かの者は現代にして伝説。自らの拳を「二の打ち要らず」と称した最強の一角である。
そんな人物の子孫にして武技を継いだ青年が今、川神へと降りたとうとしていた。
ただ背は高いので180前後で。
中国——秘境“梁山泊”。
今尚小説や童話、伝説にて語られるその場はとある島国にある“川神”に次ぐ武の聖地である。一般人までは知られてはいないが、傭兵家業を主とする
曰く、
——未来予知、針鋭の蛇矛で敵を薙ぎ払う
曰く、
——大火豪炎、噴火の如く高温の炎で焦土と化す
曰く、
——絶対複製、視界に入る武技を全て理解し構築し扱う
曰く、
——野生賛歌、凶暴な獣を模す型で力によって制圧する
この世界にステータスと呼ばれるものが明確に示されるならば、彼女らのパラメーターは間違いなく人類最高クラス、黄金の遺伝子を持っていると言える。その力の源は皆共通して“異能”と呼称されており、さらに力を飛躍させている。
そして、
そんな人類最高クラスの人材が集う梁山泊に……
「——八十四人目ェ! 呵々っ! 全員負ければ俺の子どもを産んでもらうぞ!」
襲撃者がいた。
その人物は男、身なりは現代でいう旗袍——昔は女性を指す言葉だが今では男性服も統一された——、赤い麻布を基調とし下には黒い衣服を纏っている。年は少年期を抜け青年期に入り少しした程度だろうか。多感な時期で思春期とも呼ばれる青年は『子どもを産んでもらう』などと言うが、その眼差しと武技は常軌を逸していた。
「くっ、はぁ……!」
漢服を纏う鉄扇使いを彼は己の“槍”を持って制する。この梁山泊では上位陣に入る名も知らぬ彼女を彼は無傷で、両肩に石突きを入れると不能にし、穂先を首に添えることで勝利を示した。
「八十五人目」
その数を一体何の数だと思うのか。それは明白で、この最高の遺伝子と能力を持つ梁山泊の百○八人の武人たちを負かしてきた人数である。それも連続で、一対一の武練場から試合中飛び降りて足をつけば敗北という誰しもが納得するという遣り方でである。
添えた槍を退けると、気が緩んだのか八十五人目の彼女が立ち昏みを起こす。
「——大丈夫か?」
「あ、はい……」
右腕でその体を支えると、場下に流れるような動作と共に降りて寝かせた。
「俺の子供を産んでもらうんだ、このくらいで立ち昏みを起こしていたらヤっていられないぞ?」
「は、はいぃ! あ、ありがとう、ございます……子供……」
素早く武練場へと跳び上がると、普通の槍より長さが幾分かある大槍を振るう。
「——我が名は“
空気が震える。
残りの星たちと、既にやられて試合を観戦するだけになっている者たちは大きく眼を見開いた。
それもその筈『神槍・六合大槍』、その名は中国拳法家に名を知らぬ者はおらず現代人であるが伝説となっている人物だ。そして、見開く者の中にその実力に焦っている者がいた。
(なんて力だ……あれは、間違いなく六合大槍……。いや——)
天魅星・宋江であった。
星屑のような銀髪を持つ彼女にしては珍しく冷や汗をかいている。幸い周りの星たちには築かれていないが、親しき者らが見ればその様子を訝しげに思うことは間違いない。
(私が
梁山泊首領・宋江には必ずある共通点がある。それは初代より今代まで記憶が受け継がれることにある。数多ある歴史の中には強者たちの記憶が残されており、李 書文のものも当然あった。そして、四代前の宋江に至ってはその李 書文に殺されている。
(まだ若いため経験は少ない。だが武技の強さに疾さ、あれは人を超越しているのか……)
