俺はドラゴンである   作:nyasu

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言葉の壁は大きい

家に帰りインターホンを押したら、固まった親がいた。

どうした、なんでドアを開けて固まっているんだ?

 

「あ、貴方大変よ!」

「どうした、あぁ!なんだこれ、どういうことだ!?」

「どういうことなの!?」

「大変だ、どこからか息子が!」

 

慌てる親を前にして俺は首を傾げる。

どこからもなにも、玄関から息子が来たわけだが……落ち着けよ。

 

「おう、今帰った」

「何かの間違えだったんだ」

「やったわね、貴方!」

 

何故か大喜びする親を前にして、そういえば死んだことになっていたと納得する。

葬式代とか請求してやるべきだな、そうすべきだ。

それはそうと、オロオロしていたアーシアを俺の背中から前に出した。

 

「一誠、どういうことなんだ」

「拾った」

「元の場所に返してきなさい」

「まさか、元浜くんや松田くんの影響を受けて……いけない、それは犯罪だ」

 

何やら勘違いしているようだが、俺は道案内するついでに堕天使の襲撃から守ったのだ。

そう、俺は悪くない。ちなみに、連れてこいと言ったのはアーシアである。

 

『犬や猫じゃないんだから……それより、コイツは行く宛もないことを伝えるんだ』

「なに、そうなのか。アーシアは行く宛がないらしい」

「家出少女って奴なのか……」

「知らん」

 

こういうときどうしたらいいのだろうか、と頭を悩ませる俺の両親。

それを察してかアーシアもオロオロしている。

取り敢えず、中には入ろうか。

 

 

 

居間に入ってからはオロオロしているアーシアに茶を出して、テレビを付ける。

久しぶりのテレビである。文明の利器は素晴らしい。

 

「寛いでいる場合かー!」

「何だよ親父、なんかあったか?」

「この状況でよく寛げるな、一誠」

「大丈夫だ、問題ない」

 

人が誤認で死んだことにされたんだろう。

細かいことだ気にするまでもない。

一応役所に連絡とか入れたほうがいいのか。

どうなんだろうな。

 

「あっ、警察とかには連絡しないで欲しい」

「ど、どうしてだ。何か、やっぱり犯罪を犯したのか?」

「ドラゴンになったんだ」

 

拳を突き出して鉤爪を見してみる。

服を脱いで背中の翼とか、尻尾も見してみた。

そう、顔以外はドラゴンなのである。

通報なんかされたら、困る。

 

「な、なんだこれは!?母さん、尻尾だよ!尻尾!」

「翼、本物なのかしら?」

『それでいいのか、その程度の驚きなのか?』

 

まぁ、うちの両親は俺にはなぜか昔から甘かったのでそういうもんなのかもしれない。

ちなみに、悪魔や天使が実在することなどを話すと、驚きはしたが信じてくれた。

まぁ、ドラゴンになった俺を見せたから説得力があったのだろう。

 

「そうだったのか、そんなことがあったなんて」

「大丈夫なのかしら」

 

大丈夫かと言われれば、きっと悪魔のことだ。

悪魔らしい取引とか、脅迫でもしてくるに違いない。

死んだ人間には人権はない、何をしてもいいって訳である。

最悪だな、グレモリーって奴!

 

『俺にいい考えがある』

「なに、何かあるのか?」

『日本神話勢に保護してもらえばいいのだ』

「なるほど、ところで神様ってどこにいるんだ?」

『え~、出雲とか京都とかじゃねぇの?知らんけど』

 

出雲、聞いたことがある。

出雲大社って奴だな。

よし、お参りすれば全部解決するだろ、間違いない。

 

『金髪の姉ちゃんには気をつけろ、毘沙門天だ』

「うん、わかった」

「お、おい一誠。さっきからブツブツ何を言ってるんだ」

「親父、出雲に行くぞ。出雲大社にお参りするんだ、そうすれば問題ない」

「そうなのか?まぁ、身内の不幸ということで休みは貰っているが……」

 

なら問題ないと準備をさせる。

アーシア、あぁ彼女は翻訳サイトを使って意思の疎通を図る。

英文なら通じるようだからな、やはり文明の利器は素晴らしい。

状況の説明をして、アーシアもどういう状態なのか分かったようだった。

まぁ、色々と混乱してかゴチャゴチャ言ってたけど意味が分からんから無視である。

説明責任は果たしたので問題ない。

細かいことは気にしてはいけない。

 

「なんだかよく分かってなさそうだけど」

「言葉の壁は大きい」

「押しに弱い子なんだってことはなんだか父さんでもわかったぞ」

 

まったく何を馬鹿な、彼女は聖職者である。

つまり戦えるということなので押しが弱いわけがないのである。

むしろ敵を押し退けることは得意なはずだ。

 

