アリシアに制御された悪魔の群れが、クリス達に襲い掛かる。
地面を潜行する魚型と、空中を旋回する鳥型。
さらに時折地面を流れる高圧電流に苦戦するものの。
悪魔の射出装置を破壊することで、どうにか新手の出現を阻止。
残りの悪魔達も順調に討伐していく。
「うおおおおおお―――――ッ!!」
ガラスに出来たかすかな皹。
それを見逃さなかったクリスは徐にミサイルを展開すると、それに飛び乗って突っ込んでいく。
無機物が割れる、賑やか過ぎる騒音。
破片が飛び散る中、黒煙の中から躍り出たクリスは銃口をアリシアに突きつけた。
「油断大敵だな」
一方のアリシアは腕を組み、じぃっとクリスを見つめるだけ。
やがて、呆れたようにため息をついた。
「――――ええ、全くだわ」
参ったなと言いたげに見えて、その実呆れた目を向けて。
手のひらで、合図。
「油断大敵ね」
「――――ッ!?」
風を切る音。
振り向いたクリスは次の瞬間、『壁』に激突した。
「ご、は・・・・・・!?」
呼吸が詰まった刹那に、新たに二つ。
相手の得物は槍。
一方は腕とわき腹の間を縫うように、もう一方は右肩に突き刺さる。
「がああああああ――――ッッッ!!!」
「く、クリスちゃ・・・・うっわ!?」
「ぐ、離せッ!!雪音ェッ!!」
残りの悪魔に応戦していた響達も、同じ個体に取り押さえられた。
余った数体が、悠然とアリシアの傍に控える。
羽を広げたその姿は、一瞬天使と見間違えそうなほど美しかった。
「ぁ、ぐぅ・・・・!」
「魔剣教団の話はしたでしょう?これは彼らの研究データを流用して生み出したものなの」
苦しむクリスへ歩み寄り、白銀の鎧を指すアリシア。
「理想も方法もナンセンスな連中だけど、ええ、これだけは認めてあげてもいいわ。私は結構好きよ」
どこか嬉しそうに、恍惚とした様子で。
降りたった鎧の顎元を撫でた。
「・・・・は・・・・・そんでよぉ・・・・おめーは結局何を知りたかったんだよ?」
痛みをどうにか抑えたクリスは、歪ながらも不敵に笑う。
「まさかこれだけやっといて、何にも分かりませんでしたなんて言わねぇよなぁ?」
「・・・・」
アリシアは黙したまま凝視するのみ。
沈黙を肯定と受け取ったクリスは、喉を鳴らして嗤い出す。
「はは、悪モンってのは手際がなっちゃいねーな。フィーネを見習えっての・・・・」
「・・・・・そう急くものではないわ」
元からそうするつもりだったのか、それとも挑発されたからか。
アリシアが手をかざすと、そこへ先ほどまで戦っていた鳥型が一体。
剣型となって収まる。
「――――ッ!」
握り締めるや否や、その切っ先を突きつけて。
クリスの、胸元へ――――
「・・・・・ぁ・・・・あぁ・・・・・!!」
幅広の刃が、小柄な体を貫く。
床に伏せられていても、口から零れる血が見えて。
「雪音エエエエエエエエエ――――――ッッッ!!!!!」
「クリスちゃん!やだ!!ねえ!?クリスちゃん!!」
翼の咆哮が、響の悲鳴が。
部屋中にこだまする。
一方のアリシアは突き立てた刃を非情に抜き放ち、一瞬流れる血を見送ってからクリスを観察する。
クリスは束の間、弱々しくアリシアを睨んでいたが。
やがて糸が切れたように項垂れて、動かなくなった。
「・・・・・見当違いだったかしら、我ながら不要な殺生だなんて」
「アリシアアアアアアアア!!貴様あああああああ――――ッッ!!!!」
物憂げにため息をついたアリシアの耳に、翼の怒号が届く。
見下ろせば、身を跳ねんばかりに暴れて拘束から逃れようとする装者二人。
こちらを射抜く目は怒りに燃えており、自由にすればどうなるか容易に想像がついた。
「まあ、シンフォギアが手に入っただけでも良しとしましょう・・・・連れて行きなさい」
「離して!離してェッ!!クリスちゃあああああああん!!!!」
アリシアの指令に鎧達が頷き、まずは暴れる二人を取り押さえようとする。
一つ、また一つと加わる重みに、動きが封じられていく。
それでもなお、二人は抵抗をやめなかった。
これからどうなるんだろう。
どこへいくんだろう。
本当に死んだのなら、自分はどちらへ逝くのだろう。
閻魔様はどんな捌きを下すだろうか。
・・・・・どう考えても、天国行きは難しそうだった。
そういえば、あの元歌姫は『世界を滅ぼす』と宣言していた。
仲間達は強いが、だからこそこういった事態には弱い。
きっと、十全を発揮できずに無力化されていることだろう。
そうなれば、後はアイツの望むがままだ。
――――そっか。
このままだと、全部無くなるのか。
手を繋ぐバカみたいな温もりも。
不器用な先輩風も。
汚れを拭ってくれた恩人も。
あの時食べたあんぱんの味も。
やっと見つけた、帰る場所すら。
(ああ、それは困る)
そう。
それはとっても困るし、とっても寂しいし。
何より嫌だ。
ああ、そう考えると何だか腹が立ってきた。
