魔法科高校の先導者   作:Shirasagi

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入学編
入学


ーアイチ side

 

 

 

はじめまして。僕の名前は先導アイチ。

突然ですが、僕は今、人生の中で一番困っています。

 

「ハァ~・・・・・」

 

入学式当日、僕は国立魔法大学附属第一高校の門の前にいた。

 

新たな高校生活を夢見て心を踊らせる新入生たちがいるなか僕だけ暗い表情で下に俯いていた。

 

「ハァ・・・・・何でこんなことになったのかな・・・・・」

 

再び溜め息。この高校に入学することが決まってから何度、この言葉を呟いたことだろうか。

 

ここ、国立魔法大学附属第一高校は毎年、優秀な魔法師を最も多く輩出しているエリート校。

そんな高校に入学すること事態、何の取り柄もない僕が入学するなんて、何かの間違いではないか?と、何度思ったことか。

 

僕は俯き、真新しい制服とブレザーに印された八枚の花弁をデザインしたエンブレムをじっと見つめる。

 

成績が優秀な生徒の集まる一科生、通称『ブルーム』

とその一科生の補欠である二科生、通称『ウィード』

 

一科生にはエンブレムがあるけど、二科生には“それ”がない。

 

「あぁ・・・・・真由美お姉ちゃんは『大丈夫よ♪』って、言っていたけど・・・・・僕がここにいるなんて、やっぱり場違いだよね・・・・・。それに、まさか一科生なんて・・・・・」

 

僕は生まれつきサイオン量が通常の人より多く、魔法師としての才能にも恵まれているようで、これは母曰く父のご先祖様がすごく優秀な魔法師だったようで、「ご先祖様のお蔭かもしれないわね」と話していた。

 

桜舞い散る道を暗い気持ちのままトボトボと歩いていると、入学式が行われる講堂が見えてきた。

 

まだ時刻が早朝なので、新入生はおろか在校生の姿が少ない。いるとすれば入学式の準備のため駆り出された生徒くらいだろうか。

 

入学式まで、あと二時間。それまでどうやって時間を潰そうか思案していると、一組の男女が言い争っている声が耳に届いた。

 

「納得いきません!」

 

目を向けてみると、まず目に飛び込んできたのは誰もが目を引かずにはいられないほどの容姿を持ち十人中十人が美少女と認める女子生徒と僕より背が高い男子生徒が何やら言い争っていた。

 

ふと、彼らが着ている制服に目が止まり、女子生徒の制服の胸には一科生を示す八枚の花弁のエンブレムがあったが、男子生徒のブレザーにはそれがなかった。

つまり、男子生徒は二科生ということになる。

 

「何故です!何故お兄様が補欠なのですか?入試の成績は私よりもお兄様の方がトップだったじゃありませんか!本来ならば私ではなく、お兄様が総代を務めるべきです!」

 

「お前がどこで入試情報を知ったのかは置いとくとして、魔法科高校なのだからペーパーテストではなく魔法実技が優先されるのは当然じゃないか」

 

話を聞いていると、あの二人はどうやら兄妹ということになる。

 

妹は一科生で兄は補欠と蔑まれている二科生。

 

うーん・・・・・何かよくわからないけど、複雑だということは何となく伝わってきた。

 

それでも納得いかないのか、女子生徒は激しい口調で男子生徒に食って掛かり、男子生徒は女子生徒を何とか宥めようとしていた。

 

「そんな覇気のないことでどうしますか!勉学も体術もお兄様に勝てる者などおりませんし、魔法だって・・・・・」

 

「深雪!分かっているだろう?それは口にしても仕方のないことなんだ」

 

激しい口調で言われ、女子生徒はしゅんと項垂れた。

 

「・・・・・申し訳ございません」

 

「深雪・・・・・お前の気持ちは嬉しいよ。俺の代わりにお前が怒ってくれるから、俺はいつも救われている。・・・・・それに、お前が俺のことを考えているように俺もお前のことを思っているんだ」

 

頭をなでながら女子生徒の機嫌をとっていると、男子生徒の言葉を聞いた瞬間、何故か女子生徒は頬を赤らめた。

 

「そんな・・・・・お兄様・・・・・『想っている』だなんて」

 

 

・・・・・・・・・・。これって、何か色々と間違っているような・・・・・。

 

男子生徒は気づいてないようだが、この手に関して疎い僕でも女子生徒が何を考えているのか、よーく分かった。

 

 

うーん・・・・・。世の中には、色んな人達がいるんだな・・・・・。

 

僕はそんなことを思いながら、入学式が始まるまでの時間潰しのため取り敢えず校舎内を散策するため講堂前を後にしたのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

