どうも皆さん売れない画家です!
プロローグが始まってから9ヶ月と言う長い間本当にお待たせ致しました!
そして何よりこの作品を楽しみに待って下さった読者の皆様には土下座して謝罪させて頂きます。
大変長い間お待たせしてしまい申し訳御座いませんでした‼︎
実は作者もリアルでは行事やテストとかテストとかテストとかテストテストテストテストテストテストテストテストテストテストテスト…
すみません、少々乱れてしまいました。
それでは長らくお待たせしました、"1話"です。どうぞ!
今日は清々しい朝だ。
そう言いながら、金髪が特徴な女性は背伸びをする。
外見は二十歳ほどだろうか。黄昏にに燃える麦穂のような豪奢な金髪、鮮血を想起させる真紅の瞳。その相貌は間近から覗き込めば、思わずゾッとするほど見目麗しく整っており、仄かに漂う妖しい色香が魔性を感じさせる。今は背伸びをしているが、すらりと伸びる手足が艶めかしいその肢体は、まるで美術のモデルの様に、いかにも女性らしく過不足ない完璧なプロポーションを誇っている。身にまとう丈長の黒いドレスは貞淑な雰囲気を漂わせながらも開放された胸元は一部を除いて男性は鼻の下を伸ばしながら見惚れてしまう程である。
女性の名はセリカ、この屋敷の主人である。
太陽の光が窓から家に差し込み、机やら家具などが照らされる。
今の時刻は午前八時前後であり、いつもの日課である朝食を作る準備に入る。
自分が昨日読んでいた本と資料を片付け、食料棚を見る。
丁度、パンと卵を切らしていた。
買い物に行くため籠を持ち、ついでにこの家で
「おい!グレン朝だぞ!生活習慣ぐらいちゃんと身に付けろ!」
グレンと呼ばれた青年は「ふにゃ」と寝言なのか相槌なのか分からない反応を示す。
いつもの反応だが、何故か無性に爆裂魔術をブチ込みたくなる。セリカは呪文を紡ごうとする自分の口を止め、代わりにため息を吐く。
気持ち良く寝れて機嫌が良い為か、苛つきも直ぐに四散したのだ。
もうすぐ、このニートが家に来てから一年が経とうとしている。
セリカはグレンの育ての親とも言える存在であり、十年前のある事故がきっかけでグレンを養うようになった。グレンは昔、今みたいに「働いたら負け」と呑気に言える人間ではなくちゃんと帝国の重要なポジションの職業に就いていたのだ。
だが、その職業が過激すぎる所為か心の支えとも言える仲間を失い今に至っている。
セリカは少し思い出に浸り、もう一度グレンを見て微笑を浮かべる。
「小さい頃は『正義の魔法使い』になりたいって言っていたのにな〜」
グレンは小さい頃、ある本に影響されて『正義の魔法使い』を目指す様になったのだ。だが、さっきの通り過激な仕事に就き現実を知って精神的に大きな傷を負った。
社会復帰が困難な程に……
しかし、セリカは断言出来る…
グレンはまだ、『正義の魔法使い』を諦めていない事を……
気付いたらもう8時15分を過ぎようとしている。
セリカはグレンの部屋を後にして玄関へ向かう。
其処には魔術でロックが掛けられている大きな靴箱が有り、セリカが呪文を唱えるとガチャという後をたてて靴箱が開き黒いヒールがセリカの目の前まで飛んで来てセリカの足に収まる。
よく見ると靴箱の中には沢山の高価であろう靴やヒールが揃っているがセリカは気にかけることも無く門を開く。
眩しい太陽の光が目に入り、空には雲と"メリガリウスの天空城"が浮かんでいる。
いつもながらの風景に少し安堵し、何年も前から通っていた朝市場に向かう。
セリカはわざわざ食料を買いに行くなんて滅多にしないのだが、今日はなんとなく外に出たい気分だったのだろうか、いつもより少し笑顔であった。
周りを見ると、馬車や商人達で賑わっている。
だがこの時間帯で一番多いのは、アルザーノ帝国魔術学院に通う生徒達だ。
アルザーノ帝国魔術学院はおよそ四百年前、時の女王アリシア三世の提唱によって巨額の国費を投じられて設立された国営の魔術師育成専門学校。今日、大陸でアルザーノ帝国が魔導大国としてその名を轟かせる基盤を作った学校であり、常に時代の最先端の魔術を学べる最高峰の学び舎として近隣諸国に名高い。現在、帝国で高名な魔術師の殆どがこの学院の卒業生である。
ちなみにセリカもその学院に教授として所属している。
学院の生徒達はセリカを見るなりポカーンと目を開きそのまま突っ立っていた。
それに対してセリカは少し手を振りそのまま目的地に向かう。
歩いている内に、沢山の店が並んだ郊外に着いた。
人の話し声や、いらっしゃいと言う勧誘の声も、職人が鉄を打ち付る鈍い音も全て耳に入る。
自分の目的地まで着いたら、さっそくパンの良い匂いが漂ってくる。
「良い匂いだな…」そうセリカは呟き、他の市場に目もくれずにパン屋に向かう。
心なしか、少し肩からずれ落ちている籠を直そうとした
その刹那ーー
ーーーー世界が悲鳴を上げる……
「……ッ!?!?!?!?」
今まで感じた事も、触れた事もない、膨大な魔力がセリカを襲う…
自分を膨大な重圧が地面に打ち付けるように掛かり、セリカは顔を歪めながら必死に抗う。
何の前触れも無く起きた"それ"は大陸最高峰の魔術師のセリカですら抗いきれない程の魔力量であり、神や邪神を軽く超越したものだと言われても過言ではない程である。
ーーセリカ=アルフォネア
セリカ=アルフォネア…彼女は超が付いてもまだ足りない程の魔術師であり、人間では到達は不可能とされる第七位梯まで到達した魔術師である。近代魔術史の教科書に、度々名前が出てくるのはまだ序の口。曰く、二百年前の魔導大戦で邪神の眷属を殺した英雄、曰く、とある町一つ虐殺した殺戮者、曰く、帝国軍で戦略兵器扱いされていた《灰燼の魔女》、曰く、実は古代魔王の生まれ変わりーー等々、枚挙に暇がない。
そんなセリカでも…まるで赤子だと嘲笑うかの様にその魔力は世界を侵食していく……
周囲からは悲鳴、人が倒れる音が生々しく聞こえる。
辛うじて顔を上げると、魔力中毒の所為か学院の生徒達は男女問わず皆気を失い…中には嘔吐したり悲鳴を上げてから気絶する痛々しい光景もあった。気絶した生徒達は全員白目を剥いており脳までが正常な判断が出来なくなっているのか「あが…っ…あがっ…」と奇声を上げながら痙攣している。この光景だけで誰が魔術師か一目瞭然であった。
魔力を感じる事が出来ない市民達も世界を包み込むかのように漂いだした禍々しい"何か"に気付いたのだろう、彼等の緊張感や恐怖している顔が表情から窺える。
