遠き日に、もの想う   作:夕貴

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 三成と清正が選らんだ品はねねを大層喜ばせたようで、早速次の日着てみたいと言ってきた。普段もこれぐらいなら言う事無しだと思い今度からねねのうちかけは子飼いの誰かに選ばせてみようかという案が九割がた本気で女中達の中であがった。

 

「石田様ご無沙汰しております」

「そなたは、城に来た商人か」

「はい。その節はありがとうございました」

「いや。おねね様も大層喜ばれていた。これからも良い品を頼む」

「承知いたしました」

 

 久方ぶりに大阪城に呼び出された三成は供を数人だけ付け城下町を忍んで歩いていたところ、以前ねねへ贈物をするために呼んだ商人に声をかけられた。あの時に選んだ品をねねは本当に喜んでくれたようで、三成や清正が登城した際には必ず身につけてくれている。そのため三成も悪い気はせず、彼にしては珍しく素直を対応をしている事に供が驚いているのを無視し案内されるままに商人の店へと入った。

 

「あれから様変わりしたな」

「お陰様で。お台所様に大層喜んでいただけた事が評となり、忙しくさせて頂いております」

「それは重畳」

 

 友の一人が義姉に何を送ろうかと悩んでいると持ちかけた所、若い女子に人気があるものを広げてみせてきた。前回のようにねねに贈るものではないので値が大層張るものは少なく、三成達であれば気軽に買えるものが多く並べられた。

その一角に簪が並べられているのを見て、三成は楓とのやりとりを思い出した。

 

「そういえば、城で俺と女中がやりとりしていた赤玉のついて簪はどうなった」

「ああ、あの簪でしたら後日あの女中の方がお見えになりご購入されました」

「買ったのか」

「はい。私共もまさか城に持って行くものにあのような幼子が付ける様な簪が紛れ込んでいるとは思いませんでしたが、彼女にとっては良き出会いとなったようです」

「何か言っていたのか?」

「ええ。何でも幼い頃母君に買って頂いたものとそっくりだったそうです。今はもう手元にないのでその代わりとして置きたいと仰っておりました」

 

 もう一つの青緑は残っておりますよ、と別の箱から見覚えのある簪を三成の目の前に差し出したので反射的に受け取り眺めた。目の前にも何本もの簪が並べられているが、奥州という遠く離れた場所の物のせいか珍しさが際立つ。

あの赤玉の簪をつけている所は今の所一度も見かけていない所をみると思い出の品として手元においているだけのようだ。それなりに値の張るものだろうに勿体無い気もする。だが使用したらしたで可笑しな格好になるのが目に見えている。この、今自分が手に持っているものであれば似合うだろうにとふと思った。

 

「こういった品はあまり出回りませんので・・・彼女は奥州の出なのでしょうね」

「知らん。あの娘は――」

 

 記憶が、と続けようとしたが商人が言っていた言葉と矛盾する事に気づいた。ねねはあの娘は記憶が欠落していると言っていたが、もしやそれが戻ったのであろうか。

 

「いや、何でもない」

 

 ねねになら言っているのかもしれないが、気になると思いその場を辞すると城にすぐ戻り楓を自室に呼び出した。

 

「石田様、お呼びだと伺いました」

「入れ」

 

 廊下からの声に返事をすると楓が部屋に入り頭を垂れた。その髪にはやはり件の赤玉の簪は見当たらない。

 

「そんなに堅苦しくするな。顔を上げろ」

「失礼いたします」

 

 急に三成に呼び出された楓の表情は困惑八割、怯えが二割見えた。

女中として働くものにとって自分の主以外の者は交流が薄く楓がねねの傍付という事もあり挨拶等の交流がある二人だが、普段は他の城にいる者に個人的に呼び出されるというのは異例中の異例。何事かと穿ってしまうのも仕方がない。

 

「あの赤玉の簪は使っていないのだな」

「覚えておられたのですか」

「ああ。今日久方ぶりにあの商人に会ったのでな」

「そうでございましたか。あの後あちらの店に赴きました」

「それも聞いた。悪いが俺は回りくどい事が嫌いだ」

 

 場合によりけりではあるが、面倒だと思ったら一切合財話を端折ってしまうのがこの石田三成という男。単刀直入に切り出した。

 

