俺はドラゴンである   作:nyasu

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詳しいな。まるで、死神博士だ

戦いは終わった。

虚しい勝利である。

英雄派という奴らは、言うほど強くなかったのだから悲しい。

 

「終わったな」

 

九重を抱いて、空間を出ようと歩き出した頃だった。

突如、ドライグの焦る声が聞こえた。

 

『避けろ、相棒!』

「ぐっ!?」

 

俺の身体に幾重もの線が走り、そこから出血が始まる。

まるでシャワーのように、俺は全身から血飛沫を上げた。

何が起きているのか、気配すら感じることの出来なかった攻撃に驚きを隠せない。

 

『霧だ!』

「そうか」

 

俺は飛び退くように後退し、その攻撃の正体に気付いた。

俺の今までいた場所に、薄く見えない程度の霧が存在していたのだ。

そうか、あの霧は空間系の神器。

触れていた箇所だけ、空間転移したことで削り取ったというところか。

防御力無視の攻撃であり、形は自在、そして気配も溶け込む性質上極めて気づきにくい。

厄介な相手である。

 

「相手の土俵で戦うなんて馬鹿なことだ。曹操はそれが分からなかった」

「なかなかやるな、見事なもんだ」

 

想像力の上を行かれる絡め手には流石に参った。

だが、逃げるだけなら難しくはないだろう。

 

「お前のそれは暗殺者の戦いだ」

「卑怯とでも?人は酒を飲ませたり毒を使ったり、人外と戦う時はいつだって卑怯だったさ」

「いいや卑怯とは言うまい。だが、アサシンはアサシンらしく、黙って戦えば良かったのさ」

 

会話をしようとしたのが間違いであった。

会話が出来るということは、空間が繋がっているということ。

そして、会話が出来るということは音がお互いに通じるということだ。

 

「ドライグ、倍加だ!」

『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Boost!!』

「ゴアァァァァァァァァ!」

 

倍加した声が空間に響き渡る。

まるで、地震のように空間を揺らす。

音を何倍にも倍加したそれは、音速の爆撃だ。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「へへっ、鼓膜は破れたな」

 

今の一撃で奴は怯んだことだろう。

その証拠に苦しむ声が聴こえるからだ。

俺の方も、ちとヤバイくらいには深手を負ったので退散させてもらう。

 

「待て、待て赤龍帝!」

『ヤバイのが来やがったな』

 

何かが、空間を抜け出すように現れる。

それは美しい女だった。

白く、そして血の通っていないまるで石像のような姿。

そんな女が自らの身体を抱きしめるように腕を回した状態で空間に現れる。

徐々に姿が顕になり、その背中に黒い二翼の翼が生えていることが分かった。

堕天使、そう判断する。

 

『よく見ろ相棒、アレは堕天使じゃない』

「なんだって!?」

 

だが、その判断は早計だった。

ゆっくりとだが、まだ続きと言わんばかりに下半身が現れる。

白く、細長く、終わらない下半身。

上半身が堕天使であり、下半身が蛇であるという異形だとすぐ分かった。

 

「がはッ!?」

『逃げるんだ相棒サマエルだ!奴の血は一滴でドラゴンを死に至らしめる。奴の息ですらダメージを負うぞ』

「早く言え」

 

存在しているだけで、対ドラゴン兵器なソイツは俺にダメージを与える。

やめろゲオルグ、ソイツは俺に効く。

 

「殺せ、サマエル!ソイツを殺せぇぇぇ!」

「アァァァァァァァァ!」

 

悲鳴のような音を上げてサマエルが身体をくねらせる。

ちょっと、ドラゴン的に気持ち悪いです。

 

「悪いが逃げさせてもらう、答えは聞いてない」

 

というか鼓膜が破れてるであろうゲオルグに答えを求めた所で意味はない。

俺は撤退を余儀なくされる。

触れただけで即死とかどうしろっていうんだよ、無理ゲーすぎるだろう。

 

『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Boost!!』

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

空間をぶち破り、急いで飛び込むことでなんとか逃げおおせた。

く、悔しい。ドラゴンなのに戦わずして撤退するなんて、屈辱である。

だが、ドラゴン属性が弱点なのは仕方ない。

 

『相性だから仕方ない。相手がサイコショッカーとか王宮のお触れを出して来たときくらいの絶望感だった』

「ドラゴンだけだからいけないのか、クソッタレ……」

 