だが流石と言うべきか、数秒間唖然としていた市民達は直ぐさま気絶した生徒達の介護に当たった。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
「なっ何か安静に出来る物を!」
「医者を呼んでくれ!」
「死ぬんじゃないぞ!」
此処はアルザーノ帝国の南部、ヨクシャー地方のフェジテと呼ばれる都市である。フェジテの最大の特徴はアルザーノ帝国魔術学院が設置された、北セルフォード大陸でも有数の学究都市だという一点に尽きるだろう。魔術学院の設立と共に生まれ、魔術学院と共にに発展して来た町である。だからであろうか、この都市では魔術師は町の宝珠として扱われており、市民達も必死に対処している。
しかし、そんな中でもセリカは顔を上げるのが精一杯だった。
「…っ、くっ…そ……」
セリカ何も出来ない自分に毒づき、自分を侵食しようとする魔力を防ぐため【白魔術】を唱えようとするが、全身が痙攣し省略一節詠唱すら出来ない。
恐らく今倒れている魔術師や生徒達は後10分も、この魔力を浴び続けたら死ぬ。
だが、セリカの『内なる声』までもがヤバイ、これは本当にヤバイ、ーー早く逃げろ!とセリカに必死に告げて来るのだ。
(固有魔術【私の世界】ならば……)
セリカは自分の切札の"時止め"で世界を侵食する魔力からの干渉を離脱する算段である。しかし、身体が痙攣している状態であり懐にある【私の世界】を発動させる条件の一つである『ラ=ティリカの時計』を取ることは愚か、腕を伸ばす事も出来ない。どうすればっ!どうすればいい!思考を必死に張り巡らせている瞬間…無意識なのか、又は強者への縋りなのか、地面に這い蹲っていた生徒の指先がセリカの足元に当たる。
多分この子は、「死にたくない!」という思いが人一倍あったのだろう、生存本能がやっとの想いで強者であるセリカの足元まで辿り着いたのだ。その女子生徒の顔を見ると目は涙含んでおり、口からはヒュー、ヒューと少しでも体を安定させようと必死に空気を取り入れている。本当は美人だろう、整った顔はただ生きる事を優先しており歪んでいる。
その瞬間セリカの中で何かが切れた。
まるで身体の奥から込み上げる様な何かは……
昔のセリカなら決して、得られなかっただろう"もの"。
「救わねば!」という使命感である。
セリカは自分の魔力を放出する。内側から魔力(マナ)を大量に放出する事で外側からの侵入を押し返す事に成功した。魔力の放出は消費が激しいが、今はそんな悠長なことが言える状況ではない。セリカは魔力を放出させながら自分に白魔術を掛け、ひとまず放出を和らげ精神状態を整える。
「ちっ…魔力だけでこのザマか……」
セリカが記憶を失くしてから生きて来た400年間…こんなに膨大な魔力を感じた事がない。
200年前、自分の大切な親友を奪った邪神の眷属もこの魔力に比べれば、笑いが出てしまう程ちっぽけだ。
セリカは急いで倒れた生徒達に白魔術を掛け精神を安定させる。
隣では医者が必死に治療しようとしているが原因不明だ!と…何処が悪いのかも分からずお手上げらしい。
当たり前である、魔術師ならともかく、一般人に魔術師特有の症状など分かっていても対処は出来る筈がない。
セリカが次々と生徒達に白魔術を掛け、残りの数が片手で数えられる数になった時…
永遠に続くと思われた膨大な魔力の重圧は、まるで最初からそこに無かった様に消滅した。
市民達も、空気が淀んだものから清らかなものへと勘付いたのか、少しずつ顔に安堵の表情が戻って来る。
だが、セリカだけは未だ警戒している。生徒達の治療を終えたセリカは直ぐさま今の現象に思考を唸らせる。
(今のはなんだ?神か?邪神か?いや、もっと強大な何か…)
(グレンは大丈夫なのか?)
(強大な魔導実験の影響か……)
違法な魔導実験をしている組織は、数個分かるのだが、彼等がこんなにも強力な魔力を持てる筈がない。何故なら、先程の魔力は人の"それ"では無く、人を辞めた者でも制御すら出来ないだろう。
(それとも、何かの封印が解かれたのか?)
今の時代で未だ発見や解明されていない古代遺跡などは多く、もし天の智慧研究会が帝国の発見出来ていない遺跡を牛耳り其処に封印されている"何か"を復活させたのか…
(いや、世界の終わりの予兆か⁉︎)
セリカは魔力の重圧に打たれた時、微かに聞こえたのだ…
世界が悲鳴を上げたのをーーいや怯えているとも言っても良い。
世界がまるで…今を美しく生きる少女が、残り数日で終わりを迎える寿命を恐れるように……
なにより、今まで静かに自分の成すべきこと指示して来た『内なる声』が焦りながら告げて来たのだ。
考えれば、考える程、樹形図みたいに広がる可能性と言う概念が忌々しく思える。
ひとまず先に学院に行き、救助を要請し、その後帝国宮廷魔導士団に連絡しなくては。
(もっとも、彼等に解決出来るとは期待していないがな…)
セリカは少し自分の元職業の同僚達を思い出す。全員自分の足元にも及ばない弱者の記憶しか無く、今でも例外はいるが変らないだろう。
「もちろん!グレンは例外だがなッ!…」
セリカは、自分の親バカ属性が出て来た事に気付き、この緊急事態に自分は何を言っているのか⁉︎と…自問自答して気を取り直す。
だが、未だに永遠者であるセリカにの体に刻み付けるかのような魔力の痕跡は残っている。
この魔力は何処から来たのか…まるで魔術という枠から逸脱している"モノ"を使うための…
未だ正体さえ分からない"何か"にセリカは戦慄するーー
その根源が黒歴史を作ってしまったとも知らずに……
ーーーーーーーーーーーーーー
(………………)
(………………………………)
(………………………………………………………)
「やってしまった……」
モモンガは顔を仏伏せながら呟く。
(一歩目でどういう悪夢だよコレ…)
せめて「ブヘッ」と言う声を出さなかっただけ、マシなのかもしれない。
モモンガは元に男性であり、ヒールなど生まれてこのかた履いたこともなく…盛大にズッコケたのだ。
醜態のあまり顔を上げられない程に…
「これ他人に見られたらただの恥晒しじゃないか。」
ん?他人?……
モモンガはバッ、と起き上がり…即座に周りに誰もいないかを確認する。
(ホッ、誰もいないようだな……)
「てか、ギルメンに見られたら腹抱えて笑う奴が簡単に頭に浮かんで来るんだけど…」
特に、モモンガと仲が良かったペロロンチーノなどは良い例だ。
モモンガは自分の黒歴史に新たな一ページ追加された事に悶絶する。