校舎内を散策すると決めた僕だったけど、この魔法大学附属第一高校は『エリート校』と呼ばれるだけあって、とにかく校内が広い。講堂もそうだったが、校舎や敷地を見ていると高校と言うより大学と言ってもいいくらい、そんな趣が感じられた。

 

広い敷地内を歩くのに疲れたので、僕は側にあったベンチに腰を掛け一息ついた。

 

「ハァ~・・・・・」

 

時間確認で端末をつけてみても、入学式までまだ時間はたっぷりあり、どうすることもできず、ただボーッと端末に映されたニュースを眺めていた。

 

すると、入学式の準備をしているのだろうか、校舎から在校生と思われる女子生徒のグループが出てきて、僕の前を通り過ぎて行った。

 

通り過ぎた瞬間、女子生徒たちの会話が僕の耳に届く。

 

ーー・・・・・ねぇ、あの子『ブルーム』よね?

 

ーーへぇ~、今年の新入生にはあんな子もいるのね~。何か中学生みたい。

 

ーーてか、あの子ちょっと可愛くない?何か女の子みたいじゃない?

 

女子生徒たちに悪意はないとはいえ、『中学生』さらには『女の子』と間違われ、僕にも一応、男としてのプライドってモノがある。けど、これは何度聞いても傷つくな・・・・・。

 

そう言えば、さっき講堂前で言い争っていた男子生徒、僕よりかなり背が高かったな・・・・・。

顔立ちもそれなりに整っていて、僕にもあれぐらい身長があればなぁ~・・・・・。

 

などと、何となく考えていると時間はあっという間に過ぎていき、ハッと端末を確認すると、時刻は入学式の20分前を示していた。

 

「あぁっ!しまった、時間が・・・・・!」

 

慌てた僕は端末の電源を急いで切って、ベンチから立ち上がった。端末をブレザーのポケットに仕舞おうとするが、慌ててた僕は手を滑らせ端末を地面に落としてしまった。

 

端末を拾おうと手を伸ばすと、先に手が伸び僕が落とした端末を拾った。

 

「新入生ですね?もう、開場の時間ですよ」

 

ふと、顔を上げ誰が拾ってくれたのか確認すると、そこにいたのは僕がよく知った顔が目に飛び込んできた。

 

「ま・・・・・じゃなかった、七草先輩?」

 

「いつものように『真由美お姉ちゃん』でいいわよ、アッくん。ハイ、これ」

 

差し出された端末を受けとると、僕は改めて目の前にいる人物を確認した。

 

目に付いたのは、左腕に付けられた幅広のブレスレット型のCAD。僕と同じエンブレムの付いた制服を着た女子生徒はふんわりと笑みを浮かべている。

 

この女子生徒は七草真由美。僕に魔法の使い方などを教えてくれている先生であり、僕のことを本当の弟のように想ってくれてて、僕も『真由美お姉ちゃん』と呼んでいる。もちろん、『真由美お姉ちゃん』と呼んでいるけど、本当の姉ではない。

 

真由美お姉ちゃんは、数字付き《ナンバーズ》と呼ばれる優れた魔法師の家系の一つ『七草家』の長女で、この魔法科高校の生徒会長を務めているスゴいヒトなんだ。

 

「アッくん、君は仮にも新入生なのよ?少しは緊張感というものを覚えた方が良いわよ?」

 

「へっ?・・・・・あぁっ!?す、すみません!・・・・・って、何で真由美お姉ちゃんがこんなトコにいるの?入学式の準備とかあるんじゃないの?」

 

真由美お姉ちゃんこそ、こんなところにいて大丈夫なの?と、僕が訊ねるとお姉ちゃんは笑顔でこう答えた。

 

「入学式に遅れそうな新入生を案内するのも、生徒会としての仕事の一つよ・・・・・って言うのは建前で、式までまだ少し時間があるから、ちょっと抜け出して可愛い弟の入学祝いをしに来たの」

 

可愛い弟って・・・・・真由美お姉ちゃん、こんなとこでそんなこと言わないでよ・・・・・。

 

真由美お姉ちゃんは魔法師としての腕は一流なのだが、その実、僕のことをかなり溺愛している。それは時に暴走してしまうほどで、それで僕はいつも振り回されているのだ。

 

「真由美お姉ちゃん、僕がここにいるのよく分かったね?」

 

「フフ、私はアッくんのお姉ちゃんよ?アッくんがいそうな場所くらい簡単に予想できるわ」

 

「ハハハ・・・・・真由美お姉ちゃんには叶わないなぁ・・・・・」

 

『アッくん』とは、真由美お姉ちゃんが僕のことを呼ぶときの愛称のようなものだ。

真由美お姉ちゃんは何かに気づいたのか乾いた笑いをしている僕の顔を覗き込むように突然、訊いてきた。

 