「——天勇星・関勝! 推して参る」
「破ァっ! 来い!」
目の前では五虎将と呼ばれる屈指の関勝が青龍偃月刀を構えかかっていく。それに対して鳳文は滑らせるように槍を流した。
「くっ、やるなっ!」
「そっちもな!」
男勝りな関勝の心さらにヒートアップして行き剣と槍の戟は加速する。
「——
刃を破壊するために放たれた一撃。真正面から打ち合っていた鳳文だが込められた気力から直感で読み取り、横に縮地することで躱す。関勝の一撃は何百年もの間黒曜石と火山性石を練りこまれた武練場にヒビを入れるほどだった。
「なっ!?」
「叩き合いだけが武では無いぞ!」
偃月刀の持ち手に槍がしなる勢いで振り下ろす。意地でも離さない心意気で戦う関勝でもその神経を突き刺すような痛みに耐えられずに落としてしまった。
「俺の勝ちだな」
「……っ!」
関勝は負けたことに悔しそうに、はたまた白熱する戦いを簡単に終わらせてしまった自分自身に怒っているのか苦々しい顔をしながら武練場を降りた。
「む……」
パサリ、と鳳文の髪の毛が舞う。橙色と赤に近い色をした髪はぼさぼさのまま肩甲骨辺りまで伸ばされている。
「はぁ。さすがにあの勢いで何度も動くとゴムが劣るか……。関勝、すまないがお前の髪留めを貸してくれないか?」
「……はっ? 俺の?」
「うむ」
「まあ別に良いけどよ」
鳳文は深緑に近い髪の毛を束ねる髪留め——と言ってもヘアゴムに草花の飾りがついた程度——を受け取ると上の方で巻いた。
「ふぅん。中々どうして髪を下ろした方が依依じゃないか。あとで可愛がってやるからな」
「なっ、ばぁじゃからっっっ!
ばばばばかなこと言わんではよ行けッ!」
「呵呵々、可愛いよな」
「うがーっ!」
またもや一跳びで武練場に上がる。
「——さて、次は誰だ?」
(こう言うとこもタチが悪い)
「——私が行こう。天雄星」
彼女の名は林冲。
この梁山泊の中でも時折出る最強は誰だ、という問答で必ず上がる名前でもある。
「林冲、手合わせ願おう六合大槍・李 鳳文」
「やっと出てきたか林冲。先程からの気配、感じていたぞ?」
「本当ならばみんなを守るために一番槍として出向きたかったが、正々堂々の試合ならば私たち梁山泊にも体裁がある。五虎将である私が最初に出るわけにも行かない」
「良き心よ。だが今にて言葉は不要。語りたければ——槍で語り合おうぞ!」
「無論、そのつもりだ——ッ」
中心で二人の穂先が交わり振動が伝わる。下で観ている者らは演舞かと見間違うほどの戟に心を奪われていた。その中でたった一人、宋江は切に願うのだった。
(勝ってくれ林冲。ここでお前が負けてしまえば残る者たちも勝てないと証明されてしまう。そうじゃないと——本気で梁山泊が赤ん坊だらけになりそうだ)
* * *
「豹撃・十二連刺突!」
林冲の穂先が振れる。その速度は最早常人には見切れぬ速度で視認出来ない速度だろう。いや、事実視認はしているが脳が理解出来ない速さと言った方が正しいか。
「ふっ——! 」
風に吹かれる柳の如く十二連撃全てを躱すと林冲に肉薄した。自ら持つ大槍も間合いを侵入し過ぎれば振るえなくなるものだがその考えをぶち破るかのようにまるで打者のように
薙ぎ払った。
「っ」
全くだに予想できない林冲はそれをいとも容易く躱す。明確な一撃を入れられていないのはお互い様で、推しているのは鳳文であったが回避の部分で林冲は大きく優っていた。
——完全不可避の攻撃だったはず。あれを避けるには俺の身体の後ろを見るくらいの視界が必要なはず
