私/俺のヒーローアカデミア   作:真暇 日間

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わたおれヒロアカ18

 

 二週間と言う時間はあっという間に過ぎ去った。私はその間に様々な形で経験値を手に入れ、様々な場所に振り分けてきた。

 以前もやった重力崩壊式で頑丈さ上昇。大気圏外、月まで跳ぶことで内側から破裂するのを耐えると言う貴重な経験。赤兜の能力上昇と模擬戦ついでに技の伝授。かっちゃんといちゃいちゃする。太陽風を地球の磁気に守られない状態で浴びる。ちょっと方向を間違えて木星まで行っちゃって絶対零度よりは大分ましではあるもののかなりやばい温度にある液体の空気をかなり無理して吸い込んで、液体から気体になって体積が一気に膨張した状態で更に木星の重力圏から跳び出して地球まで帰ってきたり、まあかなり無茶なことをしてきた。と言うか、自分でもこんなことができるって言う事を知ってしまって逆に少しショック。もうこれ人間業じゃないを通り越して完全に人間じゃないよね。いや、私は人間だけどさ。

 流石に太陽に突っ込もうとはしていない。流石に死ぬと思うし、それをやるんだったらその前に別の物で試してからやる。あと、再生能力とかそう言うのも高めたいしね。

 

 まあそんなこんなで色々あって、時間が過ぎた結果として今日の雄英体育祭がある。この二週間のお陰で、私はついに鉄製の刃物が皮膚に刺さらなくなった。しかも、気による強化無しで、だ。単分子で切れない肌って一体何なんだと思わなくもないけれど……まあ、この世界に存在する個性ってのは割と物理法則に喧嘩を売ってその上勝つようなのが多いから仕方ないね。

 ちなみに気の強化込みだと-197℃でも凍らず、1500℃までは蛋白質の変性が起こらないことは確認した。いったい私はどこに向かっているんだろうね。私自身分からない。

 

 それは兎も角、体育祭本番。それはつまり、私の考えた宣誓の言葉がお披露目されると言う事だ。

 ……今更だけど、これ本当によかったのか不安になってくる。でも代わりの案もないし、やっちゃうけどね。

 

 

 

 

 

 会場には数多くの観客。そして数多くのテレビカメラ。それらの視線は既に入場を終えた選手達に注がれており、熱狂が会場を満たしている。

 入場時のような歓声こそないものの、ざわざわとしたさざめきのような声が溢れている。

 入場から整列を終わらせた生徒達の前に、18禁ヒーローことミッドナイトが現れた。

 

「選手宣誓!1-A緑谷出久!」

 

 名を呼ばれて出てきたのは、なんとも地味な印象を受ける一人の女生徒。しかしそのどこにでもいるような少女は、本当にどこにでもいるような少女であれば間違いなく委縮してしまうだろう大観衆の中を悠々と歩き、笑みすら浮かべていた。

 そしてマイクの前に立った、その直後。その少女は一瞬にして姿を変えた。

 否。見た目が何か変わったわけではない。姿も、形も、大きさも、何もかもがそのままだ。しかし、その瞬間から誰もが彼女から目を離せなくなった。

 

 

 

「諸君。私は英雄(ヒーロー)が好きだ」

 

 囁くような声は、マイクに拾われて拡大され、拡散される。しかし、拡散されながらもその声に乗った熱量には些かの衰えも見受けられない。

 

「諸君。私は英雄(ヒーロー)が好きだ」

 

 次の言葉は、一言目よりも大きく発され、そして一度言葉を切ってからぐるりと生徒を、そして観客を見回した。

 

「諸君。私は英雄(ヒーロー)が大好きだ」

 

 広めるように、染み渡らせるように。一言目のマイクが無ければ聞き取るどころか何かを話していると言う事すらわからないような小さな音ではなく、マイク無しでも十分に聞こえるほどの声が響く。

 

「オールマイトが好きだ。

 エンデヴァーが好きだ。

 ベストジーニストが好きだ。

 サー・ナイトアイが好きだ。

 シンリンカムイが好きだ。

 リューキュウが好きだ。

 エッジショットが好きだ。

 ギャングオルカが好きだ。

 グラントリノが好きだ。

 

 首都圏で。郊外で。

 街道で。平原で。

 山地で。森林で。

 海上で。空中で。

 地下で。事務で。

 

 この世界で行われるありとあらゆる英雄的行動が大好きだ」

 

 次々と溢れ出す言葉はかなり早口で、全てを聞き取るのは難しいはずだった。しかし、何故かこれを聞いている誰もがその言葉を一言一句たりとも聞き逃すことなく、その意味をしっかりと理解していた。

 

「策を張り巡らせた英雄(ヒーロー)たちの奇襲で(ヴィラン)グループが一網打尽にされるのが好きだ。

 組織を率いる(ヴィラン)の親玉にオールマイトが拳を叩きこんだ時など心が躍る。

 数多くの相棒(サイドキック)と共に英雄(ヒーロー)(ヴィラン)の攻撃から市民を守るのが好きだ」

 

「発狂したように悲鳴をあげながら引き金を引き続ける(ヴィラン)の弾丸をエンデヴァーが腕の一振りと共に焼き尽くした時など胸がすくような気持ちだった。

 制服をジーンズでそろえたベストジーニストたちが(ヴィラン)を一方的に追い詰めていくのが好きだ。

 初めて実戦に出た新米ヒーローが、既に気絶した(ヴィラン)を何度も何度も殴りつけている様など感動すら覚える」

 