「で、どうしたの?何だか、元気がないようだけど・・・・・」

 

真由美お姉ちゃんには本当に叶わないなぁ、と内心で呟くと僕は今まで溜め込んでいた思いを溢した。

 

「・・・・・何だか、自信がなくて・・・・・僕なんかがこんなとこにいて良いのかなって・・・・・。しかも、一科生に選ばれるなんて・・・・・何かの間違いなんじゃ・・・・・って思うんだ」

 

「アッくん・・・・・。そうやって、自分のことを卑下に捉えてしまうの、アッくんの悪い癖よ?」

 

「真由美お姉ちゃん・・・・・でも・・・・・」

 

「アッくんがここにいるのは、アッくんの力が認められたからなのよ。大丈夫、アッくんは本当は私なんかよりもずっと強いんだから。・・・・・自信を持って良いのよ」

 

「それに、そうやっていつまでもウジウジしていると、一科生になれなかった人達にも失礼ってモンよ」

 

項垂れる僕に真由美お姉ちゃんは笑いかけながら僕の頭に手を置くと優しく撫でてくれた。

 

「大丈夫・・・・・何たって、アッくんは私の自慢の弟!なんだからね♪」

 

「真由美お姉ちゃん・・・・・ありがとう。何だか、自信が出てきたよ」

 

「クスッ、入学式まで時間がないわ。私もそろそろ戻るから、アッくんも遅れないようにね」

 

そう僕に言うと、遠くから真由美お姉ちゃんを探す声が聞こえてきた。

 

「会長~、そろそろ戻っていただかないと式の準備が~」

 

「僕、そろそろ行くね。・・・・・真由美お姉ちゃん、ありがとう!」

 

「じゃあ、また後でね。アッくん」

 

真由美お姉ちゃんのお陰で何だか心の内がスッキリした僕は、笑みを浮かべながら入学式が始まる講堂へと向かうのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

僕が講堂に付いた時には、時刻は式の開始時間まで残り10分を示し、早朝の静けさはどこへいったのか、多くの新入生でごった返していた。

 

席は半分以上埋まっていて、座席の指定はされていないため、さて、どこに座ろうかと迷っていると、ポンっと僕の肩を誰かが叩いた。

 

「あれ?もしかしてアンタ、先導アイチ?よね?」

 

「ふぇ?」

 

突然のことだったので、僕は気の抜けた声を上げてしまう。誰だろう?と思いながら後ろを振り返ってみると、そこにいたのは一組の女子生徒。

 

一人は髪をショートカットに切り揃えた活発そうな女子生徒で、もう一人は眼鏡をかけてて大人しそうな女子生徒だった。

 

声をかけたのはどうやら、活発そうな女子生徒の方である。

 

「あーっ!やっぱりそうだ!久し振り、アイチくん!」

 

「・・・・・えーっと、ひょっとして・・・・・千葉・・・・・エリカさん?ですか?」

 

小学校の頃、とある事情で訪れた道場での記憶を思い出しながら僕は名前を呟いた。エリカさんは、明るい笑顔で頷きながら、話し掛けてきた。

 

「そう!いや~、まさかこんな場所で会うとはね~!四年振りよね?」

 

「そう・・・・・ですね。僕がエリカさんトコの道場を辞めて以来ですから・・・・・。あの、エリカさん・・・・・そちらの方は?」

 

「え?あぁ、この子?さっき、案内板の前で知り合った子」

 

「あの・・・・・えと、柴田美月・・・・・です。よろしく、先導くん」

 

「先導アイチです。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「ねぇ、アイチくんがここにいるってことは、アイチくんも今日からこの学校に通うの?」

 

「・・・・・エリカさん、それ・・・・・制服見れば分かることかと思うんだけど・・・・・」

 

「いや~・・・・・だって、アイチくん見た目かなり年下に見えるし、ちょっと訊いてみただけ」

 

「エリカちゃん・・・・・それ、先導くんに対してかなり失礼だと思うよ?」

 

「アハハ・・・・・(傷つくなぁ)」

 

何ともまぁ、明るいというか、サバサバしているというか・・・・・。落ち込んでもいいものだろうかと思案する僕は時間を確認する。

 

入学式開始まで、残りわずか。

 

「うーん、こう混んでると中々空いてないなぁ・・・・・あっ、あそこ!三席空いてる!」

 

そう言ってエリカさんが見つけた場所は後ろの中央に位置する席。確かに三人分の空席があったが・・・・・あの場所周辺、なんだか二科生が集まっているみたいだ。

 

一科生はというと、前半分の席にほぼ座っているようで、前半分が一科生で後ろ半分が二科生と綺麗に分かれていた。

 

それを見た瞬間、僕はこの学校に根付く暗い闇が見えたような気がした。

 

 

前の席はほぼ満席の状態で、座れるのはエリカさんが見つけた場所だけだった。

 

まぁ、座る席なんて決まっている訳じゃないので、僕は二人の後に続くように空席の場所へと向かった。

 

「すみません~、ここ空いてますか?」

 

「どうぞ」

 

エリカさんは空席の隣に座る男子生徒すると、僕も美月さんも男子生徒にお礼を言いながら席につくと、僕は男子生徒を見てあることに気がついた。

 

あれ?あのひと・・・・・確か、今朝がた講堂前で言い争っていた兄妹のうちの『お兄様』って呼ばれてた男子生徒だよね?