「お前は、奥州の出なのか」

 

 疑問とも断定とも言えない言い回しに楓は一瞬詰まった。その逡巡を見逃さす三成はあの品は奥州の物で此方ではあまり出回っていないという事、あまりの珍しさから手にとる者は少なくその全てが奥州の出の者との事だという事を商人から聞いた事も口に出した。そして極めつけが。

 

「母君に昔買ってもらった品に良く似ていると申したらしいな」

「・・・」

「俺はおねね様からお前が記憶が欠落し、己の名前しか覚えていなかったと聞いている」

「・・・はい」

「認めるか」

 

 ここで知らぬ存ぜぬを貫くならもう一度薬や術を使って無理に聞き出そうと、むしろそうなる事を見越していたのだがまさか自ら認めるとは予測しておらず目を見張った。だが、自ら言うのであれば手間がかからなくて済むと言葉を重ねた。

 

「楓という名は偽りないか」

「はい」

「記憶が欠落していたのは」

「事実です。おねね様に拾って頂いた当初は全く思い出せず、それからゆっくりと思い出していきました」

「ならば何故それをおねね様に言わなかった」

「全て思い出した際に言おうと思っておりました」

「ならばまだ全てを思い出した訳ではないのだな」

「はい。家族の事等がまだ。名等がまだ誰一人として思い出せずおりますので」

「まぁ一番肝心な部分だな」

 

 そこまで話を続け一つ息を吐いた。神経を尖らせて話している身は案外と疲れるものだともう一度息を吐いた。

 

「なら思い出した事は何だ」

「奥州に居りました事と家族です。父と母と病にかかった弟が一人…いや、二人…?少し曖昧なのですが。ああ、そういえば、勉学を施してくださった方が一人おりました」

「勉学を?そんな者がいるのは珍しいな「・・・そういえば、おねね様がお前の所作や教養は姫に匹敵すると褒めておられたな」

「おねね様が」

 

 嬉しい、と小さい掠れ声で言ったのを三成は聞き取り、楓はこの部屋に入ってきてはじめて表情を緩ませた。

それまでずっと強張った顔をしていたものだから急に見せられた幽かだが確かな笑顔に、自分に向けられたものでないので三成は照れを感じ目を逸らした。

 

「もし他にも思い出した事があれば俺に言え」

「――はい」

「お前が間者ではないかという疑惑が全くないわけではないのだ。おねね様は戦人であられるから目を瞑っているが、本来であればお前のような者が御正室の傍に居るのはありえぬ」

 

 自分のような怪しさ満点の者が女中のしかも御中臈という役を貰うのは異例中の異例だという事は欠落した記憶を持つ楓でも分かる事だった。ならば何故自分がと思うがねねは笑うだけで詳細を知らぬ同僚は実力だと褒める。なので三成が面と向かって怪しいと言ってくれた事に逆に安心した。

 

「承知いたしました」

「まぁ俺がここに来るのはそう頻繁ではないからその度に報告に来い。それと奥州に伝手が無いわけではないから家も探してやろう」

「そのような、」

「案外簡単かもしれん。お前程の所作を持った姫が居なくなったのならすぐに耳に入ろう」

 

 三成としてはこの娘が間者でないのであれば、すぐに家は見つかるだろうと高を括っていた。姫を何人もみてきたねねが褒める程の娘だ、それなりの家格を持った者だという事が伺える。それなりに名の通った家の者であれば姫が居なくなるという醜聞を隠そうとやっきになるが、力を持つ者が切欠さえ掴んでしまえば反対に露見しやすくなる。

そして三成はその力を持つ者であった。そのため高を括っていたのだが、全く検討すらつかない状態になるとは露にも思っていなかった。

 

「一体お前は何をして奥州から出てきたのだ。全く手がかりすら見つからないとは一体どういう事だ」

「申し訳ありません」

「山の中で拾われたというのも解せん。もういっそ間者でいいのではないか」

 

 はじめの数度は気遣わしげに三成から手がかりが無いと報告を受けていたがそれも回を重ねると段々と腹立たしくなってきたのか投げやりな言葉を言うようになってきた。情報を扱う者として矜持を刺激されるらしい。はじめはただ聞き流していたのだが、ある時ついうっかりと言葉を零してしまった。

 

「私がそうなら世の間者は総じて無能かと」

 

