俺はドラゴンである   作:nyasu

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俺はドラゴンである、名前はまだない

オーフィスと俺が元の場所に戻る。

次元の狭間を抜けて俺が見たのは、滅びそうな冥界だった。

吸血鬼はどこに行ったと思ったら、何やら元吸血鬼の邪竜達がいる。

アレは、魔王か?なんか滅びの魔力って奴が人形になってるけど。

 

「曹操は英雄としての最終局面へと至り、それを越えようとしている」

「最終局面?」

「英雄から、神へと至る。そして神よりも優れた存在へとなろうとしている。神殺し、それが曹操の目的」

 

オーフィスから聞いた話では、俺が消えてから数ヶ月が経過していたらしい。

その間、奴は邪竜達を使って各神話に喧嘩を売ったそうだ。

でもって、それにキレた神を片っ端から殺して回ったみたいである。

そんな簡単に神って殺せるのかと思ったら、俺とサマエルみたいに相性的な問題があるらしい。

それだけじゃなく、アイツは神滅具を集めて神属性対策を施したようだ。

 

『なるほど、今は神と同等の実力者か雑魚が生き残っているということか』

「アレは」

 

背中に十二翼の羽根、鎧は白銀と黒を基調としており、形も有機的で流麗なフォルムをしている。

見間違えるはずがない、アレはヴァーリだ。

 

「末世とも言えるこの世界で、生き残った者達は曹操と戦っている。その筆頭がヴァーリ」

「あの姿は」

「ディアボロス・ドラゴン・ルシファー、ルシファーとアルビオンの力が合わさり最強に見える」

『いや強いだろ、というかこういう展開になるのか』

 

冥界の地上では邪竜と見たことないドラゴン達が戦っている。

神器使いだと思われる奴らが、悪魔や天使に堕天使どもと戦っている。

他にも教会の人間だとか、他の神話勢力らしき奴らもいた。

 

『昔を思い出す。あの時もそうだった』

「あの時って?」

『幼馴染と姫様、どちらを取るべきか俺とアルビオンは争っていた。あの頃は、俺達も若かった』

「なんかわからないが、二天龍が争っていた時と一緒なのか」

 

世界中の全てがここに集まっている。

禍の団か、他の勢力か、勝ったやつが正義って奴だな。

 

「じゃあ、行くわ」

「イッセー」

「大丈夫だ、なんか分かる」

 

オーフィスが何かしたんだろう。

俺の頭の中で呪文が浮かんでいた。

山が消滅し、大地が割れ、邪竜達が消し炭となる。

その中心に向けて、俺は足を進める。

 

「ハッ、いいぞ!いいぞ、白龍皇!」

「くッ!」

「楽しい時間も終わりか。お前も、あの男のように葬ってくれよう!」

「舐めるなよ、曹操!生身でもテメェくらい、殺せるぞ」

 

ヴァーリが力を維持できなくなって、元の姿になる。

曹操はそのヴァーリにゆっくりと近づき、そして俺の存在に気付いた。

 

「お前、兵藤一誠か?」

「どういう意味だ」

「本当に君が復活したのなら失望した。今の君からは、何も感じない」

 

曹操は呆れたように、俺から視線を反らしてヴァーリを見た。

もう俺の存在は無視していた。

気に食わねぇなぁ、だがここにはヴァーリがいる。

場所を変えるか。

 

「場所を変えようぜ、ここで殴りたくねぇ」

「それは無意味な提案だ。戦うことが出来るものが口に出来る言葉だ」

 

俺は地面を数度蹴り、奴の顔を掴んで空を飛ぶ。

どこもかしこも何かしらいて、邪魔で仕方ねぇ。

あのラピュタみたいな飛んでる所でいいか。

 

「な……に……!?」

「ふぅ、始めようぜ曹操、一瞬で終わらせてやる」

 

俺は軽く拳を握り構えを取る。

すると、曹操はやっと構えた。

虚空から槍が具現化し、曹操の手に槍が握られた。

曹操は顎に手をやり、納得したように頷いた。

 

「理解したよ兵藤一誠。どうして何も感じないのか、魔力や気を龍神の力に変換したんだろう。神力とでも言おうか、それなら半減は効きにくい。確かに、君は小細工などしない殴り合いが一番得意だし合理的だ。だが無意味だということを教えてやろう」

 

曹操が俺の真横に現れ、槍を横薙ぎに振るう。

それを俺は片手で弾くと、槍の軌跡によって地面が裂けた。

 

「よく躱した。だが驚いているのだろう、槍の一撃で今の俺は地面を真っ二つに出来る。正直自分でも驚いている、あの敗北に君との戦いが俺をここまでにした」

 

何やら御託を並べてるが、ようは殴れば良いんだろう。

取り敢えず、左手で止めて右手で殴る。

右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る、右で殴る。

 

「馬鹿な!?俺の一撃を止めただと」

「どうした、左手で止めただけだ。怖いか、自分の想像できないことが起きることが」

「勝ち誇ったことを言うな!瞬間的に、俺の力を上回っただけだ。見せてやる、神すら屠る一撃を!」

 