 

僕がある事実に気づいているとこれで隣になったのも何かの縁とでも言いたげに、エリカさんは男子生徒に挨拶がてら自己紹介する。

 

「アタシ、千葉エリカって言うんだ。よろしく」

 

「司波達也だ。こちらこそ、よろしく」

 

エリカさんに続くように美月さんも自己紹介する。

 

「あの・・・・・私、柴田美月って言います。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしく」

 

エリカさん、美月さんと続いたので、僕も緊張しながら自己紹介した。

 

「僕は先導アイチです。アイチって呼んでください。その・・・・・よろしくお願いします」

 

「なら、俺も達也で良い。こちらこそよろしく、アイチ。・・・・・ところで、つかぬことを尋ねるが、その制服のエンブレムを見る限りだと君は一科生のようだが・・・・・」

 

あちゃ~・・・・・やっぱり尋ねてきたか・・・・・。うーん、どう答えれば良いものかと考えて、僕は苦笑しながら正直に答えた。

 

「アハハハ・・・・・その・・・・・出遅れたというか・・・・・朝早くに来たんだけど、時間を潰しすぎちゃって・・・・・それで・・・・・」

 

「話をまとめると、つまり君は遅刻をしたと、そう言うことでいいか?」

 

「ハイ、そうなります・・・・・」

 

まさか、ウジウジ悩んで、それで遅れたなんてとてもではないが人前では言えない。達也くんが何だか、学校の先生のように見えた気がしてきた。

 

「ふーん・・・・・てか、アイチくんって一科生だったんだ?何か意外」

 

「エリカちゃん・・・・・」

 

「・・・・・それは、本人を前にして言う発言ではないと思うのだが」

 

「アハハハ・・・・・」

エリカさん、言葉厳しすぎ!てか、達也くんの言う通りだと思うのですけど・・・・・。

 

年下発言に引き続いて、エリカさんの厳しい指摘に僕は内心、溜め息をついてしまう。

 

あっ、これで溜め息何回ついたのかな?

 

自分の容姿に自信を無くしそうになってしまいそうな僕は、ふと、顔を上げてみる。

 

達也くんに視線を向けると、僕の目に飛び込んできたのは、見つめ合う達也くんと美月さんの姿だった。

 

達也くん、ひょっとして美月さんのこと・・・・・などと考えながら眺めていたが、達也くんの視線が美月さんではなく、美月さんの眼鏡・・・・・つまり、瞳を見ていることに僕は気がついた。

 

何だろう?何か、よく分からないけど・・・・・達也くん、美月さんの瞳を警戒してる・・・・・?

 

達也くんの顔が若干ではあるが、警戒の意思を醸し出しているように見えて、僕は眉を潜める。

 

二十一世紀中頃から、視力の矯正治療が普及したため、美月さんのように眼鏡をかけた少女は大変珍しいのだ。わざわざ眼鏡をかけているのだとすると、よっぽどの事情があるのだと、僕は考えた。

 

美月さんが話さない以上、何も言えないし、達也くんが何で美月さんの瞳に警戒しているのか訊くことも出来ない。

 

美月さんも達也くんに見つめられて緊張したのか、困った様子を浮かべながら視線を外し始めていると、そこに割って入るかのようにエリカさんが声を上げた。

 

「でも面白い偶然、と言っても良いのかな?」

 

「何が?」

 

「だってさ、シバにシバタにチバでしょ?こうして並べてみると、何だか語呂合わせみたいじゃない。・・・・・アイチくんは違うけどさ」

 

あっ、確かに言われてみれば・・・・・

 

「・・・・・なるほど」

 

達也くんがエリカさんの苗字を聞いて、何やら思案しているみたいだけど、僕は敢えて気づいてないフリをした。

 

「確かに・・・・・」

 

「言われてみれば・・・・・」

 

これほど近い苗字が揃うなんて、こんな偶然もあるんだなと感心していると、時間はあっという間に経ち、入学式の開始時刻になり、講堂内に開始を示すアナウンスが流れた。

 

校長の長い挨拶が終わると、次に新入生の答辞になり、代表の女子生徒が壇上に姿を現した。

 

そして、その女子生徒を見た瞬間、僕は驚きのあまり息を飲んだ。

 

あれ、達也くんの妹さん・・・・・だよね?

