「行け、アポカリプス」
「あぽかりぷす?」
「アポカリプスとはコイツの名前だ。ゲオルクと考えた」
『イタタタタ、やめろそれは俺に効く』
アポカリプスと命名されたそれが、重い体を持ち上げるようにしてゆっくりとだが動き出す。
まず目に見えたのはその二つの宝玉だ。
「グゲゲゲゲゲゲ」
「笑っているのか?」
『まさか、やはり来たぞ相棒!』
奴の腕についた宝玉から、白い飛竜と赤い飛竜が飛び出した。
大きくはない、小さいワイバーンのようなそれが大量に現れる。
何だアレは、宝玉から出てきたということはアイツの一部なのか?
『気を付けろ、アレに触れると半減させられる』
「なんだって!?じゃあアレは、白龍皇のちからを持っているってことか!」
『それだけじゃない恐らく、赤いのは俺達と同じ倍加の能力を持っているはずだ』
アポカリプスの回りを覆うように増えていく赤と白の飛竜。
まるで、繭に包むように奴の周囲を飛んでいる。
そして自滅するかのように、赤い飛竜は奴にぶつかる。
すると、奴の身体が一回り大きくなる。
『早く仕留めろ相棒、アイツは自身を強化していくつもりだ!』
「あぁ、喰らえ!エクス……カリバァァァァァ!」
集まった魔力が手に集中し、そして一振りと共に放たれる。
それは鋭い銀閃、光の奔流が手刀を振り下ろすと同時に奴に向かって飛んでいく。
飛ぶ斬撃、それはまるでレーザーのように大量の光となって奴の周囲を覆う飛竜を削りなが突き進む。
道中、邪魔する邪竜共も一緒に屠った。
『考えたな相棒、奴に近付かずに攻撃を加えたか』
「だが、無限にあの飛竜は出てくるぞ」
俺の手刀はそのまま直進し、奴に向かっては行ったが壁になるように存在する飛竜を削るだけで本体にダメージを与えるには至ってなかった。
結局、加速度的に増えていく不毛な攻撃であったと実感させられる。
「ドライグ、俺は近接攻撃しかないかもしれない」
『バフとデバフ、それに近接攻撃を封じた布陣。意外と強くね、アイツ』
攻めあぐねていると、今度はあちらから動き出す。
もう十分待ったと言わんばかりに奴の周囲にいた飛竜が此方に向かって飛んできた。
「ファァァァァァァァ!」
『一体、何が……』
アポカリプスの頭上に光の輪が浮かび上がる。
それは回転しながら徐々に広がり大きくなっていく。
まさに天使を象徴する、天使の輪のような物だ。
『むっ、魔力があの輪を中心に集まっていく。きっと、レーザーが来る!』
「遠距離攻撃か、厄介な」
『来るぞ!』
奴の口から赤い線が地平線を撫でるように放たれる。
そして、数秒遅れて端から衝撃が走ってくる。
薙ぎ払うように、赤い熱線によって邪竜と一緒に街が壊されたのだ。
「ぐおぉぉぉぉぉ!」
『ジブリで見た!巨神兵だこれ!』
腕を交差して衝撃に備えるが、俺の身体は耐えきれず簡単に空に舞う。
あんなの直撃したら、即死する気がするぜ。
「ど、どうにかして近づくことができれば」
『相性が悪すぎる。流石アンチモンスターなだけはあるぜ』
殴れば勝てるのだろうか。
だが、触れれば半減することは間違いない。
例えばダメージを半減されて攻撃を無効化される。
防御力を半減されたら、恐らく奴の一部に盛り込まれてるサマエルの力でやられるだろう。
馬鹿な俺でもそれくらい、アレがヤバイことくらい分かっている。
再びあの赤い熱線が放たれる。
クソ、範囲攻撃とか対応に苦戦する。
『後ろだ、相棒』
「何!?」
ドライグに言われて後ろを見る。
遥か後方、そこに白い飛竜が集まっていた。
仲間に向かって撃ったのか?いや、待て白龍皇ということはまさか。
「フハハハ、僕のアポカリプスは最強なんだ!」
「ぐあぁぁぁぁぁ!?」
赤い熱線が背後から迫ってくる。
それは、白い飛竜の反射を用いた攻撃のせいだ。
時間差で意識の外から来る攻撃に、俺は避けることが出来ずくらってしまう。
『相棒ォォォォ!』
「だ、大丈夫だ。なんとか、生きてる。倍加だ」
『Boost!!Boost!!Boost!!』
生命力を倍加することで、一気に傷を治癒する。
このままではジリ貧、奴は遠距離攻撃ばかりで戦いにくい。
いや、待て!俺には距離を無視することが出来るじゃないか!
