現実逃避行奇譚   作:アウリス

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3話目です、どうぞ。


若干

4月10日 AM5時30分

 

珍しく目覚まし時計の鳴る時間より30分早く目を覚ました。

「……」

どうしても落ち着いて眠ることなど出来なかった。

「あれは夢だったんだ。そうに違いない」

何があろうとそれは夢と否定した。

「試しに外に出てみよう」

今日は黒のパーカーに黒のズボンを着た。いつもとは違う服装というのは夢だったということの一種の神頼みのようなものだった。

ガチャ。

ドアノブを回し、ゆっくりと開ける。

「……」

辺りはまだ少し暗く、様子は分からなかった。

コンビニへ行くと、やはり昨日と同じままだった。

「……っ」

スマートフォンの画面も同様で、どう操作していいのか分からない。

「……くそっ」

舌打ちをして、昨日見回した高台に向かった。

結果はどれも同じでしかない。

「嘘だろ…」

膝から崩れ落ちて呆然としているタイミングで朝日が街を照らし出した。誰も存在しない、自分しかいない世界を。

画面に示されている時間は《09:45:00:89,56007》。

相変わらず意味不明だった。

「夢じゃ…ない。……どうしろってんだ」

画面を見つめても、何か起こるわけではないのは承知の上で見つめ続けている。次第に画面の異変に気づく。

アプリのアイコンが突然右端に表示されていた。瞬きもしていないのに、気がついたら現れていた。アプリ名は

「……『探知機』?」

アイコンには人影のようなものが映っている。

「なんだこのアプリ。不気味だな」

怪しすぎてアプリを開く気になれない。

「……開く、か。いや、うーん」

立ち上がり、アプリのアイコンの所に指を合わせたりするがしばらく考えてから開くことにした。

高台を降りて、街の中を歩く。ただ見回しながら歩く。

「まだ夢にしか思えないけど、夢じゃない。本当に誰もいない」

マンション、アパート、コンビニ、スーパー、交番、工場、その他の場所を闇雲に見て歩いた。いくら見ても生物らしきものはいなかった。

道路には車一台も走っておらず、路肩に停めてあったり、衝突事故を起こしている車、建物に突っ込んだままの車がほとんどでやはり人の気配はない。

ただ風だけがすれ違っていく。

「……なんでこうなった。突然人類が滅亡したとか…はありえないし、ここはパラレルワールドか?なわけない…。せめて人はいるだろうし……」

気がつけば歩道橋の上で行ったり来たりを繰り返している始末。

「戻る方法を探さないと…。とにかく元の世界…?に戻らないと…」

 

PM2時00分

 

「……」

歩道橋から降りて少し先の住宅地にいた。

「戻る方法とか、何も思いつかないんだが」

ただ時間が経つだけだった。

ピー、ピー…。

突然、スマートフォンが鳴り出した。

「な、なんだ?」

画面を見ると、『近くに人がいます』と横一列に書かれていた。その下にはどうやら人がいる方向と距離を示している。一列の文を見て先ほど見つけたアプリのことを確信した。

「そうか、探知機ってのはそういう事か!人を探知するアプリか!」

「あ…」

「っ!」

背後から微かに声がして振り向くとそこには女子高生姿の少女がいた。

「……」

信じられなかった。たとえ本当でも夢としか感じられなかった。

「えーと、その…」

状況が予想以上に唐突すぎて、言葉が思いつかない。

視線を逸らしたりして言葉を探す内に少女は、

「人だ!!めちゃくちゃ久しぶりに見た!!」

と大声で駆け寄って来た。そして思いきり飛び込んできたので受け止めた時に若干の痛みを伴った。

「うわっ…!っと、びっくりした…」

「人だ。ふふふ、人だぁ♪」

抱きついたままずっとすりすりと頬ずりをしている。見た目の割に幼いように思えた。

 

 

PM3時00分頃

 

かれこれ1時間だ。ずっと俺の体に抱き着いてひたすら頬ずりしている。どうやらまったく飽きる様子を見せそうにない。

「あ、あのさ、君。そろそろ離れてくれないかな?」

「んふふ〜、やだ♪」

「えぇ…」

変な場所に来て二日になるが、この少女は今まで一体どこにいたのだろうか。街全体は走り回って見たが、どこかですれ違ったのだろうか。

「……君も人を探してたのかい?」

「うーん、最初は探してたけど、途中から諦めてずっとここにいる!」

「ずっと?一人で?」

「うん」

「寂しくないのか?」

「うん、寂しくないよ」

ずっといる。この変な場所は前から存在しているようだ。

「いつからいるの?」

「んーとね、10年前くらいから!」

「!?」

10年、容姿的におよそ17、18。つまり8歳くらいにはもうここにいたことになる。なぜそんな小さい頃からこんな場所にいるのかまったく見当がつかない。

「どうしたの?」

「……い、いや」

「??」

「多分知らないとは思うけどさ。ここから出る方法とか知ってる?」

「知らない」

「はは、だよね」

人がいるだけマシかとため息をついた。

「ねぇねぇ!おじさん!」

やっと離れた途端におじさん、と呼ばれた。

「まぁ30になるし、いいか。で、なんだい?」

「一緒にいていい?」

「あぁ、もちろん、構わないよ」

少女は嬉しそうにまた抱きついてきた。

「じゃあおじさんの家に行く!!」

「へっ?」

流石にそれはまずい。思わず黙り込む。

「だめなの?」

「いや、だめ、ではないんだけどね」

 

PM8時00分

 

鍵を開け、少女を先に入れた。汚い部屋でも少女は気にしなかった。

「わぁ、なんかここ私の部屋みたい」

しんと静まり返る部屋。

「君も片付けられない系なんだね」

上着をベッドに放り投げて、冷蔵庫を漁る。

「よくお母さんに怒られた」

「俺もだ。さ、とりあえずご飯を食べて今日はもう寝よう」

二日間で色々ありすぎてもう何も考えたくない。

少女はおかずよりご飯を3杯も食べてすぐに寝た。テーブルに顔を突っ伏して。

「ほんと、子供みたいだ」

苦笑しつつ、横に寝かせようとお姫様抱っこをした。

「初めてやったけど……すごい恥ずかしい」

ベッドの前までやって来て、寝かせた。

「こういう時は男が床で女がベッドとかに寝させる方がいいよな…」

ぼーっと少女の寝ている姿を見つめる。

「……」

(体つきは結構良い。)

「何考えてるんだ俺は。さっさと寝よう」

頭を横に振り、部屋の電気を消した。

いつも寝ていたベッド。いつもは自分が寝ているが、今は少女が寝ている。ただ、これがまだ夢じゃないかと疑う。夢と信じたいが為に、眠りにつこうと必死だった。

「……」

(これは夢なんだ。偶然こんな夢を見ているに違いない。そう思いたい。彼女のように10年もここにはいられないんだ)

しばらくして、眠りに落ちた。

 

こうして、彼の一日は終わった。




すっかり間が空いてしまいました。
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