異能、その可能性を考える。これまでの戦いにも電気、水、加速……色々な異能があった。だからこそ、視界を変化もしくは後ろにいる観ている彼女らの視界を共有するなんて異能があるかもしれない。
——ならば、
「廻回—横凪!」
ここに来て初めて技を使う。技とは初めから決まった型で、自分にはあまり合わないと使わなかったが林冲への様子見も込めて使用する。
長槍の性質を利用、自らの身体をテコの原理で瞬時に腰へと槍を回すことで可能にするほぼ同時の左右からの薙ぎ払いである。
「っ! ……!」
——避けた、か
音速を超えた超音と共に林冲は後ろへと一歩下がって避けた。
——いや、あそこまで行くと最早……
「廻回—大車輪」
下がった林冲に向けて振り下ろす。しかし横に逸れて躱される。
「廻回—蝮突」
穂先を中心にして、対角になるように移動し突き先が“予測”出来ない一撃を出す。
「私は——」
左右上下斜めと縫うように移動する穂先を顔すれすれで弾き返した。
「みんなを守るために……」
——種が分かれば簡単などと耳にするが、これは
「負けない——黒豹・三十六連撃ッ!」
銀色の穂先は光を反射して青い線を空間に塗っていく。それが無くなるより早く引かれ突かれる鳳文は、
「——むっ!」
遂に一撃をもらう。
左胸、心臓の下。直撃は免れようと身体をそらしたがそれより先に林冲の槍が捉えた。
「これでもまだ削りとれないのか……!」
「——」
それが所謂
不意に、耳に空気を擦る音が入る。
油断したわけでも無かった。否——それどころか自らの異能である“未来予知”ですら自分が理解するのが遅れたくらいの速さだった。
目の前に、槍をもつ鳳文がいる。
すでに繰り出す体勢が整っているのか林冲に残された選択は下がることのみだ。
今見えている未来は頭を狙った刺突、つまり横に行けば躱せる。
(——!?)
その考えが肉体に反映されようとした時、細身ながらも収縮して質量のある筋肉の繊維が一本横移動へと移行した瞬間見ている未来が変わった。
(右に躱せばそのまま縦で斬られる!)
ならば左へ、
(また、か……!)
左行けば先ほどの横凪による一撃。
(下は)
石突きによる頭への殴打。
(上でもダメなのか!?)
振り下ろしによる迎撃。
それは繰り出されていないにも関わらず、間違いなく不可避の一撃だった。
(! これは)
光明が差した、とはまさにこのこと。有限の中に訪れた無限のように停滞した時間の中で林冲はただ一つの可能性を見詰めた。
「取ったぞ、天雄星・林冲ぅ!」
「——地翔龍ッッッ!」
額に刺突が入る。意図的に刃を潰していたがその痛みは焼けるように広がり林冲の表情を苦悶に歪めた。だが培ってきた鍛錬の成果がここに来て発揮された。痛みを一瞬遮断し、林冲が出した地面——武練場への攻撃。それまさに、地から天へとの翔ける龍のように粉々に砕かれたおよそ20m四方の武練場だったものを高く上げた。出来るだけ大きな破片を選び、相手より先に落ちてまいるかと上空へと林冲は跳び上がった。
「……」
油断は出来ない。
土煙と破片が未だ飛んでいる加速した世界の中、林冲は未来予知よりも速く眼を動かしてその姿を探す。そして、
「——まさか、壇場を破壊するとはな……」
声がする。
その方向に眼を向けると破片が重なり今一度よく見えないが恐らく——地面に斜めに突き刺された六合の大槍に、バランスよく立っている鳳文の姿だった。
「さて」
鳳文は空中にいる林冲を見据えると二度三度跳躍し、しなる槍に身を任せ——跳んだ!