 楓からの言葉に三成は盛大に笑った。御中臈からまさかこのような言葉が返ってくるとは思いもよらず、またその言葉が軽快であったため驚きもあった。

 

「あ、いえ、その・・・申し訳ございません。口が過ぎました」

「構わん。腹に一物抱えて喋られるより其方の方がいっそ良い」

「はぁ」

 

 それから三成は楓からの報告の時が一層興味深いものとなった。小姓や女中であれば三成のような人物には恐れのみを抱き会話すらままならぬが、御中臈の役を持つ楓はまずそれが無い。時には秀吉とすら言葉を交わす時もあるのだ。更に時折零す言葉がまた小気味良いものだから、会話をしていて苦ではないどころかいっそ心地よい。

 

「三成様は言葉が足りませぬ。いい加減私も褥を涙で濡らしてしまいます」

「そ、そうか」

「いえ、ただの喩えです」

 

 楓も楓で同年代の見目麗しい青年との会話を楽しんでいた。一人三成の部屋に呼び出されるためやっかみがあるのだが、三成のように言葉を飾らない珍しい人との会話は傷つく事もあったがそれ以上に確固たる言葉が楓を安心させた。

欠落した記憶は自分自身の欠落となり自己を保つというのも中々難しいものであった。自分自身が一体何なのか今の自分は本物なのか偽者なのかと揺らぐ中、三成の飾らない本当の言葉は楓に響き心地良いものだった。そうして会話を重ねてゆくうちにひょんな切欠で楓、三成様と呼び合うようになった。

 

 名というものは呪術に使われる事が示すように、人にとって重要な位置を示す。更に楓にとって己が己がある最も確固たる証である楓という名を呼ばれまた三成はその様な名を呼ぶという事はとても特別な事に思え、そうする事に互いの感情――端的に言うと恋情が近づいてゆくのは当たり前の事だった。

明確な言葉は互いに言わずとも、三成が大阪城に登城する度に楓が借り出されるようになれば他の者も気付かないはずもなくそれは三成がねねに呼び出される事にまでなった。

 

「三成、なんで呼ばれているか分かるね」

「分かりませぬ」

「嘘を言いなさんな。お前と楓の事が人の口の端に上っているのをお前が知らない訳ない。清正と正則すら知ってるんだ」

「疚しい事をしている訳ではありません。あいつの生家を探しているだけです」

「三成がそうやって他人の為に何かをするなんて、幸村と兼続以外には聞いた事がないね」

 

 いっそ優しい声でねねに言われてしまうと三成は幼子のように顔をそむけそっぽを向いてしまった。そのような三成の仕草に昔を思い出しねねは目を細めて三成に言った。

 

「楓は良い子だよ。でもね、あの子には後ろ盾となる家がない。それは分かるね」

「――承知の上です」

 

 ねねとね楓と三成の事を咎めたくは無い。

生きにくい子だ、と子飼いの中でも一番気にかかる子にそういった仲の娘ができるのは手放しで喜びたい位なのだ。

だが、三成は良くとも楓はそうはいかない。家の後ろ盾が無いというのは武士の世では生きにくく、出自が知れないのなら尚更。只でさえ男より女が涙を呑む場が多い世で楓が、そしてそのような娘を選んだ三成がそのような扱いを受けるかは火を見るより明らかだ。だが、はじめてともいえる恋情に突き進む三成にはねねが何を言い募っても聞こうとしない。

そればかりか。

 

「三成。あの子はお前よりもっと良く分かってるよ」

 

 そう言ったねねの言葉から、楓にも同じ話をした事を察知しすぐさま部屋から退室してしまった。

 

「なんで、こう。あの子は難しい道を選んでしまうのかねぇお前様」

 

 

 自室に戻った三成は急いで楓を呼んだ。ねねの言葉から同じような言葉を言われた事は伺え、そして楓が出した結論も推測できた。だがそれは三成にとって承服できるものではなく、せわしなく扇を弄りながら楓の到着を待った。 

 

「お呼びだと」

「入れ」

 

 挨拶の口上を遮り入室を促す。

何時ものように三成の前で一礼をするのが決まっているのだが、その時楓は一度も三成と目を合わせようとしなかった。それだけで己の推測がほぼ間違いない事を悟り、一瞬にして頭に血が上った三成は楓の腕を掴みその身を引き寄せた。