モモンガはあまりの羞恥心でもじもじ、しながら自分の顔を覆う。顔を覆った手の隙間からキョロキョロと、周りを見渡した。やはり、景色は変わらず森であり木々が聳え立っている。横を見ると…
隣ではスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン堂々たる姿で佇んでいた。
モモンガはスタッフを見て自分の不甲斐なさに呆れ、冷静な思考を取り戻す。
そういえば、さっき転んだ時痛くは無かったが、微かな衝撃は感じた。
つまりこれは感覚ーー"現実"という事実の証拠である。
モモンガは恐る恐る胸元を見る…
そう、其処には予想通り谷があった。モモンガとは全く縁が無かったともいえる桃源郷…
自分の意識とは別に手が勝手に伸びてしまう…
ムニュ…
ドレスの下には僅かに固い感触があり、その下で柔らかいものが形を変えるのがモモンガの手にも胸にも伝わって来る。
(………なにやってるんだろう…俺……)
第三者から見れば、女性が自分の胸を揉んでいる、なんとも言えない図になってしまっているのはモモンガでも分かる。
でも、なんとなく少し羞恥も興奮もしている自分が居たのだ(douteiだからとかイエナイ…)。そして抑制される…
そう、抑制されたのだ。自分の感情の高まりがある一定の線を越えると抑制され落ち着きを取り戻すイメージである。さっき転んだ時も微妙に"コレ"が効いたのだ。
モモンガは直ぐさま胸に置いてある自分の手を離し現状を考え始めた。
「ユグドラシルのアバターのまま移転して来たのか?…」
胸を揉んだ時、某エロゲ愛好家の断末魔が聞こえたが、気の所為だと無視する。
鏡を見た時にもう証明されているような物だが、未だに信じられないのだ…
白く、胸を揉んだ後の微かな感触が残っている手は、美しくも可憐であり自分の手では無いのかと錯覚してしまう。ゲームでは骨の10本指全てに指輪の装備を付けていたが、アバターを変更した時装備していたアイテムは全てアイテムボックスに戻されていたらしい。
(念のため、付けといた方が良いのかな?)
モモンガはアイテムボックスから三つのアイテムを取り出す。
その内二つは指輪系のアイテムであり、魔力を感知させない効果や罠対策など、最低限度の装備をする。
そして三つ目は仲間達にモモンガが唯一所有者として認められた世界級アイテム(通称モモンガ玉)である。容貌は真紅色の玉であり脈打っている…効果はあらゆる武器の破壊…その効果は絶大であり世界級アイテムも破壊出来る程である。
それをモモンガは何の躊躇も無く自分のお腹の部分まで持って行き玉はズズズとボディラインを境界に腹部に溶けていく。
「あぁんっ…」
……
…………
……………………
(もうやだこの体……)
変な喘ぎ声が出たのはキノセイ、キノセイ……
モモンガは自分に暗示をかける様に呟いているが、更に追い討ちが掛かる様に腹部で世界級アイテムが脈打つ…
ドクン
「んんっ」
自分の内側から波打つ鼓動は少し温かみが感じ取れ、少し声が出そうになったがぐっと堪える。
ーー冷え症の人には助かるな…!
モモンガは生物学的な命題に挑む事で現実逃避することにした。
「あとは…この体だな…」
馴染むか、馴染まないかは別とし、身体は妙に軽く感じ、軽くジャンプすれば自分身長を遥かに上回る木の頂まで届くような気がする。
そして、この身体で一番確かめたかった事(ユグドラシルの遺産)を浮かべる。
(という事は…ま、魔法も使えるのかな?)
実際にモモンガは、リアルでの生活の中で「もし、魔法が使えたらなぁ」と思った事は一、二度ぐらい有り、今の出来事で期待していないと言えば嘘になる。モモンガはユグドラシルを始めたばかりの時に使用していた〈
「うわっ…!すごいっ!」
モモンガの元人間の本能が危険だと判断したのか、手を慌てて引こうとするが火球もそれにつられるように動く。火球が出現した時は変な声を上げてしまったが、それと同時に感動もしていたのだ。モモンガは此処が森だということを思い出し直ぐさま火球を消す。
「今更だけど、こんないっぱいな木々を見るのは初めてだなぁ」
モモンガの住んでいた時代では空気は大気汚染に侵され、外に出る時は必ずガスマスクやらバスやらに乗って通勤しなければならない。木々は人工光合成する為の貴重なもので有り
少し、鼻を済ますと強い青臭さと大地の匂い…そんな深い森の匂いは、今のモモンガの疲労している精神を癒すには十分である。
(はぁ〜、今頃みんなはどうしているのかなぁ…)
ふと…かつてのナザリックのメンバー達に想いを馳せた言葉は、風と共に流され四散して行く…
未だ記憶に鮮明に残っているギルドメンバー達のボイスチャットの声は思い返す程モモンガの心を締め付けた。
モモンガは心の拠り所を求めたのか、寂寥感と共にスタッフに手を伸ばす。
スタッフに手が届いたその刹那……
モモンガの中にアインズ・ウール・ゴウン黄金期世代の記憶が滝のように流れ込んでくる……
まるで、スタッフがモモンガを励まそうとする様に…
(ああ…)
ギルド武器を作り上げるために皆で協力して冒険を繰り返した日々。
チームに分かれて競うように材料を集め、外見をどうするかで揉め、各員が持ち寄った意見をまとめ上げ、少しずつ作り上げていったあの時間。
仕事で疲れた体に鞭打って来てくれた人がいた。
家族サービスを切り捨てて、奥さんと大喧嘩した人もいた。
有給休暇を取ったぜと笑っていた人がいた。
一日おしゃべりで時間が潰れたことがあった。
冒険を計画し、宝を漁りまくったことがあった。
敵対ギルドの本拠地である城に奇襲を掛け、攻め落としたことがあった。
世界級エネミーと言われる最強の隠しボスモンスター達の手にかかり壊滅しかかったことがあった。
懐かしい思い出が次々と浮かび上がる。
しかし共に、1人1人とナザリックから去って行く記憶も露わになる。
一人孤独に残った寂しさはあるが、同時に言葉では表せない何か温かいものが…確かに心にとどまったのだ。
モモンガは自分の頭一つ分ぐらい大きいスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを強く握りしめる。スタッフは呼応するようにはめ込まれたクリスタルから、各種の色が漏れ出し、周囲に揺らめきをもたらす。七色にきらめく光はまるで夢の世界に迷い込んだような美しさであり……
「綺麗だなぁ…」
率直な感想だが、思わずモモンガは我を忘れその世界に呑まれてしまう。
