俺はドラゴンである   作:nyasu

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行くぞジャンヌ・ダルク!武器の貯蔵は十分か

目の前にいる男は、伝え聞くヘラクレス。

幼女を愛し、幼女に愛された男。

そう奴こそは、ギリシャ神話の大英雄ヘラクレス。

瀕死の状態から十二回も復活し、死の淵から生き返るという計十三回の復活をしたという大英雄。

巌のような肉体を持つ巨人ではないが、恐らくそれくらい強い奴である。

ケルベロスとかネメアの獅子とかそんなんじゃない、最も恐ろしい物の片鱗を与えてきそうな相手である。

 

「へへへ、来いよ赤龍――」

「先手必勝!オラァ!」

 

剃からのアッパー、相手は大英雄だ油断できない。

俺のパンチが奴にめり込む。

その時、目の前が真っ白になった。

 

「ぐあぁぁぁぁぁ!?」

「ぐあぁぁぁぁぁ!?」

 

吹き飛ばされ、床を転げ回る。

い、一体何が起きたんだ。

身体中が痛い、つまり何らかの攻撃を受けていた。

 

「ぐっ、一体何が……」

「へ、ヘラクレス!?」

 

痛みに震えながら敵を見れば、何故か気絶して煙が出ている自称ヘラクレスの姿があった。

どういうことだ、アレは罠なのか?

 

「油断はしないぞ!行くぞ、ヘラクレス!」

「おい、勝負はもう着いただろ!」

「お前は何を言っているのだ?」

 

ぶっ倒れたフリをするヘラクレスに俺は傷を負った身体を鞭打ち立ち上がり油断せずに構える。

そんな俺の前に曹操が立ちふさがった。

まだ勝負は付いてないのに、邪魔である。

 

何の強化もされてない、ただのパンチである。

ただのパンチを十発分込めた、アッパーである。

新技、釘パンチの応用ではあるが、何故に曹操は邪魔をする。

これくらいで大英雄がやられるわけがない、まだ一回も殺してないんだぞ。

 

「一誠、傷の手当をするニャ」

「そうだ、黒歌聞いてくれ。俺は気付いたら奴に攻撃されていた。触れた瞬間にだ、奴は強い」

「勘違いしているようだけど、奴は触れた瞬間に爆発する巨人の悪戯を持ってるニャ。攻撃した瞬間に発動でもしたのニャ!一誠は爆発に巻き込まれたのニャ」

「なに!?奴の神器は十二回ほど蘇生できる物ではないのか!?」

 

まるで意味が分からんぞ、ドライグに聞いていた話と違う。

いや、よく考えたらそっくりさんだ。

ドライグは昔に生きていた。

つまりドライグの知ってるのは昔のヘラクレス、そっくりさんは別人だから昔のヘラクレスと同じではない。

ヘラクレスとは名ばかりの普通の人と言う訳か。

 

「俺の知っているヘラクレス基準で殴って、なんかスマン」

「赤龍帝、君は何を言ってるんだ!」

「こんなに弱いと思わなかった」

「そこまでよ!」

 

バサッ、とマントを翻しながら女の人が現れた。

だ、誰だあのパツキンの姉ちゃん!

 

「ふっ、所詮ヘラクレスは脳筋。英雄派でも強い方なだけよ」

『そこは四天王の中でも最弱とか言うところだろ』

「何者だ!」

「私はジャンヌダルク、ジャンヌダルクの生まれ変わりよ!」

「お前は、そうか敵討ちか」

「へっ、別にそういう訳じゃないけど」

 

聞いたことがある。

ジャンヌ・ダルク、聖人認定された女の人で無敵状態になる神器を持っている奴だ。

いや待て、地面から槍を召喚して火炙りにする神器だっけか?

あれ、ドライグの話があやふやなんだが乙女ゲーの主人公になりたいとかいう良くわからない願望があるとか、甘いものが好きとかどうでもいいことは覚えてるんだが。

アイツの神器は何なんだ?

 

「聞かねばなるまい、お前の神器は何だ」

「急にどうしたのかしら。まぁいいわ、私の神器は聖剣創造。聖剣を作り出すのよ」

「な、なんだって!?」

 

聖剣ってエクスカリバーの事だろう。

なんて強敵なんだ、アレが何本も出てくるなんてヤバイじゃないか。

クソ、ヘラクレスの一撃さえなければ戦えたのに……俺は、無力だ。

 

『諦めんな相棒、傷は浅い。もう完治しているぞ』

「ドライグ、あぁそうだな」

『気を付けろ。奴の必殺技は自分の領域内で無限に聖剣を作る物だ。そのくらい出来るはずだ、ヘラクレスモドキより強いぞ』

「やはり、行くぞジャンヌ・ダルク!武器の貯蔵は十分か」

「えっ、ちょ、なんで戦うことになってるの!?」

 

驚いたフリをするジャンヌ・ダルク。

その手には、聖剣が出現する。

やはり戦おうとしている、つまりアレは演技。

油断を誘おうとするとは、流石英雄派というなの反社会団体、汚い。

 

「うおぉぉぉぉ!」

「くっ、やるしかないの!」

 

