滾々とわき上がる戦意。ぐつぐつと煮え滾るような熱意。誰もが己の全力をこの場で見せるだけでなく、誰もがこの場でより成長して見せると言う決意を抱く中で発表された第一種目。本選に対しての予選とも言えるその内容は『障害物競走』だった。
11クラス全てで行われるそれはスタジアムの外周4kmを一周するだけと言う物だったが雄英だけあってルールは非常に単純。コースを守りさえすれば、何をしてもかまわない。当然のことだが自由だからと言って殺人や脅迫と言ったアンチヒーロー的な事は御法度。即座に失格と言う事になっている。
まあ、こんなところでそんなことをやらかすような生徒は早々いないし、よほど酷いことになりさえしなければリカバリーガールによって怪我は治される。だからこそこんな荒っぽいことができるし、続けていられるのだ。
会場には熱が広がる。そしてそれは、主審であるミッドナイトによる号砲によって一気に迸った。
しかし、誰もが前だけを向いていると言うことは、逆に言えばそれ以外に対しての注意は損なわれていると言うことに他ならない。その隙を突こうとする者も当然いる。
走り出した生徒達の足元が一瞬にして凍り付く。その氷は一人の男子生徒の足元から生まれていた。
轟焦凍。右半身から氷を、左半身から炎を出す個性の持ち主であり、今年の推薦入学者でもある。
氷の領域は凄まじい勢いで広がり、地面どころかスタートゲートのある壁すら凍てつかせた。
多くの生徒がそれに引っかかって動きが止まっている中で、しかしそれを乗り越えた者達もいる。
例えば、爆発の加速によって凍り付く前に空を飛んで逃れた爆豪。例えば掌から棒を作り上げ、棒高跳びの様に氷を避けた八百万百。例えばレーザーを撃った反動で空を飛ぶ青山優雅。個性を使わずにただ跳び跳ねることでかわしたり、何故か複数の虚ろな目をした生徒達に担がれて移動している者もいる。それぞれの避け方は違っても、ここで氷に囚われた者は氷が溶けるか割れるほど脆くならない限りは移動できない。4kmと言えば、個性を使わないでも慣れた者なら15分もあれば走りきれる距離。個性を使えば10分どころか5分もかからない場合もある。いくら障害物があったとしても、例えば空を飛ぶことができるならば大概の場合無視できるものになってしまう。
つまり、この時点で氷に囚われた者達は、余程の事がなければ第一種目での落選が決定してしまっていると言える。
場面は進む。第一関門として用意された多数の巨大なロボット
爆豪は空の上に居ながらその姿を眺める。そして、轟の身体能力の激減と、その原因に少しずつあたりを付けていた。
(動きが遅くなった。今はあの氷で押し出して身体自体の動きは殆ど無えからわかりにくくなっちゃいるが、間違いなく遅くなってやがる。身体に霜が降りてからそれが顕著になった……震えも出ている。身体が冷えればそりゃあ動きにくくなんだろうが……左側を使わねぇってのはなんかの拘りなんだろうが、俺からすりゃあアホのやることだ。それで死にそうになってりゃ世話無いしな)
だが、と、この中で唯一そのことに気付いている爆豪は苦虫を嚙み潰す。
始まった時に、誰よりも早くゲートを越えて視線の通らないところまで走って行ったのは影だけ追う事ができたので理解している。だが、あのデクが。試練大好き鍛錬大好きなあのデクが、ただ先に行っただけで終わるなんてことを信じられない程度には、爆豪勝己は緑谷出久と言う少女の事を理解していた。
そしてその予想は、残念極まりない事に的中することになる。
なんとなくだけど、かっちゃんに気付かれた気がする。まあ、付き合いも長いし私の考えることをなんとなく読んでもおかしくないくらいにはお互いの事を理解しているし仕方ないと言えば仕方ないけれど、それでも厄介なことには変わりない。せっかく色々サプライズしようとしてたのに、もしかしたらそれができなくなっちゃうなんて少し困ってしまう。
だから、悪いんだけど―――ちょっと、黙っててね? かっちゃん。
大丈夫。私だって鬼じゃない。ちょびっとだけ鬼畜っぽくなっちゃうことはあるけれど、れっきとした人間だからね。情もあるし、人間の選択の矛盾を理解することだってできる。クリアできないことを前提にした試練なんて言うクソゲーに挑ませたりは絶対にしない。やるとしても必死に頑張ればちゃんとクリアできるような、そんな内容にするからさ。そのくらいだったらほら、よくあることでしょう?
大丈夫大丈夫。私だってできたんだし、かっちゃんだってできてる。みんなできることだから。頑張れば。