だが、しかし次の瞬間ーー
モモンガは自分の左肩に微かな痛みが走ったのを感じた。
慌てて背後を振り向くと、其処には山高帽を目深に被った青年が木の上に突っ立っていた。青年の周りには炎に包まれた拳大の赤い結晶体に、一対の翼がついたような謎の半霊体生物?が浮かんでいる。そして青年の横には天使みたいなのが一体控えており左手には黄金の剣を持っていた。
多分モモンガはその赤い半霊体生物に攻撃されたのだろうと仮定する。
モモンガを攻撃して来た青年はモモンガを見るなり「アカシックレコードを渡して貰おう!」と、罵って来たのである。
モモンガは夢から無理矢理引き戻された様な不快感はあるが、冷静に判断する。
(あ、アカシックレコード?……)
アカシックレコードなど、聞きた事も無く自分のアイテムボックスにもそんな物は無い。それでもモモンガは元サラリーマンとして紳士的に振舞おうと…
「えっと、お名前お伺いしても…?」
よくよく考えると、この異世界に来てから初めての人間との接触である。なるべくフレンドリーに接したいのだ。だが同時に男(青年)の周りにいる変な天使?達に警戒する。
(ユグドラシルでは、見たことのないモンスターだな…)
ユグドラシルには
さっきの質問に対して男は少し考える素振り見せ…直ぐに嵌めていた手袋を外しモモンガの方に投げる。
投げられた手袋を警戒して後ずさったモモンガを無視し、青年は名乗り上げる。
「僕の名前は、ジャスティス「ブフォ」=ロウファン、まぁ今から死ぬ君には関係n…」
(あっ)
モモンガは慌てて口元を塞ぐ。
青年がジャスティスと名乗った時、不覚にも吹いてしまったのだ。笑ってしまった原因はナザリックのリーダー的な存在"たっちみー"。当時モモンガが初めてユグドラシルを始めた時に助けて貰った恩人であり、"たっちみー"という名前じゃなかったらジャスティスと付けてそうな勢いの正義感が強い人だったので、連想してしまったのだ。
(そういえば、課金してまで背景エフェクトに「正・義・降・臨」とか付けてたよなぁ〜たっちさん…)
何となくだが、かつての仲間達を想うと不思議に心が温かくなる。だが、相手に失礼な事をしてしまったのは事実。途中、頭の隅から出てきた「厨二病かな?」と思った考えを揉み消す。
(この世界では普通の名前かもしれないな…ちゃんと謝らないと。)
前をチラッと見ると、青年はワナワナと、今にも爆破しそうな怒りを抑えている状態で…あっ爆破した。
「貴様ァァ!正義に選ばれし僕の名を侮辱したなッ!殺れッ!【彼女の左手】!」
次の瞬間、ジャスティスの横に控えていた天使?が左手に握る黄金の剣をモモンガに向けて振りかざす。
「あ、あの名前を笑っ、うわっ!」
天使の振りかざした黄金の剣。まさに人を両断できる威力はモモンガの無防備な肩をなぞる様に切り裂く。
筋肉はもちろんのこと、身体を支える骨は切断され白く美しい肌は右半身と左半身が分かれて大地に転がった。酸っぱいような臭いが周囲に広がり、青々しかった草原は真紅に染まり、ピンク色の内臓がどろりと断面からこぼれ落ちる。
ーー本来そうなるはずだった。
代わりに聞こえたのは「イテッ」と言う声で、切り裂かれる筈の白く美しい肌は未だ健在だ。
ジャスティスは自分の目を疑う。疑わずにはいられない。何故ならこれ以上ない迄に完璧な決まり方だったのだ。当たる前ならば防御の呪文を唱えれば防げただろう。しかしあの女は何もせずに平然とやってのけた。
(いや…何かのマジックアイテムを装備しているのか?)
確かに、女性の着ているドレスはこの世の物ではないかと錯覚させられる程の代物であり女性もそれに見合った美貌を持っている。だが、【彼女の左手】は何も覆っていない右肩を狙ったし魔力(マナ)の反応も無かったのだ。女が『
(あの力はあまりにも人知を超えているッ!人が触れていいものじゃない!ゆえに資格がいるーーーあれに触れていいのは絶対的に正しい人間だけだッ!)
ふと疑問が残る。
絶対的に正しい人間しか触れられない筈なのに何故この女が持っている?
それともこの女は絶対的な正しさを持っているのか?
いや、違う!あんな小娘が持って訳がない!
(なら何故、僕はここに来た?……)
(あの魔力の重圧は何だったんだ?…)
ジャスティスの中で次々とピースが揃っていく。
やがて揃ったピースは自分にとって最悪な物だと知った。
そう。狂わされたのだ。
事態に関わる人間達の行動パターンを完全分析・計算し、予知に近い行動予測が可能になり、自分の望み通りのシナリオを何百パターンと書く事が出来るジャスティスの
自分はこの女、いやこの魔女に嵌められたのだ。
シナリオを書き完璧に人間達を操る側として君臨して来たジャスティスは、今、初めて操られる側に成り果ててしまったのだ。
「おのれエェェ!!!この魔女めえぇぇぇぇ!!!!!!」
ジャスティスの『魂』から搾り取った様な憎悪と殺意が混じった怒濤が女に届く。
女はジャスティスのビリビリと空気が震えていると錯覚させる程の怒濤を聞いても、顔色一つ変えずに微笑を浮かべている。まるでジャスティスが滑稽だと嘲笑うかの様に…
ジャスティスの中では魔女が剣をくらっても無傷だった事はもはやどうでも良かった。今、頭の中には、地に叩き落とされた人形師としての癒す事の出来ない屈辱と、この魔女を殺す事である。問題はどうやってこの魔女を殺すかだ。
この女はジャスティスの
さもないと今までの仕掛けて来た大切な
「死ねーーーーッ!」
ジャスティスの声に応答する様に、【彼女の左手】は追撃を加えるべく左手を高く上げ黄金の剣を振りかざす。
ーーーーーーーーーー
「イテッ」
モモンガは油断し過ぎた。
相手の名前を笑ってしまった自分も悪かったとは思っているが、いきなり攻撃してくるなんて予想もしていなかった。まぁご立腹だった時に察するべきだったかもしれない。では何故避けれなかったのか?いきなりの攻撃を予想出来なくともモモンガの今の身体能力ならば簡単に避けられたし、疾風と言える速度も偉くスローに見えた筈だ。答えは簡単、単にどう対処すれば良いか分からなかっただけで、棒立ちのまま突っ立ていただけである。もちろん剣はモモンガに当たり圧倒的なまでのHPの差でモモンガは小さな石が当たった程度にしか感じなかったが、この世界特有な呪いを掛けられたかもしれない。直ぐに自分の状態を確認したが、何も問題が無かった。
(けど、いきなり攻撃して来くるって?どういう了見なんだ?)