聖剣が大量に出現し、それが此方に向かって飛んでくる。

やはり聖剣を生み出して、射出してきたか。

だが、それは想定内だ。

 

「行くぞ相棒!」

『Boost!!Boost!!Boost!!Transfer!!』

 

ミシリ、と床が悲鳴を上げる。

続いて、響くのは金属音。

俺の周囲に迫っていた聖剣が落ちた音だ。

ジャンヌ・ダルクは驚愕に顔を染めながら、膝を着く。

観戦していた曹操や黒歌も膝を着いていた。

なぜなら、俺は周囲の重力を数倍にしていたからだ。

 

「ガハッ!な、なにが起きたの!?」

「うおぉぉぉぉ!」

「な、なんでこの重圧の中で動けるの!?」

 

重力が数倍の環境で、俺は駆け出す。

要は慣れである。

気合があれば、いつもの数倍力が出せる。

そうすれば普通のときと変わらない、簡単な話だ。

最初はヘラクレスの実力を見るためだったが、売られた喧嘩は買わないといけない。

こういうのは初めが肝心、徹底的にやるのだ。

 

「オラァ!」

「きゃぁぁぁぁぁ!うゔッ!?」

 

俺の本気の蹴りが、ジャンヌ・ダルクの腹部に入る。

だが、油断は出来ない。相手は英雄の生まれ変わりらしいからだ。

つまりは人形の化物、ドラゴンすら素手で倒す奴らである。

最初から本気である、ドライグが言っていた慢心は良くない。

 

「……やったか!?」

「何をしてるんだ赤龍帝!」

「なんだ曹操、次はお前か?」

「その必要はない。俺が相手しよう」

 

新手か、と声のした方を見れば剣士がいた。

何故か背中から龍の腕が飛び出している。

何だアレは、背中から腕とか意味が分からんぞ。

 

『アイツから嫌な気配がする。そうか、ジークフリートか』

「し、知ってるのかドライグ!?」

『奴は魔剣をたくさん持っているジークフリートの生まれ変わりだ。竜殺しの剣に気を付けろ、俺達の天敵だ』

 

ジークフリート、たしかファフニールというドラゴンを倒した英雄。

つまり、竜殺しの英雄だ。

俺の天敵、強敵だな。

 

「随分と暴れてくれたみたいだが、もうここまでさ。行くぞ!」

「待てジークフリート!待つんだ赤龍帝!」

「来い!うおぉぉぉぉ!」

 

踏み込みは早く、すぐに俺の側へとやってくる。

その両手には何らかの魔剣が握られている。

右から来る魔剣に右拳で殴り防ぎ、距離を取ろうとする。

しかし、それを邪魔するように今度は左からも攻撃が来た。

 

「くっ!」

「甘い!」

 

払うようにして左の剣を防いだ瞬間、身体に痛みが走る。

ば、馬鹿ないったい何が!?確かに左の剣は防いだはずだ。

 

「ぐあぁぁぁぁ!」

「最後の一本を見落としていたな」

『相棒!クソ、アスカロンか何かか!』

 

普通に斬られるよりも尋常じゃない痛みが走っていた。

ドラゴンの身体になったせいか、普通よりも痛いのかもしれない。

再生が、回復力が、ドラゴンの生命力すら間に合わないくらいのダメージ。

割りと、マジでヤバイかもしれない。

 

「今なら間に合う。黒歌に治療してもらい、今までの行いを反省しろ」

「く、クソがぁぁぁぁ!まだだ、まだ終わってねぇ!」

「ほぉ、まだやるっていうのか?」

 

負けないと、アイツと戦うまでは負けを認めないと誓ったのだ。

俺は生きてる、ならまだ戦える、なら諦めない。

あの三刀流の攻撃を防ぎつつ攻撃すればどうにかなるはずだ。

点ではなく面で攻撃すれば、防ぎながら倒せるはずだ。

やってみるか、試したことはないが……。

 

「ドライグ、倍加してくれ。ギアサードだ」

『何を……いや、そういうことか』

「行くぞ、うおぉぉぉぉ!」

「無駄だ!無駄無駄無駄!」

 

剣を構えるジークフリート、食らうがいい俺の必殺技パートスリー。

 

「オリャァァァァ!」

『Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!』

 

ドライグの声に合わせて、俺の方から先の腕が大きくなっていく。

二倍、四倍、八倍、十六倍、三十二倍、六十四倍、それは車ほどの大きさの腕だ。

ジークフリートは三つの剣を拳にぶつけるが、それは傷を与えるだけで勢いは殺せなかった。

喰らえ、これが俺達の、努力と友情のなせる技だ。

 

「な、なんだと!腕が、大きく!ぐわぁぁぁぁぁぁ!」

「ぐわぁぁぁぁぁ!」

『相棒!なんて無茶を……重さに耐えきれなくて肩が脱臼したか』

 

だ、だがドライグ、俺は勝ったぞ。

 

「俺の勝ちだ……フッ」

「何してるんだ君は!ジーク!ヘラクレス!ジャンヌしっかりしろ!」

「一誠、何してるニャ!」

 

黒歌が何か言ってたが、俺は疲れていたのか意識を薄れさせていった。

 


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