揺れる黒い高級車の後部座席で、俺は一人たそがれていた。
勿論、行き先は空港、そう……空港だ。
俺は、パスポートを持っている。
当然だ、拳銃なんて持っている輩だからな。あ、偽造パスポートではないぞ?ちゃんとした正規のパスポートだ。
だが普通、空港に早急に来いなんていう手紙を諸君は受け取ったことが、はたしてあるだろうか?
否、俺はない。
常人より離れたところで今まで生きてきたせいもあるかもしれないが、俺はこんな手紙を受け取ったことは断じてない。
ましてや、カルデアとはなんだ?
自己啓発を仰ぐ新興宗教どもか?それとも頭のおかしい企業かなにかか?
そして、この状況は一体何なんだ?
手紙を読んだあと、しばらく自宅であるマンションにてごろごろしていたら、謎のムキムキの黒服共がドアをなにかの道具で破り、呆けている俺を担いでドイツ製の高級ベンツの後部座席へと押し込み、そのまま「空港に向かいます」とだけ無愛想に俺に言ってから、そのまま車を発進させたのだ。
いくら拳銃を持っているとはいえ、この憎き黒服どもの胸元に部分的なふくらみがあるのは知っているし、そのふくらみがシリコンや丸めたタオルではないことは目に見えて明らかだ。
つまり、仮に俺が゙自衛゙のため、黒服の一人へと拳銃の引き金を引いたとして、黒服ども数人に蜂の巣にされるのがオチだろう。
つまり、おとなしく命令に従うしかないというわけだ。
着いたら死ぬかもしれんが。
「ブァックション!」
周りに見えるのは、雪だ。
それも、すこしではない雪、雪、雪。
白銀の世界どころではない。
完全に純白の世界だ。
ましてや、呼吸がつらい。
こんなところで死ぬわけにはいかない……そうは思っていても、体はすでに棺桶へと片足を突っ込んでいる。
無様に鼻水を垂らして、その鼻水はシャーベット状になって、なんとも鼻下が気持ち悪い。
さて、なんでこんなことになったのか?
理由は一つ、あのカルデアとかいう連中のせいだ。
空港に行って飛行機に乗ったらいつのまにか意識を失い、気付いた時には山小屋の中に放置されていた。
そして、机には紙の地図と防寒具と缶詰、後は申し訳程度の登山具のみが置かれていた。
ふざけてる。
あんまりだ。
寒いし、自分がどこにいるのかすらわからない。
畜生!カルデアの所長とかいうやつめ、会ったら絶対に殴ってやる。
「ふぁっ、ぶぁっくしゅ!」
……会う前に死ぬかもしれない。
この寒さで。
―――?
あれは……なんだあれ、研究所か?
もしかして、着いたのか?
たく!時間のかかる道のりだった!この地図め!距離感がつかめ、な、い?
「あっ……大幅に回り道してた」