青年はブツブツ何かを呟いていたと思ったら、急に"魔女め!"と罵倒してくるし意味がわからない。だからモモンガはーー
「えぇ…」(困惑)
という反応をするしかなかった。
魔女の次は死ね!と罵倒してくるし、本当に何が何だか分からなくなって来た。青年の罵倒と同時に天使も黄金の剣を空高く振り上げる。
「流石にくらいっぱなしだとバツが悪いので正当防衛と出るか…」
モモンガは即座にスキルを発動させる。
ーーー中位アンデット作成
モモンガの特殊能力の一つ。様々なアンデットを生み出す能力だが、死の騎士はその中で壁として愛用して来たアンデットモンスターだ。トータルのレベルは35と弱く、攻撃力はさらに低く25モンスター相当。逆に防御力には長けているがレベル40程度。だがモモンガが作った死の騎士はモモンガの特殊スキルで強化されており、トータルレベル45に相当する。
しかし、そんな死の騎士だが、重宝する特殊能力が二つほど持っている。一つは敵モンスターの攻撃を完全に引き付けてくれるというもの。それともう一つは一回だけどんな攻撃を受けても
今回も、その盾としての役目に期待しての作成だ。
黒い靄が空中から滲み出ると、膨れ上がるように大きくなっていく。
数秒が経過し、闇が流れ落ちるように去っていく。
身長は二メートル後半だろうか、左手には体の四分の三は覆えそうな巨大な盾ーータワーシールドを持ち、右手にはフランベルジェ。本来なら両手で持つべき一.三メートル近い刃物を、この巨体は片手で持っている。波打つ刀身には赤黒いおぞましいオーラがまとわりつき、心臓の鼓動のように蠢く。巨体を包むのは、黒色の金属で出来ており、血管のような真紅の模様があちらこちら走っているフルプレート。鋭い棘が所々から突き出し、まさに暴力を権化ような鎧だ。兜は悪魔の角を生やし、顔の部分は開いている。そこにあるのは腐り落ちかけた人のそれ。ぽっかりと空いた眼窩の中には生者への憎しみと殺戮への期待が煌々と赤く灯っていた。
ボロボロの漆黒のマントをたなびかせながら、死の騎士は命令を待つ。
召喚されたモンスターとの精神的な繋がり。新鮮さを感じながら、それを操るようにモモンガは命じる。
「私を守り…攻撃してくる者を…倒せ。」
「オオオァァァアアアアアアーーーー!!」
咆哮ーー。
聞くものの肌があわ立つような叫び声が響く。
殺気が撒き散らされ、ビリビリと空気が振動する。モモンガに届く筈だった黄金の剣は漆黒の盾に跳ね返され、白に黒が入り混じる様に【彼女の左手】は両断される。
モモンガは油断する事なく無詠唱化して〈生命の精髄〉を発動する。
(レベル25か?いや、それにしてはHPが低くすぎる。)
攻撃力はレベル25に相当するが、HPがレベル12程度も満たないのだ。
だが、油断するのは愚の骨頂である。モモンガにとってこの異世界はまさに不明という文字が相応しく、ユグドラシルには無いスキルや世界級アイテムを超えるかもしれない物だってあるかもしれないのだ。そして、目の前にいる青年がモモンガを一撃で屠る力を持っていないとは限らない。
実際、青年はデスナイトを見るなり「ひっ」と後ずさっているが…モモンガを油断させる為の演技かもしれない。
「なんだッ!何なのだそれは!」
「えっ⁉︎」
死の騎士を見るなり青年は弾かれた様に汗を流している。モモンガも突然の事で呆気ない声を出してしまった。
(相手はユグドラシルのモンスターを知らないのか?)
もしかすると、モモンガにとってこの世界は不明だが、この世界にとってもユグドラシルの事は不明なのかもしれない。
青年は慌てて手から光っている粉?を大量に撒き散らす。すると、周りに天使達(人工精霊)が何体も現れる。いや、召喚されたと言った方が良いのか?
モモンガは尽かさず召喚された天使達(人工精霊)を魔法で鑑定する。
召喚された天使達(人工精霊)は計55体。
まず左手に黄金の剣を握っている天使が10体。右手に天秤を持っている天使が10体。両方とも一体のトータルレベルは19である。
マスケット銃を構えた姿の天使が15体、トータルレベルは22。炎の翼が羽ばたかれ、灼熱の炎嵐を渦巻いている天使が12体、トータルレベルは25。そして最後は自爆系だろうか?ユグドラシルでも相手に向かって突進させ自爆させるモンスターはいるが、これはそれと同じ性能なのか?
モモンガが考えている内に天使達は陣形を整えて行き…
「【
天使達は前衛、後衛に分かれ、一斉にモモンガへ襲いかかる。
まるで、軍隊みたいだなぁとモモンガは思ったりしてみたが、これらを召喚し、さっきから罵倒してくる青年の方を改めて向く。流石にこれは器の大きい方のモモンガでも容認出来ない言葉だった。
今、この男は何と言った?ば…売女?は?フザケルナヨ⁉︎
モモンガの怒りは一線を越え何度も鎮静されるが、まだ燻る火のように残っている。
この姿になってから必死に考えない様にしていた事…生涯、大人になれずに消えてしまった息子が報われない発言への怒り。そもそも人を売女と呼ぶ時点で、人として最低だ。
「俺が売女だったら、息子が救われないだろうがああぁぁ!!」
モモンガは怒りに任せて叫び、魔法を発動させる。
〈
ズンと大気が震えた。
光を反転したような、黒い光の波動がモモンガを中心に一気に周辺を飲みつくす。波動がはしった時間はまさに瞬きひとつ。ただ、その結果は歴然として残る。
「……い、一撃だと……」
ジャスティスの呟きが風に乗って聞こえる。それほど信じられない光景が広がっていた。
総勢55体の天使(人工精霊)。それらが全て、黒の波動にかき消されていた。黒の波動に飲み込まれた天使達がはじけ飛んでいく姿はジャスティスの無力さを証明するのに十分だった。
何よりも、ジャスティスが知らない、いや正体不明な魔術なのだ。元帝国宮廷魔導士団に所属していたジャスティスは軍用魔術をほぼ全て暗記している。人間を超える頑丈さを持つ天使を倒す事の出来る殺傷能力の高い魔術は軍用魔術以外ありえない。そう確信している。しかもこの数の天使を一掃するなど、かの黒魔改【イクスティンクション・レイ】でも一発では不可能だろう。しかし、この魔女は平然とそれをやってのけた。ジャスティスは確信する。この魔女は世界屈強の魔術師、第7位悌の到達者、ならば話に合点が行く。ジャスティスの天使を一掃したさっきの魔術も彼女がオリジナルで編み出したものだと説明が付く。
そして、まるで死を具現化したような騎士。死の騎士と呼ぶのが妥当だろうか。ネクロマンサー程度では操る事すら叶わないだろう、死の騎士の召喚には肝を抜かれそうになった。
今でも覚えている。聞くものが泡立つような咆哮、そして、その真紅の目に隠された生者を殺し尽くそうとする憎悪の意志。死の騎士の発する死の匂いと圧には、思わずジャスティスもたじろいでしまう程のものだった。
(あの魔女は僕の固有魔術を何らかの方法で、狂わすことが可能…その時点で未来予測が出来なくなっている僕の方が部が悪いか……)
冷静な思考により落ち着きを取り戻したジャスティスはモモンガを見据える。
(相変わらずその微笑は気持ち悪い。だが相手の使う魔術がディスペルフォースでき……ん?)