 

「三成様」

「黙れ」

 

 何も言えぬようにこの口を塞いでしまおうと顔を傾け近づけるが、軽く押し返された。よく見ると掴まれていない楓の手の平が三成の口を覆っている。

 

「お止め、ください」

「おねね様に何を言われた」

 

 くぐもっと己の声が癪でもう一つの腕も掴み動きを封じた。

 

「ごくごく当たり前の事を」

「当たり前の事を言われお前は納得したのか」

「当たり前の事です故」

「・・・だから何だと言うのだ。そんなものでは俺は納得しない」

 

 楓は身を捩って逃げよとするのが癇に障り、更に力を込め動きを封じる。痛みのためか此方を向いた楓の目はうっすらと涙が浮かんでいた。零れる前に三成は眦を唇で拭うと、驚きに軽く開かれた唇が己を誘っている様に思えそのまま口付けた。

一度では足りず何度も啄ばむように重ねる度に楓から力が抜け、これならばと掴んでいた両腕を離し背に回して引き寄せた。少しでも距離を置こうと三成の胸元に手を置くが、滑り込んだ舌が絡まり力がぬけ縋りつくように合せを握るしかできなかった。

 

「みつ、なり様」

「なんだ」

「もう之きりにして下さい」

 

 一頻りして満足した三成が顔を遠ざけると、楓は三成の首に顔を埋めて小さく嗚咽を漏らした。これが無理矢理で、尚且つ嫌悪するものであれば只々否定し嫌悪すればいい。だが、恋焦がれる者から与えられたものはただ歓喜をもたらすもので、拒まねばならないという心を抉ってゆく。

 

「断る」

「どうして。後生ですので、もう」

「煩い。断ると言ったら断る」

 

 涙を流しながら怒号を飛ばす楓は三成の傍から離れようとするも、それは許されず何度も引き寄せられる。何度も攻防を繰り返すも戦人の力に適うはずもなく結局楓は三成の腕の中でさめざめと泣くしかなかった。

 

「――なんで分かって下さらないのですか」

「俺がそう望むからだ」

「おねね様も仰っておられたでしょう。私は出自も分からぬ身、貴方様には似つかわしく――」

「それがどうした」

「そんな、簡単な事では」

「少なくともお前の考えよりは簡単だ。お前の存在で俺の評が変わるぐらいなら、そんな評なぞいらん」

 

 腕の中で泣く楓の顔を無理に上げさせ、その涙を乱暴に袖で拭うがその端から涙がこぼれてゆく。いい加減泣き止め、と溜息を吐きながら言うも楓は泣き止む様子を見せない。それに呆れ今度は引き寄せ肩に寄せるとじわりと肩口が濡れてきたのが分かったが、引き剥がす事はせず好きにさせていた。

しばらくすると嗚咽は止んだが、今度は規則正しい寝息が聞こえてきた。この女、男の傍で寝やがったとどうするべきかと考えていると天板が動き、その隙間から人が降りてきた。

 

「あたしが預かるよ」

「おねね様、どこから見られていたのですか」

「最初から」

「盗み見とは・・・良いご趣味ですな」

「悪いとは思ったけど三成が楓に無体をしないかどうしても気になってね」

 

 あんな風に乱暴に目を擦ったら明日には腫れちゃうよと言いながら三成から楓を受け取ろうとするとくい、と三成の着物がひっぱられた。みれば楓の指が三成の着物の合せを握っている。

それが楓の想いの表れのようで三成は知らず表情を緩ませながら、その指を解した。

 

「おねね様」

「何だい」

「楓の存在が俺の足枷になると仰られました」

「悲しいけど、そうだね」

「ならば楓がそのような存在で無いと分かれば宜しいのですね」

「何か知っているのかい」

「ええ。元々それが切欠でもありましたし」

 

 解れ、とかれた指を握りながら三成は答えた。

 

「楓は元は奥州の出のようです」

「思い出したのかい?」

「全てではありませんが少しずつは。ただ確信を持って言えるのは奥州で暮らしていた事と、傅役が居たという事」

「傅だなんてそうそういるもんじゃないだろう」

「ええ。ですが楓の話にでてくる勉学を施してくれた者が、どうも傅役のようなのです」

「それが本当なら相当な家の娘じゃないかい」

「ええ。今までは兼続を通して越後に近い場所から探しておりましたが、もうすこし本格的にこいつの生家を探そうと思います」

 

