冬木市、郊外。
和の香りを感じさせる、住宅がまばらに立ち並んだこの場所に、ひときわ目立つ屋敷があった。
建築されてから、相当年数が建っているのであろう。
日本屋敷ならではの静寂さ、わびさびを感じさせるものの、苔やツタを所々、壁や柱に這わせたその屋敷は、えもしれない不気味さをも漂わせていた。
その屋敷の地下に存在する地下室に、一人の不気味な男が佇んでいる。
ひび割れた眼鏡を掛け、白髪混じりの幽鬼のような顔で、やせ細り骨の形をあらわにした
彼の名は、ゲールハルト=シーレンベック。
ドイツ、ミュンヘンに本拠地を置く魔術師の一族……シーレンベック家の当主であった。
前から開催情報が耳へと入ってきていた聖杯戦争の霊媒を手に入れ、三週間ほど前に冬木市へと来訪したゲールハルトへと、マスターとしての証でもあり、自らが使役するであろう人であっても、人ならざる力を持つサーヴァントへの絶対命令権でもある鎖にもなりうる刻印、令呪が発現したのである。
その時、ゲールハルトはえもしれない優越感に駆られた。
なにせ、シーレンベック家は若い一族である……それこそ、御三家とも呼ばれる遠坂、間桐、アインツベルンの足元にすら届かないほどに。
ゆえに、後継者もおらず、齢58となったゲールハルトは、ある願いのために、ありとあらゆる願いを叶える聖杯戦争を制そうとしていた。
その願いは、魔術師が心より望む根源への到達などでは、到底違ったものであった。
それは、シーレンベック家の繁栄。
そう。ゲールハルトはシーレンベック家を繁栄させるが為に、魔術師としての心得を忘れ、ミュンヘンからはるか離れた極東の国へとやってきたのである。
そして、今、ゲールハルトは聖杯戦争を優勝するには欠かせることのできない、サーヴァントを召喚しようとしていた。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
みたせ みたせ みたせ みたせ みたせ
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
「―――――
「――――――告げる」
「――――告げる。 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
地下室へと光が満ちる。
そして、凛とした声が鳴り響いた。
「ライダー、ジャック・ド・モレー。我が剣、汝に預けましょう」
世界でも随一の知名度を誇る騎士団―――テンプル騎士団。
その悲痛な最後は、奇しくも、テンプル騎士団の保有する莫大な財産に対して欲に目の眩んだ国王によって引き起こされたものだった。
そして、そのテンプル騎士団を最後まで守ろうとした、テンプル騎士団最後の騎士団長。
彼の名は、ジャック・ド・モレー。
悲劇の騎士である。