ジャスティスは何かを見落としていた違和感に気付く。と同時にゾワリと氷柱を背中に突き立てられたような気分に襲われる。
ジャスティスの背後から壁の様な殺気を放っている存在が、目の前にある命を狩り尽くさんとばかりにフランベルジェを振り下ろす瞬間であった。
「しまっーーーーーーッ⁉︎」
手袋に仕掛けた大量の
だが、まだ一体残っている。不意打ちであの魔女を攻撃した時の
ーー両断
粉々に砕け散ったタルパでも、死の騎士の剣戟を相殺する事が出来ずジャスティスに届く。
「ぐはぁッ」
フランベルジェは文字どうりジャスティスを切り裂いたが、タルパの犠牲で攻撃を和らげることができた。しかし、ジャスティスの受けた攻撃は、致命傷ものでありタルパが居なかったら即死であったかもしれない。
ジャスティスはごろごろと地面を転がり、傷口を癒す呪文を唱える。
(追撃して来ない?)
ごろごろ地面を転がって離れた距離など、死の騎士ならば一瞬で詰められるだろう。しかし、死の騎士はそれをしない。
(楽しんでいるのか⁉︎)
神が耐えろと言ってもジャスティスには耐え切れない屈辱であった。目の前にいる『邪悪とそれを生み出した魔女』に弄ばれるなど死んだ方がマシである。
実際、死の騎士は殺せではなく"倒せ"と命じたモモンガの命令に従っているだけなのだが、 ジャスティスには知る余地もなかった。
徐々に太陽が沈み、闇が世界を飲み込もうとしている。
最初に投げた片方の手袋を見て、ジャスティスは決心する。切り札を使うしかないと…
ジャスティスは傷口を抑えながら、立ち上がり自ら投げた手袋に【ライト二ング・ピアス】を放つ。
「来い!僕の奥深くに眠る正義の具現ッ!僕だけの神よッ!正義の神よッ!」
放った【ライト二ング・ピアス】は大量の
粉末が空中に四散しーー輝きだす。
ジャスティスの深層意識に眠る、もっとも強大な存在が今、この世界に顕現するーー
それはーー巨大な女神だった。
左手には黄金の剣を。右手には銀の吊り天秤を。目元には目隠しを。歪な七つの翼を背中に負う、偽りの女神の姿の具現。
「さぁ、来いッ!来たりて滅せよ!我が正義に牙剥く邪悪を駆逐せよーー」
後光のように降り注ぐ光。天が、地が、鳴動し、眩い輝きに包まれながら、見上げるほど巨大で強大な、ジャスティスだけの神が、正義の女神が、ここに降臨するーー
「
ジャスティス単独による、神の概念定義具現召喚。突き抜けた妄想の極地。
もはや、錬金術・人工精霊召喚法では説明のつかない、馬鹿げた奇跡。
人が立ち向かうには、あまりにも強大過ぎる存在が、モモンガの前に現れーー実体を伴った。
等のモモンガはーーーー
(レベル62かよッ!警戒して損した!)
念には念を、結構高位階の看破系魔法を使ったのに結果がこれである。
女神とか言ってたから、てっきりチームで挑むボス系モンスターだと思ってアイテムボックスにしまったギルド武器を取り出そうとした自分が馬鹿だった。というかこの世界での神の水準ってこんなに低いの⁉︎
「はぁ〜、もういいや…」
モモンガは諦めたように手を振り、右手の指先を【
〈
モモンガの伸ばした右手の指先から放たれた、ポツンとかすかに揺らめく、吹けば消えるような黒い炎が【
だがーー
ゴゥッ、と【
天すら焼こうという勢いで燃え上がる黒炎の中、女神の姿が溶けるように掻き消えた。余りにも呆気なく。それから、対象を燃やし尽くした黒い炎もまたこの世界から消えていく。
そこには何も残っていなかった。いままでの光景ーー女神がいたのも黒い炎が起こったのも嘘であったかのように。
「…あ、ありえないーーッ!」
ジャスティスが叫んだのには訳があった。
それは【
そうなるはず。いや、そうならなければいけないのだ!
だが事実、正義の女神は悪に敗れ消え去った。あってはいけない事実。存在してはいけない事実。
深い森の中を風が走り抜け、木々が揺れる音が大きく響く。静寂の中、掠れた声が上がった。
「貴様は…何者なんだ……」
ジャスティスの呟きに対して、女は沈黙ーーいや一瞬の沈黙ののちポーズを決めて名乗り出た。
「我が名は、アインズ・ウール・ゴウン!」
聞いたことない名前だ。偽名ではないのか?と思ったものの、その表情には他人を見下している様な微笑は無く、その真逆。どこか誇らしげな表情をしているのだ。
アインズ・ウール・ゴウンの名は憎悪と脅威の対象としてジャスティスに刻まれた。
本当はこの魔女を殺してやりたい所だが、今の自分には勝算がない、相手は【
「まさか、これを使う時が来るとは…」
ジャスティスはポケットに予備に入れておいた少量の擬似霊素粒子粉末を取り出す。元々使う予定すら無かったのだが、非常時用にと準備しておいた物だ。
それをばら撒き天使を召喚する。
(グレンとの決着の前に死ぬ訳にはいかないからね…)
本来は移動用の天使だが、今回は逃亡用使うのだ。
死の騎士は逃さんとばかりに此方に迫って来る。瞬間移動したのでは無いかと思わせる速度でーー
僅か一秒にも満たない時間の片隅、死の騎士が振るうフランベルジェはジャスティスの眉を掠めーー天使が空高く飛び上がる。
「ハハハッーーどうやら僕の方が早かった様だね…だが次は殺す、必ず殺すッ!正義は決して悪には屈しないッ!!!」
ジャスティスは最後に釘を刺して立ち去る。
(無惨な敗北だ…しかし大きな収穫もあった。)
相手は、ジャスティスの固有魔術を狂わす事を可能とする人物、正体不明の魔術を使う事、死を具現化した様な騎士を使役する事。
ーーアインズ・ウール・ゴウン
そして何よりもの収穫は、奴の弱点……
ジャスティスが売女と罵った時に、余裕の表情を浮かべていた微笑が一変した。まるで死そのものと対峙した様な感覚だった。魔女の顔は漆黒に染まり表情は伺えなかったが、表情が一変のは確信出来る。魔女の背後には死を顕現させた様な"何か"が佇んでいた。幻影ではなかったのか?と錯覚する程の変貌の表した感情は"怒り"。そして怒りと共に発せられた奴の弱点となる決定的な言葉……
(そうーーこの魔女には息子がいる!!!!!!)