もっと属性マシマシだったなら勝てたかもしれない。

死神と虚と滅却師くらいマシマシだったなら、勝てたかもしれない。

ジャンプの主人公はそういう設定マシマシなんだ。

俺も、設定マシマシになりたい。

マシマシ、属性、マシマシ、属性、マシ属……。

 

 

 

見事、ゲオルグの空間から逃げ出した俺はオーフィス達と合流することにした。

アーシア、回復を頼む。

 

「一体何が……」

「対ドラゴン兵器に遭遇した」

「サマエルには勝てなかったよ、我把握した」

『この染まってる感、俗物になったなぁ』

 

ゲオルグの野郎は今は右往左往している状態だろうが、いずれサマエルを差し向けてくることだろう。

オーフィスですら、プルプルしながら顔を左右に動かして無理無理とアピールしてくるんだからドラゴンに対して強すぎである。

 

「あんなのチートだろ」

『チートやチート!チーターや!』

「ドラゴンYOEEEEされる……」

 

まだ九重の母親を助けられてない。

ドラゴンは嘘付かない、絶対に絶対にだ。

だから、助けたいのだがどうしよう。

そんな風に頭を悩ませていたら、黒歌が首を傾げながら言った。

 

「なんで、アイツらはこの子の母親を拐ったのニャ?」

『確か、グレートレッドを呼び出すためじゃなかったか』

「そ、そうだったのか」

 

どうやって呼び出すとか分からんが、グレートレッドもサマエル相手じゃキツいんではないだろうか。

 

「我にいい考えがある。サマエルとグレートレッド戦わせる、静寂ゲット」

「どうやって?」

「…………リンゴで買収?」

 

それは無理だろう、とオーフィスの案を却下する。

どうやって戦えば、あんなの倒せるんだかまるで検討が付かないぞ。

 

『逆に考えるんだ、戦わなくていいやって』

「その発想はなかった」

『サマエルはハーデスが管理してるはず。日本神話勢からチクって抗議するべきそうするべき、強いやつも政治によって完封するのだ』

 

ハーデスか、アテナと戦ってる悪いやつだろ。

俺の知ってるところと違う冥界にいるんだろう。

地上でもっとも清らかな心の人間に憑依する悪いやつだ。

 

『確か、吸血鬼が幽世の聖杯を持っていたはずだ。それを使えば、パワーアップ出来る』

「マジでか」

『ドラゴンの弱点がサマエルならば、幽世の聖杯を手に入れてパワーアップするんだ。つまり、アルティミットシイングなドラゴンになるんだ究極生命体イッセーだ!』

「幽世の聖杯さえ手に入れれば、俺はサマエルを克服することが出来る」

 

このまま負けっぱなしは趣味ではない。

俺は、幽世の聖杯を手に入れることにした。

 

「ねぇ、母上は?」

「忘れていた、すまない」

 

取り敢えず、先に狐を助けなければならない。

案の定、目的を果たすためかどこからともなく九重の母親が現れた。

黒歌の見立てでは霊地を使って、スゴイパワーでグレートレッドを英雄派は呼び出すだろうとのことだ。

だが良くわからないが、英雄派とやらもゴタゴタしているのだろう。

普通に意識があるのか何やら反抗している姿が見える。

少し離れた所で戦闘している母上とやら、なんだか普通に平気そうである。

 

『洗脳とかそういうのが解除されたのだろう。思いの外、お前の大声は聞いていたようだ』

「よし、合流するぞ。なんか黒くて鎌持った奴らが集まってきてるからな」

『きっと死神だな。鎌とか古いな、時代はチェーンソーだろうに』

「詳しいな。まるで、死神博士だ」

 

そこからは割愛である。

倍加したブレス一発で、大体の奴らが吹っ飛んで終わりである。

ドラゴンブレスは伊達じゃない、サマエルじゃなければ楽勝であった。

死神の死体を回収して、天照のいるであろう神社にブン投げたら悲鳴と同時に皆既日食が起きた。

何か不味かったのかしばらく土下座することになるのだが、それは別の話である。

 

「猫じゃないんだから、獲物を寄越すんじゃないよ!引き篭もるぞ!」

「なにもかもハーデスって奴が悪いんだ」

「抗議するわ、遺憾の意だわ。ハーデス、お前覚えてろよ。ハーデス攻めとサマエル受けで、本出すわ」

 

何やら、天照が激おこでした、まる。

 

『作文か!』

 

 


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