「しま——」
反射的に林冲は槍を振るう。しかし、今まで気付かなかったようで槍は最後の攻撃で根元から折れており、普段から愛用していた長さを想定した攻撃は空気を撫でることに終わった。
「互いに武器は無い。お前も体術を鍛えはしているだろう」
だが彼はそれ以上に、
「我が拳——二の打ち要らず、一つあれば事足りる」
圧倒的体術の差に、林冲は拳を構えることすら不可能だった。
* * *
「俺としては遺憾だが、俺が決めたルールがこなせないとなれば仕方ないか」
林冲を下した鳳文は林冲のほうが先に地面についたとして勝利した。だが武練場が大破した事により『武練場に先に足をついたほうが負け』というルールが前提の元こなせなくなったため宋江により中断され、中止された。
「さすがに私たちにもマスタークラスの武人らがすぐに闘えるような舞台を作れる者はいない。錬成ならあるが規模が少ないゆえ時間がかかる」
武練場からそのまま宋江の部屋に通された鳳文は二人で話し合っていた。
「ああ、理解している。先ほどの闘いで俺は満足しているからな。戦闘欲は」
「ふむ、それならば良かった……ん?」
守ろうと闘った林冲は負けてしまったが、結果的に中止になったためそれは達成出来たと言えるだろう。
「ここまでの闘いは久しぶりでな。身体がまだ昂ぶっている。……ん、中々良い身体じゃないか」
いつの間にか回られたのか、身長差により完全に鳳文の身体に猫のように収まった宋江は取り乱す。
「や、やめろ! お前はなにをしてりゅんだ!」
「ほら、お前の世話係も察したのか隣の部屋に布団を敷いてくれている」
「そんな勢いでするもんじゃ……」
「若いうちは火遊びはするべきだ」
抱き抱えられたまま布団に連れていかれる。西洋寝具並みにふかふかの敷布団に収まった宋江は何故こうなっているのかと煩悶するだけで抵抗はしなかった。
最初は無口を貫いていた宋江だったが、その部屋から梁山泊施設に猫撫で声が響くのは数分後だった。
* * *
予定は一週間だった。だが経っているのは一ヶ月だった。
「もう行くのか」
「ああ。元々ここに来たのは東に行くついでだったからな。最初は梁山泊だと知らなかった」
「とほほ、ついでに梁山泊は襲撃され私は抱かれてしまったのか……」
「お前のことは忘れないぞ宋江。それに二年経てばこんな良いところまた戻って来るつもりだ」
「二年、長いなぁ」
「安心しろ、学校には長期休暇というものがある。その時には戻って来て抱いてやろう」
「全くもってお前は、高潔な武人だと思ったらとんだ好色野郎だな!」
「ふっ、褒めるな」
「褒めとらんわ」
さて、と一旦話を区切る。
鳳文の手には一枚の紙が握られている。
「まさか九鬼の従者部隊が早よ来いと連絡しに来るとはな」
「というかお前はその九鬼の末娘に雇われて行くんだろう?」
「紋白だな、フランスで偶々会って偶々テロに巻き込まれてたから助けた」
「それはなんとも災難な娘だ」
「ああ。……それより、最後の夜だ。たっぷりと可愛がってやるからな宋江」
「あっ……」
「勿論、そこで聞き耳を立てている者らもな」
そう言うと襖奥からどたっと音がした。
* * *
武の聖地——川神。
そう呼ばれるのはいつからだっただろうか。武神・川神鉄心が立てた川神院は世界の軍事を塗り替えるほどの力を持つ。その存在は江戸後期より語り継がれるほどの長寿で、今尚最強の一角を担っている。
そんな者が学園長を務める学校に『神槍・六合大槍』を名乗るに相応しい若くして鬼才——李 鳳文が訪れる。
これは、そんな彼の序章であり始まり。これからの人生、波乱万丈かそれとも……——
この男がやったこと。
フランスでモンプチ救う。
それで放浪してたら紋ちゃんがその力を見込んで百代倒せと依頼。了承。
川神に向かう(歩き)
梁山泊見つける。可愛い子を多い。抱こう! 襲撃。
梁山泊? よく知らないけど全員抱いた。
川神行って来るわ。