「現場で動く英雄(ヒーロー)のために身を粉にして働く事務の姿などもうたまらない。

 泣き叫ぶ(ヴィラン)達が、馬鹿にし続けていた警察の手で収容所に放り込まれるのも最高だ。

 哀れな(ヴィラン)組織の下っ端が嘆かわしいほどに弱い個性と共に健気にも立ち向かってきたのを、強大な力を持つ英雄(ヒーロー)が組織の本拠地ごと木端微塵に粉砕した時など狂気すら霞む」

 

(ヴィラン)に不意打ちされるのが好きだ。

 必死に守るはずだった市民が蹂躙され、力無き存在が襲われ、殺されて行く様は、とてもとても悲しいものだ。」

 

「命を狙ってくる(ヴィラン)の命すら守り抜く英雄(ヒーロー)が好きだ。

 何も知らない一般人や自称有識者たちに英雄(ヒーロー)のたった一点の失敗を(あげつら)われ、罵倒され、貶められるのは屈辱の極みだ」

 

 いつからか。いや、もしかしたら初めからだったかもしれない。二十も生きていない少女の言葉に、この場に居る誰もが聞き入っていた。生徒も、観客も、教師も、プロヒーローも、そしてもしかしたらテレビの前に居る誰かすらも関係なく、彼女の姿を見て、彼女の声を聴いている誰もが、彼女の言葉だけに耳を傾けている。

 すっ、と、彼女は下げていた腕を前へと向けた。まるで何かを掴み取ろうとするかのように緩く広げられたその手に、その場にいる者達の視線が集中する。

 

「諸君。私は英雄を、神話のような英雄を望んでいる」

 

「諸君。今この場に居るヒーローの卵、そして私を見る観客の諸君。

 君達は何を望んでいる?

 

 更なる英雄を望むか?

 非の打ち所の無い、絢爛たる英雄を望むか?

 鉄風雷火の全てを排し、三千世界の限りを救う、太陽のような英雄を望むか?」

 

 

 まるで世界全てから音と言う物が消えたかのような静寂が広がる。誰も口を開けない。宣誓ですらないこの言葉に、そしてこの言葉を吐き出す少女の巨大すぎるほどに巨大な存在感に、誰もが圧倒されていた。

 

 だが。

 

「……ヒーロー」

 

 誰かが、囁くように口にした。その言葉はほんの小さなもので、常ならば簡単にかき消され、消えて行くようなものでしかない。

 しかし、完全な静寂の中で唯一生まれたその音は、その場にいる誰もが聞き取れるほどに広がった。

 そして、まるで伝染するかのようにその言葉を発するものが増えていく。

 

「ヒーロー、ヒーロー」

 

 観客から。プロヒーローから。生徒達から。

 

「「ヒーロー!ヒーロー!」」

 

 次々に増えるその言葉が、まるで声援のように、怒号のように、大きく大きく響き渡る。

 

『『『ヒーロー!!ヒーロー!!ヒーロー!!ヒーロー!!ヒーロー!!ヒーロー!!』』』

 

 やがてその声は津波のように会場を満たし、吊り下げられた電光掲示板やスポットライトに皹が入ってもおかしくないほどの振動となってその場にいる全員の身体を震わせる程の物となった。

 

 

「よろしい。ならば英雄(ヒーロー)だ!」

 

 たった一言。その一言だけで、大歓声は消し飛んだ。しかしその熱量は消えたわけではなく、観客の、生徒の、教師の、瞳の中に炎として宿っていた。 

 

「我々は今満身の力を込めて振り下ろされんとする正義の鉄槌だ。

 だが生れ落ちてからおよそ十と六年、英雄を目指してきた我々にただの英雄ではもはや足りない!」

 

 少女は右の拳を左の掌に打ち付ける。その音はまるで開戦を知らせる陣太鼓のように響き、一度宿った炎を煽るように渦を巻く。

 

「大英雄を! 万夫不当の大英雄を!!

 我らは僅か十五、六歳。三百人にも届かぬ若造の集まりに過ぎない。

 だが、諸君らの胸に宿る思いは輝く綺羅星に劣るものではないと私は信仰している。

 ならば我らは諸君と私であらゆる困難を踏破する英雄(ヒーロー)団となる!」

 

 少女がぐるりと見渡せば、誰もがその瞳に炎を宿すのが見える。そしてその炎は、今まさに新たに燃料をくべられて更に巨大になろうとしている。

 

「我々を視界から外し、罪科を貪る(ヴィラン)を叩き起こそう!

 そっ首を掴んで引き摺り下ろし、眼を開けさせ思い知らせよう!

 連中に英雄(ヒーロー)の姿を見せつけてやる。

 連中に英雄(ヒーロー)の存在を知らしめてやる。

 天と地の狭間には、奴らの哲学では思いもよらない事があることを思い出させてやる!

 三百人の英雄(ヒーロー)の総力を、世界に見せつけてやろう!」

 

 炎は、劫火となって会場の空気を塗り替える。先程までは本気でやる気など全く無かった一部の生徒達ですら、この場において全力を出すことを決意しているようにすら見えた。

 

「宣誓しよう。我等、雄英高校一年生総員。全力を持ってこの祭典に挑まん事を。

 さぁ。

 

 征くぞ、諸君」

 

 直後。絶叫とも怒号とも、あるいは咆哮とも取れるような音圧が会場に満ちた。いや、それどころか会場の外からすらもそれが聞こえる。

 膨大な熱量に後押しされたそれは、この時代の人間達の心に深く刻みつけられた。

 

 そして、今この場で雄英体育祭、その予選が始まろうとしていた。

 

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