奥底の方が鈍く震えて、熱い熱い『熱』を生み出す。
感覚が戻ってくる。
光が戻ってくる。
腕がある。
足がある。
そうだ。
まだ、何も失っていないのなら――――
「・・・・っ?」
感じた鼓動にアリシアは振り返る。
目を向けたポットの中には、未だ破損したままのソロモンの杖。
気のせいだったかと思ったが、何故か胸のざわつきが収まらない。
何かあるのかと、思案して。
「―――――困るんだよ」
聞こえた声に、振り返る。
「あたしの大事なモン、なんもかんも・・・・」
いつの間にか息を吹き返したクリスが、苦しそうに呼吸している。
彼女が息を続けるたびにはっきりする鼓動。
液体の中で浮遊しているソロモンの杖が、淡い光を纏う。
「好き勝手、されたら・・・・!」
上がった顔。
真っ赤に染まった両目が、射抜いて。
「――――困るんだよッッッ!!!!」
「ぁ・・・・!?」
爆ぜる。
クリスの『力』と、ソロモンの杖。
鎧達は壁にたたきつけられ、動かなくなる。
同じく抵抗できず吹っ飛んだアリシアは、無事だった一体が受け止めた。
「何が・・・・!?」
蒸気に包まれる実験場を、固唾を呑んで見上げている。
真っ白な水の粒子は、しばし不規則に動いていたが。
やがて、一部に目に見える変化。
何かが出てこようとしている。
明滅する照明をバックに、現れたのは。
「――――」
何か、弓のようなものを握り締めたクリスだった。
だったの、だが。
爛々と光る真紅の目、低く遅く繰り返される呼吸。
そして何よりも目を引いいたのは、彼女の背後に控える。
薄紅色の、透明な魔人。
「クリス、ちゃん・・・・?」
呆然と呟く響の声。
翼も静かに息を飲んでいる。
味方である彼女達すら、その変化に戸惑っているようだった。
いや、それよりも。
アリシアには、もっと信じられないことがある。
「ソロモンの杖・・・・魔術でも錬金術でも解析がやっとだったそれを、どうやって・・・・!?」
クリスが携えている『弓』。
形状こそ大いに変わっているものの、見間違えるはずもない。
あれは先ほどまで自分が修復を試みていた、ソロモンの杖。
「・・・・知ったことかよ」
アリシアの疑問を、クリスは切って捨てる。
先ほどとは逆の立ち位置で、アリシアを見下ろす。
「てめぇらにも事情はあるんだろう、滅ぼしたいって思うなりの理由があるんだろう・・・・けどな」
動く。
『弓』を上げ、ゆっくり弦を引く。
弦を張る手元に『力』が集まり、一本の矢を生み出した。
鏃の向く先は、当然アリシア。
「あたしのモンに手ぇ出すなら・・・・ブッダだろうがキリストだろうが、許さねぇ・・・・!」
どこかおぼつかない目線は、それでもしっかり標的を捉えていて。
「覚えとけッッッ!!!!」
「――――ッ」
ついに放たれた一射は、アリシアの予測を超えた速さで辿りつき。
爆発。
思わず目を伏せた響が、顔を庇いながら目を開ければ。
天上に大穴が開き、瓦礫が崩れているのが見える。
ならばアリシアはと視線を下ろすと。
《・・・・・ええ、そうね》
――――天使が、いた。
腰から一対の羽を生やし、巨大な突撃槍を振り切っていた。
羽毛に覆われているかと思いきや、所々鱗である部分もあり。
彼女の姿が、悪魔に由来するものであることを十二分に語っていた。
《覚えておきましょう。閻魔刀を持つネロだけ警戒するのは、危険だわ》
あてつけのように『危険』の部分を強調した彼女は。
生き残った鎧を引き連れ、天上の穴から撤退していく。
「ゆ、雪音ッ!!」
アリシアの追跡を忘れたわけではないが、それよりも仲間の安否が気がかりだった。
翼はいの一番に飛び出し、響がその後に続く。
駆け寄ってみれば、自分の体を見下ろして呆然としているクリスが。
先ほど負ったはずの傷は、どこにも見当たらなくて。
「――――は、はは」
気遣わしげな視線を受ける前で、唐突に。
乾いた笑い声。
「ははは・・・・ははははははは・・・・!」
「雪音・・・・」
労わるように背中を撫で始めた翼を見上げて。
クリスは今にも泣き出しそうに笑いかける。
「あたし、どうしたんだろうな?」
「・・・・ッ」
「クリスちゃん・・・・」
縋るような疑問への、的確な回答は。
この場の誰も、持ち合わせていなかった。
New Item!!
ダビデの弓
クリス専用の装備。
破損したソロモンの杖が、クリスの『力』を浴びて変質した姿。
持ち主たる彼女に様々な恩恵を授けるが、果たして吉と出るか凶と出るか・・・・。
New Skill!!
デビルトリガー
クリスのみが使用できるスキル。
攻撃、耐久が上がる他、体力の回復も出来る。
スナッチ
標的へ光のワイヤーを伸ばし、引き寄せる能力。
通常時にも使用でき、DT時は射程が延びる。
アローレイン
矢を高く打ち上げ、前方に雨あられと降り注がせる。
発射から着弾までタイムラグがある。
通常時でも使用可能。