現れた曹操は自分の身体を確認するように、腕を動かしていたりする。
なるほど、つまり身体を奪ったばかりのギニュー隊長と同じである。
ドラグ・ソボールで見た、間違いない。
「うおぉぉぉぉぉ!」
『Half Dimension!』
先に攻撃してやろうと動き出した瞬間、俺の目の前に曹操が現れる。
距離に対しての半減か!
「敵の力を奪い、上乗せだけが能ではないのか」
「ぐっ!」
『Half Dimension!』
「そして、半減の他に吸収することも出来るのか」
俺の身体から力が抜ける、ダメだ俺と奴の間に差が出来る。
まだ、これで試している段階だというのだから長期戦は不利になる。
「急がねば」
『Boost!!Boost!!Boost!!』
「ほぉ、ならば此方も」
『Boost!!Boost!!Boost!!』
俺の倍加に合わせるように、曹操もスペックを倍加していく。
同じ倍加なら、素の力での勝負になる。
だが、そこに対して半減と吸収の力によって差が生まれてしまう。
『Half Dimension!』
「クソッたれ!」
「その程度か赤龍帝、神滅具を三つ揃えた俺はまさに無敵だ!まぁ、レプリカではあるがそれでも白と赤の力は有能だぞ」
「っざけんじゃねぇ!うおぉぉぉぉぉ!」
力が足りないなら、もっと増すしかない。
俺が出来ることは倍加だけだ。
だったら、倍加し続ければいい。
それしか、俺にはないんだからな。
『Boost!!Boost!!Boost!!』
「フン、それは見飽きたぞ赤龍帝。何度やっても同じことだ」
『Boost!!Boost!!Boost!!』
「だからどうした、俺は俺の出来ることをやり続けるだけだ!」
『Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!』
俺の倍加に、曹操の顔が歪む。
だが、それはすぐに無くなり笑みへと変わる。
「倍加すればするだけ、半減し吸収するだけだ!」
『Half Dimension!Half Dimension!Half Dimension!』
「もっとだ、ドライグ!もっと、力を寄越せぇぇぇぇ!」
『Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!』
「無駄だと、無駄だと言っている!」
あの時と一緒である。
抗えないほどの理不尽が、俺の前に立ち塞がるのだ。
許せるものか、納得できるものか。
理不尽に踏み躙られるあの屈辱を、忘れられるものか。
そうだった、そうだったなドライグ。
「忘れていたよ曹操、俺はあの時思ったんだ!何もかも差し出してやる!殴れるなら何もかもってな!」
「無駄な足掻きだ、こっちには黄昏の聖槍だって――」
「無駄かどうかは、やってみなきゃ分かんねぇんだよォォォォ!」
『Boost!!Boost!!Boost!!Boos『Boos『Boos『Boo『Boo『Boo『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Boost!!』
俺の持ってる物、全てを倍加するんだ。
何もかも、今ある全てを出し切る。
概念にだって倍加できたんだ。
だったら、俺という存在に、俺という強さに倍加出来るはずだ!
俺の全身が真っ赤に燃える、アイツを殴れと轟き叫ぶ。
「これが、俺の、俺の全力全開だぁぁぁぁ!」
「忘れていたのか、レプリカとは言え此方には反射があるということを」
「なっ!?」
曹操の背後から、大量の白い飛竜が現れ壁となる。
拳と、バリアのように見える反射の力が拮抗する。
「くっ、所詮レプリカか」
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
腕が燃える、腕から鱗が落ちていく、人のような腕になり、そして表面が焦げて剥がれていく。
だが、その結果反射の壁は崩壊する。
骨が見え、手首から先が完全になくなった。
だが、曹操に攻撃が届きその肉体に拳が当たる。
二の腕、肩、そして胸にまで到達する。
だが、奴の身体も半壊していく。
完全に片腕は無くなった、だがそれは俺の攻撃がそのまま返ってきたからに他ならない。
それでも、相打ちまでには持ち込めた。
行ける、まだ片腕が残っている。
このままなら、勝つことが出来るはずだ。
「ガフッ……」
「ハァハァ……賭けだったが、俺は勝った」
「うぅ……あっ、あぁ?」
胸を貫く輝く槍が見えた。
何だこれは、赤い、これは……血?
誰の血だ、俺の血?
貫かれた、貫かれた、誰に貫かれた?
