「あああ!アアアアああぁぁぁあ!」
灰色の曇り空。
薄く濁った雨水が、どんよりした曇天から無数に落ちてきて、黒色の大地を静かに削っていく。
そんな中、絶望に満ちた慟哭が響いた。
黒衣に身を包んだ男が膝を地につけ、目から涙を流しながら、声が枯れても、息が切れてもその叫びは続いている。
「ガァッ、アァ!」
その声質からして獣と間違えられてもおかしくはない。
狂い、叫び、力無い腕で暴れる。
誰もいない、雨だけが降り注ぐ灰色の大地で。
男は、ただただ慟哭を響かせていたのだった。
急に慟哭が静まった。
男は突然放心状態になったのか、空を見上げ、顔から雨粒を滴らせている。
そしてしばらくしてから男のまつげに雨水が着いてしまい、思わず男は目を細めてしまう。
されど、男が瞼を閉じることはない。
その目は、空とは違うものを見ていたのだから。
男は、一般人である。
ごく普通の、なんら変わりない、ただの一般人。
それゆえ、男は選ばれた。
゙絶望゙という深淵に。
ふと男が、よろけた動きで地面から立ち上がった。
ふらふらと、安っぽい映画に出てくるようなゾンビの如く、あてもなくただ灰色の地面を踏み締める。
じゃり、じゃり。
水に濡れた土が潰れる際に出てくる独特な音を立てながら、男はひたすら歩を進め。
雨はより強くなり、滝のように雨水を男の体に打ち付けていく。
だが、男はそれを気にする様子もなく、黒衣をはためかせながら歩いていく。
絶望に打ちひしがれても、皮肉があるないに関わらず、腹は減るものである。
その証拠として、男の腹からぐぅー、と獣が唸るような音が鳴った。
男は引きつった苦笑を浮かべながら、その場に座り込む。
「腹が......減った、なぁ」
びしょびしょに濡れた黒衣の水を軽く払いながら、ゆっくりと足元に目をやる。
何もない。
何故か男は無性に寂しさを感じた。
愛する人など男には一人もいない。
だが、かつては愛する人がいた。
だが、男は最後の最後まで、失うことにも気付かない......
愚者だったのだ。
タロットカードには、THE FOOLというカードがある。
一般的には、正位置で始まり、無邪気、奔放さを表し、逆位置で俗っぽさ、
愚かさ、無謀を表すという。
だが、男はどこに属しているのか。
それは、人によって変わる.....といったのが正しい答えだろう。
何だその変な答えは、と想われた人も中にはいるはずだ。
たしかにそれは正しい、否。なんだって私の言っていることは正しくもあり、かといって、完全に正しいわけではない。
どうしてか?
だってこの男、愚者は。
すでにいること自体が矛盾なのだから。