 名残惜しそうに手を離し、今度こそねねに楓を預け三成はねねに頭を下げた。

 

「おねね様が俺と楓の事を思ってくださっている事は分かっております。ですが、俺にはもうこいつを手放す事はできません」

「・・・なんで、そう思うんだい」

 

 眠る楓を抱きしめながらねねはそう三成に問う。

三成程の男を世の女達は放っておくはずもなく、幾人もの女達が三成を陥落させようと手管を駆使した。だが何人もの者が涙を流しながら傍を去ってゆくのを見てきて、一体どうする心算なのだろう、もしや女は駄目なのかもしれんと秀吉が叫んだ事すらあった。その三成がねねに頭を下げてまで請うのが、謎ばかりの何も持たない娘。本当に何ももっていない只の娘に何を求めているのだろうか。

 

「楓は笑うのです。俺と話していて、笑うのです」

 

 それは三成にとってはじめてみる女の本当の笑顔だったのだ。

幾人もの女達が傍にやってきたがその口に見せる笑みは作られたもとしか思えず、また三成が口を開けば引きつった笑いか涙ばかりを見せる。そのような者ばかりだと思っていたが、楓だけは笑ってくれた。三成の辛辣とも評される口の悪さにも堪えず、笑いながら軽口すら返してくる稀有な存在。それをどうして離せようか。

 

「愛しい――のです。愛しくて、手放すなど考えられない」

 

 見たことのない眼差しで楓を見つめる三成に今は何を言っても無駄だとねねは確信し、楓を連れて行くねとだけ言い頭を垂れる三成の前から去り奥へと戻った。ねねの部屋に戻ると腕の中の存在が嗚咽に背を揺らしているのに気付いた。

 

「ああ。ほらもう泣かないの」

「申し訳、ありません」

「いいのいいの」

「申し訳ありません」

 

 途中から楓の目が覚めていた事に二人とも気付き、そのため三成はわざと聞かせるようにして愛を囁いた。それをきっちりと耳にいれてしまった楓は嬉しさ以上に、拾ってもらったねねにこれ以上ない裏切りを働いた気分になり、只謝る事しかできなかった。

 

「三成と楓を引き合わせたのも私だからねぇ。ああ、もうそんな風に擦っちゃ駄目だよ」

「ですが、」

「三成と楓がこうなった事は予定外だよ。でもね、三成があんな生きにくい子ががこうしてちゃんと大切な人を作れた大切に想ってくれる人を見つけられた事はとても嬉しい事なんだよ。嬉しいよすごく嬉しい事なんだから泣かないどくれ」

 

 後日楓は城を辞そうと思ったが、ねねに盛大に引き止められた。

事態を丸く収めるには楓が身を隠してしまうのが一番なのだろうが、最善な方法ではなかった。そうなれば絶対に三成は使い物にならないだろうし、もしそれが事前に露見すれば監禁すらしかねないだろうと母の感は告げる。

 

それに今回の事で一番悪いのは、三成だ。

楓は事態を悪化させないために間を置こうと思っていたのに、それを無視し暴走し自分で後には引けない状態に置いたのだ。まだこの三人以外には露見していないのが辛うじての救いだ。その事について三成をお説教しても本人は何処吹く風のため流石のねねも怒り、楓を近づけないために三成が大阪城にやってきても奥にこもって出てこないようになってしまった。

 

ねねが奥から出てこない限り御中臈の楓もでてくるはずもなく、程なく三成が折れ説教を甘んじて受ける事となった。また罰として、勝手に楓を呼び出さない楓を追い詰めるような事はしない言わない事を約束させられた。元々御中臈はねねの傍付きだというのに三成が勝手に楓を呼び出していたのは問題だった。その点については三成も受け入れた。

ただ後者に関しては受け入れ難かったが、三成の雰囲気を察して何かを告げる前に楓から逃げてゆくので必然的に罰は履行される事となった。

 

ただでさえ簡単に呼び出せなくなったあげく、逃げられてばかりでは三成も寂しいやら悲しいやらで口を噤む事を余儀なくされた

 

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