ーーーーーーーーーー
「貴様は…何者なんだ……」
青年が名前を問いてきた時…頭によぎったのはかつて仲間達とナザリック…
「…」
モモンガという名は紡がれず、もしかしたら仲間達がこの世界に来ているのではないか?という妄想が頭を支配した。ナザリック大墳墓に最後まで残った自分が最も幸せだった時間。ユグドラシルが消えてしまったか事によってナザリック大墳墓はもう存在しないのか?仲間達と共に作りあげたギルド、アインズ・ウール・ゴウンはこんなにあっさりと終わってしまって良いものなのか?
ーー終わって良い筈がないッ!!!
なら、もう名乗るべき名は決まっている。
仲間達と積み上げた結晶を名乗るには、それなりの威厳が必要だ。ーー
「我が名は、アインズ・ウール・ゴウン!」
……うん…しらけた…
(だって、しょうがないじゃん!俺前に立って演説した事ないし、いきなりセリフを考えろとか言われても無理だもんっ!せっかく、自分なりにかっこよく決めたポーズのに「なんだ、こいつ…」って言われる未来しか見えないんだもんっ!相手も棒立ちでこっち見てるよ!)
ぶっちゃけて言うとただ、ただかっこよく決めようとしてドャァという雰囲気を醸し出しており、しかも続けて何を言えば良いかも分からず頭真っ白状態である。ウルベルト直伝のポーズをとらなかっただけマシなのかも知れない。
アインズは静かにこれからは社会人スタイル、一人称は私でいいや…と密かに決心するのであった。
アインズが心の中で葛藤していたら、青年は天使を召喚し、逃亡を図ろうとしていた。
「あっーー待て!」
アインズの声と同時に死の騎士が逃亡の阻止に入るが、飛んで逃げられたらしい。
しかも逃げる際は次は殺す、必ず殺すと吐いてくるし、正直もう関わりたくない。
だが、捕らえてこの世界の情報を手に入れられなかったのは惜しかったかもしれない。
「あのまま捕まえに行ったら待ち伏せされてそうだし、さっきから違和感が半端ないんだよなぁ…」
そう、まるでアインズの体が訴える様な違和感を感じるのだ。お前の力はこんなものじゃないと…
「ひとまず、場所を変えようか…」
敵から奇襲された場所に残るなどユグドラシルではただの馬鹿がやることである。
アインズはもう転ばないように下に注意して歩くが、時々突っかかってしまう。裸足になりたい…と思ったりもしたりする。
だが、歩けば歩く程変わる森と言う景色にアインズは魅了されていた。自分の国では有り得ないくらい大きな木が辺り一面に何百、何千と有るのだ。歩く度に木々をペタペタ触ってみたりする。なんと言うか…とても新鮮だった。
ーーーーーーーーーー
数時間後
やがて森を抜け辺り一面、緑が覆う広野にたどり着いた。
途中で木に抱きついたり、登ってみたりしては、はしゃいで落ちそうになった事は封印しておく。
辺り一面を覆う野原の中央には、一本の木が佇んでいた。
アインズはてくてくと、野原をまっすぐ進み巨木に近づく。
その木は周りの木から隔離され一人、どこか孤独いや、悲しくも思えた…
だか、その大地に張り巡らされた立派な根や太陽から光を浴びる為に横に広がった太い枝には、孤独を跳ね返す力強ささえも感じた。
「すごいな〜お前は…」
不意に溢れた言葉…アインズはこの木を自分と比べているのかも知れない。きっとこの木は自分の味わった孤独より、遥かに長い時間の孤独を彷徨ったのだろう。
(木に話し掛けてもしょうがないか…)
なんか今日の自分は落ち着きがないと言うか何と言うか、まぁこんな事が起きていて落ち着きのある方がおかしいのかも知れないかも。
風が吹く
アインズの長い黒髪が撫でられ、佇む。
ザァザァと木々と草々も身を委ねる様に揺れ、月が大地を照らす。
顔を上げるとアインズの前に、心を鷲づかみにする光景がひろがっていた。
其処は満天の星空、星々が個々に違う光を発している。
ナザリック地下大墳墓のあるワールド、ヘルヘイムは常闇と冷気の世界。常時夜の世界は陰惨な風景であり、天空を重く厚い黒雲が覆っていた。しかし今は違う。
素晴らしい夜空がそこにはあった。
アインズは空を眺めながら感嘆の吐息を吐き、360°全身を使いながら夜空を観覧する。
「凄いな…。仮想世界でもここまでは……。大気汚染が進んでなくて、空気が綺麗な証拠か。こんな世界なら人工心肺も必要ないだろうな……」
生まれて以来一度も見たことが無い、そんな透き通った夜空。
〈飛行〉
もっと見たいと言う欲が刺激され無意識に唱えられた呪文。
重力というくびきから解放されたアインズは、ふわりと軽やかに空中に舞い上がる。そのまま速度をどんどん早めながら、一気に上昇していった。ただひたすらまっすぐに…
何百メートルだろう。
上昇し続けたアインズの体はゆっくりと止まる。もう一度周りを見渡し、何も言わずに、いや何も言えずにアインズは世界を眺めた。
月や星から降り注ぐ白く青い光が、大地から夜闇を追い払っている。草原か風で揺れるたび、まるで世界が輝いているようだった。
アインズはため息混じりに言葉をこぼした。
「本当に素晴ら……いや素晴らしいなどという陣腐な言葉には決して収まらない……。ブループラネットさんならこの光景を見てなんて言っただろう……」
この大気汚染も、土壌汚染も進んでなさそうなこの世界を目にしたら。
ふと、このドレスの名前を思い出す。『夜空の宝石』 もしかしてこの名前を付けたのはブループラネットさんでは無いのか?だとしたら夜空で光っている星々を宝石に例えたなんともロマンチックな命名である。
やがて魔法の発動時間が切れモモンガはありのままに重力に身を任せ落ちて行くーー
ーーーーーーーーーーーーーー
目を覚ますと朝だった。
周りには鳥の囀りが聞こえ風が吹いていて気持ち良い…
「てっ、死ぬっ!!」
つい自分の星での癖が出てしまう。
自分の世界だったらガスマスクを付けないで外で寝るなど自殺行為を通り越して狂人である。