曹操が、何やら詠唱を始める。

 

「槍よ、神を射貫く真なる聖槍よ!我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの間を抉れ!汝よ、遺志を語りて、輝きと化せ!」

 

槍が、光を放ち始める。

黄金の光、それが槍一本から出ていた。

うわ眩しいし、なんか熱い、太陽みたいで鬱陶しい。

 

「英雄や神すら超える、禁手すら上回る覇輝!時空が歪むほどの神殺しの力だ、お前ごときでは理解も出来まい!自らが龍神となったことを後悔するが良い!」

「気が付いてねぇ見てぇだな、俺は龍神になってない。これは……素の力だ」

 

拳を振るうと、鬱陶しいほどの光が消え失せる。

同時に、微妙に纏わり付く圧力も消滅した。

曹操が、地面を抉りながらぶっ飛ばされた。

 

「ぐっ……」

「立てよ、軽いジャブだぜ」

「俺を、俺に膝を付けさせて嬉しいか!舐めるなよ、トカゲ風情が!」

 

槍が爆発するように輝き、宙に浮いた。

何だあれ、どうなってるんだ。

驚くのも束の間、槍が曹操に突き刺さった。

まさか、自害したのか?自害したのかランサー!?

 

「そうか、許せないか聖槍。私が人間ごときに遅れを取ることが」

 

曹操の身体が内側から弾けて肉の壁になる。

そしてそれが膨張し、全身タイツを身に纏ったような白い姿になった。

そして、頭部からワカメのような髪が生え始め、額に十字の傷が出来上がった。

 

「ジョ、ジョニー・デップ!?」

『ふざけてる場合かァ!いや、これが素だった!』

 

気付けば俺は磔にされていた。

空中に磔なんて、意味がわからない状況だ。

ラッパの音が聞こえた、四人の人影、邪竜が群がり、身体中に穴が空いた。

 

「確かに貴様は、神すら超えた!認めよう、龍神に比肩し超越者となったとな!だが、魔王サーゼクス程度がなんだというのだ!お前は私という超越者の手によって死を迎える!超越者などという存在と、私は決別する!神すら、超越者すら、私の足元には及ばない。私こそが、真なる絶対者だ!終わりだ、兵藤一誠!」

「……終わりだと?」

 

動けなくして、騒音を鳴らして、チクチク分身で攻撃して、邪竜を体当りさせて、ちょっと穴をあけたこんな程度でか。

 

「この程度かよ、フン!」

 

ちょっと力んだだけで、拘束する全ての力が破壊させた。

俺と曹操、それ以外が一気に吹き飛ぶ。

ただ、俺と曹操が宙にいるだけの光景が出来上がった。

 

「もうやめにしようぜ、曹操。難しい話は懲り懲りだ。見せてやるよ、最初で最後の龍神化だ」

 

俺は、詠唱を初めた。

それは頭に浮かぶ呪文。

制御できるはずもなく、きっとこれを使えば俺の全てがなくなってしまうだろう。

生き残れば儲けもんか、俺の存在一つで世界を救えるとかカッコイイなおい。

まぁ、生きても死んでもアーシアには怒られちまうがな。

 

「我に宿りし紅蓮の赤龍よ、覇から醒めよ!我が宿りし真紅の天龍よ、王と成り啼け!濡羽色の無限の神よ!赫赫たる夢幻の神よ!際涯を超越する我らが禁を見届けよ!汝、燦爛のごとく我らが燚にて紊れ舞え!」

『ドラゴンインフィニティドライブ!』

 

その姿は、血のように赤かった。

赤く、少し黒く、赤褐色の深紅。

一匹のドラゴンがそこにはいた。

それは神というには、余りにも荒々しかった。自由で、孤高で、強欲で、そして最強であった。

それはまさに、ドラゴンであった。

 

「な、なんだその姿は!?」

「最初で最後の龍神化ってのは……」

 

驚く曹操に、俺は告げる。

どうして、この姿が最初で最後なのか。

そして、この姿が何なのか。

 

「俺自身が、ドラゴンになることだ」

 

固まる曹操を前に、俺は解説してやる。

ドライグと同化でもしたのか、アイツの悪い癖が移っちまった。

だが、まぁ気分はいいな。

強くなるためには、解説してやることも必要だって教わったしな。

 

「神にも届くほど力であるが故に存在の崩壊を招く、最後ってのはそういう意味だ」

「そんなはずがあるか、トカゲ如きが私を超えるなどあり得るものか!そんな事が――」

「――燚焱の炎火」

 

世界が赫に染まった。

 

 

 

ポロポロと身体が散っていく。

ドラゴンの肉体が砕けていき、人間の身体が出てくる。

今にも膝を着きそうなほどに消耗しており、やっぱ生きるのは無理そうだ。

 

「イッセーさん!」

「アーシアか?」

 

これは何だ、勉強すれば分かるのか?

誰かに教われば、理解できるのか?

