから責任はとる。取らなきゃまずかろうよ。取ったよ。ちゃんと取ったよ。
ただ、どこまで行っても俺はこいつが怖い。何が怖いかって? 俺がこいつに勝てないのが、だ。
ある日のことだ。俺はこいつから秘密を聞いた。出るのは遅かったし、出ても内容がかなり分かりにくかったらしいが、こいつにも個性があったと言うことと、その事は親にも言っていない、秘密だと言うこと。そして……あー……好きだと、言われた。
その気持ちが、俺にはよくわからなかった。だからこそ、あいつに好きだと言われたその時に、あいつが驚くくらいに大人びて見えた。
それを認めたくなくて、色々と当たってみたりもした。それは結果的にはより逆らえなくなる事になるだけだったが、あいつはそれを当たり前のように受け入れて、許してくれた。
……今では完全に尻に敷かれて勝ち目が見えない。惚れた方の敗けだって話はよく聞くが、あっちが俺に好きだと言ってきたにも関わらず俺が負けてんのはどういう事だ。
喧嘩もした。個性なしでも、個性ありでも、口喧嘩でも、暴力でも、俺とあいつは良くぶつかり合ったし、張り合った。多分、お互いにお互いが自分の近い所に居てくれていると確認したかったのだろうと今となってはそう思う。
ちなみに、それに気付いた瞬間から、結果がどうあれなぜか勝てなくなった。意見のぶつかり合いから喧嘩に発展し、勝ったのになぜかあいつの言い分を受け入れてしまう。良く思い出してみると、あいつが勝った時にもあいつは仕方ないと言う顔をしながら俺とあいつの意見を混ぜてお互い納得できる形にしていた。多分、あいつも俺と同じような考えをしたんだろう。
俺とあいつは、お互いに勝てなくなったわけだ。
それから、俺とあいつの関係は複雑に絡まり合いながら深まって行った。
俺が強くなればあいつも強くなる。あいつが強くなれば俺も強くなる。俺とあいつはよく喧嘩をして、そして喧嘩が終わればまるで悪友のように振る舞った。
そして、多分俺もいつの間にか恋をしていたんだろう。いつまでも俺のすぐ近くに居て、いつも俺を見ているあいつに。
だから、俺はあいつが苦手だ。あいつにどうすればいいのかわからなくなったし、なんか暴走して───まあ、初体験も終わらせてしまった。初めて朝帰りをした日に、かーちゃんに『赤飯炊くか?』と聞かれたときには母親ってすげえと本気で見直した。ただ、直後にコ○ドーム渡されたせいでまた一気に株が下がったが。
と言っても、その時にそれを捨てられなかった時点でこうなることは予想できていたんだろう。式の時にも死ぬほどからかわれた。
この物語は、俺と出久の……あれだ、ハードフルボッコラフコメディ? とか言うやつだ。多分な。