「喰らえ、必殺!」
『Penetrate!』
「スターダストレボリューション!グレートホーン!オーロラエクスキューション!スカーレットニードル!ロイヤルデモンローズ!エクスカリバー!ギャラクシアンエクスプロージョン!廬山百龍覇!積尸気冥界波!ライトニングプラズマ!天魔降伏!厳霊乃焔!」
早速覚えたての必殺技シリーズを奴にぶち込む。
殆ど半減する能力も距離も透過することで直接ダメージを与えたのだ。
奴の身体は半壊し、バラバラな状態になる。
その状態でも生きているのだから、驚くべき生命力だ。
きっと、邪竜でも混じっているのだろう。
だが、それすらブラックホールのような穴、積尸気冥界波によって発生した謎空間に吸い込まれることで倒せるだろう。
冥界に繋がる攻撃なため、俺の知ってる冥界とは違う所に吸い込んでしまうのだ。
『考えたな、相手の能力を無視して戦闘処理を行った訳だ。これなら、攻撃は通る』
「見ろ、奴の身体半分が冥界に飲まれようとしている。勝ったな」
『待て、それはフラグじゃないか!?』
そんなバカな、あの技の中でも積尸気冥界波はよく分からない空間に落とす即死技だ。
これで死なないやつなどいるはずがない、不死ですら出口のないどこかに飛ばすという方法で殺せるんだからな。
「そんな、アポカリプスが負けるものか!何してるんだ、アポカリプス!」
「ググググ……レオ、ナルド……」
「しゃ、喋った?」
俺達がアポカリプスにトドメをさせたか見守っていると、何やらレオナルドが肉片となったアポカリプスと話していた。
いかん、奴がアポカリプスを復活させるモンスターを召喚するかもしれない。
いや、作り出すという方が正しいか。
アイツを仕留めなければ。
「ウラギ……ッタナ、キサマラ!」
「う、うわ!?た、助けてゲオりゅぎぃ……」
アポカリプスの腕が釣り上げられたばかりの魚のように暴れだし、空を飛んでレオナルドを掴み上げる。
そしてクチュと潰れる音と共に、レオナルドを潰した。
なにやら、様子がおかしいことに俺は驚く。
しかも、アイツ喋ってた気がする。
よく見れば、アポカリプスの腕に何やら見慣れない球が付いている。
どういうことだ、アレが何かしたのか。
「ムダダ、ゲオルク」
「うわぁ、うわぁぁぁぁ!」
別の場所で、空間を瞬間移動しながら逃げ惑う男の姿が見えた。
間違いない、アレはゲオルクだった。
そのゲオルクを二つの球が追いかける。
一つはゲオルクが逃げると自分の回りにゲオルクを移動させる球。
もう一つは、触れたものを抉るように破壊する球だ。
ゲオルクが霧に逃げても呼び戻され、そして球が軌跡を作りながら破壊していく。
地面を転げ回るゲオルク、それを狙って地面を消滅させるように消していく球。
ついには逃げ切れず、ゲオルクが悲鳴を上げて飲み込まれた。
何だあれは、何なんだアレは……。
アポカリプスはレオナルドとゲオルクを始末すると、それを自分の口の中に放り込む。
そのバラバラになっていた身体は謎の力で集まり、ミンチの塊になっていく。
何が、何が起きてるんだ……。
アポカリプスだった肉塊は発光する。
眩しく、遠目には白い繭にしか見えない。
それほどの瞬き、それと同時に俺は知っている気配を感じた。
だが、しかし、いや、なぜこの気配なのか。
だって、この気配の持ち主は死んだはずだからだ。
「クハハハ、幽世の聖杯がこのような形で使えるなんてな。命を運ぶと書いて運命、良く言ったものだ」
「その姿は……」
そこには人程度に小さくなったアポカリプスがいた。
ただ違うのは、その身体の胸の部分に人の上半身が付いていることだ。
その顔を、俺は覚えている。
「生きてたんか、曹操!」
「生きてた?違うな、俺は魂から幽世の聖杯使って復活したのだ!俺の身体すら、モンスターに取り込ませたのが運の尽きだ。我が魂は不滅であるとここに証明された」
『なんだアイツ、デビモンか何かかよ』
そこには、アポカリプスの胸から生えた状態でドヤ顔する曹操がいた。