新入生の総代だったんだ。

しかも、主席だなんて何だかすごいな~。

 

彼女のスピーチは見事なもので、堂々としていながらも慎ましく、しかも並外れたその美貌に新入生だけでなく上級生も釘付けだった。

 

時々、スピーチの中に『皆 等しく』や『魔法以外にも』『総合的』だのと、何だか気になる言葉が出てきたのだが、皆 彼女の容姿に夢中になって気づいてないようだった。

 

もしかして、達也くんのことを言ってたりするのかな?

 

そう考えて僕は達也くんが座っている席に視線を投じる。

達也くんも妹さんの際どい言葉に冷や汗をかいているように見えた。

 

それにしても・・・・・妹さん、綺麗だし主席だし明日から色々と大変だろうな~。

 

 

答辞が終わり、達也くんの妹さんが壇上から下がると、入学式はこれで終了。続いてIDカードの交付が行われた。

 

窓口でIDカードを受け取った僕は達也くんたちの元へ戻ると、達也くんたちもすでに受け取っていたようで、エリカさんがワクワクさせながら問い掛ける。

 

「アイチくん、何組?」

 

「え・・・・・っと、1-A・・・・・ですね」

 

「A組ですか!?それって、一科生の中でも優秀な成績を修めた人たちが集まるクラスじゃありませんか!」

 

「えぇ、うそ!?アイチくん、そんなに頭良かったの?」

 

「人は見かけによらないとは、まさにこのことだな」

 

「ハハハ・・・・・(何だか、誉められてる感じがしないな・・・・・)ちなみに、皆は何組になったの?」

 

「アタシたち、三人ともE組よ」

 

「あの・・・・・これからどうします?」

 

「うーん、そうね・・・・・取り敢えずホームルームにでも行ってみる?司波くんやアイチくんはどうするの?」

 

「悪い。妹と待ち合わせをしているんだ」

 

「僕も・・・・・ある人と待ち合わせをしているので・・・・・」

 

ある人とはもちろん、真由美お姉ちゃんのことだ。

 

「アイチくんの言う“ある人”てのが気になるとこだけど・・・・・司波くんの妹なら、さぞかし可愛いのでしょうね」

 

エリカさんたちは知らないだろうけど、可愛いってもんじゃない。絶世の美少女です。

 

心の中でひっそりとそう呟いた僕。

 

「あの・・・・・妹さんって、もしかして新入生総代の司波深雪さんですか?」

 

美月さんの質問に対し、達也くんは頷いて答えた。

 

「えっ、そうなの?じゃあ双子?」

 

「よく訊かれるけど双子ではないよ。俺が四月生まれで深雪は三月生まれなんだ」

 

双子ではなく、年子だったのか。

僕にも三歳年下の妹がいるが、年子でしかも同学年になるなんて今時珍しい。

 

「それにしてもよく分かったね。司波なんて珍しい苗字でもないのに」

 

「いやいや、珍しくないって」

 

「そうですね」

 

僕とエリカさんが苦笑混じりに言うのに対して、美月さんは自信なさげに笑みを浮かべる。

 

「面差しが似ていますから・・・・・」

 

「似てるかな?」

 

「そう言われてみれば、確かに・・・・・」

 

「うん・・・・・似てる似てる。顔立ちとかじゃなくて、雰囲気がどことなく似ているわね」

 

「顔立ちが別なら、結局は似てないってことだろ・・・・・」

 

「そうじゃなくってさ・・・・・うーん。何て言うのかな・・・・・」

 

「お二人のオーラは凛とした面差しがとてもよく似ています。さすが兄妹ですね」

 

それを聞いた瞬間、達也くんが纏っていた雰囲気が微かに一変する。

 

「・・・・・本当に目が良いんだね」

 

美月さんも目のことについて知られたくないことがあったのか、達也くんの言葉を聞いた途端、目を見開いて固まってしまう。

 

やっぱり、達也くん美月さんの目に警戒してる・・・・・。

 

そのことについて、僕は以前真由美お姉ちゃんから聞いた話を思い出し、確か、魔法などの頂上現象で観測される粒子“霊子《プシオン》”の光が見えすぎてしまう、霊子放射過敏症というのがあり、その症状を持つ人たちは美月さんみたいに特殊なレンズの眼鏡をかけているのだという。

 

達也くんは、恐らく眼鏡を見た瞬間から美月さんが霊子放射過敏症だと気づいたのだろう。

 

エリカさんはそのことにはまだ気づいていない様子で美月さんの眼鏡を覗き込んでいた。

 