なぜ、モモンガは寝てしまったのか…それは鈴木悟と言う人間の残滓がもう限界だと訴えていたからである。もちろん体の方は疲労など少しも感じてはない。そもそも「死の支配者」の種族にそのまま上乗せする形で女神と言う種族が乗ったからアンデットのステータスはそんなに変わってはおらず疲労など感じる筈もないのだ。しかし、当の本人は気付く訳もなくさも当然の様に振舞っていたりする。
だが、昨日に感じていた違和感は続いており、どうしたものか?…と首を傾げるばかりであった。
「でも、本当にどうしよう…」
昨日戦ったジャスティスと言う奴は
アインズは簡単な結界や阻害の魔法を載せて貼り、ひとまず一息つく。
「とりあえず、情報収集かな。」
此処が何処かも分からないが、人との接触は出来た。しかしモモンガにとって最初に会った人間は一言で表すとヤベー奴と言う感じであり、これから人里を探そうとしていたモモンガにとってはあまり気が進まなかった。
「と言うか、この世界の人間が皆あんな感じだったらマジで発狂する自信があるぞ…」
元社畜であるモモンガは第一印象を重視している上また自分も然りと気を付けている。特に商売相手には常に社会人フェイスで何とか乗り切って来たのだ。初めて契約して貰った時など喜びの余り課金してしまったのは良い思い出である。もちろんジャスティスの第一印象は最悪であり下手したらこの世界の人間のイメージがアインズに定着してしまったかもしれない。しかしアインズはそこまで早計では無い。もしこれから会う方々がちゃんとした人であれば運悪く山賊に会ってしっまたと流すつもりである。
「さて、それじゃあ...おっあった!」
アインズはアイテムボックスから鏡を取り出す。鏡の名は「
時の流れを示すように草原にある闇を、昇りだした太陽が徐々に追い払っていく。作り出されて行く牧歌的な光景は、ナザリック地下大墳墓がかつてあったヘルヘイムの絶望的な風景からは遥かに遠い。一見便利そうなアイテムなのだが、低位の対情報系魔法程度で簡単に隠蔽され、更には攻性防壁による反撃を受けやすいため、微妙系に数えられるアイテムだが周りの風景をたやすく映し出せるアイテムは今の状況では十分なメリットを持つ。
「ここをこうっ!と、あっ!ちょっ…待って、行き過ぎっ!!!」
しかし、某大墳墓の支配者様はこの鏡と葛藤していたりする。
ーーーーーーーーーーーーー
鏡とにらみ合うこと一時間…
やっとコツを掴めてきたのか画面の切り替えが安定してきていた。
「この動きで、画面のスクロール。で、こうやると視点を変更して同じ場所を観察するか」
今の所安定しているが、実際馬鹿の一つ覚えみたいにただ一直線に進んでいたりする。
何十回スクロールしたのだろう、見えている風景が草原から荒野へ変わったり、動物が走っていたりと至って平和な感じだったが始めてそれに終止符が打たれた。
「っ…なんだあれは!?」
そう、ミラーオブビューイングで映されたのは天空城である。天空城を見てモモンガが直ぐに連想したのはユグドラシルのギルドでも特に厄介なアースガルズの天空城だったが、鏡に映った天空城はユグドラシルの天空城と比べると余りにも小さい。
だが小さいからと言って気を抜くのは良くないが、続けて画面を回転させたモモンガに更に驚愕する出来事が起きた。
なんと天空城の下に都市が有ったのだ。
「マジか!やっと人里を見つけたぞ!」
モモンガは直ぐ様歓喜し、移動の準備をする。町をよーく見ると非常に設備が整っており、汽車が走る駅などもあった。
「時代イメージとしては中世以降の産業革命中かな?…」
そうなると第1時世界大戦が近いなぁと呟きながらモモンガは
「……あっ」
ようやく、その違和感に気付いた様にアインズはポンと手を叩く。そう、アインズの違和感…それは今までゲームで当たり前の様に存在していた
もしかしたら俺は自分が思ってる以上にドジなのかも知れないと凹んだりするが、すぐにパッシブスキルの可能性について思考する。自分の持っているパッシブスキルは結構な数が有るが…
(上位物理無効化IIIとかは、この世界で効くのかな?)
さっきの戦いで、パッシブスキルを発動していればこの世界に通用するかどうかが分かっただろう。
OFFになっていたパッシブスキルをある程度ONにする。もちろん上位物理無効化Ⅲ、上位魔法無効化Ⅲは発動させる。そしてユグドラシルで雑魚処理や相手にペナルティを与えるために使用していた絶望のオーラもどの程度のものか計りたいのだがーー
「今から人里に行くんだし流石にやめておこう…」
こちらはあくまで友好的に接しようと思っているモモンガは絶望のオーラなどはNGだと分かっている。
この異世界に来てから始めての移転と人里である。モモンガは「大丈夫…」と呟き心に残る不安を噛み締めゲートを潜ったた。
文才が欲しいっ!(唐突)
下はいまいち物語の(作者のせいで)理解が難しかった人用です!
セリカが起きる
↓
アインズが異世界に来る
↓
世界がアインズのあまりにも膨大な量の魔力の重圧に呑まれる。
↓
最高峰以外の魔術師たちが魔力中毒になる
↓
アインズが指輪をはめ重圧が無くなる
↓
セリカが戦慄している同時刻、ジャスティスもこの重圧を耐るがアカシックレコードみを求める意思が余りにも強くアインズを固有魔法がアカシックレコードだと断定。それにジャスティスは歓喜しすぐ様アインズの所へ向かう。
↓
アインズにボコられる。
という感じでしょうか?他にも作者が至らない部分で分からなかった所など有りましたら是非感想欄でご質問下さい!また結構な期間空いてしまいましたのでプロローグを見返して見ると分かりやすいと思います!(作者がストーリー忘れたとかいえない…汗)
では最後に数あるオリジナル小説の中でこの小説を読んでくださった皆様に感謝を…本当にありがとう!
止まるんじゃねえぞ…