女って奴は簡単に言葉にする。

まるで……

 

「そうか」

 

アーシアが俺に手を伸ばし、俺も続くように手を伸ばす。

だが、少し遅かったのか手すら崩れていく。

存在の崩壊が早かったようだ。

 

「これが、そうか――」

 

この掌にあるものが……。

 

「――愛か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――男の話をしよう。

運命を狂わされ、運命を狂わす力を与えられた。

予定調和なまでに運命を狂わせ。幾人もの死と生を見て、己の存在を苛み、いつしか道化に成り下がる。

しかし狂おしいほどに狂えず、男は一緒に歩む狂人は憐む。

お前のせいだ、お前のおかげだ、と奴らは言う。

物語が始まるまで、それは幾度と繰り返される。

物語が始まったその先に、在るのは変化か繰り返しか。

次の者すら狂わせてしまうのか、それとも。

 

「ここは、また知らない場所だ」

「よぉ、俺」

「グレートレッドなのか?」

「バカ、違うっての。俺だよ、俺」

 

俺の好きなやつみたいに言うなら、下らない物語だった。

俺に言わせれば強いやつをぶっ飛ばして自己犠牲になるのがハッピーエンドだと思ってるのはアメリカ人だけだ。

勿論、それは独断と偏見に満ち溢れているだろうけどな。

 

「じゃあ誰なんだ」

「誰だと思う?」

「知らん」

「そうか、そうだな。お前はそういうやつだった」

 

だから、このままなんて我慢出来ない。

十分だ、俺は憧れて、後悔して、それでも満足することが出来たんだ。

それは全部、お前のおかげだ。

 

「――男の話をしよう。狂わされた運命は、男の人生を食い潰した。悪魔と出会い、聖女と出会い、騎士と出会い、猫又と出会い、吸血鬼と出会う。色欲に溺れ、己の願望を貫き、それだけで世界を救うはずだった人生だ。ただ龍に憧れ、口車に乗せられ、聖女と出会い、己の願望を貫き、自分すら犠牲に世界を救った。聖女を悲しませ、物語を紡げなくなった男の話だ」

「何言ってんだお前」

「やっぱダメか?アレが三流なら、俺は何流になるんだろうな。取り敢えず、俺に作家の才能はないみたいだ。だがな、俺だって意地がある。最後まで物語を紡ごうって気はあるんだ。よくエタるけど、完結させたいみたいな奴さ

 

だから、下らない自己犠牲の物語の続きを紡ごうと思う。

 

「まさかお前」

「俺の終わり方は俺が決める。満足だったぜ、兵藤一誠。そうだ俺は本当に、美しいものを見た。運命を狂わされても救われる命はあり、狂わされても変わらない答えがあった。ありがとう、兵藤一誠。後悔し続ける愚かな男はお前によって救われた」

 

意識が浮上する、いや混濁しているのか。

自分の居場所がどこかも分からず意味をなさなくなっていく。

ただ、なんだか喪失感のような物が俺を包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付けば、俺は知らない天井を見ていた。

 

「ここは……病院か?」

 

アルコール消毒のような匂い、清潔な布、やっぱりここは病院だ。

 

「ドライグ……そうか、逝ったのか」

 

赤い龍の力は使える。

気付けば赤い篭手は出るし、倍加の力も使えそうだ。

だが、やっぱり俺の中にアイツの気配はしない。

 

しばらく自分の手を見ていると、病室のドアが開いた。

ドアを開けた人物は、俺を見て固まる。

 

「イッセーさん」

「あぁ」

「イッセーさん!」

 

飛び込んでくるアーシア、それを俺は抱きしめる。

あぁ、そうだったな。この結果は最良だ。

ただ、ちょっと物足りない。

 

「クエー」

「なんだコイツは」

「あっ、オーフィスちゃんがくれたんです。虹龍って言うらしいですよ」

 

アーシアの頭に乗っていた龍が、俺の頭に移動する。

ちっちぇ、まだ子供かもしれん。

 

「小さいなぁ……」

『小さくないよ!あっ、やべ』

「あぁ?何か言ったか、アーシア」

「何がですか?」

 

聞こえなかったのか、じゃあどこから……

いや、まさかお前が……

 

「クエー」

「今更取り繕うなよ」

『無限の龍神には勝てなかったよ』

 

難しいことは良くわからないが、どうやらドライグは死に損なったらしかった。

姿は変わってたが、中身は一緒だ。

 

『俺はドラゴンである、名前はまだない』

「アーシア、コイツって名前ないのか?」

「えっ、ラッセー君ですよ」

「名前あるじゃん」

 

後日譚、俺はその後も日本神話勢に頼まれて色々やった。

なんかトライヘキサとかいう化物をヴァーリと倒したり、異世界がどうのとかいう狂人ぶん殴ったり、アザゼルって奴のせいで異世界に飛ばされたり、まぁ色々あった。

因みに、その間ラッセーはオーフィスに遊ばれていた。

 

「ラッセー、鍛える」

「クエー!?」

「待て、逃げたら強くなれない」

「クエー!」


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