「あぁぁぁ……あぁぁぁぁぁぁ!」
「居士宝。光輝く人型の分身を生みだし、従える者を作り出す……弱体化は免れないが、聖杯の調整を視野に考えれば問題はない」
物言わぬ躯となった曹操だった物が俺に伸し掛る。
だが、これは抜け殻だ。
本物は、光る人の姿となった状態で俺を貫いた曹操だ。
「貴様はそんなにも……そんなにも勝ちたいか!そうまでして英雄になりたいか!この俺が……たったひとつ懐いた祈りさえ、 踏みにじって……貴様はッ、何一つ恥じることもないのか!」
「いつだって化物を殺すのは英雄だ。その過程は、問題ではない」
「赦さん……断じて貴様を赦さんッ!名利に憑かれ、俺の誇りを貶めた亡者め……その夢を我が血で穢すがいい! 聖槍に呪いあれ! その願望に災いあれ! いつか地獄の釜に落ちながら、この兵藤一誠の怒りを思い出せぇぇぇぇ!」
身体が燃え尽きていく、失った腕から灰になって消えていく。
俺の意識は、そこで、暗転した。
真っ暗闇の中、俺は全裸で宙に浮いていた。
なんだここ。
『おぉ、イッセーよ死んでしまうとは情けない』
「こ、ここは……」
声がした、厳かなどこか懐かしい声だ。
「お前は、ここはいったい」
『ここは何もがあり、何もない。人はここをあらゆる呼び名で呼ぶ。私はおまえ達が夢幻と呼ぶ存在』
『あるいは世界、あるいは宇宙、あるいは龍神』
『あるいは全、あるいは一』
『そして』
『私はお前だ』
ドラゴンがいた。
赤いドラゴンが、俺の目の前に浮いていた。
黒と赤しか存在しない空間、そして眼の前にいるのはドライグではない赤いドラゴン。
「お前は、俺……」
『私は夢を通じて全ての者と繋がっている。そして、兵藤一誠とそれに宿りし赤き竜の運命すら繋がることで既知である。私は私の可能性を認知し、そして新たな私を獲得した。そして、これは定められし邂逅である』
「お前は何を言ってるんだ?」
すまねぇ、ドラゴン語はさっぱりなんだ。
そんな困惑する俺の元に見知った人影が目に入った。
『来たか、無限の龍神』
「イッセー、迎えに来た」
「オーフィス」
俺はオーフィスの声に釣られて動こうとする。
だが、身体は動かない。
そもそも、オーフィスの姿が普段と違って小さくなっている。
「グレートレッド、イッセー、寄越す」
『返してほしくば、我が問に答えよ』
返す?待て、そもそも俺はここに……俺はどういう状態なんだ?
「魂、返す」
『問おう、それは静寂よりも求める物か』
「我……静寂か一誠……」
見下ろすように、困惑するオーフィスを見る。
あぁ、ようやく理解した。
どうしてオーフィスが俺の方を向いて、グレートレッドと呼ぶのか。
どうして俺は小さくなったようにオーフィスが見えるのか。
俺自身がグレートレッドになっているのだ。
「一誠がいい……独りは、もう嫌だ」
『そうか、そうだな。独りぼっちは寂しいものな』
オーフィスが、ゆっくりと『俺/グレートレッド』に近づく。
『グレートレッド/俺』に触れ、身体が熱くなる。
そして、気付けば俺はオーフィスと手を握ってグレートレッドの前にいた。
「おかえり、イッセー」
「ただいま、オーフィス」
手を握った状態で、俺は夢幻を見る。
「ありがとうグレートレッド、俺はまた歩き出せる」
『答えを得たか。ならば、我が願いを叶えよ。あの男を倒せ』
「曹操のことを言ってるのか?」
『あやつの使っていた肉体は、不愉快だ。特に名前が、な。等価交換だ、良いな』
そう言って、グレートレッドが身体を捻らせ、どこかに飛んでいく。
そうか、あいつアポカリュプスドラゴンって名前だもんな。
名前、被ってるの嫌だったんだな。
「イッセー、リベンジ?」
「あぁ、そうだな」
あの場所に戻らねばならない。
無限と夢幻により復活したこの身体で、俺は叶えてみせる。
「取り敢えず、一発ぶん殴る」
無限が見ている、夢幻を見ている。だからもう俯かない。
ここからだ、ここからリベンジする。
一から、いやゼロから始めるんだ!
『いや、それパク――』
「ドライグ、いたのかワレェ!?」