「えっ?美月、眼鏡かけてるよ?」

 

達也くんの視線が一層鋭くなり、僕はどうしたらいいか分からず困り果てていると、

 

「お兄様!」

 

「お帰り、早かったね?」

 

人垣をかきわけて、達也くんに声をかけたのは、先の入学式で総代を務めていた達也くんの妹さんの司波深雪さんが現れた。

 

「こんにちは、また会いましたね。司波くん」

 

続いて人混みから抜け出して声をかけたのは何と真由美お姉ちゃんだった。

 

達也くんは真由美お姉ちゃんがいることを知ると、無言で頭を下げた。

 

何だか、真由美お姉ちゃんにも警戒してるみたいだけど・・・・・お姉ちゃん、達也くんに何かしたのかな?

 

ちなみにお姉ちゃんは、僕がいることを確認すると、誰にも気づかれないように、そっと僕に向かって微笑みながらウィンクして、それを見た僕は苦笑した。

 

「お兄様、その方たちは?」

 

視線を戻すと、深雪さんは僕たち・・・・・というか、エリカさんたちの存在に気づくと、達也くんに質問を投げ掛けていた。

 

「あぁ、彼女たちは同じクラスになる千葉エリカさんと柴田美月さんで、こっちにいるのは先導アイチだ。ちなみに、アイチはA組だそうだ」

 

「そうですか・・・・・A組ということは私とクラスが一緒になりますね。初めまして、同じA組の司波深雪と言います。よろしくね、先導くん」

 

「あっ、アイチで・・・・・大丈夫です!・・・・・えっと、せ・・・・・先導アイチです!こちらこそ・・・・・よろしくお願いします!」

 

間近で見ると、すごく綺麗なヒトだな~。

僕は思わず緊張していまい、自己紹介も舌を噛みそうになってしまった。

 

深雪さんは僕への自己紹介を終えると、すぐに達也くんと向き直ると、纏う雰囲気を一変させ、冷ややかな笑みを浮かべながら問い掛けた。

 

「で、早速、クラスメイトとデートですか?」

 

その時僕は、深雪さんの背後に絶対零度の吹雪のイメージが見えたような気がして、怖くなり少し後ずさった。口では微笑んでるが、目が笑ってない。

 

達也くんは、やれやれとした雰囲気で息をつくと、深雪さんに語りかけるように話した。

 

「そんなわけないだろ、深雪。それに、その言い方は二人に対して失礼だろう?」

 

達也くんの非難も混じったような言葉を聞くと深雪さんはハッとした表情を浮かべると、エリカさんと美月さんに向き直ってお淑やかな笑顔を作った。

 

「申し訳ありません・・・・・柴田さん、千葉さん。司波深雪です。お兄様同様、よろしくお願いします」

 

「柴田美月です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「よろしく。アタシのことはエリカで良いわ。貴女のことも深雪って呼ばせてもらっていい?」

 

「えぇ、どうぞ。苗字ではお兄様と区別がつきにくいですものね。アイチくんも、どうか名前で呼んでくださいね?」

 

「あっ、はい・・・・・!」

 

三人の少女が自己紹介を交わし終えると、三人は意気投合した様子で会話を楽しんだ。

 

すっかり打ち解けた様子の三人に、置いてきぼりを食らった僕と達也くんは二人で肩を竦めながら視線を交わした。

 

「深雪。生徒会の方々の用事は済んだのか?まだだったら適当に時間を潰しているが・・・・・」

 

「大丈夫ですよ。今日はご挨拶させていただいただけですから。・・・・・では深雪さん、詳しいお話はまた、日を改めて」

 

「しかし会長・・・・・それでは予定が・・・・・!」

 

講堂から立ち去ろうとする真由美お姉ちゃんに、後ろに控えていた一科生の男子生徒が呼び止める。がしかし、そんな男子生徒を真由美お姉ちゃんは目で制して深雪さんや達也くんに微笑みを向けた。

 

「予めお約束していたものではありませんから。別に予定があるなら、そちらを優先すべきでしょう?私としても、これから少し用事があるので」

 

なおも食い下がる男子生徒を目で制して、深雪さんや達也くんに微笑みを向けた。達也くんに関しては、どこか意味ありげな感じだったが、僕は気づかないフリをして気づかれないように静かに溜め息をついた。

 

「それでは深雪さん、今日はこれで。司波くんもいずれまた、ゆっくりと」

 

再度会釈して、真由美お姉ちゃんは講堂から立ち去っていった。その背後に続き、先程の男子生徒がついていくが、一瞬、男子生徒が振り返り、達也くんのことを舌打ちしながら睨んだのが見えた。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

達也くんたちに挨拶を交わして別れた僕は、講堂を後にして端末に映された校内の案内板を見ながら、ある場所へと足を運んでいた。

 

校舎の中に入り、階段を昇り廊下を歩いていた僕は、目的の場所の前に到着する。

 

目の前にあるのは、他の教室と同じ合板の引き戸。戸の中央にはプレートがあり、壁にはインターホンや数々のセキュリティ。

 

僕は約束した時間と今現在の時間を確認して、扉につけられたプレートの文字を見る。

 

「生徒会室・・・・・って、ここだよね?」

 

生徒会室に来るなんて、中学時代でも滅多になかったため僕は戸惑いながら扉を睨むこと数十秒。

 

よし・・・・・っ!

