俺はドラゴンである   作:nyasu

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おいおい、こんな所でか?満足できるんだろうなぁ

一匹の猫がゲージの中でフシャーと毛を逆立てていた。

黒歌の妹なのだが、力が足りなくて人間になれなくなってしまったのだ。

まぁ、その原因は黒歌なんだがな。

 

「ふむ、メスか」

「シャァァァァ」

「ぬわっー!?」

 

親父が持ち上げて腹を見たせいで顔に傷を作ってしまったが概ね平和である。

定期的に黒歌が力を抜いてしまうから人間にも変身できない。

しばらくは猫で過ごさないといけないのである。

その間に説得する魂胆なのだろう。

 

「野良猫なんだ。警戒心が強いぞ」

「怪我してるって言うから気にしてたのに、元気そうじゃないか」

「アーシアが治したんだ。不思議パワーでな」

 

なるほどーと納得する親父達。

俺の両親だが、猫から人になっても鶴の恩返し的な奴って解釈して納得しそう。

まぁそんな感じで和やかに過ごしていた。

どうしてこんな風にいられるかと言えば、日本神話勢の結界のおかげである。

俺達の気配がバレにくくなるらしいからな、スゴイ。

俺達の居場所を見つけられたら大したもんですよ、はっはっは。

そう思っていた頃が俺にもありました。

 

「イッセー、ピンポンなった」

「宅配便か?」

「我が出る」

 

インターホンに反応して、タッタッタと走っていくオーフィス。

まぁ、危ない奴よりオーフィスの方が危ないし大丈夫だろう。

そう思っていると、オーフィスが人を連れて戻ってきた。

 

「お、お前は!?」

「アルビオン、久しい」

「ふっ、昨日ぶりだな」

 

そこには、白龍皇ヴァーリが立っていた。

どうしてここが分かったんだ。

 

「どうして俺がここに来れたか不思議そうだな。発信機だ」

「な、なんだってー!?」

「魔術は警戒してもこう言う手は予想外だっただろ」

 

そう言って奴は白猫の方を指差す。

すると、白猫の耳から何かが飛び出し、それは大きくなって人になった。

イケメンが携帯片手に現れた。

 

「お前は!?」

「知ってるのか黒歌!?」

「奴は美猴、猿だニャ」

「猿って、いや確かに猿の妖怪だけどさぁ」

 

黒歌が言うには禍の団のテロリストらしい。

まさか、そんな方法で居場所を突き止められるとは油断した。

オーフィスも悔しそうな顔を作って言う。

 

「不覚。弱すぎて気づかなかった」

「おい、煽ってるのか?」

「事実だからしょうがない」

 

オーフィスはそう言うが、俺の見聞色すら掻い潜ったところを見るとコイツも妖怪仙人だ。

しかし、ここで争うことは出来ない。

両親がいるから余波で死んでしまう。

ならば、先手必勝だ。

 

「おい、デュエルしろよ」

「おいおい、こんな所でか?満足できるんだろうなぁ」

 

周囲の影響を考えれば、ヴァーリの言うとおりだ。

だからこそと、俺はヴァーリに向かってある一点を指差し移動することを促す。

 

「まさか逃げないよな」

「ふっ、良いだろう。受けて立つ」

「本気かよヴァーリ、クソなら一緒にやってやらぁ」

「我も、我もやる!」

 

そう言ってヴァーリは指定された場所に移動し、そして俺が戦う大勢なるのを待った。

俺とヴァーリの戦いが始まる。

 

 

 

序盤中盤、お互いに相手から優位になるように位置取りをして立ち回っていく。

オーフィスや美猴の存在により、多少の邪魔が入るが流れ弾に気をつければ問題ない。

物を壊しては、物を投げる始末。もう使えるものはなんでも使うそんな状況だ。

時たま、思い出したように地形を利用しては、相手から主導権を奪い取る。

 

終盤、周囲の景色を置き去りにするような速度で駆けていく。

そうだ、このまま行けば俺は勝てる。

あと一歩、そこまで来ていた。

だが、そう簡単にはいかない。

 

『Half Dimension!』

「何だと!?」

「甘いな、まだまだ甘い」

 

俺の身体がヴァーリによって半分になり、その小ささは進む距離すら衰えさせる。

そんな様子を奴は余裕そうに見て、笑みを作る。

ふっ、そこで油断するとはまだまだだな。

主導権を握れるのがお前だけだと、そう思うなよ。

 

『Boost!!Boost!!Boost!!』

「なっ、そんな奥の手があったのか!」

「奥の手とは最後まで取っておく物だ」

 