『相棒、その押しではないんだが、こんなに馬鹿だったけなぁ』

「どうしたドライグ」

『難聴系主人公かよ』

 

要領を得ないドライグは無視して飛行機である。

スゴイ、俺よりずっと早い。ドラゴンよりずっと早い。

やはり文明の利器は素晴らしい。

数時間かけて島根に来た。

 

「すごい、これが出雲大社。なんて大きな縄なんだ」

「人がいっぱいいるのね」

「家族旅行みたいだな、ハッハッハ」

「ホワイ!?ワッツ!?」

 

うむ、旅行か。

家族旅行なんてしばらくしていなかった気がする。

まぁ、昔は血の気が多かったからな喧嘩に巻き込まれるからそれどころじゃなかった。

なんだか、山に篭ってから心に余裕が生まれたというか昔ほど考えることをやめた気がする。

なるようになるの精神で生活するほうが楽だな。

 

『おかしい。初期の頃と性格が違う気がする』

「何を言っているんだ、俺は前からこうだったぞ」

『いや、もっと刺々しい感じだったような。俺のせいなのか』

「細かいことを気にしていると禿げるぞ」

 

俺も大人になったのだ。

細かいことで怒ったりしない、そういう感じになったのだ。

出雲大社に参拝して、その後はホテルにチェックインした。

まぁ、当日ということもあって一軒目は駄目だったが、二軒目で泊まれたのでラッキーである。

そして、ベッドで一休みしようとしてふと思った。

 

「いや、待て。神様にまだ会ってないぞ」

『今頃気づいたのか』

 

ちょっと待て、此方は礼を尽くして挨拶までしたのだ。

なのに、一言もないとかどうなんだ。

つまりは居留守を使われた訳だろ。

 

「ざっけんな!ぶっ殺してやる!」

『おい、細かいことは気にしないんじゃないのか!?』

 

こっちが下手に出てればいい気になりやがって、礼儀って物を知らないとみた。

俺なんか毎回教師に色々言われて気にしてるんだぞ。

人間の模範になるべき神が、礼儀知らずってそこのところどうなんだ。

 

『待て待て待て、日本神話に喧嘩売る気か。流石に、まだ神レベルとは戦えないから』

「知るか」

『おいぃぃぃぃ!やっぱり、なんかおかしくなってんだろ!お前、そういうキャラじゃねぇだろ!おっぱい大好き人間じゃなかったのかよぉ』

「なんで胸の話になるんだ。そんなことより喧嘩だ喧嘩!」

 

一発殴る。

とにかく殴る。

神だろうと殴ってみせる。

後のことは殴ってから考える。

 

翼を使って空を飛び、気合を使って気配を探る。

山の修行は伊達ではない、こちとらYAMA育ちである。

 

「これが見聞色の覇気って奴だな。なんか分かった」

 

神社の方に違和感を感じたので近づいてみると、何故か人がいなくなっていた。

そのまま神社に降りてみれば、誰かが神社の境内に座っている。

 

「アンタが神か、一発殴らせろ」

「なんで!?」

「挨拶したのに出てこないからだ」

 

俺は腕組みながら、目の前のロングヘアーの女に言う。

見た目はなんか着物を着ているせいか平安時代の人間っぽい。

中学生くらいで、なんかちっこい。

本当に神様なんだろうか。

 

「おい、本当に神なのか?」

「はぁぁぁぁ!?どっからどう見ても神様だしぃ!」

「そうなのか」

 

目の前で自称神様と名乗る女がぴょんぴょん跳ねていた。

何やら荒ぶっているが、怖くない。

 

『静まりたまえ!さぞかし名のある神と見うけたが何故そのように荒ぶるのか』

「なに、ドライグどういうことだ」

『言わなきゃいけないと思ったのだ』

 

どうやらドライグが警戒するくらいスゴイ神らしい。

しかし、うーん、どうみても普通の女の子だ。

寧ろ、駄目な感じがスゴイんだが。

 

「ちょっとアンタ!呼ばれたから来たのにいないってどういうことよ!ピンポンダッシュしてんじゃないわよ!」

「お、おう」

「確かにちょっとラグがあったかもしれないけど、伏して待つのが礼儀ってもんでしょ」

「なんかすまん」

 

なんだろう、萎えた。

目の前のプンスカする女に、何ていうか困惑しすぎて殴る気が失せた。

まぁ、どうやらお互いに何か行き違いがあったんだろう。

 

「まぁいいわ!自己紹介がまだだったわね。私があの有名な、天照大神よ!ソシャゲでも大人気なんだから!」

「お、おぉ!俺でも知ってるぞ」

「ふふん、サインはマネージャーの恵比寿を通してからにしてよね」

『毒されてんなぁ、日本人に毒されてんなぁ、この神』


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