 

意を決して、僕は壁のインターホンを押した。

 

「いっ、1-Aの先導アイチです!」

 

『どうぞ』

 

セキュリティロックが解除された音を確認し、僕は引き戸を開ける。

 

「いらっしゃい、ようこそ生徒会室へ」

 

「し、失礼します!」

 

部屋の正面奥にある机から声をかけられ緊張を引きずったまま中へと入った。声の主は真由美お姉ちゃんだった。

 

「そんなに緊張することないわ。さっ、遠慮しないで中へどうぞ」

 

「ハッ、ハイ!」

 

室内を確認してみると、正面奥の机に座って手招きをしている真由美お姉ちゃんと、その横に三人ほどの女子生徒が立っていた。

 

「アッくん、だからそんなに緊張しなくても大丈夫よ。どうぞ、そこに掛けて。お昼にしましょう」

 

「そう言えば、真由美お姉ちゃん入学式の片付けって大丈夫なの?」

 

「ええ。あらかた片付いから。まだ、細かい事務作業が残ってるけどね」

 

真由美お姉ちゃんに会議用の長机に座るよう勧められた戸惑いながら僕は椅子に座った。

 

「そう言えば、アッくん今日お弁当は?」

 

「うん、ここにあるよ」

 

鞄の中から弁当箱を取り出し、机の上に置いた。

真由美お姉ちゃんたちも長机に移動すると、一人の女子生徒が自動配膳機《ダイニングサーバー》に向かう道すがら、お姉ちゃんにメニューをどれにするか尋ねる。

 

「うーん、そうね・・・・・じゃあ、今日は魚にしようかしら」

 

「わかりました」

 

「あっ、あの・・・・・!僕、手伝います!」

 

「アッくんは良いのよ。一応、お客様なのだし」

 

「でも・・・・・」

 

「これくらい、大丈夫ですから。先導くんはどうぞ座って待っていてください」

 

そこまで言われては仕方がない。僕はしぶしぶ椅子に腰を下ろした。

食事の配膳が終わると女子生徒たちもそれぞれの椅子へと座り席につくと、真由美お姉ちゃんが話を切り出した。

 

ちなみに席順はこうだ。ホスト席に真由美お姉ちゃん。その隣の僕の正面に三年生らしき女子生徒、その隣にボーイッシュに髪をショートカットにした三年生の女子生徒、その隣に小柄な二年生らしき女子生徒が座っていた。

 

「さて、食事の前に自己紹介をしましょうか。まず、私のすぐ隣に座っているのが会計の市原鈴音、通称リンちゃん」

 

「私のことをそう呼ぶのは会長だけです」

 

うーん、確かに市原先輩はどう見ても『リンちゃん』という雰囲気ではないような気がする。

本人もその呼び方に納得してないようだし。

 

「その隣に座っているのは、風紀委員長の渡辺摩利」

 

「よろしく」

 

「それから書記の中条あずさ、通称あーちゃん」

 

「会長・・・・・お願いですから下級生の前で『あーちゃん』は止めてください」

 

うん、中条先輩は『あーちゃん』と呼ばれても不思議じゃないな・・・・・。本人には可哀想だけど。

 

「あと、他にも生徒会役員は二人いるんだけど、二人とも用事で席を外しているの。取り敢えず、今いる生徒会役員はこれで全てよ」

 

「私は違うがな」

 

生徒会側の紹介が終わり、真由美お姉ちゃんは続いて僕の紹介をした。

 

「もう名前は知ってるかもしれないけど、改めて紹介するわ。1-Aの先導アイチくん、通称アッくん。私の自慢の『弟』よ」

 

「真由美お姉ちゃん、その言い方だと先輩たちに色々と誤解を生むから・・・・・」

 

「へぇ~、会長の弟さんですか~」

 

「真由美とは違って、随分と真面目そうだな」

 

「会長と先導くんはどういった関係なんですか?」

 

「・・・・・10年前、僕はその時のことをあまり覚えていないんですが、ある組織に誘拐されたらしくてその時に助けて貰ったのが『七草家』だったんです」

 