俺の速度が何度も加速する。

オーフィスも美猴もヴァーリすら置き去りにする。

有象無象すら、一切合切を置き去りにする、無限ダッシュである。

フハハハ、もう勝ったなこれは間違いない。

だが、勝利の確信も束の間であった。

 

「我、ドーン!」

「なっ、オーフィス裏切ったのか!」

「勝負の世界は残酷」

 

オーフィスの全体攻撃、それにより空から雷が落ちてくる。

俺も、ヴァーリも、みんな無差別な攻撃の的となり、身体を回転させる。

クソッ、このタイミングで介入されるとは予想外だった。

 

「勝ったな、ガハハ」

「それはどうかな?」

「あぁー!ズルい、バナナズルい!」

「勝負の世界は残酷なんだぜ、そしてオレっちのゴール!フゥゥゥゥゥ!」

 

しかし、盛者必衰の理。

一位であることに驕った世界最強の寿命は短い。

足元が疎かとなり、目の前の黄色い影に気づかなかった。

それは些細なミス、猿が捨てたバナナの皮に引っ掛かったのだ。

そして転ぶオーフィスを尻目に、美猴が余裕を持ってゴールインした。

 

「我、勝ちだった。あと少し、だった」

「交代だにゃオーフィス!駄々を捏ねるな」

「やー!我、もう一回する」

「マルオカートは四人までしか出来ないんだから、ルールを守るニャ!負けた人は交代だニャ!」

 

画面の向こうで祝福されるファンキーコングという名のゴリラが乗ったカートを恨めしそうに見ながらオーフィスは黒歌とコントローラーの取り合いを初めた。

まったく、俺が交代してやるから喧嘩するんじゃない。

 

「逃げるのか赤龍帝、俺達の決着は着いてないぞ」

「アイツらを放ってはおけないさ」

「待て赤龍帝!勝ち逃げは許さんぞ!赤龍帝、いやイッセー!俺はお前より順位が低いんだぞ!」

「ヴァーリ、お前との戦い。楽しかったぜ」

 

俺はそう言ってコントローラーを黒歌に渡した。

さぁ、次の戦いである。

負けたやつは俺と交代な。

もしくは、後ろで待機しているアーシアと交代だ。

 

「クソ、行くぞ美猴」

「フッ、筋斗雲で鍛えたレーシング技術に勝てるかな?」

「抜かせ!ゲームと現実の違いってやつを教えてやる!お前に勝てば俺が一番だ!」

 

この後メチャクチャ、マルオカートした。

 

 

 

マルオカート、スーパーマルオブラザーズというゲームが元になったレーシングゲームである。

ドライグがマリオカートじゃないのかとか言ってたが、ちょっと何を言ってるのか分からない。

あの後、戦えば周囲に影響が出るということでゲームを提案した。

最初は渋ったヴァーリだったが、逃げるのかと言えば簡単に食いついた。

フッ、チョロい男である。

 

「もう、ゲームは一日中やってはいけませんって言いましたよね」

「だがな、アーシア」

「晩御飯抜きにしますよ」

「すまない、俺が悪かった」

『いいのか相棒、それで良いのか』

 

ドライグはそう言うが、アーシアの手料理には勝てなかったよぉ。

 

「これが和食か」

「ラーメンしか食わしてなかったなぁ」

「ネギだニャ!オーフィス、横から入れるなんて恥を知れ!」

「貧弱貧弱、あぁ、何をする」

「好き嫌いするからニャ!」

 

食卓の上で、容赦ない戦いが始まる。

また喧嘩して、しょうがない奴らである。

ヴァーリはそんな俺達を見ながら晩御飯を食べ、布団を敷いて泊まっていった。

 

「何から何まで助かる」

「あぁ」

「明日になったら、ちゃんと戦ってくれよ」

「フッ、龍さえ屠る俺の一撃受けてみよ」

「お前に負けるなら悔いはないさ」

「負けちゃうのかよ」

「冗談だ」

 

俺達は互いの事を話した。

どちらからだったか、相手のことを知りたいと思っていたからか自然に話していた。

お互いがこれ以上ないほどの好敵手なんだと、そう感じていたからか。

悔いが残らないように、相手のことを知った上で戦いたかったのかもしれない。

上を見上げればキリがない。それくらい自分より強いやつはたくさんいる。

ただ、ソイツらよりもコイツにだけは負けたくないとそう思えたのだ。

 

「勝つのは俺だ」

「負けるのはお前さ」


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