始まり
ある丘に、一人の女王がいた。
体中が血まみれで、今にも倒れそうなほどに死にかけていた。
だが、女王に悔いはなかった。
されど、女王は自らの前で槍に貫かれながら横たわる
「本当に……馬鹿なことを」
女王の頬に、一筋の涙が伝った。
ポタポタと、血塗られた土の上を涙で濡らしながら、人民のために強くあろうとした、優しい王様は泣いた。
十字に組み立てられた杭がある。
一人の聖女はそこに腕や足を括られ、血まみれの薄汚れた麻服のまま、すぐ訪れる死を待っていた。
「―――!」
人々の黒い罵声が耳に響く。
すこし前までは、白い嬌声だったのに。
私は負けた。
当然といえば当然だ、いくら聖女と持て囃されていたとはいえ、ただの生娘が多数の兵士に囲まれて負けるはずがない。
だけど、ただただ私は悔しかった。
忠誠をこの胸に誓った王が私を捨てたことが、私はひたすらに悲しかった。
そして、私はこう叫んだ。
どうせ死から逃れることができないのなら、私は思ったことを言ってやる。
「私をいいように使って挙げ句には捨てたシャルル七世!私を容赦なく犯したピエール・コーションとその他イングランドの兵士!まだ幾つもの恨むべきモノがいるが、よく覚えておけ!貴様らは罪を犯した!本来守るべき、教会の七つの大罪を侵したのだ!大罪人どもよ、精々罪に怯えながら死に逝くがいい!」
私はひたすらに憤怒した。
今、この時――私も罪を犯したのだ、今まで抑えていた罪を。
だが、罪を犯すというのはここまで気持ちがいいものなのか。
私は汚い人間だ、罪を快感に思ってしまうほど。
だけど、だけど……。
世界は、私が思うほど綺麗ではなかったということが分かったということが、私の人生で1番の宝なのでしょう。
「本当に、この世界は憎たらしい」
一人の男がいた。
男は好きな人がいないまま死んだ。
顔は平凡だが、性格も割と良い方だった。
だが、彼は好きな人もいないし、誰からも好意的に見られることなくこの世を去った。
独り身で、ろくに年も取らずに、死んだ。
享年16歳、非常に若い死だ。
彼が高校に入った翌日に、両親が他界した。
彼は絶望した。
絶望した後に、彼はすぐに両親の後を追うこととなった。
死因は心臓発作だった。
そして、彼は記憶を失って転生した。
しかし、転生した先はひどいところだった。
堕落した魔術師の家。
父は酒に呑まれ、母は蒸発。
父は唯一の息子である彼に、暴力をひたすらに振るった。
理由は息子が無能だったから。
魔術回路も1本しか持たない無能。
先天的に魔術回路が開いていたのはよかったが、現代魔術をすこし使っただけで気絶する。
だから、父は彼を殴り蹴って火の魔術で焼いた。
彼も自分が無能なことを理解していたので、暴力を受けることには抵抗しなかった。
人形のように、人間の形をしたサンドバッグのように彼は振る舞った。
憎悪もなにも湧かなかった。
「げほっ」
だが、ある日、肺を強く蹴られたときにむせたときがあった。
父は息子が初めて出す苦しみを見て、さらに肺を蹴りつづけた。
骨が何本折れたかは知れない。
だけど、彼には、もはや意識など存在してなかった。
「ふへへ」
彼はまだ幼く、七歳ほどだ。
それでもしぶとく生きているのは父が治癒魔術をかけているからに他ならない。
しかし、治癒魔術にも限界がある。
父が気がついたときには、彼は既に死ぬ寸前だった。
殺すのはまずいので、すこし休ませ、そして父はあることに気がつく。
性欲処理もしてしまおうと。
彼は女のような顔で、中性的だ。
故に犯された。
快感などはない。
ひたすらに痛いだけだ。
そして、彼は虚ろな目でふと父の顔を見た。
醜く、髭むくじゃらで、酒臭い。
そこに湧いたのは、同情だった。
だが、その気持ちも消え去った。
夢を見た。
黄昏に照らされた高い塔の屋上だ。
そこには美しい金髪の女性と、可憐な白金色の髪をした女性が目をつぶって壁に寄り掛かりながら寝ていた。
ふと、彼は女性たちに近付き、顔をみた。
すると、なぜだろうか。ひたすらに、彼は静かな声で泣いた。
金髪の女性がふとその声で起きて、「どうしました?」と、優しく慈母のように聞いた。
彼は、泣きながらこういった。
「もう、嫌だ」と。
刹那、嘆くほどの鈍痛で彼は目覚めた。
彼は思った。
僕にはあんな優しいことはない。こうしていつものように、殴られるのだ。
その時、薄暗い悪臭に満ちた部屋にまばゆいほどの光が発された。
父親も、彼も目を思わず閉じた。
そして、光から出てきた彼女はこう言った。
「応えよう。私は貴方のサーヴァント、セイバー。死闘の剣を
彼女は怒りのこもった目で、呆ける彼の父を見つめ、静かに……しかし先ほどとは違う冷淡な声で言葉を続けた。
「貴様が、マスターを傷付けた者か」
父は、命乞いをした。
この女には、どんな手を尽くしてでも、絶対に抗えはしないないと本能が察したからだ。
父は自らの心臓がまな板の上に置かれているような錯覚を受け、ひたすらに頭を地に擦り付ける。
父は、なぜこんな化け物が召喚されたということ自体が到底理解できなかったが、命は欲しいので、ひたすらに命乞いをした。
だが。
「自らの
彼は迷うことなく言葉を吐いた。
殺せ、と。
「助けてくれ、ぇ?おい!やめろ!頼む!千景!許してくれ!もうなにもやらないから!頼む!」
彼、いや……千景はもう一度言った。
早く殺せ、と。
「分かりました、我が親愛なるマスターよ」
そして、銀色に輝く刃は、千景の父の首もとへと迫り、その首を二度と繋ぐことのできないように断ち切った。