「ある組織に誘拐って・・・・・また物騒な話だな・・・・・」

 

「アッくん、生まれつきサイオン量が人より多いらしくて、その関係からいろんなところから狙われてたの。二度とそんなことがないようにって、私の父がアッくんの後見人をしているのよ。・・・・・ちなみにこの話は誰にも他言無用でお願いね」

 

「そうですか・・・・・。すみません、失礼なことを聞いてしまって」

 

「いえ、僕は気にしていませんので大丈夫です。真由美お姉ちゃんとは本当の姉弟ではないんですけど、姉弟のみたいに接してくれてるんです」

 

僕と真由美お姉ちゃんの関係について話したら、みんな俯いてしまい空気が重苦しくなってしまった。せっかくの食事がまずくなってしまう。

 

「そっ、それより、真由美お姉ちゃん!僕を呼び出した理由って何?」

 

「それはね・・・・・実はアッくんにお願いしたいことがあるの」

 

「お願い?」

 

お願いって何だろう?

 

「お願いっていうのは、アッくんに生徒会に入って欲しいってことなの」

 

「僕が・・・・・生徒会に?あの、真由美お姉ちゃん・・・・・確か生徒会役員に選ばれる人って、一科生の中でも最も成績優秀者が選ばれるんだよね?」

 

「そう。今年の新入生総代の司波深雪さん・・・・・って、アッくんもさっき会ったから知っていると思うけど、彼女にも生徒会に入るよう声をかけたところよ」

 

「うん、深雪さんは主席入学だから生徒会に選ばれるのは分かるけど・・・・・何で僕も?」

 

「だって、成績優秀者って点で言えばアッくんにも当てはまるの。何せ入試の成績、実技は深雪さんに惜しくも僅差で二位、筆記試験は七教科平均で95点で三位、合わせて総合二位という成績を叩き出しちゃってるのよ」

 

「・・・・・それ、本当なの?」

 

「本当よ。この件についてはまだ勧誘の段階だから、無理にとは言わないわ。どうかしら?」

 

「・・・・・真由美お姉ちゃん、それって別に今すぐ答えなくても大丈夫なんだよね?」

 

「ええ。けど、あんまり遅くても困るから、そうね・・・・・明後日の昼休み辺りに返事を貰えるとありがたいわ」

 

まるで何かを企んでいるような、イタズラっぽい笑顔を浮かべながら僕を見つめている。

この笑顔の時のお姉ちゃんに僕、弱いんだよね・・・・・。恐くて。

 

「続きはまた今度。それより、アッくんお腹空いたでしょ?お昼、いただきましょ」

 

拭えきれない不安を抱いたまま、僕はお弁当を食べた。

 

 

 




先導アイチ・・・・・魔力量は司波兄妹、それ以上かもしれない資質と才能を秘めている。けれど、本人は自信がなくて魔法科高校に入学したのも何かの間違いじゃないかと思うほど。

小中学時代は後ろ向きな性格故に常にいじめられていたが、櫂トシキとの出会いによって少しずつ前向きな性格になっていく。心優しく、誰にでも分け隔てなく接し、時には敵である存在も躊躇わず助けようとする。が、そのことを達也から危険視されており、「その優しさがいずれ命取りになるだろう」と忠告を受けてしまうが、それでも「例え相手が悪い人であっても命を簡単に奪っていいものではない」と自分の気持ちを貫き通そうとする強い信念を抱く。

真由美のことを実の姉のように慕っており、真由美もアイチを弟のように大事に思っており、互いに『アッくん』『真由美お姉ちゃん』と呼びあっている。
あまりにも高すぎる資質せいで、五歳の時に誘拐されそうになり、その時、十師族である七草家に救われた過去を持つ。一時期、千葉家の道場に通ってたことがあり、エリカや幹比古ともその時に知り合う。
剣の腕前はそこそこ。剣士としてであればエリカの足元にも及ばないが、修練を積み重ねて魔法師としての才能も合わせれば千葉家の次男をも凌ぐ歴代随一の剣士になる、かもしれない。

達也のことを魔法科高校で始めてできた友達と思っているが、背が高くて、妹から兄として尊敬されている達也のことを羨ましがる一面も持つ。
達也と深雪が四葉家であることは知らないが、二人が普通じゃないことは何となく気づいている様子。

CADは汎用型を使用しているが、魔力量があまりにも膨大なため普段、魔法を使う時は限り無く抑えている。
後に達也が造った試作剣型デバイス『ブラスターブレード』も使用する。

得意魔法は固有魔法『ピンポイント バースト』
この魔法は原作にも載っていないオリジナル魔法。
能力はブラスターブレードのスキルのままです。
ある一定エリア内の敵味方を識別し、武装だけを分解する。
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