『ゴジラ対連合艦隊』   作:城元太

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 到着した時、既に午後七時をまわっていた。

 二時間に一本のローカル線を乗り継ぎ、最終目的地に降り立ったそこは、一面闇に埋もれた小さな駅だった。

 赤いカンテラを提げた汽車が汽笛を鳴らし去ってしまうと、あたりは静寂に包まれる。降りる客も少ない改札で駅員が切符を回収し、私の通過した後には早々に改札を閉めていた。

 まばらな民家の灯りだけを頼りに、一歩、また一歩と進む。ある家の前に来た時、私は小声で呟いた。

「津川……ここだ……」

 呼び鈴を鳴らす。

「どちら様ですか」

「昼間に電話で連絡しました城元太です。津川正夫さんの御宅でしょうか」

 明かりの下に通されたので、暫く室内で焦点を合わせることができなかった。奥の間に通され、ゆっくりと膝をつく。

「お初にお目にかかります」

「お待ちしておりました」

 温和な目をした初老の男性が、私の前に座っていた。

 

                ※

 

 赤道地帯に位置するソロモン群島、ガダルカナル。昭和十七年十月十四日、この島は有史以来最大の火焔の猛攻を受けていた。

 沖合から赤い巨弾が落下してくる。美しい放物線を描いていた砲弾の軌跡が天空の頂点に至ると、まるで大輪の花が開くかの様に無数の曳光弾を地上に降りそそぐ。

 ガダルカナル。一時は日本軍の手中にあったものだが、同年八月七日の米軍総攻撃に遭い守備隊は全滅。対して日本軍は、国の威信だけをかけてこの小島の奪取を謀る。それがこの、戦艦の誕生以来の艦砲射撃による地上攻撃作戦であった。

 戦艦金剛、榛名を中心とする第三艦隊により島を攻撃、中央施設であるヘンダーソン飛行場を重点とし、炎の洗礼を万遍なく行ったのである。

 翌日のガダルでは、米軍施設の全てが完膚なきまでに破壊され、日本軍の奇想天外な作戦の前に大打撃を与えられた。

 島は硝煙に覆われ、多くの自然も罪なき小鳥も小動物も、爆死したのであった。

 

「あれで終りにしておけば良かったのですよ。もうガダルは必要などないのに……」

 

 金剛、榛名の活躍によって、ガダルの米軍は一時沈黙した。しかし米軍の底知れぬ回復力と、何より止めを刺すべき日本陸軍の総攻撃の相次ぐ失敗により、再びガダルの米軍基地は蘇生するのである。

 日本海軍に、ガダルカナルへの第二次攻撃の令が下ったのは十一月初旬であった。全く同じ方法で、再びガ島を砲撃せよ、というのである。

 

「当時私は霧島に座乗していました。第二次攻撃隊の構成は、霧島、比叡を中心とする第十一戦隊と第四水雷戦隊でした。

 同じ手を二度喰うほど、敵が甘くないのは誰もが知っていました」

 

 十一月十二日。夜の闇と不意に降り出した滝のようなスコールをついて第二次攻撃隊はガダルへ突入、初弾を撃ち込んだ。しかしその炸裂音に混じって、不気味な猛獣の声がしたのだ。

 

「コナン・ドイルという作家は御存知ですよね。ほら、シャーロックホームズで有名な。

 あの人の著作に『LOST WORLD』という作品があるでしょう。あれは南米アマゾンの奥地に恐竜の楽園があった、という話でしたよね。けれど、何もアマゾンだけが恐竜の生息地ではなかったわけですよ」

 

 先行していた駆逐艦暁が、突然数百メートルにわたる火柱をあげ、真っ二つに割れて轟沈した。潜水艦によるものと判断し、各艦が盛んに爆雷を散布する。だが潜望鏡らしきものは見当たらない。爆雷による水柱が少し減った時、攻撃隊の前に、山のような巨大な影が出現した。

 

「背丈だけでも霧島の艦橋程もある化け物でした。奴は時の干渉を跳ね除け、一億年以上の過去から世代を重ね続けてきた大恐竜の生き残りだったのです。奴の怒りは、まるで地球自身の怒りの様でもありました」

 

――それは、ガダルガダルの地中深く眠り続けていた大恐竜が、先の第一次攻撃の炎の洗礼によって棲家を追われ、海上に出現したものであった。地上に巣食う米軍基地を踏み潰し、更に再び砲撃を加えに来た第二次攻撃隊に対してもその怒りをぶつけたのだ。

 急遽攻撃目標を変更し、比叡、霧島の三十六センチ砲計十六門が火を噴く。しかし直撃を受けても全く怯む様子がない。攻撃隊司令阿部弘毅中将は、この際やむを得ず撤退を下令する。果敢に攻撃を続行していた駆逐艦夕立が、大恐竜の巨大な腕につかまった。物凄い力で艦体を握り潰すと、艦橋を毟り取り、比叡に向かって投げ付けた。

 予期せぬ飛来物によって比叡は艦尾の舵を損傷、反転し全速力での航行が不能となってしまう。大恐竜は雷のように比叡に憑り付くと、甲板に仁王立ちになり、砲塔を踏み潰し、艦橋を捻じ曲げ、装甲版を踏み抜き、忽ちの内にこれを撃沈してしまった。

 

「艦隊はそれから一旦北上しました。何にせよ、全く未知の敵に出くわして、その攻撃法が見当付かなかったんでしょう。しかし翌々日のこと、艦隊を追って奴はまた現れたのです。私は初めて泳がされました」

 

 巡洋戦艦として建造された霧島のバルジは、長門型等と比べれば若干薄い。それでも艦隊戦に於いて舷側から飛来する敵砲弾や魚雷に対する防御は、当時の戦艦の標準的なものであったが、艦底真下から攻撃を受けることは想定していない。大戦艦霧島も艦底を突き破られ成す術なく沈没するのは、十一月十四日のことだった。

 事態の重要さを否応なしに知らされた大本営は、この大恐竜撃退の英断を下す。トラック島に停泊していた日本海軍の虎の子、超弩級戦艦大和、武蔵の両艦を急遽、霧島、比叡の抜けた第十一戦隊に編入、大恐竜攻撃へと向かわせたのである。

 

「私は駆逐艦照月に救助されました。そして奴が、ただの猛獣ではないことを改めて知ったのです。

 幾千もの世代を経て出現した奴は、恐竜としての外見上の変化は少なくても、内面は驚くべき変化を伴っていたということです。

 水棲爬虫類にありながら、陸上行動も可能な肉食恐竜の進化したものであり(※著者注;津川氏は水棲爬虫類と恐竜類との違いを理解していなかったものと思われる)、深海での体温の発散を防ぐため、その身体は従来の恐竜より二回りも三回りも巨大になっている。海溝の中まで行動するため、皮膚は水圧数千気圧まで耐えられる程強力になった。その身体を維持するために、マグロ、サメ、クジラなどの大型魚類を食用とし、蛋白源を補った。更にそれら大型魚類を得るための高速泳法を得たのです。高速戦艦と呼ばれた霧島も、奴の泳法には敵わなかったわけです」

 

 津川氏は、一つ深い嘆息をした。

 

「何よりも注目すべきは、奴の巨体です。身体と脳の容積の割合は、人間のそれに比べれば大恐竜は遠く及びません。しかし単純に容量で比較する場合、少なくとも人間の脳の数倍はあると思われます。

 奴はただの大トカゲの化け物ではなく、むしろ知的な巨大生物だった。

 我々は、力と知力を備えた、とてつもない敵と戦うはめになったのです」

 




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